プッチ in 亜総義市   作:男漢

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#5 ベリーハード 仕山医院2

『目標、仕山医院内の抗亜団体ナユタ! 繰り返す、目標は仕山医院内の抗亜団体ナユタ! 付近の警備員は全員現地に急行し、一人残らず捕縛しろ!!』

 

 道すがらで倒したシケイが持っていた、携帯型無線機がひどくあせった様子の男の声を吐き出す。広場で萬様(よろずさま)の銅像とやらを破壊したのが相当に聞いたようだ。こちらの目論見通り、ナユタの面々がいる仕山医院に向かってシケイが続々と向かっている。

 私が今いる、付近の道路が一望できる小高いビルの上からは色々なものが見えた。萬様の銅像が破壊された広場では困惑する市民を相手にシケイが武器を用いて実行犯逮捕のためのローラー作戦を始め、半ばパニック状態になっている。あの場所に今近寄るのは相当危険だろう。

 例の医院にシケイが向かっているのは確認できた。仕山医院に向かうためには私も何か乗り物が欲しいところだが、先ほどからシケイが乗り回しているのはゴテゴテに固められた黒塗りの装甲車。このような緊急事態に用いるものなのだろう、私に絡んできた巡回組のシケイの車とは比べ物にならない装備を持っていた。いくらホワイトスネイクといえど分厚い鉄の装甲を破るのは厳しい、今の様に弱った状態なら尚更だ。

 

「……時間がかかってしまうが、ビルの屋上伝いに行くしかないか」

 

 仕山医院に向かうシケイ達には、ある程度ナユタを弱らせてもらう必要がある。私が咄嗟に助けに入り、信頼を得るためにだ。だがあまりにシケイの攻撃が激しすぎると、ナユタそのものが一気に潰れてしまう可能性がある。そうなると私の計画はすべておじゃんになってしまう。

 ……ただ。今仕山医院に向かっているのは、シケイの中でも比較的練度の低い街中の巡回組だ。ただむちゃくちゃに数が多いだけで、一人一人の実力は大したものではない。

 それに対し、私が目的とする亜総義重工本社内のシケイの質は彼らがチリに思えるほどに上だ。そんなエリートシケイが百人以上、昼夜を問わずに会社内を厳重に警備している。つまり、今仕山医院に向かっているシケイを相手に持ちこたえられないようなら、亜総義重工本社に突入するなど夢のまた夢。あまりに実力不足過ぎる。

 

「私が到着するまで、潰れていてくれるなよ」

 

 プッチはぶっきらぼうに、吐き捨てるようにそう言った。ナユタもまた、彼にとっては重要ではあるが替えの利く手段の一つ、なのだろう。

 夜闇の陰を縫うように、ビルの合間を人の影が通り過ぎて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「だああああああああッッ!! クソっ!!!」

「吠えるな虎太郎!! 下がれ!!」

 

 虎太郎が手に持った六尺ほどの棍を振り回し、近くにいたシケイの側頭部に命中させた。ヘルメットの透明なバイザーにヒビを入れ、くぐもった声をあげて倒れるシケイ。棍を大きく振り上げ止めを刺そうとする虎太郎にすかさずクマがラリアットを入れ、廊下の角の影に自分の体ごと突っ込む。刹那、先ほどまでクマと虎太郎のいた場所にゴム弾の雨が降り注いだ。何十にも重なったゴム弾の雨は、コンクリート製の医院の壁を深い亀裂を生じさせる。人体に浴びてしまえば怪我をする、では済まないほどの威力だ。

 

「クマ、虎太郎!! そこどけ!!!」

 

 ザッパが近くにあった自動販売機を両手でつかみ、無理やり持ち上げる。顔が真っ赤になるほど力を入れ、バックドロップの要領で販売機をぶん投げた。一つ投げたかと思うとすぐさま横にあったもう一つの自販機を持ち上げて投げるを繰り返し、あっという間に廊下に赤と青の自販機が入り乱れるバリケードを作ってしまう。

 総重量にして一トンはくだらないバリケードだが、その向こう側にいる無数のシケイが全力で力を籠めているのか、ズズズと医院の壁を削りながら動き始めている。この調子では壊れるのも時間の問題だろう。

