プッチ in 亜総義市   作:男漢

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#40 祭りの景品は蠱惑な謎

 

 

 

 

 

 

 

 

 満月から降り注ぐ青白い光。

 それのお陰か、今宵は室内であろうと、灯りを付けずとも足元が見えるほどに明るかった。

 

 そして音もなく、木の板の上を足で滑らせながら歩く娘が1人。

 ここは抗亜クランが一つ、東雲派の本拠地である邸宅だ。

 

「…………」

 

 歩みを進める彼女の名は壬生菊千代。

 息をそっと潜め、この先の和室に居る件の男の下へと近づいていく。

 

 和室と廊下を隔てる襖まで後数歩と言う所で。

 中から、男2人の話し声が聞こえてくるのに気付いた。

 

 

「申し訳ありませんが、こちらはこちらの都合で動きます」

「お前……ワシが言えた義理やないが、自分で付けた条件を忘れたんやないやろな?」

「勿論です。ただ、まだこの()()()街の状況で、私の姿を晒す……それは得策ではないでしょう」

「フン。今の亜総義市がぬるい、か……」

 

 

 中で話しているのは、品須と件の男……そう、『スタンド使い』。

 私はこのスタンド使いが心底苦手だ。一体何を考えて、何を感じ、何処を見ているのか、気持ち悪いくらいに感じ取れない。ナユタの所のプッチの方がまだ幾分かマシだ。

 

 この男からは様々な事を聞いた。

 スタンド。パワーやスピード、精密動作性が人の個性の様にそれぞれ異なっている事。

 そしてスタンドはスタンド能力なる、特異な力を持っていることも。

 

 

 壬生菊千代は襖の向こうの声に耳を傾ける。

 

 奴には恩がある。それは返そう。だが、私は……奴に一刻も早く東雲派から出て行って欲しい。アイツが同じ屋敷に居るというだけで、ひと時も心が休まらないのだ。

 故に、奴が東雲派に入って成し遂げたい事が知りたい。その成し遂げたい事さえ手伝えば、恩を返したことにはなるはずだ。屋敷から叩き出すことに何の躊躇も要らなくなる。

 

 

 扉の向こうの品須が、スタンド使いに言葉を掛ける。

 

「そもそもお前、何を探ってるんや? 屋敷から出て何やらコソコソやっとるのは知っとるんやぞ」

「……とあるスタンド使いを探しています。見た目も名前も分かりませんが……スタンド能力だけは分かる。

 

 ―――そのスタンド使いは、『()()()()』させる。」

 

 

 ……時を、加速……?

 スタンドという物について造詣が浅い菊千代には、一体全体それがどういう能力なのか見当も付かなかった。ぼんやりと、『速く動けるのか……?』と思ったくらいだ。

 

 品須も『時を加速』というのにはピンと来なかったようで、あえてその部分には深く触れず、話を続ける。

 

 

「……その『時を加速させる』スタンド使いを見つけることが、お前の目的なんか?」

「ええ」

「もし見つけたらどうするんや?」

 

「殺します」

 

 

 何でもないように言い放ったその一言。

 菊千代は今まで『殺す』だ『殺される』だと、そういった言葉は耳にタコができるほど聞いて来た。その言葉の重みを理解しているつもりではあるし、その上で、その言葉を口にする事もされる事にも今更恐れない。

 

 だが、今のスタンド使いの言葉は。

 まるで息を吸ったり歩くときに足を前に出したり、それくらいに当たり前のように、感情の籠っていない声だった。

 

 菊千代は背筋が凍り付くような恐れを感じる。

 だがすぐに剣を振る者として心を落ち着け、足音のしないように、来た廊下の道を戻り始めた。

 

 

(あの男が誰を探しているのかは分かった。ならばそれを探すだけだ。

 幸い、スタンド使いを相手にしても、私ならある程度は戦える。……まずはプッチの奴から、当たってみるか)

 

 

 

 

 

 

 そうして、菊千代が和室からずっと離れていった後で。

 傍に居る品須にも聞こえないくらい小さく、スタンド使いの男が呟く。

 

「盗み聞きはよくありませんよ……お嬢」

 

 未だ慣れない、東雲派の頭領である少女への『お嬢』呼び。いつか慣れる日が来るのだろうかと、男は誰にも見られないように空へと微かに苦笑した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……『()()』?」

 

 キラキラの買い物に付き合わされ、疲れ気味にアジトに帰ってきたプッチは、騒ぎ立てるアンテナとザッパがしきりに叫んでいる言葉を耳にした。

 

「最近、シケイの間で噂になっている物だ。それの情報をアンテナが突き止めたらしい、……肝心なお宝の中身以外はな」

「一言余計なのである!」

 

 クマがプッチの呟きに言葉を補足した。

 『お宝』という蠱惑的なワードに少しは興味が湧いたのか、プッチはすぐに自室に戻らず、そこらの椅子に腰を落ち着ける。

 そんな彼の様子を見たザッパがにやけ面で言った。

 

「お、やる気になったかプッチ?

