プッチ in 亜総義市   作:男漢

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#6 ベリーハード 仕山医院3

 

「ひぃぃ……ひぃぃっ…………」

 

 患者のいない病室の片隅で、頭を抱えて怯える女性の姿が一人。

 ピンク色を基調とし、襟と腕が白色のセーラー服を着ている彼女。緑色のリボンが胸の間に挟まり冷や汗でしとしとになっていることから、彼女がどれほど怯えているのかが伺える。

 黒ぶちの大きなメガネをずらしつつ目の端にたまる涙を拭く。

 

「あ、あのじゅ、銃……本物なの……? こ、怖いよ……お父さん……」

 

 彼女は亜総義市の外から来た人間だ。

 記者として、亜総義市へと取材に向かったまま姿を消した父『大相寺 博(だいそうじ ひろし)』を探すために遥々ここまでやって来た。

 父の情報を聞くため、取材を受けたという仕山医院の院長に話を聞くためにこの病院へと足を踏み入れる。

 しかし、アポもコネも何もない彼女が院長にいきなり会えるわけもなかった。この亜総義市であればなおさらだ。

 

「ヒッ!! ひぃ……」

 

 響き渡る銃声と激しい怒声に、口から甲高い声が漏れる。

 院長に会いたいと警備員のシケイ相手に問答をしていたところ、運悪くナユタの仕山医院侵入と萬像破壊の情報が入った。

 ドラマでしか見ないような黒い銃と大勢のシケイの波にもみくちゃにされそうになりながら、二階の病室に逃げ込む。しかしこれまた運悪く、病室の中の患者は全員逃げ出した後であった。

 見知らぬ土地で非常時に誰の協力もないまま避難できるはずもなく。

 どうしようかとあたふたしていたところ、廊下から銃声と人の足音が聞こえ始める。

 一般的な女学生である彼女にはそんな状況で勇気を出して廊下に出るなどできるわけもなく、部屋の片隅で怯えるのが関の山であった。そして最初に戻る。

 

『……キラ!! ク……!!』

『早…… こっちに構……!』

 

 扉の向こうから激しい銃声と共に声が聞こえる。男性の声だ。

 ふと。銃声の中に混じる激しい足音が、この部屋に向かって近づいているのに気が付いた。

 目の周りが真っ赤になり、鼻水も少し垂れた顔のまま扉の方に顔を向ける。

 

「クマ!! もう少し待ってろ――」

「きゃあああああああああああああああ!!!?」

「うおおおおおっ!?!」

 

 彼女は入ってきた男の姿を見て悲鳴を上げる。

 銃声の音を何度も聞いていたのもあるのだろう。部屋の中に入ってきた赤いレザー服を着た男を、()()()()()()と勘違いしてしまった。

 一般女学生の彼女が血まみれの人間への耐性を持っているわけもない。きゅう……と音を出し、白目を向いて前方のベッドへ倒れ込んだ。

 

「…………な、なんだぁ……?」

 

 当然。赤いレザー服の男、ザッパは混乱した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 仕山医院、二階へと続く階段。

 ナユタのクマとキラキラが、盾持ちを前衛、銃持ちを中衛、スタンロッド持ちやキラキラと同じようなガス持ちの化学班を後衛と隊列を組んだシケイと相対していた。

 盾持ちの頭の上から銃持ちが上体を出し、銃を撃つ。中衛の体を抑えつつ、前衛を階段の上へと徐々に押し上げる後衛。

 シケイ全体の練度が低いためか、リロードにいちいちもたついて銃弾が絶え間なく降り注ぐなどということはない。

 しかし彼我の圧倒的な数は練度の差すらも埋めてしまう。幾人かのリロードが遅れている間に幾人かが撃つという交差作戦を繰り返し、所々途切れはあるものの手が出せない攻撃となっていた。

 クマも隠れている壁から銃だけを出しガンガンと撃つが、ただでさえ当たらない彼の銃がノールックで当たるはずもない。

 徐々に迫るシケイの足音を相手に、このままでは押し切られると考えるクマ。息をフゥッと吐き、覚悟を決める。

 

