ハイシン者:碇○○ ~碇シンジが碇レイだったり配信者してたら円環がめっちゃぐちゃりました~   作:高城拓

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ハイシン者:碇レイ 第讃話:レイ、心の向こうに/Log xxxx

碇レイが第三新東京市に来て、はや二ヶ月。

今ではすっかり日課と化した、シンクロ実験とシミュレーター訓練。

このところのレイは、その実験と訓練の結果が振るわなかった。

 

「シンクロ率上昇、ストップしました。現在76パーセント……いえ、減少していきます」

 

伊吹マヤがプロフェッショナリズムを感じさせる声音で報告する。

それを聞いた赤木リツコと葛城ミサトは眉間にシワを寄せた。

 

「どうしちゃったのかしらレイちゃん。初めて乗ったときはシンクロ率800パーセントもあったのに」

 

ミサトは心配そうな声音で言った。

 

「現在の70……68パーセントだって大したものだけど……第5使徒戦まではどんなに調子が悪くても、シンクロ実験で100%を割ったことはなかったわ。ちょっとしたスランプね」

 

リツコの落ち着いた声には、興味とごく僅かないらだちが滲んでいる。

管制室の壁一面にはめ込まれた耐衝撃防弾ガラスの向こうには、巨大なエントリープラグが見える。

 

二人はふーむとため息を漏らして考え込んでいたが、さらにシンクロ率が低下したとの報を受けて、同じ結論に到達する。

 

「こりゃダメね」

「ええ。今日の実験は中止。しばらく休ませましょう。経費の無駄だわ」

「その言い方はちょっち癪に障るけど、ま、そのとおりね」

 

ミサトは軽口を叩いて肩をすくめた。

 

「碇司令への報告は私がします。報告データの作成と、碇司令へのデータ転送をお願いします、赤木博士」

「了解しました、葛城作戦一課長。私はこのあと被験者・碇レイと個人面談を行います」

 

ミサトとリツコは向き合って敬礼を交わしあったが、個人面談、との言葉にミサトは怪訝な顔をした。

 

「私の任務はエヴァシリーズの円滑な運用、それに関わるデータの収集よ。必要なことです」

 

リツコは柔らかい発音で、決然と個人面談を行う理由を述べた。

 

 

◆◇レイ、心の向こうに◇◆

 

 

警察の取調室のような、狭く無機質な小さな部屋。

その中心に置かれた机を挟んで、二人の人物が向かい合って座っていた。

碇レイと赤木リツコである。

 

「どうして成績が伸びないのか、聞かないんですか」

 

レイは暗い声で尋ねた。

 

「それを聞いても仕方ないわ。あなたの不調の理由ははっきりしてるもの」

 

リツコは手ずから淹れたコーヒーのマグを、レイの前に押し出した。

 

「怖くなったのよ」

 

リツコの言葉に、うつむいて前髪で顔を隠したレイの肩が、ピクリと反応した。

 

「自分がエヴァに乗ると人を殺すかも知れない。いえ、自分が死んでしまうかも。ようやくそのことに思い当たって、あなたは混乱しているの」

 

いっそ優しさすら感じる声音に、レイは顔を持ち上げ、リツコの目を見ようとした。

リツコはニコリとして言い放つ。

 

「あなた、馬鹿なんじゃない?」

 

 

それぐらいのことは乗る前からわかっていたことでしょうに。

多少躓いたぐらいで何を怖気づくのかしら。

あなた世界を舐め過ぎなのよ。

 

リツコはゆっくりと穏やかに、レイを責め立てた。

反論の余地は一切無かった。

 

「ともあれ、あなたにこれ以上腑抜けられても困ります。当面しっかり休養をとって、復調なさい。私からは以上です」

 

リツコは冷たくそう言うと、白衣の内ポケットからタバコを取り出し、火を付けた。

紫煙がたなびく。

二人が押し黙ったまま、しばらく時が経つ。

ややあってタバコが短くなった頃、いらだちを隠さずリツコは剣呑な声を出した。

 

「ねぇ、あなた、ミサトの前でもそうやって猫をかぶっているの?」

 

一拍置いてレイの口角が持ち上げられた。

目元は前髪で隠れている。

 

「バレてました?」

「当たり前よ。こっちはあなたの倍も生きてるのよ。それぐらいすぐに分かります」

 

二本目のタバコに火を付けるリツコ。

 