 バリケードの前で、突然の全力疾走と危険な状況への緊張に、思わず息を切らしてしまったポルノが額に汗を浮かばせつつクマに問いかける。

 

「な、なんでこんなにシケイが……?」

「わからん……! 突然サイレンが鳴って、突入してきたとしか…………」

「ちょ、ちょっとみんな!! これ……!」

 

 キラキラが声を上げ、スマートフォンをナユタの面々に見えるように持った。

 彼女が開いていたのは、亜総義市内の情報を迅速に届けるがモットーのニュースサイトだった。そのサイトのトップを飾る、閲覧数が十数人単位で増えていく記事の内容を見て全員が戦慄する。

 

「よ、萬像を破壊だと……? 犯人は抗亜団体、ナユタ……」

「とッ……とんでもねーデマじゃねーか!! ふざけんな!!」

「……だが、このニュースサイト運営には亜総義の上層部も関わっている。生半可な信憑性の情報を出すとは思えない。しかし逆に裏を返せば……」

「どんなに信憑性の薄い情報でも、本当のことに変えられる、ってこと……」

 

 ポルノの言葉に、クマが肯定のうなずきを返す。

 

「何らかの事情あるいは誰かの陰謀で萬像が壊れ、その責任をナユタが負うことになった、ということだろう……。クソっ」

 

 クマが腹立たし気に、滅多にしない舌打ちを鳴らす。

 萬像とはそもそも、亜総義グループ設立者である萬本人の誕生祭を盛大に祝うために製作されたものだ。誕生祭は亜総義グループのトップに位置する人物や、市外からの記者も招いて大々的に行う。萬像とはその誕生祭のメインとなる、非常に重要な建造物なのだ。

 記事の情報を見る限り、萬像を破壊した方法は何一つ判明しておらず、ナユタが犯人という情報だけがなんの紐づけもなく書かれている。これはつまり、『原因や理由は全く分からないが、重要な建造物が壊れてしまった。ただ壊れてしまったで誕生祭を中止にする訳にはいかないため、抗亜のせいにして責任を全て押し付けてしまおう』ということだ。そして抗亜の中でたまたま、ナユタが選ばれてしまった……ということだろう。ふざけた話だ。

 ふつふつと煮えくり返るような亜総義への怒りを抑えつつ、クマが冷静ぶって思考を回転させる。

 

「とにかく、この医院から脱出する。虎太郎、行きに通ったルートは?」

「とっくに通り過ぎちまった、もう戻れねえ。一階の窓は……ご丁寧に全て鉄柵で保護されてる。シケイに追われながらの短時間じゃ外すのは絶対に無理だぜ」

「そうか……。なら危険だが、階段を突っ切って二階に向かう。そして階段を全て封鎖してシケイの侵入を防ぎ、その階層から脱出する。ザッパ、どうだ?」

「ああ、クマがそれでいいならそれで行く」

 

 ザッパが真面目な口調で返す。いつもならヒトカリ中であれどふざけたトーンで返す彼だが、非常に危険なこの状況ではゆるっとした空気を出すつもりはないようだ。ザッパの真面目な雰囲気に、ナユタ全体の空気が緊張感で引き締まる。

 クマの作戦を全員が理解した瞬間。自動販売機のバリケードが白い閃光を伴って勢いよく爆ぜた。飛び散る瓦礫にナユタ全員が防御のために身をかがめ、サングラスをしているザッパが閃光の影響を受けなかったおかげか、いち早く体勢を立て直す。

 舞い上がった粉塵の向こうには、爆薬の衝撃に耐えるために透明なライオットシールドを構えたシケイが十数人。その背後には、スタン警棒と銃を構えたシケイが無数に立っている。恐ろしい数の差を目の当たりにして冷や汗をかくザッパは、腕を振り上げて声を張った。

 

「ッ! 今すぐ撤退!! クマの作戦通りに行くぞ!!」

「抗亜のガキ共を逃がすな!! 前衛部隊、突撃せよ!!」

 

 シケイの波の背後から、メガホンを構えた男が叫ぶ。

 全身を包むほど大きなライオットシールドを構えたシケイが、狭い通路の中をナユタめがけて一斉に突っ込んでくる。

 ザッパが殿に踊り出て何とか盾の波を食い止めようと腕に力を籠めた瞬間、彼の背後に居たキラキラが腰につけていた発煙手りゅう弾のピンを抜いて思い切り投げた。シケイの視線が宙を舞う手りゅう弾に注目したと思うや否や、地を這うように飛び出したポルノが前衛部隊の盾を全てベルトで結びつけてしまう。

