前世の記憶を思い出したのは何気ない日常の中でだった。
彫金師の母と鍛冶師の父親から生まれた俺は、父からおつかいを頼まれて外を歩いてる時に井戸端会議をしている里の大人達に挨拶をして通り過ぎる時に聞こえた会話の中に〝神〟やら〝恩恵〟やら〝ファミリア〟の単語が聞こえきて、ふとした瞬間に前世の記憶が呼び起こされて気づいた。
この世界…ダンまちじゃねーかと。
でも待ってほしい。里の皆、恩恵なしに魔法ガンガンに使えんだけどおかしくね?俺ですら魔力を滑らかに循環させる訓練しながら歩いてるし。今年10歳なるけど憧景抱いていないレベル1のベル君なら軽く捻れる自信があるんだが。そして里の大人連中なら素手は厳しいかもだけど多分ゴライアスなら殺れそう。どうなってんのこの一族ェェ……
ま、まあ今さらだし気にしてもしょうがない。とりあえず、もうちょい大きくなったら…具体的に14歳位になったら里を出て世界を色々見て回りたい。最終的にオラリオに行くのは決定事項。ダンジョン行きたいダンジョン。
「そこんとこどうなんすか?父さん」
「どうした急に」
「いや~里の外に出ちゃダメなのかなぁと思いまして」
「別にいいぞ」
「あ、良いんだ」
「しかし、一度里を出た者は100年は過ぎないと再び訪れることを許さないという掟がある」
「いやそれ帰ってくんなって言ってるじゃん!?」
「何を言ってるんだ。100年すれば帰って良いんだぞ?」
「死んでる!死んでるから!」
「……ああ、そういえば教えてなかったか。俺達の一族は長命なんだ」
「え?」
「エルフほどではないがな。父さんや母さんはこれでも200年は生きてるし、平均寿命は400歳~450歳だ」
「は?」
おかしいよこの一族。ヒューマンだろ。ヒューマンだよな?
「ちなみに長老は今年で500歳を迎える里一番の長生きだ」
「元気最強かよ」
「この前、迷い込んだイノシシを人差し指を脳天にぶっ刺して片手に担いで持って帰ったって聞いたな」
「生涯現役かよ」
「昔、外を旅している時に怪しげな神が引き連れた眷属達を千切っては投げて最後に神には天界に帰ってもらったとか」
「神殺しかよ」
「その時に助けたエルフが今の奥さんだそうだ」
「ああ、だから元気なんだ。納得」
記憶が戻ってから衝撃(笑撃?)の事実の連発だった。ちなみに何で長命かと言うと魔力循環が原因らしい。熟練していくと老化防止にもなるのだと。18歳くらいまでは普通のヒューマンと同じ速度で成長して、そこからの老いが遅いとか。それに血を薄めるために外部の血を取り入れたりしてたみたいでエルフの血も何だかんだで混じっているからやっぱり寿命が長くなっているとか。そりゃ美男美女が多いのにも納得だよ。
◆◆◆◆
両親から旅を出る許可を貰ってから4年が経って今は14歳。父から鍛冶、母から一族に伝わるマジックアイテムの魔具作り、親戚から薬学の基礎を学び準備万端。とりあえず大きな街にでも向かうことにした。大体、普通に歩いて3日はかかるそうだ。しかし、そこは代々受け継がれてきた一族限定の魔法を使って体力と敏捷を上げて駆け足で半日に短縮しようと思う。
爆走してる最中、良い感じの崖を見つけたので思わずライオンな王様の自分の子供を猿が持ち上げる名シーンを思い出した。そうそう、あんな感じに崖の先に立って……あれ、何か襲われてる?
