プッチ in 亜総義市   作:男漢

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#7 ベリーハード 仕山医院4

 プッチはビルの屋上から屋上へと飛び移る。

 ホワイトスネイクの力を借りることで危うげなく飛び移っていき、目標の仕山医院と思われる建物の光が目に入った。

 屋上のふちにある柵に手を掛け、付近の道路を見渡す。

 

「シケイとやらの装甲車が道を埋め尽くしている。逃げ出すのは無理だろうな……」

 

 眼下に広がる無数の車を見つめつつ、そう呟くプッチ。

 まだ仕山医院からは5~6ビル分距離があるというのに、シケイの車が道路を全て埋め尽くしている。これほどの分厚さのバリケードを突破するのはスタンド使いであろうと無理だろう。

 承太郎のスタープラチナやDIOのザ・ワールドなら可能かもしれないが……。

 

 柵に掛けた手を離し、再び医院に向かって進行を始める。

 地上は厳重に守っているくせに付近のビルの屋上は警護していないところに、集ったシケイのツメの甘さが感じ取れる。ヴェルサスのような奴らだな……。スタンドを持っていない分奴より使えない。

 

 そうして、仕山医院の真隣のビルにたどり着いた時。

 屋上の出入り口の方から数人のあわただしい足音と装備のこすれるカチャカチャとした音が聞こえてくる。

 扉から見えない位置の壁の影に周り息をひそめる。扉が勢いよく蹴破られ、ぞろぞろと数人のシケイが屋上へと現れた。

 

「ッたく面倒くせーよな。三階に突入する準備を整えろって……」

「仕方がないだろう。()()()のエリートから支持されちゃあ動くしかない」

「でもだぞ? 相手は数人、こっちは何十人いると思ってんだよって話だぜ。三階まで逃げられるなんてことねーだろ」

「……まあな。ただ今回の指揮担当は()()()()()()()()()()()()()()()ことが決まってる超エリートだ。何か考えがあるんだろ」

 

 彼らが呑気に話す様子をホワイトスネイクで伺う。

 今回の指揮担当は、亜総義重工本社に移ることが決定している人物らしい。以前記憶ディスクを抜きとったシケイよりも多くの情報を持っていることだろう。

 仕山医院の方に向いて何やらゴソゴソと準備している彼らの背後をホワイトスネイクで襲う。そしてその指揮担当とやらの見た目を知っている男のディスクだけを引き抜き、頭に入れた。

 

 ……なるほど。拘りの白メガホンを持っているのが特徴らしい。

 ディスクを戻して倒れたシケイ達の体を屋上から突き飛ばす。下にあった黒のゴミ袋に頭からボスッと落ちたが、周囲のシケイ達がその音に気付く様子はない。恐らく死んではいないだろう。

 

「三階の準備を今し始めたということは、まだ二階か一階にいるのか。……二階から入り、一階に下って探すとするか」

 

 ナユタが捕まっていなければ、どこかで会えはするだろう。

 屋上の柵から仕山医院に向かって飛び移り、足と手を壁にこすりつけながら下に落ちていく。ホワイトスネイクの指を二階らしき高さにある窓枠に引っ掛け、その場で急停止した。

 ホワイトスネイクの腕で少しだけ体を持ち上げて、窓から中の様子をうかがう。

 

 

『よい……しょあああ!!』

 

 

 赤いレザー服を着てサングラスをした男が、生身で数十人の武装をしたシケイを相手に戦っていた。

 

 ……は? な、何が起きてるか私にも分からない。さすがに数だけ集めた質の低いシケイを相手にできるぐらいでないと、本社のエリート警備員には太刀打ちできないとは言ったが。

 あくまでそれはナユタという()()()単位の話であって、何十人も相手に一人で立ち向かえという無茶苦茶な話ではない。

 なのにあの……ザッパとか言った男は大軍を相手に一人で突っ込んでいる。人間とは思えないタフネスと腕力だ。自動遠隔操作型のスタンドか何かじゃないのか、アイツは。

 

 ただいくら何でも大軍を相手にいつまでも戦っていられるわけはない。拳の骨を怪我しているのか、手をかばうような動きを無意識のうちにしていて……地面に引き倒されてしまった。

 彼にとってはまずい場面だろうが、私にとっては非常においしい場面だ。もしここで彼を助ければ、ナユタに恩を売りつけチームに取り入ることができる。

 

「ホワイトスネイク。窓の鍵を開けろ」

 

 スタンドを壁の内側に入れ、窓の鍵を開ける。ガチッと音は立ったものの、誰も彼もその音に気付く様子はない。

 ただまだ中に入るのは早い。この窓は人が一人ギリギリに通れる大きさで入るのに時間がかかる上、中に入ったところでホワイトスネイクだろうと真正面から大勢のシケイを相手にはできない。

 