 それでだな、このお宝は外から運び込まれて、今は『亜総義化学研究所』にあるらしい」

「化学……? 薬か何かでしょうか」

 

 如何せん、化学という言葉が指す学問の幅が広すぎるため、お宝の内容も絞り切れない。

 

「最近、研究所の周囲をシケイが厳重に警備してるし、間違いないと思うぜ」

「シケイの記憶を抜くか? 一人くらいはお宝の中身を知ってそうなものだ」

「せっかく危険を冒してお宝を取りに行くんだ! 先にネタバレなんて興ざめしちまうだろ?」

 

 そういう物か? と辺りを見回すと、プッチの意見に賛同したそうな顔のクマと虎太郎とメディコが見えた。どうやらそう考えているのは私だけではなさそうだ。

 

「ちなみに、東雲派とフラットも、そのお宝を奪いに行く気なのは判明しているのである!」

「つまり、全抗亜クランとシケイ総出のお祭りってわけだ!」

 

 クマが眉間にしわを寄せながら、実に楽しそうにしているザッパに言う。

 

「確かに、亜総義にダメージを与えられるのなら、そのお宝争奪戦に加わることもやむなしだが…………本気か?」

「本気も本気、マジのマジだ!」

 

 ナユタ、東雲派、フラット、シケイ。

 この四者が入り混じるような無茶苦茶な戦場だ。こんな混沌とした場所には、ほぼ確実に『()()』が出張ってくるだろう。それぞれの抗亜クランのスタンド使いも出てくるかもしれない。

 

 クマがポンと、プッチの肩を叩く。

 

「プッチ。今回は強制参加だ」 

「……ザッパを止められないのか?」

「リーダーがあそこまで興奮して、止められた試しがない」

 

 ……プッチが仕方ない、と言った風にうなずく。

 もし他の抗亜クランのスタンド使いが出てきた場合、プッチという対抗スタンド使いが居なければ、今度こそナユタが全滅させられるかもしれない。

 しかも今回はジンザイ集めではなく、亜総義にダメージを与えるのが目的。元より断るつもりはなかった。

 

 

「む。そういえば言い忘れていたのである」

 

 

 アンテナが突然、人差し指をピンと上げる。

 

「お宝の中身は依然として分からないままであるが……。実は、お宝は『2つ』あるのである」

「何だって? そんな事初めて聞いたぞ」

「ザッパに伝えた直後に判明したのである。まぁ、どうせ中身は分からぬのだし、大差はないのであるが」

 

 虎太郎がガチャガチャと弄っていた機械を置き、アンテナに言う。

 

「そのもう一つのお宝って、なんか情報ねーのかよ?」

「うむ。さっきザッパが語ったお宝は、外から運び込まれた物である。

 しかし、こっちのお宝は……どうやら、『()』から運び込まれた物のようであるな」

「『中』だぁ? なんで街の中からお宝が運ばれてくんだよ?」

「そんな事、私に聞かれても困るのである!」

 

 確かに、虎太郎の言葉は最もだ。

 街の外から運び込まれたお宝というのならば、理解できる。

 

 だが街の中から運び込まれたというのはどういうことか? 『お宝』と呼称されるほど大事な物ならば、わざわざ移動させずに、その場で保管しておけばいい話だ。

 よしんば化学研究所に運ぶ必要がある物だとする。だが、長らく亜総義市で過ごすナユタ、他の抗亜クランすらも街の中にあった『お宝』に今まで気付かなかったとは考えにくい。

 

 

 とすると。

 そのお宝はごくごく最近、街の中で発見された物、という事か……?

 

 

「ま、実際にお宝を奪ってみりゃあ分かんだろ!」

 

 ザッパがパン!と手を叩き、その言葉で話し合いを締めくくった。

 先にシケイからお宝の情報を探ってもいいが、ナユタの協力なしにそれをやるのは、今のこの街の状況では少し不安だ。仕方ない、ぶっつけ本番で謎のお宝の中身を拝むとしよう。

 

 

 初めての四勢力揃った激戦に備え、プッチは早々に体を休めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 




せ、盛大に何も始まらない……!

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