「あふぅ…助かりましたわぁ。下界に降りてから3日目で天界に戻ったなんてことになっていたら、危うく一生の笑い者になるとこでしたぁ。ところで~何か食べ物を持っていたりしませんかぁ。3日も何も口にしてなくてぇ。ふらふらしていたらモンスターさん達と遭遇してしまい、頑張って走りましたのでそろそろ倒れて天界に召されてしまいそうですのぉ」
モンスター達に襲われてたので助けたら、女性ではなくゆるふわ系ボンキュッボンな女神だった件について。てかこの女神、色々ギリギリな状態なのに話し方はゆっくりなままなんだな。でも身体が震えてきてるから本当にヤバいっぽい。
「あっ、逝っちゃいそう……キュウ」
……うん、とりあえず助けるか。
「ハムッ…ハムハムッ…ハムッ……ふぅ。御馳走さまでしたぁ。お料理、お上手なんですのねぇ」
「一人旅なんである程度は母親に仕込まれましたのでこれくらいはどうってことはないですよ」
「ご謙遜なさらないで、本当に美味しかったですのぉ。それにあんなにお強くってこんなに素敵なんですもの。きっとおモテになるんでしょう?」
「生憎と年が近い異性がいなかったんでそんなことはないですね」
いやほんとに。自分より下は8歳以下で上で近い年は50歳は離れてたからモテたら倫理的にダメでしょ。それに里の9割の男女は大体が結婚してるか誰かと付き合ってたし。
「そういえば自己紹介してなかったですよね。俺はルーク・ストレイって言います」
「あらやだ、私ったら命の恩人に先に名乗らせてしまったわぁ。私は花と春と豊穣を司る女神、フローラ。ルークさん、とお呼びしても?」
「構いません。俺は何と呼べば良いですか?」
「ではでは…是非ともフローラと、呼んでいただけると嬉しいですわぁ」
「では、フローラ様とお呼びしますね」
「あらあら、違いますわぁ。〝フローラ〟と、呼んでください。それに丁寧口調も素敵ですけどぉ…もっと親身に話し掛けて欲しいですのぉ」
なんか物腰柔らかい割りにはちょいちょい距離詰めてくるな、この女神。食事を終えたら隣に座ってくるし、物理的にもグイグイ来るから理性ガンガンに削られる。精神統一の修行がこんなとこで役立つとは思わなかった。あのホント、エロ過ぎるんで控えてくれません?花の女神だからか良い匂いがするんですよ。
「だめぇ…ですか…?」
「分かり…分かった。これでいい?〝フローラ〟」
「っ……はい!これからずっとよろしくお願いしますわぁ!」
「ああ、これから…ん?これからずっと?」
「はい。その通りですわぁ」
「いやいやいや。街までは一緒に行くけど…何で着いてくる話になってるの」
「私、よく周りの友神からぽわぽわしてるから気を付けなさいよ~って言われててぇ…実際、危ない目にも何度も遭いましたのぉ。今回もモンスターさん達に襲われましたし。だからルークさんが助けてくれた時、〝運命〟を感じましたのぉ。この人と一緒なら大丈夫なんだって」
「そこはもっと頑張ろうよ。俺じゃなくたって街ならこんな辺鄙な場所とは比べ物にならないくらい安全だから。じゃ、またいつかどこかで」
「まあまあ、お待ちになってぇ。もう少しお話いたしませんことぉ?」
そのドスケベボディで俺の腕を包むのやめてくれやがりませんかねぇ。弾力性あって柔らかいとかどんな魅惑のマシュマロだよ。おっとりしててゆっくりな話し方になんか癒されるし、その長髪の色は桜を連想させるから懐かしさを覚えるし、一緒にいるとなんだか心がじんわりと暖かくなって……
「って危ない危ない。流される所だった」
「ぼーっとしてましたけど、どうしましたのぉ?」
「なんでもない。片付けるから腕を離してくれないか」
「ならご一緒にお手伝いいたしますわぁ。お話はそれからでも遅くありませんし。後でゆっくり、お話しましょう?」
「分かった、分かりましたから。あっ、寝袋どうしよ……」
「二人でぎゅっとすれば問題ありませんわぁ」
「それ問題しかないから」
「私はいつでもウェルカムですのにぃ。……こうなったら女神として一肌脱ぐしかありませんわね。ふふふ…とても楽しみですわぁ」
「いいから手伝って」
「はぁ~い、すぐ手伝いますわぁ」
本来だったら今日中に近くの街に着くはずだったルークだが、予期せぬ女神フローラとの出会いによって1日野営することとになる。
フローラは夕飯の片づけの最中もルークと親しくなろうと距離を詰めるために話し掛ける。やたらとボディタッチが多いのは天然なのか計算なのか経験に乏しいルークには判断が着かない。
それに原稿用紙1枚で事足りるような人生だった前世の記憶に対処法なんて書いている筈はなく、気づけば神生経験豊富なフローラのゆるふわな猛攻に流されていた。
「……何で俺の毛布に入ろうとしてるの?」
「ルークさんと、もっとお話したくってぇ」
「今日はもう充分話したじゃん」
「まあまあ、良いじゃありませんかぁ。一緒にぎゅっとくっついて眠れば、明日の朝までぐっすりですよぉ?」
「いざという時、すぐ動けるようにしたいんだけど」
