3人はようやくエリスの家にたどり着いた。ホルンは2人に少し離れた位置で待ってもらい扉に近づく。扉を軽く叩くが返事はない。そこで諦めずにホルンは何度も叩いた。居ることを確信してるかのように。やがて扉の向こうから荒ただしい足音が聞こえてきた。
「しつこい!いったい誰じゃ!?」
勢いよく開けられた扉から二十後半ほどと思われる女が出てきた。容姿は整っているが艶やかな黒髪は整えられておらず、衣服もいい加減に選んだといった感じだ。
足音が聞こえていた時点でホルンは扉から離れており、ぶつかることはなかった。
「十五日ぶりくらいね、エリス」
笑顔で告げるホルンの顔をエリスはポカンとした顔で見ている。
「……ホルン?ど、どうしてここに?」
「来る所がここくらいしか思いつかなくて」
「逃げてきたのか?」
「助かっちゃった」
「た、助かった?とにかく無事で良かった!早く家に入りな!」
「ありがとう。エリスならそう言ってくれると思ってた。二人ともこっちへ」
ルークとフローラはホルンに呼ばれたので近づく。エリスは見慣れない男女が近づいて不振に思う。
「誰じゃ?」
「命の恩人」
「お互いにかな?、死にかけてたのを治療してもらったし」
「あの時ルークを救ってくれて、本当にホルンさんには感謝の念が絶えませんわぁ」
エリスはフローラが見るからに戦闘職でないので、ルークが黒竜を倒したのだろうと、まじまじと見つめる。ルークはそれに対して特に言うこと無く微笑んでいるだけだった。エリスはいつまでも玄関にいても仕方ないと思い、家に招き入れる事にした。
「ふむ、あんた達も中に入るといい。詳しい話は中で聞くとしよう」
家の中に入ると空き巣にあったかのように散らかっていた。物で溢れているのではなく、薙ぎ倒され床に散らばったように見える。
「散らかってますね」
ホルンがそう言うが十五日前ホルンが訪れた時はある程度片付いていたので、エリスは整理整頓できないわけではない。これはホルンを助けることができず荒れて、そのままにしてあったのだ。
「……ちょっとな」
「あとで片付けましょうか」
「このままでいいさ」
「しばらくお世話になるかもしれませんから、やりますよ」
「そうかい?できる範囲で頼む」
「汚れを落とすなら任せてくれ。とっておきの魔法があるから」
「
「ほう、それは興味があるな。後ほど見せてくれ」
4人はリビングに入り、出された茶菓子とお茶を飲み一息つく。
「先ずは自己紹介からじゃな。私の名前はエリシール」
「私も改めて名乗りますね。ホルン・コルベス・ストラーチと言います」
「俺の名前はルーク・ストレイ。よろしく頼む」
「フローラですわぁ」
お互いに名前を名乗った後、エリスは訪ねる。
「それで、そろそろ何があったか聞きたいのだが?」
「そうだな…先に言っておくが今から言うことは決して嘘じゃないと誓う。疑問があっても最後まで聞いてほしい」
ホルンとエリスはそれぞれ頷き、ルークに続きを促した。
ルークは自分とフローラが此処とは違う世界の住人で、突然黒い穴に落ちてこの世界に来てしまい、その場所が黒竜の近くで戦うしかなかったこと。そして、なんとか黒竜を倒して死に体だったのをホルンに助けられて現在に至ると説明した。
「なるほど、つまり2人は流離い人じゃな」
「流離い人?」
ホルンは聞き覚えの無い言葉にエリスに聞き返す。
「流離い人とはこの世界の外から来た者を指す。過去に三度、そういった者が存在したと言われておる。彼らは此方にはない知識や技術を用いて、世界に栄華と混沌を与えたという」
「だろうな。国や地域で考え方が違うことはよくあるのに、異世界レベルの違いなんだからあり得る話だ」
「その過去に来た人達は、元の世界に戻られたんですのぉ?」
フローラの質問に、エリスは首を横に振る。
「皆、この世界にて生を終えたようじゃ」
ルークとフローラは神妙な面持ちで考え込む。そんな2人を見てホルンは同情の眼差しを向ける。
「ダンジョン、行きたかったなぁ…」
「色んなお花を育てたかったですわぁ…」
2人の呟きにエリスとホルンは椅子から転げ落ちそうになった。
「軽い!軽いぞお主ら!」
「そうですよ!元の世界に帰られないことが悲しくないのですか!」
「だってフローラがいるし」
「旦那様が一緒ですからぁ」
ルークとフローラは顔を向き合い微笑む。
「別に悲しくない訳じゃないけど、一番大事なのは側にいるから問題ないってだけだ。里の皆や両親に会えなくなるのは寂しいけどな。フローラを紹介したかったし」