「キラキラ! 麻痺なしの煙幕頼む!!」

「はいよ!」

 

 クマがキラキラに指示し、彼女が腰につけてあった煙幕のピンを抜く。

 そして壁に身を隠したまま、右手だけを出してポイっと階段の下へと投げた。

 投げ込まれて数秒後、ボフンと白い煙幕が階段中を埋め尽くす。

 

「キラキラ、シケイの気を引いてくれ!!」

「えぇっ!? 気を引くったって……えい!」

 

 キラキラがチェーンソーのリコイルロープを勢いよく引っ張りエンジンを入れる。煙幕の漂う辺りにブルルルルンと機械の唸り声が響いた。

 シケイ達の注意が音のなる方向に向くのを感じる。それに合わせ、シケイ達の銃の雨が一瞬ではあるが止まった。

 

「よし……!」

 

 クマが壁から身を出し、階段の方へ向かう。

 煙幕の中で記憶を頼りに手すりを探し出し、そこに身を翻して飛び乗った。

 

「ッ!」

 

 スライディングの要領で手すりの上を滑る。

 シィィィイイイ!とステンレス製の手すりとブーツの側面がこすれる音を鳴らしながら、銃をシケイの方に構えた。

 引き金を引き、ガンガンと音を鳴らしながらオートマチックの利点に任せて拳銃を撃ちまくる。

 シケイの「ぎゃっ」というくぐもった声や防弾ヘルメットにヒビを入れる音が聞こえるが、一切意に介さず撃ち続けた。

 

「舐めるなよクソガキ!」

「くッ!!」

 

 無数の手に足を掴まれ、階段の踊り場に無理やり仰向けに引きずり落された。

 周囲には数えるのも馬鹿らしい数のシケイ。煙幕の中と言えど、すぐ足元に居るクマの姿はしっかりと見える。

 

「捕まえたぞ!! 全員で動けなくなるまでやっちまえ!!」

 

 咄嗟に腕を交差させて顔を守る。

 二本の足が腕に勢いよく降り注ぎ、ギシリと骨の軋む音が体の中に響いた。つづいて膝を上げて腹を守るが、ガードが間に合わずみぞおちに蹴りが入ってしまった。

 胃の中の物がせりあがり体から力が抜ける感覚がした瞬間、首にスタンロッドが差し込まれる。

 ヒトカリの度に何度も食らって慣れているが、この状況で首に当てられるのは非常に不味い。口の端から泡が漏れる。

 スタンロッドが外される。全身に余すことなくシケイの蹴りが降り注ぐが、右手の銃を力強く握りしめて耐える。急所に攻撃が入らないよう、足と腕でしっかりとガードする。

 

(……ま、ずい。さすがに……)

 

 しかしいくら急所を防いでいると言えど、それ以外の箇所でもダメージは普通に入る。それにクマは虎太郎やザッパとは違い、拳や近接武器で戦うのがメインな肉体派ではない。

 つまり、数十人に囲まれて蹴り続けられる状況を長く耐えられるような体ではないということだ。全身の骨が軋み、おそらく服を脱げば青あざだらけになっていることだろう。

 銃を握る手から力が抜け、四肢のガードが緩くなっていく。全身はもう痛みがないところの方が少ない。

 意識が切れかけの電球の様にゆっくりと暗くなっていく。それに合わせて目が閉じていき――――

 

 

「クぅゥゥマァァァァアアアアアアアッッッ!!!」

 

 

 ザッパの叫び声が響く。それと同時に、ベットらしきもの一つ、勢いよく階段の踊り場に降ってきた。

 数人のシケイがベッドに押しつぶされる。それによってシケイが動揺し、攻撃の手が一瞬止まった。

 

(そうだ……。ここで捕まるわけには……!)

