夜闇の中。亜総義市の中心にそびえたつ巨大なビル、亜総義重工本社。
高さ数百メートルはあろうそのビルの最上階。亜総義市すべてを見下ろせるBARが併設された展望台フロアに、一人の男が立っていた。
男の名は『
限りなく白に近い金髪に女性を虜にする端正な顔、スタイルの整った細く長い肢体など、体のどこを見ても人を引き付ける魅力を放っている男だ。
だが彼の生来持っている魅力がホコリの様に思える、特別な力を彼は持っている。
亜総義グループは複数の一族が集まってできている集団、連合体のようなものだ。
その亜総義グループに属する多くの一族の中。最も強大な権力を持つ一族が『
男の名は『山本 玖光』。山本一族に連なる者である。
そして、この街。
「…………」
玖光が自らの
そうして、非常に面倒くさそうに深くため息を吐いた。
彼の背後にあるエレベーターの扉からチンッ!と甲高い音がなり、音もなく開いた扉から一人の男が入ってくる。
「玖光様。萬像が破壊された件ですが、犯人と思わしき
今しがた部屋に入ってきた赤いスーツ姿の男は山内知佐文。
玖光の秘書……というより、彼の近くに上手く取り入って甘い蜜を吸い続けている男だ。玖光は彼のことをある程度は使えると思っているが、信頼はしていない。
「あー、そう? まぁいいんじゃない?」
「……え? し、しかし……」
背後を振り返ることすらしない玖光のぶっきらぼうな返事に、山内が困惑の声を出した。
「正直、萬像を破壊した犯人捜しより生誕祭までに再び作り直すほうが重要なんだよね。おばあさまに知られないうちにさっさとしないと、色々面倒なことになっちゃうし」
「で、ですが!」
玖光の言うおばあさまとは、今現在の山本一族の当主である人物である。
彼も一族の中ではかなり高い位ではあるものの、おばあさまには頭が上がらないし反発もできないのだ。
そしておばあさまは今回の生誕祭を軸に様々な経済戦略を立てている。その祭りの目玉である萬像が披露できない場合、亜総義の評判は少なからず落ちてしまい、その戦略が全てダメになってしまうのだ。
今回の件が知られた日には……玖光でさえもキツイ灸を据えられてしまうだろう。
玖光が山内の方に振り返り、ワイングラスを持っていない方の手で頭を押さえながら言った。
「まずさ……萬像が破壊された瞬間の映像、君も見たんでしょ?」
「ハッ、拝見させていただきました」
「すごい音が鳴った後に、首から上がポロッと地面に落ちた。捜査班からの報告では爆弾や銃による破壊の痕跡はなし、外部から謎の見えない圧力がかかったとしか言いようがないってさ」
「……と、いいますと?」
「こんなもの、考えるだけ無駄ってこと。もし抗亜による人為的な破壊だったとしたら……僕らの知見が及ばないような、それこそ
玖光はそう言って、再び眼下に広がる街の方に振り返る。
彼の後ろ姿を眺めていた山内は、軽く息を吐いて自分の携帯に視線を移し、萬像を破壊した抗亜を捕える件を中止するようにシケイに連絡した。
山内は携帯をポケットに入れる。自分が乗ってきたエレベーターに再び乗り、展望台フロアから去っていった。
展望台フロアに静寂が訪れる。
右手に持ったワイングラスの中の、紅い液体が揺れる。玖光はそれを口にしながら、思案を巡らせた。
(ただ……萬像が抗亜に破壊されるって報告が、破壊される十数分前にシケイに来たって報告もある。像が偶々壊れたにしてはタイミングが良すぎるけど、かといって人為的に壊す方法は全く見つからない)
空になったワイングラス。透明なグラスに、亜総義市のネオンの光が反射する。
(…………ふぅ。これは僕の考えが足らないとか視点を変えて考えてないってとかより…………そもそも『
(第三者の介入、亜総義重工が感知できないほどの技術、内部の隠蔽……。考えられる事態はいくつもあるけど、どれも情報が足りないから断定できない。
…………そうだな、
玖光は空のワイングラスを持ったまま、展望台フロアに備え付けられているBARのカウンターに近づいた。
「全く、なに不自由なく支配してやってるってのに。万民の考えってのは、分からないな」
カウンターの上に置いていた赤ワインをグラスに注ぐ。そして、その紅い液体を再び、喉の奥に送り込んだ。
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亜総義市、某所。
とある男が辺りを警戒しながら歩いていた。
周囲にはぽつぽつと人が歩いているが、男はその道行く人にあまり近づきすぎないように、慎重に道を進む。
『――では、萬像が破壊された瞬間の映像ですが――』
ふと。
男が足を止め、古ぼけた電気屋の表に飾ってあったテレビに目を止めた。
分厚いブラウン管のテレビで、とてもではないが画質はいいとは言えない。アナウンサーの話す声もザーザーと雑音が混じり、あまり聞き取れない。
『――有力な情報をシケイに通報したものは、亜総義社から直々に金一封が――』
その十数年型落ちしたかわからない、ショーウィンドウのガラス越しのテレビの映像に、男はくぎ付けになった。
「…………!」
映し出されたのは、人でごったがえす広場の映像。
その広場の中心には、夜空を突き上げるように高くそびえたった銅像の姿。
そしてふと、空間から染み出したように現れる、白い人間の形をした何か。体中に何か分からない文字を掘り入れ、頭に黒い王冠と目隠しが融合したようなものを被っている何か。
その何かは広場の中心にある銅像に、浮き上がるように近づき、ググっと力を溜めるように右腕を上げる。
充填された力が爆発し、何かが勢いよく銅像の首に手刀を叩き込んだ。
バギャッ!と鈍い音が響き、銅像の頭が地面に転げ落ちる。地面に転がる頭を確認し、その何かは空気に掻き消えるように姿を消した。
『――再び繰り返します。有力な情報をシケイに通報した方は、金一封――』
確かに、常人には何が起きたのか皆目見当がつかないだろう。
だが。ブラウン管テレビの前でわなわなと震える男には、その映像の中で何が起きていたか、そしてその何かが何なのかをよく知っていた。
「……スタンド……!」
男が、その名前を呟いた。
テレビの中の映像を凝視し、先ほどのスタンドを操るスタンド使いの姿を探す。
だが、元々人でごったがえしていた広場である。銅像の頭が落とされ人々がパニック状態になり騒ぎ出してしまった以上、その中からスタンド使いを見つけ出すのは不可能に近かった。
男がテレビの前から後ずさり、ザッと踵を返す。
この街にはスタンド使いがいる。そして、スタンドが見えていた男ももちろんスタンド使いだ。
彼の背後に人型のスタンドが、すぅっと空間から滲み出すように現れる。
一体あの銅像を破壊したスタンド使いが何を目的にしているかはわからない。どのようなスタンド能力なのかもわからない。
男は未知のスタンドに対する警戒で、思わず出てしまったスタンドをしまった。もしあの広場に居たスタンド使いが近くにいた場合、自分がスタンド使いであることがバレてしまうからだ。
彼はしばらく歩き、街灯のある明るい道から外れ、暗い路地裏に入る。
男が亜総義市全体を巻き込む運命の舞台に上がるのは、まだ随分と先のことであった。
良い感じのところで区切った結果、少し短めになってしまいました。
正体不明のスタンド使い……一体誰なんだ……!
隠してるつもりですけど突かれるとすぐバレるので追求しないでくださいお願いします。
玖光さんは原作と違って若干見下し感が減ってます。
安全だと思ってた萬像が破壊された方法すら分かってないからそりゃちょっと焦るよね……。