「もう、旦那様ったらぁ。私達には時間がたっぷりあるのですから、気長に帰る手段を見つけましょう?」
2人は悲観することなど無く、今はこの世界を見て回ろうかと考えている位に問題なかった。
「ちょいとズレてる気がせんでもないが、強い精神の持ち主達じゃな」
「私、そろそろ口から砂糖が溢れそうだわ」
「お茶のお代わりはいるか?」
「ええ。とびっきり苦いのをお願い」
エリスはホルンと自分の2人分のお茶を用意した。
その後。お互いの世界の違いを話し合い、どちらの世界にも神がいることを知り、実はフローラが女神であると告げるとエリスとホルンは大層驚く。慌ててその場に跪こうとするのでフローラがやんわりと『気にしないで~』と伝える。それでも固かった2人だがフローラの気質と性格に徐々に軟化、むしろ仲良くなっていく。気づけば4人はお互いに名前で呼び合っていた。
翌朝。エリスが用意してくれた朝食を食べ終わり、昨日の話の続きをすることとなった。
「ルーク。お前さんの話を聞く限り、ホルンの治療が間に合ったのは竜の力を吸収したおかげじゃな」
「吸収とは?」
「お前さんがいた世界には吸収の概念がないのか?」
「自身の成長によって恩恵に刻まれた
「ふむ……世界が異なれば概念も違うか。恩恵というのも非常に興味深いが今は置いておこう。吸収というのは魔物や獣などを殺した時、それらの強さを吸い自分のものとすることじゃな」
「ああ、なるほど!だから魔力や力が上がってたのか」
「理解できたようじゃな。どれ、お前さんの強さを調べてみようか」
「計測器を持っているの?」
ホルンの問いにエリスは頷き、立ち上がる。
「ガレオンが古くなっている計測器を新品に代えるというのでな、一つ買い取ったのさ。たまに使うのなら、まだまだ長持ちする代物じゃ」
部屋を出たエリスはすぐに戻ってくる。四つに折り畳んだ新聞ほどの金属版と金属のカードを持っている。持ってきた金属板をテーブルに置く。
「この上に手を当ててくれ」
「ん、わかった」
ルークが金属板に手を当てると表面に文字らしきものが浮かんでくる。言葉は運良く通じていたが、流石に文字までは同じでは無いようだった。エリスと横から覗き込む形でホルンとフローラが見ている。
「………」
「………」
「何が書いてあるか読めませんわぁ」
フローラもこの世界の文字を理解できず残念な声を出す。
「………」
「………」
「あ~…お二人さん、固まってるけど大丈夫か?文字が読めなくて何が書いてるのか分からないから、そろそろ教えてほしいんだけど?」
ルークの呼び掛けにエリスとホルンは正気を取り戻すと、お互いに顔を見合わせる。
「おかしいな」
「おかしわね」
「だから内容をはよ」
エリスは浮かび上がった情報を一つ一つ説明していく。
RPG的に説明すると、筋力・頑丈・器用・知力・精神のステータスがある。筋力頑丈器用は読んで字の如く、知力は知恵と知識量を示し、精神は魔法に対する耐性や精神的柔軟性を示している。他に体力魔力素早さの三つがあり、これらは順に筋力と頑丈の平均、知力と精神の平均、筋力と器用の平均で表される。
ステータスの表示は数ではなく、A+~E-の十五段階で表される。人間基準でEで普通、Dで優れている、Cで一流、Bで怖がられ、Aで崇められる。
そしてルークのステータスは、
筋力B+
頑丈B+
器用A+
知力A+
精神A+
このようになっている。
「おお、かなり優秀みたいだな」
「あー、うん……知らないからこそ言える言葉じゃの」
「さすがに驚きを通り越しておかしいです。計測器が故障してない?」
「あれ、何かやっちゃった?」
エリスはルークのステータスの異常さを説明した。
「戦いを生業としていない成人男性が筋力E+、頑丈E+、器用E、知力E、精神Eだ。それと比べてもそんなこと言えるかの? ちなみにお前さんが殺した竜はオールB+。これは下級神クラスに入っておる。そのバケモノで一国壊滅させることが可能なのじゃよ。
お前さんの平均はA-。能力値だけを見れば下級の神を超えておることになる」
「あー……。ちょっと待ってくれ」
ルークはそう言うと魔法袋に手を突っ込み何かを探す。取り出したのは腕輪でそれを自分の腕に付けて何かを調整している。
「これでよし。もう一度計っても良いか?」
「何をしたのか気になるが、まあ良いぞ」
ルークは金属板にもう一度触れる。
筋力C+
頑丈C+
器用A-
知力B+
精神B+