 

 右手の銃を構え、近くのシケイの足の甲を撃ち抜く。

 

「ぐあっ!?」

 

 口から声を漏らし、余りの痛みに身をかがめるそのシケイ。傷だらけの全身に鞭を打ち、ヘルメットのバイザーの隙間から男の顎を銃床で殴った。

 鉄塊で顎を殴られれば、いくら訓練されていようと意識は飛ぶ。

 こちらに倒れ込みそうになる男の腹を両足で蹴り、反対方向に倒れ込ませる。倒れる男の先に居たシケイが背中にかかった突然の重みに体制を崩す。

 

(今しかない……!)

 

 両腕を頭の横で床につき、一気に全身を起こす。

 気絶したシケイと体勢を崩したシケイの体を階段代わりに足をつき、一気にシケイの波の頭上に踊り出た。

 一歩目。近くのシケイの頭を思いきり踏み、階段の上に向かって飛ぶ。

 二歩目。足元から伸びる手を避け、再び頭を踏んで上に向かって飛ぶ。

 三歩目。足をついた瞬間、地面に体制を崩しそうになるシケイに訓練をもっとしろと内心で悪態を吐く。階段の壁を思いきり殴りつけ姿勢を無理やり直した。

 四歩目。シケイの波の先頭が見えた。先頭のシケイが持っているライオットシールドのふちを思いきり踏み、勢いよく飛ぶ。

 

 ズザザザザ!! と音を立て、二階の階段前に滑り込んだ。

 壁に隠れていたザッパがクマの腕を掴み、自分の壁の内側に無理やり引き込む。コンパスの様にぐるんと大きく円を描きながら、クマが壁の内側に入った。

 ザッパがそれを横目に、病室から取ってきたベッドを階段に勢いよく投げ込み始めた。

 クマの銃によるかく乱が大きかったのだろう。それを避けて二階に強行突破しようというものはおらず、ザッパの投擲物に撃ち抜かれて階段の下に転げ落ちていく。 

 

「クマ!」

「キラ、キラ……すまん……」

「喋んなくていーって! ……ホント……無茶するんだから……」

 

 キラキラの目端に涙が溜まる。

 彼女がクマの肩に腕を回し、起き上がるのを手伝う。

 そうしたところで、ザッパが用意していたバリケード用の資材を全て投げ終わったようだ。こちらに振り返り、申し訳なさそうな顔で言う。

 

「すまん、クマ!! 病室のベッドや椅子を全部使ったが、階段を完全に防ぐにはちょっとばかし足りなかった!!」

「いや、いい……。これだけやれば、しばらくは上がってこれないだろう」

 

 クマとキラキラが階段の方に目をやる。

 ベッドや椅子、その他もろもろの物が投げ込まれた階段は、軽い崩落でも起きたのかと思うような惨状となっている。人は一人や二人通れる隙間はあるだろうが、そんな人数が小出しに来たところで相手ではない。そもそも、大半のシケイはベッドの下敷きなっている。

 そうして、虎太郎のいるELVホールの方へと歩き出そうとした瞬間。ザッパが肩に何かを抱えているのに気が付いた。

 

「ザッパ……。肩のそれは……?」

「ん? これか? 病室に入ったら俺の姿を見ていきなり気絶したんだが、見た目もいいし、クマがハルウリに使うんじゃないかと思ってな」

 

 ザッパがくるりと体を回し、肩に担いだ人物の顔をクマに見せた。

 髪がボサボサで黒ぶちのメガネがズレている上に、涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃになっていてよくわからないが……。とにかく胸が大きい。

 貧乳好きな客もいるが、やはり統計的にみれば巨乳好きの客の方が多い。今回のヒトカリの過酷さには少し釣り合わないが、立派な成果と言えるだろう。

 

「助かった。……今回はもう撤退する」

「いやいや、これからもっと進むとか言われても無理だって……」

「問題は仕山医院から出た後だが……。クマ、当てはあるのか?」

 

 ザッパの問いに、キラキラの肩を借りて歩きながら考える。

 仕山医院の周囲はシケイに囲まれているだろう。が、先ほどから何度も何度も奴らの練度の低さやチームワークのザルさは目立っていた。探せば逃げ出せるぐらいの警備の穴は見つかるだろう。

 

「……いや。考えてはいないが……、きっと大丈夫だ」

「へー。クマがそんな風なこと言うなんてめっずらしー」

「今日は……もう疲れたからな。ゆっくり休んで――――」

 

 

 ズバァァアアアアン!!!

