プッチ in 亜総義市   作:男漢

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#8 ベリーハード 仕山医院5

 ELVホールに追い詰められ、ザッパを二階に残して三階に逃げる時。

 ポルノと虎太郎に『エレベーターを使えなくしてくれ』と頼んだ結果、二人はエレベーターをつるすワイヤーを焼き切ることを選択したようだ。

 グチャグチャに潰れたエレベーターの箱が一階に落ちているのが見える。一階の扉をこじ開けたところで、あの惨状であれば中に入ることなど到底できないだろう。

 

「クマ……っ。この子、誰……?」

「わからない。……ポルノ、ベルト一本貸してくれ、手伝う」

 

 エレベーターの箱が潰れている以上、三階までは人力で登らなければいけない。

 幸いにも一階から三階まで続く非常時用の備え付けはしごがあったため、虎太郎を背におぶったキラキラ、ベルトで縛った謎の少女をクマとポルノが支え、カンカンと音を立て登っていく。

 一番先頭を登っていたキラキラが虎太郎の棍を持ち、バールを扱う要領で無理やり三階の扉をこじ開けた。開いた扉のわずかな隙間に体を滑り込まし、全員がその場に息を切らして倒れ込む。

 

「虎太郎、マジでおっもい……!」

「助かった、キラキラ……。ポルノも大丈夫か?」

「うん、大丈夫。シケイも近くにはいないみたい」

 

 ポルノが立ち上がり、周囲の音に耳を澄ませながらそう言った。

 仕山医院への三階の移動手段はエレベーターしかない。階段もあるにはあるが、職員用の人一人が目いっぱいの狭いものである上に、設計ミスなのか一階から三階への直通だ。シケイが登ってくるにしても時間がかかるだろう。

 クマが身を起こし、緑髪の少女をおぶる。

 

「三階から脱出できるような方法……」

「隣のビルに飛び移るのは?」

「……怪我人が多すぎる。キラキラとポルノだけならいけるかもしれないが、虎太郎と俺は……」

 

 キラキラの発言に言葉を返しつつ、クマが自身の体を見やる。

 彼も先ほどシケイ達の攻撃を受けてしまい、歩けたりはしごを登ったりはできるものの、数メートル離れたビルに飛び移るのはかなり厳しいだろう。虎太郎に至っては骨が折れて意識もない。

 キラキラがクマと虎太郎を再び置き去りにする光景を空想し、ぶんぶんと手を振って先ほどの発現を否定する。

 

「だ、ダメダメ! やっぱなし!」

「……けど、隣のビルに移るのはいいと思う。一番窓が大きいところから、向こうの屋上の手すりとこっちを紐で結んで渡るのはどう?」

 

 ポルノが頬を押さえながらそう言った。

 クマが思案する。確かに紐にしがみつつならば、キラキラやポルノの助力を受けながらであれば渡れるかもしれない。虎太郎に関しても、台のようなものに乗せれば何とか渡れるだろう。

 

「ポルノの案で行こう。キラキラもそれでいいか?」

「うん、オッケー。というか、それ以上の案がさっと思いつかないし……」

 

 彼女の承諾と共に、三階の廊下を足早に歩きだす。

 三階には高級病室と呼ばれるVIP患者専用の部屋と院長室くらいしかない。高級病室の室内はすべて同じである上にそこそこの大きさの窓しかなかったため、自ずと院長室にたどり着く。

 ここの院長は医院の金を横からかすめ取り、私腹を肥やしていることで有名だ。その院長の欲に比例しているのか、院長室の豪華さもほかの病室とは一線を画すようなもののだった。

 クマが銃を構えながら室内に入り、誰もいないことを確認してから腰に銃をしまう。

 

「院長はいないな。まあ分かっていはいたが」

「真っ先に逃げたんじゃない? 今の仕山医院はほとんど戦場みたいなもんだし」

 

 部屋の大きさは約二十畳程度、軽くであればキャッチボールもできるだろう広さだ。その脇の方にあった、来客用であろう向かいった黒革のソファーに虎太郎を寝かすキラキラ。

 クマは院長室の壁を半分以上埋める大きな窓を見て、十分すぎるくらいだろうと考える。窓の鍵を開けて脱出の準備をしていると、ポルノが彼に話しかけた。

 

「クマ。この子、どうする? 起こす? それとも寝かしたまま、虎太郎と一緒に運ぶ?」

 

 彼女が指さしたのは、ベルトで縛られたままの緑髪の少女。顔につけた眼鏡は涙や鼻水の乾いたものでカピカピになっている。

 

「起こそう。今はなるべく荷物を減らしておきたい」

「わかった」

 

 ポルノが頷き、少女を縛り上げている白のベルトをするすると外していく。

 ごろんと転がった彼女の肩を掴み、クマががしがしと乱雑に揺さぶる。「んっ……」と声を出し、目をこすりながら瞼を開いた少女。

 パチクリと瞼を何度かまばたきさせ、クマの顔を見つめる少女。ピンク色の唇がふるふると細かく震え、すぅっと息を吸い込む。

 

