ルーク達はあれから暫くしてオラリオに向かっている。
「馬車を借りなくて本当に良かったのか?」
「ええ。足が痛くなったら旦那様に魔法をかけてもらえばいいだけですし。こうして歩きながら、旦那様と景色を見るのが好きですのでぇ」
「まあ、急ぐ旅じゃないからフローラが良いならそれでいいけど」
「それにオラリオにすぐ着いたら、お外でデキないじゃないですかぁ」
「髪色だけでなく思考もピンク過ぎないか?可愛いけど」
「旦那様も素敵ですわよぉ?」
これが街中の場合、二人を見たら舌打ちの音があちこちから聞こえてくるだろう。まあ、そんなことを気にするようなルークとフローラでは無いが。
「このまま進めば五日でオラリオに着く。ダンジョンで稼いだら雑貨屋でも開くかなぁ…」
「ならなら、私はお店の入り口を飾るお花を育てたいですわぁ」
「華やかで良いな、それ。客足も伸びそうだ」
「素敵なエムブレムも出来ましたし、新しい
現在、暗黒期真っ只中のオラリオに向かっているのに夢と希望を抱いてる二人に全くの不安など無かった。
腕を絡ませながらオラリオに向けて足を進める。そんな二人の左手を見ると互いの薬指にシンプルなデザインの指輪が嵌められていた。少なくともここらの地域では結婚指輪の概念が無かったのでルークが夫婦の証としての物だと説明してフローラと互いに嵌め合ったのだ。
『嬉しい…。私は旦那様のモノで、旦那様は私のモノ……んっ。一生大切にするわ』
その夜は過去一番に盛り上がった。何度も求めてくるフローラの乱れようにルークは大興奮。フローラが疲れれば即座に魔法で回復させて連戦に次ぐ連戦。ただの雄と雌と化していた。
『旦那様の熱い想いがいっぱい注がれて…私もう、溶けてしまいそう』
花の香りはどこまでもルークを惑わせ続ける夜だった。
「あらあら。どうかなさいましたか、旦那様?」
「いや。ただ幸せだなぁと思っただけ」
「うふふ。私も旦那様と一緒で幸せですわぁ。ずうっと、このままですわぁ」
「うん。ずっとこのままで一緒にいような。落ち着いたら不老不死は無理でも不老長寿について研究でもするか…。ずっと一緒に、だからな」
「もうもう、旦那様はどれだけ私をメロメロにさせたら気が済みますのぉっ」
「俺はずっとフローラに惚れ続けてる」
「……ねぇ、旦那様。今日はもうこの辺りで夜営の準備しませんか。私、さっきからお花の蜜が溢れそうなのぉ…」
「これはオラリオに着くのがかなり遅れそうだな」
二人は日射しが照っている時間帯から情事に及ぼうとしていた。
幸せな時を愛する者と共に過ごす。そんなありふれた平穏な毎日はある日突然に崩れることがある。世界の気紛れは神ですら予想ができない出来事を起こす。
「ッ!フローラしっかり捕まってろ!!」
「きゃっ!何が起こってますのぉ!?」
二人の足元が突如と消えて暗闇に突き落とされる。ルークはフローラを離すまいと力強く腕に抱く。フローラも目をぎゅっと閉じてルークにしがみつく。杖を光らせても何も映らない、何も見えない。暗黒の空間に引きずり込まれ落ちて行くこと1分、あるいは1時間、もしかしたら10秒かもしれない。体感時間が正常に機能を果たさない今、ルークは全力で守りの体勢に入ることしかできない。
「明かりが見え始めた!フローラ、しっかり捕まってろよ!」
「はい!旦那様に身を委ねますわ!」
「……何があっても絶対に守ってやるからな」
二人は光に包まれる。あまりにも眩しい光のため思わずルークは目を閉じてしまう。次第に光は収まり、地に足が着いている感覚を感じてルークはゆっくりと目を開ける。
「どこだ、ここは……。ってフローラ大丈夫か!」
「ええ、何とかぁ。少し頭がくらくらしますが大丈夫ですぅ。……ええっとぉ、さっきの場所と景色が違いませんかぁ?」
「ああ。荒野にいたのに、のどかな景色に変わってる。……世界の何処かならまだ良いけど、まさか異世界とかっていうオチじゃないよな?」