 今室内にいる奴らにスタンド使いはいない。非スタンド使いにはスタンドが見えない。

 故に、ホワイトスネイクが見えないという利点を最大限に活かさせてもらおう。

 白蛇が手の中から一つのディスクを生み出した。中に何の情報も入っていない、空ディスクだ。こいつに周囲の景色を読み込ませる。

 そして、そのディスクをホワイトスネイクの頭部に突き刺す。瞬間、ホワイトスネイクの体が微かに震え、周囲に透明な波紋のようなものが広がった。

 

「ホワイトスネイクのディスク能力の応用の一つ……『()()』。ある程度の狭さの屋内でないと使えない上に発動まで時間がかかってしまうので、あまり使えないがね」

 

 彼のスタンドから発せられる波紋が室内に浸透したと思った瞬間。

 中にいた人物すべてが、糸の切れた操り人形のようにその場に崩れた。全員の幻覚は共通し、プッチの意のままに動かすことができる。今頃シケイはザッパに止めをさして気持ちよくなっているところだろう。

 窓から中に入り、シケイの中に混じっていた赤いレザー服の男を少しだけ開けたところに引きずり出してから、彼の肩を叩いた。

 パッと悪夢から覚めたように冷や汗を流しながら目を覚ますザッパ。幻覚を全員に共通させている都合上、特定の人物だけ解除させる場合は私本体が直接触れなければならない。対したデメリットでもないがね。

 

「……なんで、ここに?」

「シケイとやらがナユタを捕まえようと、ここに向かっていると聞いてね。一度助けてもらった恩もある、それを返しに来た」

「……わかった。ナユタの仲間が、三階に逃げたんだ。それの救助と、逃亡ルートの確保がしたい」

「承知した。……私の名前はエンリコ・プッチ。よろしく頼む」

 

 彼と簡単な挨拶と来た目的を話す傍ら、ホワイトスネイクに指揮者のメガホンを持った男を探させる。

 シケイの大群のかなり後ろの方に隠れていたが、幻覚で止まっている今見つけ出すのは容易であった。頭からディスクを抜き取ると、その場に倒れて動かなくなる指揮者。

 このディスクを返す予定はないため、彼には限りなく申し訳ないが……冥福をお祈りすることにしよう。意識のない衰弱死だ、苦しむことはない。

 ホワイトスネイクに抜きとったディスクを持ってこさせ、懐に隠す。立ち上がったザッパがこちらを見て、話しかけてきた。

 

「なあ、アンタ。超能力者っていうのは本当か?」

「……厳密にいえば少し違う。私の力、スタンドと呼ばれるものは何でもできる可能性はあるが、何でもはできない」

「どういうことだ?」

「思考を読んだり、車を何台も浮かせたり、火を出したり……。一般大衆的に親しまれるようなそれとは違うということだよ。私には特別なことができはするがいくつもはできない」

「……この、シケイ達が一斉に倒れたことが、アンタのできる特別なことか?」

「そう思ってくれて構わない。それより、三階に向かった仲間を助けるのだろう? 私の入ってきた隣のビルから逃げられる」

 

 ザッパが私を怪訝な表情で見つめてくる。

 何かを怪しく思っているようだが……まあ想定内の範囲だ。像破壊のことまで感づくようなら少し考えなければならなかったが。

 しかし、この男……。ストリートで遊んでいそうな見た目と中身の能力が剥離しすぎている。相当良質な教育を受けた……名家の一族の一人だろうか。記憶を読まないことには正しいことは分からない。

 

 

 私が入ってきた窓の方を向き、隣のビルに再び戻ることにする。

 まず私が窓から出て、隣のビルの屋上へ登って彼をホワイトスネイクで引き上げる作戦だ。

 窓の外に出て、ホワイトスネイクで私を無理やり屋上に引っ張り上げた。窓枠に足をかけて不安定な姿勢で腕を伸ばしていたため、一度落ちかけてしまった。クソっ、もう一人スタンド使いがいればスムーズに進んだものを……。

 そうして私が屋上に登り、ザッパを引き上げるとなった時。

 

 

「うおおおおおッッ!? 空飛んでるゥゥッ!?!」

「頼むから少し黙っていろッ! 表のシケイにバレるだろう!」

 

 ホワイトスネイクがお姫様抱っこで屋上に運ぶ途中、彼が腕の中でジタバタと興奮し始めた。

 確かに非スタンド使いからすれば、突然体が浮いたように思うだろうが……ッ!

 

「落ちるぞ貴様ッ! 私のホワイトスネイクは今弱っているんだッ!!」

「……パティミリ」

「何?」

「パティミリっつーアニメの、OPで主人公のパティちゃんが勢いよく空を飛ぶんだが……もしかしたらこれで再現できるんじゃないか?!」

「…………は?」

 

 何を言っているんだ。今言うことなのか。こいつ……『マジ』か?