 前衛のシケイのチームワークと練度が低いためだろう、結びつけられたシールドを咄嗟に離すこともできず、その場でよろけて倒れてしまった。それと同時にボフンという音と共に白い煙幕があたりに広がる。

 

「ポルノ、ナーイス!!」

 

 半ば倒れ込むように突っ込んだポルノの足をザッパが掴み、肩に担いでそのまま背後に駆けだす。彼の肩の上でポルノがガクンガクンと首を上下に揺らし、ぐえぐえと声を上げる。

 廊下の角に身を隠していたクマが横を通り過ぎるザッパを一瞥し、倒れたシケイに向かって銃を構えて発砲する。煙幕で見えていない上に全くと一定ほど当たらない彼の腕前ではほとんど意味がないが、彼自身当たるとは思っておらず威嚇になればいいとしか思っていない。

 

「クマ、行くぞ!!」

「ああ!」

 

 虎太郎の声に合わせて彼が再び廊下の角に体を引っ込めた瞬間、再び通路すべてを埋め尽くすような銃弾の雨が降り注いだ。ギリギリの所で避けたクマが背後に注意を向けつつ走り出す。大勢の人の足音と低く響くような叫び声が聞こえるところを察するに、倒れた盾持ちシケイを無数のシケイが踏み台にして進んでいるのだろう。踏まれた方は……おそらく無事では済まないだろう。

 

 お目当ての二階に続く階段を発見し、ガンガンと音を踏み鳴らしながら勢いよく登っていく。踊り場についた時点で、二階にポルノと何やらいびつな形をした巨大な球体を頭の上に持ったザッパが立っているのが見えた。

 クマが二階に登り切ったところで、階段の下からシケイが登り始める音が聞こえた。

 

「キラキラ!」

「はいよ!」

 

 ザッパが持っていた謎の塊は、ポルノの白いベルトで付近のベンチをグルグル巻きにして丸めたものだった。彼の掛け声と共に、キラキラがピンを抜いた麻痺ガスの発煙手りゅう弾をベルトの隙間にぐっと押し込める。

 

「登れ! 奴らは二階に――――」

「どっしゃあらあああああああああああアアアッッッ!!」

 

 雄たけびと共に、ザッパが頭上に持っていたベンチの塊を踊り場に向かって思い切り放り投げた。彼の怪力によって投げられた鉄塊は壁にぶち当たってバウンドし、踊り場を超えて一階の方へとぶっ飛んでいった。直後、シケイの叫び声が響く。ブシュウウッッという音と共に吹き出した麻痺ガスを見るに、一階の階段付近で即座に動けるものはまずいないだろう。

 

「ベンチの塊を投げる……なんて方法を思いつくんだ……」

「おっと、これを思いついたのは俺じゃあないぜ?」

「私が考えました」

 

 ポルノが両手でVサインを作り、ザッパがそれをはやし立てるように高笑いする。ナユタの悪ノリ二人組の思い付きと行動力に「合理的ではあるが、もう少し躊躇をだな……」と少し思わざるをえないクマ。あまりに絶望的な状況をなんとか一段落させたからか、全員に明るい空気が少しだけ戻っていた。だがまだすべて終わったわけでないと、クマが周囲を注意深く観察する。

 今現在いる場所は、仕山医院の一から三階をつなぐエレベーターがあるELVホール。三階には院長室や主に重病者が使用する特別処置室などがある。こちらにも警備はいるだろうが、正直一階のシケイの数に比べれば屁でもない。無視する。

 

「この階段は一先ずこれでいい、次は向こうの通路とエレベーターを閉鎖する」

「なんで三階から脱出しねーんだ? そっちの方が安全だろ」

「窓から脱出するとして、安全に出られる限界高度が二階だ。三階まで逃げればシケイの手もなかなか伸びにくく時間も稼げるが、返って逃げにくくなって追い詰められる。二階から逃げる方が合理的だ」

 