「あ~あ、今日はモンスターさんに襲われて恐かったなぁ。こんな夜は一緒に寝てくれる強くて、優しくて、カッコいい男の子がいてくれたらなぁ……あらあら?こんなところに素敵な男の子がいるなんて、私びっくり」
「どうした急に」
「あらあら?こんなところに優しく抱き締めながら一緒に寝てくれる素敵な男の子がいるなんてぇ、私びっくり」
「同じこと言ってるようで、しれっと要求を増やすな。あれっ?みたいな顔してるけど、何で上手くいくと思ってるの」
「むうぅ。……ルークさんって、まるで蕾のように固いですわぁ。でもでも、お優しいからこのまま押せ押せで行けば既成事実を作れそうですのでぇ、ここからは直球勝負ですわぁ」
フローラは決意するとルークの目の前で服を脱ぎ始める。唐突な行為に唖然とするルークは何も言うことができず、その眼でしっかりと女神の裸を焼き付けた。脱ぎ終わったフローラはこの世のものとは思えないほど美しく、正に女神だった。
座っているルークの正面に四つん這いになり、僅かな距離をゆっくりと詰める。
「あっ、えっ、あっ……」
何かを話そうとするルークだが、上手く言葉にできない。その間もフローラは近づいて、相手の息遣いが鮮明に分かる。彼女はルークの首に両腕を回して抱き締めながら耳元で囁く。
「触っても良いんですよぉ?」
限界だった。フローラという蜜を貪り尽くさんばかりにルークは襲いかかった。暖かな豊穣の大地はどれだけ水を注いでも嬉々として吸い込んでいく。大地から栄養を得る度に、花は香りをより強く、そしてより美しくなってく。
彼の正気が戻ったのは、辺りが明るくなってからだった。あれから水やりに精を出して気づけば朝だ。
「うっわ、マジかぁ……」
ルークは頭を抱える。どうしてこうなったのだと…。原因の女神は仰向けに横たわり息を荒げている。身体に纏わり付く汗が太陽の光を浴びて光沢のように輝き、赤みがかった身体が色気を醸し出している。
「はぁ…はぁ…はぁ…。もう、朝、ですかぁ……?」
フローラの様子にルークは喉を鳴らし、再び水やりに精を出すことにした。
「ルーク、さん…?えっ、ちょっと…ま、待ってください。もう、ふらふらで限界なのぉ」
「焚き付けたのはフローラだから責任とってね」
「あんっ、動かさないでぇ。少し、少しだけで良いから休ませてぇ…」
◆◆◆◆
父さん、母さん。そんなに日が経ってないのでお元気ですよね。あなた方の息子は旅立ってから初日で大人に成りました。自分でもナニ言ってんだかと思いますが本当の話です。モンスターに襲われてる女神を助けたら女神に襲われました。まあ、正確にいうと襲ったのは俺なんですが、あんな誘い方は襲ってきたのと同じだと俺は思うのです。良い匂いするし、人当たりが良くて、笑顔が絶えない色気ムンムンのボンキュッボンには勝てませんでした。
よく恋をすることを春が来たと言いますよね。ええ、そうです。俺にも春が来ました。次いでに花の美しさと蜜の味を知り、豊穣の大地を堪能しました。流石は花と春と豊穣を司る女神。もう離れられそうにありません。
人生何が起こるか分かりませんね。では100年後、酒の席の時にでも馴れ初めを語ろうと思います。
「どうしてこうなったんだろうなぁ…」
「あらあら?まあまあ、あんなに愛してくださったのに私では不満ですのぉ?」
「不満があるかどうか、今から水やり始めようか?」
「っ…もう、旦那様ったら。次の街に向かうんでしょう?また日が暮れちゃいますよぉ」
「フローラがエロ可愛過ぎるのが悪い。だから仕方がない」
「うふふ、はいはい。最終の目的地はオラリオだって言ってたけどぉ、すぐに向かわないんですよね?」
「うん。3年前にゼウス、ヘラファミリアが三大クエストの最後の一つである黒竜の討伐に失敗してから今のオラリオはフレイヤ、ロキファミリアがトップに立ってるみたいだけど、3年程度で1000年前から活躍していたファミリアの代わりを出来るとは思えない。そんな所にピカピカのレベル1が行ったって事件に巻き込まれて死ぬだけだって」
「旦那様は〝ただのレベル1〟じゃないじゃないですかぁ。恩恵が無い時から魔法を使えてぇ、刻んでみたらスキルもあってぇ、発展アビリティなんか3つも生えてて私びっくりしたんだからぁ」
「いや…多分、里の皆も俺と同じかそれ以上あるんじゃないかなぁ?」
「古の英雄がゴロゴロとしてるなんて、一体どんな魔境なんですかぁ……」
「まあまあ。考えても仕方がないことは考えずに次いこう次。とりあえず先に魔法王国アルテナを目指そうと思ってるんだ。実家で鍛冶と魔具を作ってた身としては色んな材料があるんだろうし、マジックアイテムも見てみたいんだ。そしてなにより、自分の杖を作りたい」
「あらあら、子供みたいに眼を輝かせて、素敵なんですからぁ」
「今の魔法剣士スタイルでも良いんだけど、杖を持ったオーソドックスな魔法使いスタイルも好きなんだ」
「私も旦那様と色んな所に行けるから楽しみですわぁ」
「目標としてはオラリオに行くまでにレベル4にはなっておきたいからちょっと厳しいかもだけど大丈夫?」
「素敵な旦那様が守ってくれるから大丈夫ですよぉ。そうでしょう?」
「任せろ。何がなんでも守ってみせるから」