「お日様も気持ち良くってぇ、お弁当を持ってピクニックでもしたくなる場所ですわねぇ」
最悪の状況を考えるルークとすでに順応し始めるフローラ。
『グゥルルゥ…』
モンスターらしき低い唸り声が聞こえてルークは思考を戦闘のものへと切り換える。
「おいおい嘘だろ?殺気が無かったとはいえこんなに近くにいるのに気づかなかったなんてまだ感覚が狂ってんのかッ、フローラ下がれ!」
「ええ!」
◆◆◆◆
その日は竜にとって半年に一度の食事の日だった。怯える生贄を一思いに丸呑みしようか、それとも恐怖を与えた末に噛み砕こうかと思いにふけりながら生贄の到着を待っていた。
竜は知っていた。このような暴虐が許されるのは己が強いからだと。圧倒的な強さの前には弱者は己の餌でしかないのだと。
そんな竜の前に二人の男女が現れた。弱者がまた群れを成して竜のことを殺そうとやってきたのだと思った。そして──
「隻眼の黒竜を見たことはないけど、前世で見た鱗より大きさが小さいし、両目ともぱっちりしてる。だけど人間くらいならペロリと丸呑みしそうなデカイ図体で存在感がヤバいな……」
桃色の髪をした弱者はやたら旨そうに見えた。
「ッ──《
ルークは素早くフローラを抱き上げ黒竜から離れるのを試みるが、その巨体からは考えられない速度で回り込まれる。さらに加速を重ねるが完全に見切られている。
「おいおい、4倍の速さで逃げてんのに道を塞がれるとか推定レベル幾つだよ」
「グゥォオオオゥ」
「こいつ、弱い者をいたぶるのが好きな奴と同じ目をしてる。あらあら、ゲスなことで」
フローラをこの黒竜から切り離したいが鼻をピクつかせてるのを見るに匂いで追ってくる可能性がある。そしてフローラを見て涎を垂らしてるから旨そうに見えるんだろう。これまでの敵とは強さが段違いなのでせめてフローラを遠ざけたいところなんだがどうしようか。
「旦那様。あの竜、下賎な目をしているのですぐには殺してこないと思うのです。だから、油断してる内に動けない程のダメージを与えてその隙に逃げましょう」
「でも今までのヤツらとは違う。フローラにもしものことがあれば俺は」
フローラはルークに口付けをして黙らせた。
「ん…。うふふ、守ってくれるのでしょう?何がなんでも」
「フローラ……」
「私の旦那様が、私の眷属のルーク・ストレイが、あんなトカゲさんに負ける筈がないじゃない。私達、ずうっと一緒よ」
「……はは、フローラにそこまで言われたら勝つしかないな」
「それでこそ旦那様ですわぁ」
「後ろで見ててくれ。フローラに絶対触れさせない」
身体から力を漲らせて黒竜に立ち向かうルーク。
「必ず勝って、ルーク」
「行ってくる」
正直に言うと黒竜を見てビビってた。見た瞬間『あ、勝てねぇわこれ』って思うくらいに力量が違い過ぎるから。それでも惚れた女にあそこまで言われたんじゃあ勝つしかないよな。
「女神の
ルークは
「出し惜しみは無しだ。
魔力操作と魔闘術を修めた者だけが暴発せずできる同じ魔法の重ね掛け。どちらか片方だけなら里の防衛を任せられている大人達なら出来るが両方を一緒に4回も重ねることは出来ない。長老でも難しいだろう、多分。これで速さは充分に確保した。あとは女神に守りを授けるだけ。
「『
これで一先ずは安心。あとは黒いトカゲを潰して終わり。
◆◇◆◇
「ガァァアアアッ!!」
「『
ルークは油断している黒竜に対して『
「『
咆哮で動きを鈍らせようとするが、何故か効かず。
「『
痺れる攻撃にも慣れて、今度こそ攻撃が当たるかと思えば弾かれる。
「『
そして気づけば光の熱線に片目を焼かれた。
◆◇◆◇
「はぁ……はぁ……はぁ……っ」
魔法を何個も発動させてるから頭が割れるように痛い、2つに分かれそう。あ、元々左右に分かれてたわ。戦えてるっていうか、ひたすら嫌がらせ程度しかダメージを与えられないんだけど?