「何をしたのじゃ?」
「フローラの恩恵の力を魔導具で一時的に封じた。だから今の数値は俺の素の力に竜の力を吸収した状態がこの数値ってこと」
「それでも器用がA-ってかなり凄いことですよ?」
「才能豊かな血筋に生まれたおかげさ」
「旦那様はちゃんと頑張ってますよぉ。努力家なんですから血筋が才能がだなんて、関係無いですわぁ」
フローラの言葉にエリスとホルンは頷く。
「才能があろうとも、あの忌々しい竜を倒したのは間違いなくルークだから成し得たことじゃろう」
「私もそう思うわ。あんなボロボロになってたのも諦めなかったからでしょ?それだけで充分に凄いことだわ」
フローラを含めて系統が違う美女3人に褒められてルークはぎこちなく返事をする。
「お、おう。流石に3人に褒められると照れるな」
「あらあら、うふふ。照れてる旦那様可愛いですわぁ」
「案外、ウブなんじゃな」
「ふふ、褒められるの弱いのね」
「くっ!フローラの褒めには慣れたのに、まさか増えるだなんて……!」
ルークは3人では不利だと判断して話を戻すべく説明の続きを促した。
「次は称号の説明だ。これは神から与えられたり、人々の認識で持つに至ったり、行動の結果で得られるものじゃ。ステータスやギフトや行動に影響を与える。
1人で複数の称号を持つことは可能じゃが、基本的に持っておる称号一つしか効果を発揮させることはできん。
意識すれば脳内にもっておる称号が浮かび、その中から好きなものを選ぶことができる。変更は一日一回じゃ。
私は《優れたる魔女》の称号を持っておる。効果は魔力を一段階アップと魔法効果の若干の上昇いうものだ。ホルンは《レーリルのお気に入り》という称号で、効果は医療関連の行動に補正がある」
「レーリルって?」
「医療を司る女神じゃ」
「ふーん。俺の称号は?」
「《竜殺し2》じゃな。数値が付いておるのはギフトも兼ねているからじゃ。
効果はステータス全て一段階アップ、先ほどのステータスにはすでに含まれておる。効果はそれだけではないはずじゃ。一段階アップは竜殺し1の効果じゃからの。
他のギフトの成長の仕方から考えて、上昇範囲がステータスだけに留まらないといった所じゃなかろうかと思う。
つまり、全ての行動に補正が付くというものじゃ。学習能力にも補正が付くだろうから凄い勢いで成長していくじゃろうなぁ」
エリスの説明にルークは自分の手に入れた力にドン引きする。
「数字は効果の大きさと多様性を表しておる。数字は1から3までで、数字が大きいほど効果も大きい。成長することがあるが、どうやれば成長するのか明確には解明されておらんな。ギフトに関連した行動をとり続けるといいなどと言われておる」
エリスは文字の浮かぶ金属板に金属カードをくっつける。すると文字が消えていく。十秒もすると金属板はもとの何も書かれていない状態に戻る。
金属板から離したカードをルークに渡す。カードには文字が浮かんでいる。
「それは身分証明にもなるから失くさないように。本人が持った時にのみ情報が表示されるから身分証明用として丁度良いのじゃ」
「これはまた興味深い物を貰ったな」
4人はこれからの方針について話し合う。
このあと、ルークとフローラはこの世界で2年間過ごす。そして紆余曲折あって無事に元の世界に戻れることに。その際、ルークの手には一冊の本があり、側にはフローラだけでなく新たに美しい二輪の花が咲いていた。
竜殺しの日々のステータス表示
◼️ホルン・コルベス・ストラーチ 齢19歳
容姿…身長156センチ(妄想)、灰色がかった銀髪ロングで銀眼。大きくもなく小さくもない丁度良い大きさのロマンの持ち主。
《ステータス》
筋力E+ 頑丈E+ 器用D- 知力D 精神C-
《ギフト》
・治癒3
《称号》
レーリルのお気に入り
・医療関連の行動に補正
◼️エリシール(エリス) 齢70歳(容姿は20代後半)
容姿…長命な種族、身長164センチ(妄想)、黒髪ロングで黒目。谷間が見える服が似合うくらいの大きなロマンの持ち主。
《ステータス》
筋力D- 頑丈D- 器用C- 知力C+ 精神C
《ギフト》
魔法融合2
《称号》
優れたる魔女
・魔力を一段階アップと魔法効果の若干の上昇
~おまけ~
◼️フローラ 齢※※※※歳(閲覧不可)
容姿…身長は153センチ、桜色の長髪にアメジストの瞳、豊かなロマンの持ち主。
《ステータス》
筋力E- 頑丈E- 器用E+ 知力E+ 精神C
《称号》
不動の正妻(自称)