 

 

 廊下中に爆発音が響き渡る。

 咄嗟に背後を振り返ると、二階ロビーの方の、閉じていた防火シャッターが煙で覆われていた。

 煙の晴れる前に、ザッパがクマの体に手を回し、キラキラと一緒にELVホールに向かって走り始めた。その背中を刺すように、ガガッピーと特徴的な機械音が鳴る。

 

『投降せよ、投降せよ、抗亜団体ナユタ。……っつーのは建前で……よくも暴れてくれたなガキ共? 別に投降してくれなくてもいいぞ、そっちの方がお前らを嬲った時の報告書が少なくて済む』

 

 煙の中から、メガホンを通した男の声が響く。その男の声に混じるように、ガチチッと鉄の部品がすれる音が聞こえた。

 ザッパとキラキラとクマの三人がELVホールにたどり着く。虎太郎とポルノはエレベーターを封鎖する作業の方に集中していたためクマたちの方に意識が回っておらず、メガホンの男の声に合わせて振り向いた瞬間にクマの傷だらけの状態を目にした。

 クマが声を張り上げる。

 

「虎太郎!! 三階に逃げる!! エレベーターを開けてくれ!!」

「はぁ!? 今閉じたばっか――」

「いいから今すぐだ! でないと――」

 

 

『撃ッッてぇェェェェッッッッッッ!!!!』

 

 

 幾重にも重なった銃声が、メガホンの声と共に鳴り響いた。

 ザッパが肩に背負った女性をエレベーターの方に投げ、クマとキラキラの前に出た。虎太郎が手に持った棍をエレベーターの扉の隙間に刺し、扉をこじ開ける。ポルノがザッパの落とした女性を縛り上げ、扉の開いたエレベーター内部に自分ごと引きずり込んだ。

 時間にして一秒ほどの時間だったろう。全員が全員、異常な集中力で動いていた。だが、数人の力だけではどうしようもない、大きな力というものが世の中には存在する。

 

 銃弾の雨が降り注いだ。

 ゴム弾と言えど、何重にも重なったそれはもはや非致死性とは言えないほどの威力になっている。

 まず体に弾を受けたのは、キラキラとクマの身代わりになるようにして立ったザッパ。腕を交差させ頭をかがめ、なるべく身を護る体制に入っていた。彼の大きな体では、身を縮めても背後に居る二人は守ることができる。

 全身にゴム弾を受け、骨がガシガシと嫌な音を立てた。腕に巻いていた鎖のおかげで腕は何とか守れたものの、手の甲に弾を受けた瞬間、バキリと骨の砕ける嫌な音が響いた。頬に弾がかすり血を流そうと、彼は執念で立ち続けた。

 左の手の甲が完全に折れ、右の手にも少しヒビが入ったものの、背後に居た二人を守りきることができた。

 

 次に弾を受けたのは、虎太郎。

 棍でエレベーターをこじ開けたが、その行動のために、回避行動が遅れてしまった。

 彼の体の左側面に、満遍なくゴム弾が降り注ぐ。

 左足の骨がゴキリと嫌な音を立てた。おそらく軽くてもヒビ、酷くて折れているだろう音だ。

 上半身は奇跡的に、咄嗟にあげた左腕でガードすることができていた。だが、その代償に、左腕がバキバキと嫌な音を立て、焼け落ちそうなほどの熱が籠る。確実に折れただろう。

 全身に弾を受けた衝撃で、壁に叩きつけられる虎太郎。そのせいで意識を失ってしまい、頬を壁にずりずりと擦りながらその場に倒れ込んだ。

 

『全員、進軍! ナユタを捕縛せよ!!』

 