「いやあああぁぁぁぁあああああああああぁあああ!!?!!」

 

 ズリズリとものすごい勢いで後ずさっていく少女。

 

「な、なんなんですかぁ?! 私は食べてもおいしくありません!! 普通の、一般人なんですゥ!!」

「……は? いや、ちょっと落ち着……」

 

 クマが近づこうと歩むを進めるたび、彼女もずり下がっていく。

 ふと、眼鏡の向こうの目がクマの腰の方に移動した。そこにぶら下がっていたのは、とてもエアガンとは思えないほどの威圧を放つ、黒くゴテゴテと光る拳銃。

 

「じゅ、銃……? 本物…………?」

「……ああ。突然で申し訳ないが、こちらにも事情がある。協力してもらわないと……ぁ?」

「ひあっ……ひぃい……」

 

 少女が情けない声を出したかと思うと、一度大きく、プルルッと身震いをした。

 その直後、シャワーから水が流れ出るような音と共に地面に何かの液体が広がっていく。ほのかなアンモニア臭を放つそれは、少女のスカートの中から流れ出ているように見えた。

 クマの体が硬直する。ポルノも突然の放尿に柄にもなく動揺し、動きが止まった。臭いを察知したキラキラも彼女の方を向き、体を固める。

 

 十数秒の硬直。

 ほどなくして、スカートからぽたぽたと液体を滴らせながら、少女が立ち上がった。

 

「……何か悪いですか」

「は?」

「おもらしして何か悪いって言うんですかッ! 出ちゃったものはしょうがないじゃないですかぁ!!」

 

 突然の逆ギレ。そしてクマにつかみかかろうとする少女。

 ポルノが彼女を再び縛り上げようとするが、おそらく疲れも出ていたのだろう。自分のベルトを自らの足で踏んでしまい、体にぐるぐるとベルトを巻きつけながら、ゴロゴロと部屋の隅の方へ転がっていった。

 

「ちょ、ちょっとちょっと! あんた一体何してんの! あとおしっこ滴ってきたない……」

「あ"ーーあ"ーー!! 聞こえません聞きたくありません!!」

「俺の体にかかってるから少し離れてくれ……!」

 

 クマが少女を引きはがそうとするが、思いのほか力が強く一向に引きはがせない。

 キラキラがため息を吐き、少女の背後に回って彼女を引きはがそうと肩を掴んで引っ張った。二人分の力には彼女も耐えられなかったのだろう、フラッと背後に体勢を崩す。

 

「あーもうホントに何やって――――んがっ!!」

「キラキラ!?」

 

 緑髪に覆われた少女の後頭部が、キラキラの鼻っ柱に直撃した。

 思わず手を離し背後によろけ、後ろにあった本棚に倒れ込むキラキラ。彼女が本棚に体重をかけた瞬間、ぐらりと本棚が大きく揺れ、その振動で本棚の最上段に入ってあった分厚い医術書が落ちた。

 

「ぎゃふん!!」

「キ……キラキラ!?」

 

 彼女の頭部に医術書が直撃し、大きなたんこぶを腫れ上がらせながら倒れ込んだ。

 再びクマにつかみかかり、頬をむにょむにょと動かしまわす少女。消耗した彼は銃を取り出すことも彼女を取り押さえることも敵わず、口での説得を続ける。

 

 その瞬間。院長室の扉が開いた。

 中に入ってくるのは、黒人の男とザッパ。少女はそれを気にすることもなく、叫び散らす。

 

「私は一般人なんですぅッ!! 父を探しに来ただけの!!」

「落ち、落ち着――」

「落ち着けるわけないじゃないですかぁッ!!」

 

 

 黒人の男は一人、ただ困惑していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ぶっ、ハッハッハッハッハ! お、俺がいない間にそんなことがあったのか!」

「笑い事じゃないぞザッパ……!」

 

 左肩に虎太郎、右肩に緑髪の少女を担いだザッパが豪快な笑い声をあげ、クマが低い声で恨めしそうに言った。

 時間は飛んだ。正確には、私の脳が対応できる限界を超える事態が発生し、一種の意識喪失状態に陥っていたようだ。

 

 頭を押さえ、記憶を必死に探る。

 あの後、件の少女をホワイトスネイクで気絶させ、無事に仕山医院から脱出した……ようだ。誰も欠けていない状況を見るに、そのあやふやな記憶は合っているのだろう。

 

 私たちは仕山医院から隣のビルの屋上に渡り、脱出。そこから二十~三十ほどのビルの屋上を移動し続け、十分に医院から距離を取ったところで、道路に降りた。

 周囲のシケイはいまだに仕山医院に集合しているようで、あの医院の周囲に集まっている装甲車のライトの塊が空に浮かんでいた。警戒するに越したことはないが、私たちが道を歩いていたところでシケイに襲われる確率は低いだろう。巡回のシケイが全くいないのだから。

 