 ホワイトスネイクが屋上に到着し、ザッパを地面に落とす。とりあえずこの高さまで来れば多少の声は下には聞こえないだろう。

 すっくと立ちあがった男の方を見る。ハートのマークが入ったダサいサングラスの奥の目がキラキラと輝いているのが見えた。……私の能力がアニメの再現に使えそうなんてことを、今、敵地で『マジ』で考えていたようだ。

 意味が分からない……イカれているのか、こいつ。

 

「……意味の分からん期待をしている場合かッ。三階の仲間を助けるんだろう」

「と、言ってもだ。俺は両拳が砕けていて、このビルからそっちの三階の窓に飛び移るぐらいはできるが、人一人担いでこっちに戻ってくるなんてことはできん。そこで! アンタに俺の代わりを頼みたい!!」

 

 ザッパがビシッと親指を立ててそう言った。拳が砕けているのなら親指をいちいち立てるな、痛いだろうに。

 

「俺がまず向こう側に移る。そんでアンタのことを色々説明して、アンタのその……超能力?」

「スタンドだ」

「そうそう、それで俺の代わりにそのスタンドで仲間を全員こっちのビルに運んでもらう。まぁ飛び移れんこともないが、怪我人もいるからな……」

 

 ……怪我人か。

 まぁこの男を囮にしている時点である程度は分かっていたが、やはり危ない状況であったようだ。この言いぶりから察するに、行動不能レベルの怪我人もいるのかもしれないな。

 ホワイトスネイクを動かして仕山医院の適当な三階の窓を開けた。ザッパを中に放り込んだ後、私も飛び移る。

 

「アンタも来るのか?」

「例えばここに車椅子に乗る人物がいたとして、一人で進むよりも誰かに押してもらった方が楽で効率的だとは思わないか?」

「俺は車椅子に乗るような怪我人扱いってことね……。激烈な煽りをどーも」

 

 ザッパがそういいつつ、私の方から視線を逸らす。

 私たちが入ったのは高級病室だった。個室で普通の病室よりも広く、大きなテレビやテーブルなどがあり……高級ホテルの一室を思わせるような、おおよそ病室とは思えないような住環境の整った部屋だった。

 近くにあった棚の引き出しを開けると、中に入っていたのは避妊具の類。誰が居れたのかは知らないが、どうせろくでもない奴だろう。引き出しを閉める。

 病室の扉の向こうにホワイトスネイクを出し、辺りの偵察を行う。前の廊下にはシケイの姿は見えない。

 

「廊下には誰もいない。だが、ナユタの面々の姿もないな」

「ほー……便利なもんだな、扉の向こうも見えるって。虎太郎あたりが喜びそうだ」

「なぜだ?」

「女の着替えとか、女湯とか……まあ、色々。わかるだろ?」

「…………」

 

 反応しなければよかった。

 スライド式の扉を開き、ザッパの後ろをホワイトスネイクを自身の傍らに顕現させながら歩く。

 二階のELVホールでシケイの大半を沈めたからか、三階にシケイの姿は一切ない。幻覚の影響はある程度すれば消えるため、そろそろ動き出すかもしれないが。

 如何にせよ早く脱出せねばシケイが攻撃してくるだろうな、と考えながら歩いていたその時。

 どこかの部屋からか、何を言っているのかは聞き取れないが、くぐもった女性の声が聞こえてくる。ザッパと顔を見合わせ歩みを早めると、声の発生源は院長室と書かれたプレートのある扉の向こう側だった。

 

『~~~!! ――――!!』

『――――!』

 

 念のため。ザッパと私は数歩下がり、ホワイトスネイクに扉を開けさせる。何のとっかかりもなく、こげ茶色のテカテカと光るよく手入れされた木製の、無駄に金がかかっていそうな両開きの扉が開く。

 

 

「私は一般人なんですぅッ!! 父を探しに来ただけの!!」

「落ち、落ち着――」

「落ち着けるわけないじゃないですかぁッ!!」

 

 扉の向こうでは。緑色の髪をした涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃの少女が、クマ少年の頬をぐにーっと引っ張っていた。

 その少女の傍らには、キラキラとポルノとか言っていた少女が地面に倒れている。キラキラの方は頭にたんこぶを作り、ポルノの方は包帯のようにベルトを全身にぐるぐるに巻かれ、もぞもぞと芋虫のように身をくねらせていた。

 そしてその騒ぎに一切関与しないように、高級そうな黒革のソファーに安置された虎太郎の姿。

 ザッパがクマと少女の方に視線をやるが、目を逸らし、芋虫の様にうごめくポルノの方に近づく。

 

「ポルノ、一体何が起きたんだ?」

「……がくー」

「……ポルノ? ポルノ、ポルノォォおお!!」

 

 あまりにわざとらしい動きで、がくんと首から力を抜き目を閉じたポルノ。それに合わせるようにザッパが彼女の頬を両手で押さえ、演技ぶった声で慟哭する。

 

「…………」

 

 スタンドは操作する人間の精神を明確に表している。スタンドの表情にはその人の感情が出るということだ。

 ホワイトスネイクは私の方を、じっと困惑した表情で見つめていた。

 

 

 

 




仕山医院だけで妄想がクッソ膨らんでクッソ長くなってる。
次で……次で絶対に終わらす……!
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