 メガホンの男の声が廊下の向こう側から響く。それと共に、大勢のシケイの足音も聞こえてくる。

 ザッパが両手を痛そうに顔をしかめて眺めつつ、背後に居るクマの方に振り返る。

 

「クマ。……虎太郎たちを連れて行ってくれ。俺はここでシケイを食い止める」

「はっ……何いってんの!? それって……ザッパを囮にするってことじゃん!!」

 

 彼の言葉に、キラキラが突っかかる。

 

「この中じゃ、俺が一番傷が浅くて戦えるからだ」

「そんなん私にも言えるじゃん!! 私だってほとんど怪我してないし!!」

「……クマ。お前ならわかるよな? これが一番、合理的だってことを」

 

 クマが眉間にしわを寄せ、歯を食いしばって考える。

 ここでシケイを食い止めなければ、俺たちは奴らに追いつかれて捕まえられる。それは確かだ。だから誰かが奴らを食い止める必要がある。

 キラキラなら? ガスとチェーンソーこそあるが、これだけの数相手に真正面から一人では時間はほとんど稼げないだろう。

 ザッパなら、ある程度はシケイ達と真正面からどつき合える力がある。タフネスもある。時間は稼げる。

 そして何より……。これから三階に向かって外に逃げるとき、怪我の少ない人物が怪我をしている人物を援護する必要がある。力があっても手の骨を折ったザッパでは、人を運びつつ逃げるのは……厳しいものがある。

 キラキラとザッパを一緒に置いて行くのは論外だ。キラキラの怪我の無さのメリットをわざわざ潰してしまう。

 

 考えれば考えるほど、ザッパを置いて行くのが一番合理的だという結果しか出てこない。

 唇から血が出るほどかみしめ、喉の奥から、言葉をひねり出す。

 

「……キラキラ。行こう」

「ちょっと……マジで言ってんのクマ!? ザッパがシケイにやられちゃうんだよ?!」

「キラキラ……!」

 

 彼女の肩を掴み、半ばにらみつけるように目をやる。

 ザッパとクマの目を何度も見やった後、キラキラは顔を俯かせる。そして、近くで倒れている虎太郎を持ちあげた。

 

「ザッパ、絶対……帰ってきてね」

「……おう!」

 

 痛みのせいで震える手を無理やり動かし、親指を立てるザッパ。キラキラはそれを見やった後、エレベーターの扉を潜る。

 クマもザッパの方を一度見た後、すぐに振り返り、エレベーターの扉を潜った。

 

 

 シケイの足音だけが響く、静寂がELVホールに広がる。

 ザッパが大きく伸びをして、シケイを待ち構えた。 

 

『……おっ、一人だけ残していったか……。どうやらナユタには、冷静な判断を下せる奴がいるらしいな……』

 

 ELVホールにシケイの波が入ってきた。

 廊下よりも少しだけ幅が広くなっているホールに、シケイが横に広がり、ザッパと対峙する。

 そのシケイの奥から、メガホンの男の声が響いていた。

 

『全員、油断するなよ。目標、ナユタ。銃で四肢を破壊したのち、盾持ち全員で捕縛しろ。スタンロッド持ちは盾の援護だ』

 

 ザッパが拳を握る。

 メガホンの声にシケイ達が反応して銃を構える前に駆けだし、シケイのライオットシールドを一つ強奪した。

 

「よい……しょああ!!」

 

 盾のふちを持ち、思いきり振り回す。

 彼の類まれなる膂力から生み出された薙ぎは、盾持ちのシケイを数人吹き飛ばした。

 だがシケイ達の銃の準備も完了し、ザッパの方に向けられる。彼はライオットシールドを前方に構え、ゴム弾を防ぎながら突進する。

 シケイを吹き飛ばしながら、メガホンの男の声がする場所まで走る。指揮者の奴さえ潰せれば、クマたちもある程度はやりやすくなるはずだ。

 だが盾を持って突進している最中に、側面からスタンロッドが二本、ザッパの脇腹に差し込まれた。身に走る電撃に体が止まる。

 