「ザ……ザッパ! 頼むからもう少し揺れを少なくしてくれ……! ほ、骨が……」

「んー? 虎太郎、俺だって拳の骨が砕けてるのにお前を担いでるんだ。ちょっと痛いぐらい、問題なし!」

「問題ありありだっつーの!! 俺は左足と左腕が折れてんだぞ!!」

 

 そして、道中で虎太郎も目を覚ました。

 左腕と左足を骨折する重傷を負っていたようだ。よく生き残れたなとしか言いようがない。

 

「けどさー、ザッパが無事でホントによかったよー。えーと、プッチ……さん?が助けてくれたんでしょ?」

「呼び捨てで構わない」

「プッチ。パティミリのアニメのOPを再現する気……ない?」

「すまないが、ない」

 

 ポルノとキラキラが話しかけてくる。相変わらず肌の面積が大きすぎる服だ。

 流石にマナーとして目を彼女たちから目を逸らすが、ポルノが面白がって私の視界に入ってくる。フェイント等をかけて顔の向きを変えたりするが、私の動きを完璧に読んで視界内に入ってくる。……や、やめろ!

 

 

 そんなプッチの様子を見つつ、クマがザッパの方に近づく。

 背後で騒ぐ三人組に聞こえないように声を潜めて、ザッパと虎太郎に話しかけた。

 

「ザッパ。……流石に怪しいと思わないか、あの男」

「何がだ?」

「エンリコ・プッチ……。眉唾物だが、超能力を操る力は本物だ。今回、萬像破壊の犯人がナユタに仕組まれ、そしてシケイにやられかけた所にタイミングよく奴が現れた。……出来すぎてると思わないか?」

 

 クマの言葉を、ザッパと肩に担がれた虎太郎が静かに聞き届ける。

 ザッパが口を開いた。

 

「だから何だ?」

「……おそらく萬像を破壊したのは奴で、ナユタに罪が被さるようにしたのも……奴だ」

「なっ……マジかよ! あのプッチって奴、超能力で色々手伝ってもらおうと思ってたのに……!」

 

 虎太郎が目を見開き驚愕の声を出す。彼の手伝いというのは、きっとくだらないことであろう。

 

「まあ……そうだろうな。だけど俺が奴に助けられたのも事実だし、奴の超能力がなければ屋上をいくつも渡って逃げるなんてのもこんなに早くできなかった。違うか?」

「確かにそうだが……」

 

 実際、プッチの超能力がなければ。屋上一つ渡るのにですら紐を括り付け、しがみついて渡り、紐を外してと……あまりに時間がかかりすぎる方法を取る羽目になっていた。だが彼の力があったおかげで、空に浮くという不可思議な体験をする羽目にはなったものの、素早く屋上を渡ることができていた。

 ザッパが話す。

 

「俺も正直、奴はかなりヤバいと思う。ELVホールで会った時に、得体のしれない……恐ろしい雰囲気を味わったよ」

「……奴の目的は? ナユタを陥れた後に助けたんだから、何か目的があるんだろう?」

「さあな。恩返しだとかは言っていたが、明らかな嘘だった。このままアジトまで付いてきて、そこで何かするんだろうよ」

 

 ザッパとクマの会話に虎太郎が口を挟む。

 

「なあ、そんなあからさまに怪しい奴をアジトに入れんのか? いや、前も一回入れてたが……。ここで奴をタコ殴りにして逃げた方が……」

「虎太郎、そいつはちょーっと無理だな。俺たちは怪我人が多すぎてアイツの超能力とかいうのに対応できない」

「なら不意打ちはどうだ? クマがそーっと後ろに回って銃を撃てば……」

「それも無理だな」

 

 ザッパがそこまで言ったところで、背後のプッチの方を振り返った。

 今だ彼らの背後では、プッチとポルノが戯れている。

 

「多分、アイツ。今の俺たちの会話、聞いてたぜ」

「え……?」

 

 虎太郎が呆けた声を出す。

 プッチが少しだけ顔を上げた。振り返ったザッパのサングラスの奥の目と、視線が重なり合う。

 そしてスタンドが見えぬ、使えぬ彼らには知る由もないことだが。

 

 白き蛇のスタンドが、彼らを見下ろすように、上空に浮遊して立っていた。

 

 

 

 

 

 

 




あまりに妄想が膨らみすぎて収集がつかなくなったので、途中の場面をかなり切って纏めてしまいました。
これ書いてる本人はわかるけど、読んでる人にはわからないんじゃ……。


プッチへの印象

ザッパ かなりヤバいけど、目的さえ合えば頼りになる奴。

クマ 超危険人物。かなり警戒してる。

虎太郎 危険人物。クマほど警戒はしてない。超能力(スタンド)でよからぬことの手伝いを頼もうとしている。

キラキラ ザッパを助けてくれた人。警戒はしてないけど信頼もしてない。

ポルノ クマと同じようでまた違う系統の面白い人。童○だと思ってる。


なおこの時点でプッチさんの、ナユタとさりげなく協力関係を築く目論見は崩れています。
あまりに怪しすぎて警戒されちゃったし仕方ないね。

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