さっき貫くつもりでレーザーぶっぱしたのに片目焼いただけ。あれが初めてのダメージらしいダメージって全身が硬すぎる。
電気は効いたから『
「ってしまった、空に飛ばれたッ!」
意識が一瞬跳んだ時に飛ばれるなんて全く笑えない。あの距離じゃ普通の魔法は届かない。さっさと必殺技を当てれば良かったのに、俺のアホ!
「《
ルークは自分の靴に搭載してる機能を発動させる。かの
黒竜の命を断つべく、ルークは空を駆ける。しかし黒竜の背にある翼は伊達ではなく、中々追いつくことができない。
ふと黒竜はルークに頭を向けてニヤリと嗤う。極悪人の笑み並みに醜悪だ。黒竜の視線は遥か下にいるフローラに向けられていた。口からは
「この、性悪がああぁぁあああッ!!」
フローラは黒龍が自分に狙いを定めているのを微動だにせず、じっと見る。そして不適に笑う。
「恐がってると思ったのかしらぁ?お生憎様ぁ」
見ていると約束したのだ。何がなんでも守ってくれると誓ってくれたのだ。
「ルークは…私の旦那様は…とっっっても素敵なんだからッ!」
黒竜は上空からフローラに向けて、都市をも滅ぼしたことがある自慢の
「『
デュナミスは雷の特性を細分化した魔法を使える。
「
そして、それらを細分化させず全て合わせることによって使える必殺の一撃。
「『ライトニング・ボルテクス』ッ!!」
黒竜の放つ地獄の業火に決して引けをとらない凄まじい雷の一撃は暫く拮抗して打ち勝ち、黒竜を呑み込んだ。
◆◇◆◇
黒竜は盛大に地に墜ちる。ルークはそれで集中力が切れたのか
「ルークッ!どうしましょ、こんな時、どうすれば良いのか……あ!」
何か閃いたのか、エリクサーを自分の口に含ませてルークの唇に舌を侵入させて開かせ、そのまま含んだエリクサーを流し込む。ルークの喉が動いて少しずつ飲んでいく。フローラは瓶に入ったエリクサーが無くなるまで同じ行為を繰り返した。
死人のような顔していたルークに生気が戻り傷も塞がっていくのを確認してフローラは安堵の息をつく。
「ふぅ……。しっかり見てましたよ旦那様。すっごく格好良かったですよぉ」
フローラはルークの頭を自分の太ももに乗せてルークを慈しむように撫でる。
「早く起きないと、いたずらしちゃいますよぉ~?」
女神は偉業を成した眷属が目を覚ますのをゆっくりと待つ。
しかし、まだ終わっていない。
『グラァァアアアアア!!!』
黒竜は生きていた。翼はもう2度と飛ぶことはできないほどズタズタで身体からも血を噴き出している。それでもしっかりとした足取りで己を傷つけたルークを焼かれてない方の眼で睨みながら近づく。ルークは気を失ったまま目を覚まさない。
フローラは覚悟を決めた表情になる。ルークを優しく地面に下ろして立ち上がり、黒竜から守るようにルークの前へ立つ。
「ごめんなさい。でも貴方を死なせたくないからこうするしかないの。この五年間、貴方と一緒にいれてとっても幸せだったわ」
神々は下界に降りる際、
フローラはそれを承知でルークを救うためにその禁を破る決意をする。
「寂しいけど、天界で貴方をいつまでも見守ってるから。ルーク、愛してるわ」
世界はそれを許さない。
◼️アイテム
【デュミナス】(杖)
・雷の力を溜め込み、細分化した特性を魔力を通して行使できる。その他ギミックあり。
『光(ライト)』
『音波(ソニック)』
『放電(ディスチャージ)』
『熱(ヒート)』
『衝撃(インパクト)』
・特殊魔法
『ライトニング・ボルテクス』
遊○王にほぼ同じ名前の魔法カードがあります。大体それ。
【天駆】(アキレス)
・魔力で足元に力場を発生させる。
・空中でも立ったり歩けたりする頑丈なブーツ。
◼️技
【マルチプリケーション】(多重掛け)
・いちいち同じ名前を何度も叫ばすの面倒だと理由で考えた技。
・一つの魔法を最大数の数で一気に使える。
【融合詠唱】(フュージョン・アリア)
・合体魔法。
・今はデュナミスの中にある魔法だけしか合体させることができない。
例)
二重詠唱(デュアル・アリア)、五重詠唱(クインティブル・アリア)…etc.