 虎太郎とポルノがエレベーター、ザッパとキラキラとクマが通路の封鎖へと向かう。どちらもシケイがすぐにやってくるため、最低でも一分以内には閉鎖しなければならない。エレベーターの方は扉を物理的に開かなくすればいいだけだが、通路の方は何か物を積み立ててバリケードを立てなければならない。だが……。

 

 

「やばいぞクマ! バリケードになりそうな物がない!!」

「ザッパがさっきの階段の奴でベンチ全部使っちゃうからじゃん!! どーすんの!?」

「…………」

 

 ELVホールには、エレベーターを待つ人が使用するベンチと観葉植物、あとは絵本を十冊入れるのが関の山の本棚しか置かれていない。

 二階にはホールの他に病室、分娩室、二階談話ロビーがある。そして分娩室、二階談話ロビーの間に一階からの階段が一つ、ロビーに階段が一つある。

 

「…………病室からベッドや椅子をかき集めてバリケードを立てる。ザッパはロビーの方の防火シャッターを閉めた後、病室を回って材料を集めてきてくれ。キラキラは俺と二人で階段を死守する」

「ま、マジ……?」

「ああ、やるしかない。」

 

 クマが腰から引き抜いた銃を構える。虎太郎とポルノはエレベーターの閉鎖で手一杯だろうから、助けがすぐに来るなんてことには期待できない。階段という縛りがあるとはいえ、あの無数のシケイを二人で相手にしなければいけない事実にキラキラが少し顔を青ざめる。もし捕まってしまえば、どういう風になるかは想像に難くないからだ。

 ザッパが「すまん!」と言った後、ロビーの方の防火シャッターを閉めるために駆けて行った。そう離れた距離ではない直線の道であるため、彼の姿が見えなくなるなんてことはない。 

 

 キラキラが階段の右側の壁、クマが左側の壁に隠れるように立ち、シケイが登ってくるのを待ち構える。

 クマが銃を構えて階段の下に注意をしつつ、未だ顔を青ざめるキラキラに話しかけた。

 

「大丈夫か?」

「…………クマは、平気なの? 今のあいつらに捕まったら、本当にどうなるか分からないんだよ?」

「きっと、死ぬよりも辛いことが待っているだろうな。…………俺も、本当は少し怖い。正直、あのシケイを相手に長いこと持ち堪えられるかどうか……」

 

 クマの銃を握る手に力が籠る。ザッパが病室から材料をかき集めてバリケードを立てるまで、良く見積もって二分か三分といったところだろうか。圧倒的な数の暴力の前に、それだけの時間を無事に耐えていられる自信は正直ない。

 

「だが、やるしかないのも事実だ。……キラキラ、本当に無理ならザッパの方を手伝っていてくれても……」

「……そっか、クマも怖いんだ……。……うん、もう大丈夫!」

 

 キラキラが顔を上げる。何かが吹っ切れたのか、彼女の青ざめた顔に血色が戻っている。その変わり様を見て、逆に心配になってしまう。

 

「ほ、本当に大丈夫か?」

「だいじょーぶだいじょーぶ! 私がここで頑張らないと、ナユタがなくなっちゃうんでしょ! ……それに、クマが同じだって知ってちょっとだけ嬉しかったっていうか、元気出たっていうか……」

「何?」

「なんでもないなんでもない! ほら、構えて構えて!」

 

 キラキラがチェーンソーのエンジン音を鳴らし、腰に提げている煙幕手りゅう弾に手をかける。先ほどから使っていてばかりだからか、流石に数が少なくなってきたようだ。対してクマの銃には、まだ銃弾がたっぷりと残っている。彼の銃は盾相手には効き目が薄く、あまり使用していないからだ。銃の腕前が異常なまでに低く、至近距離まで近づかないと当たらないからというのもあるだろうが。

 

 階段の下からシケイ達の足音と声が聞こえてくる。キラキラと目を合わせて頷き合い、じっと息をひそめて奴らを待ち構えた。

 

 

 

 

 

 




どこで区切ってんだよ……。
全員の口調と思考の擦り合わせが甘くてオリキャラみたいになってきてるのが辛いです。

ちょっと絶望的な状況の割にはサクサク進みすぎて難易度ゲロ甘すぎるんで、ちょっとだけ苦みを足します。
投稿遅れてすみませんでした。

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