「よくもやってくれたな!!」

 

 その止まった一瞬のスキを突かれ、幾人ものシケイに地面に引き倒される。

 蹴りを入れようとしてくるシケイの足を掴み、そのまま周囲に群がる奴らに投げ飛ばす。

 周りのシケイを吹き飛ばしながら起き上がるが、前方から下がってきた盾持ちのシケイに再び地面に押しつぶされてしまった。

 手に持っていた盾が奪い取られ、スタンロッドが首に差し込まれる。

 

「ぐッ……!」

 

 スタンロッドを持つシケイの手を掴み、盾持ちのシケイの服の隙間に当てる。

 体を無理やり起こすが、地面に倒されている間に、隊列が組み変わってしまっていたようだ。

 銃持ちのシケイが列になって、ザッパに向けて銃を構えている。カチリ、と引き金に指がかかる音が静かに響いた。

 

(……さすがに、無理、か)

 

 内心でそう思いつつも、両腕を顔の前で交差させる。

 瞬間放たれる、無数のゴム弾。先ほどの廊下を埋め尽くすような、散らばった弾とは違い、ザッパ一人に集中された弾。

 彼の皮膚が裂け、傷口から血が流れ出る。

 

(クマ、ポルノ、キラキラ、虎太郎…………)

 

 どこかからか、骨が折れた音がした。

 両足が砕けたのか、その場に崩れ落ちてしまう。それでもなお、両腕を顔の前で交差させ、走馬灯のようにナユタのことを思い出し続ける。

 

(楽しかった、が……。どうやら、俺はここまでらしい……)

 

 ザッパがここで死ぬことはない。捕まった後でも。

 だが、二度とナユタの面々と会うことはなくなるだろう。もし会えたとしても、共に笑い合えるような関係ではなくなっている。

 

(……もう一度ぐらい、アジトに帰って……何か、したかったが……)

 

 全身の痛みに痛いと思わなくなり始めたころ、意識がだんだんと落ち始める。

 瞼がゆっくりと下がり、下がり、下がっていき――――閉じる。

 何もない、完全な暗闇が目の前に広がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……大丈夫か?」

 

 パン、と誰かに肩を叩かれ。ハッ、と目が覚める。

 膝をついて、眠っていたような……そんな感覚だ。ありえるはずがないのに。

 俯いていた顔を上げる。

 そこには、いつぞやのヒトカリで捕まえて、クマが()()()()だと言っていた……黒人の男がいた。

 

「私のホワイトスネイクの幻覚は、一人だけに見せないという器用なことができなくてね……。一度幻覚を見てもらった後、私本体が君の幻覚だけを解除しに来た」

 

 ザッパが立ち上がり、辺りを見回す。

 周囲に居た、あれほどの無数のシケイ。その全員が先ほどのザッパと同じように、眠るように膝をつくか、その場に寝転がっていた。

 

「……なんで、ここに?」

 

 黒人の男に問いかける。

 

「シケイとやらがナユタを捕まえようと、ここに向かっていると聞いてね。一度助けてもらった恩もある、それを返しに来た」

 

 ザッパが黒人の男の方を見る。

 流石に感じ取る、嘘だと。だが、一部は本当だろう。おそらく、ナユタが目的でこの仕山医院に来たというのは。

 

「……わかった。ナユタの仲間が、三階に逃げたんだ。それの救助と、逃亡ルートの確保がしたい」

「承知した。……私の名前は()()()()()()()()。よろしく頼む」

 

 ザッパは、感謝の念をプッチに抱いた。

 だがそれと同時に、何か嫌な感覚を抱いた。

 亜総義グループやシケイなどとは比べ物にならない、ドス黒い悪に巻き付かれたような……そんな感覚を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




長くなりました、すみません。
全開でとことん貶めるって言ったのに、辛くてプッチさん出しちゃった。

何かキャラが全員オリキャラみたいになるし、クマがスタイリッシュな動きするし……。
二次創作がうまい人本当に尊敬します。
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