「いい機会だから言っておくけど、私はあなたが大嫌いよ、碇レイさん」

「それは良かった。僕もあなたが嫌いです。でも、案外お人好しなんですね、おばさん」

「嫌いな相手だからといって、相手の破滅を願ってばかりってわけにはいかないのよ。大人ですからね」

「なるほど。よくわかりません」

「嘘おっしゃい。あなたは賢い子だわ。きっと今までもそれなりに上手く立ち回ってきたはず。違うかしら?」

「やれやれ、何でもお見通しですか」

「ええ。マルドゥック報告でのあなたの資料と、第三中学校の監視記録が、それを裏付けているわ。ここ最近の学校でのあなたの振る舞い、見事だわね」

「それはどうも」

「でもそれが、エヴァとのシンクロ率を押し下げる原因にもなっているんじゃないかしら。あなたの歪んだ鬱屈が、エヴァ初号機とのシンクロ率の鍵なんだと、私は見ているの」

「では彼らのことなど忘れて、見殺しにする覚悟をしろとでも?」

「それは困る。もしあなたが友人を見捨てるのならば、その前にかならず私たちネルフも、いいえ、人類そのものも見捨てるはずだもの」

「ではどうしろと」

「それはあなた自身が考えること。とりあえず気分転換でもしたら? 長野では手慰みに楽器を弾いていたのでしょう?」

 

唇をへの字に曲げたレイだったが、やがて生意気な態度で肩をすくめた。

 

「そう、ですね。お言葉に甘えます。エヴァは良い楽器だし、初号機はとてもいい子だけど、僕のノリが悪いのはわかっていましたから」

「別に家出してもいいのよ? あなたの年頃だとよくある話だし」

「いやですよ、どうせ連れ戻されるのに。それよりは、もう少しいろいろ考えてみます」

 

そう言ってレイはガタガタと音を立てて、椅子から腰を上げた。

ドアノブに手をかけ、振り返ってリツコに問う。

 

「あなたは私のことが嫌いなのに、どうして心配してくれるんです?」

 

リツコはタバコを咥えたまま背もたれに体重を預け、天井を振り仰いだ。

 

「最初に言ったじゃない。こっちはもう大人なのよ。好き嫌いだけ言ってるわけにはいかないの」

 

レイは少し驚いたようだった。

 

「そうですか。……これからも時々、本音を吐いても?」

「二人だけのとき、恋愛がらみは禁止で」

「ありがとうございます。せいぜい信頼して、利用します」

「ええ。お互い様だけどね」

 

レイはいたずらっ子のようにニッと笑い、リツコは余裕の笑みを見せた。

 

別れ際、リツコはレイにもう一つの話をした。

碇司令とはあなたが思っているような関係にないわよ。

と。

 

レイは露骨に、汚いものの話をされたような顔をしてみせた。

 

 

レイはその日の帰り、ミサトに頼んで第3新東京市を一望できる場所に寄ってもらった。

眼下には夕日に照らされる、第3新東京市。

美しい、とレイは思った。

 

この美しい光景の中で、何人の人が死んだのだろう?

僕とエヴァ、使徒との戦いで何人の人が亡くなり、去っていったのだろう?

 

そう思いながら眼前の後継を眺めていると、自然に歌が唇からまろびでた。

張り裂けそうな血の色をした空に、物悲しい歌声が突き刺さる。

 

Lacrimosa dies illa,

qua resurget ex favilla

judicandus homo reus:

 

Lacrimosa dies illa,

qua resurget ex favilla

judicandus homo reus:

 

Huic ergo parce Deus.

Pie Jesu Domine,

 

dona eis requiem.

dona eis requiem.

dona eis requiem.

 

Amen.

 

歌い終わって、葬送曲たる所以を思い知る。

主よ、彼らに安息を与え給え。

かくあるべし。

 

ため息を付いて振り返る。

と、思いがけない近さにミサトがいた。

化粧が涙で鼻水で、ズタボロだ。

 

「レ゛っ……レ゛イ゛ち゛ゃ゛ん゛!」

「は、はい?」

「歌゛、上゛手゛な゛の゛ね゛ぇ゛……あ゛た゛し゛感゛動゛し゛ち゛ゃ゛っ゛て゛、わ゛け゛わ゛か゛ん゛な゛く゛っ゛て゛ぇ゛ぇ゛」

「え、えと、長野にいた頃、チェロとかやってて、その延長で」

「そ゛う゛な゛ん゛た゛ぁ゛、す゛こ゛い゛わ゛ね゛ぇ゛」

 

ミサトはそのまま、頑是ない子どものように、びえーんと声を張り上げて泣く。

レイは慌てながらティッシュでミサトの鼻水を拭ってやる。

や゛さ゛し゛い゛の゛ね゛ぇ゛、レ゛イ゛ち゛ゃ゛ん゛は゛ぁ゛ぁ゛、と、ミサトはまた泣く。

泣きながらミサトは、今の歌はなんだと問うた。

モーツァルトのレクイエム、第6曲、ラクモリサ……涙の日です、とレイは答えた。

そ゛う゛な゛の゛ね゛、あ゛り゛が゛と゛お゛お゛お゛。

ミサトの張り挙げる声が、一段と大きくなった。

 

 

「うぅ……ずびっ」

 

まだボコボコのアルピーヌA110のハンドルを握りながら、ミサトは鼻をすすった。

1945年4月後半のドイツ軍よりひどい有様となった化粧は、とっくの昔に落とされている。

 

「ごめんね、恥ずかしいところ見せちゃった」

「いえ、気にしてないです。こっちこそ急に、わがまま聞いてもらっちゃって」

 

ミサトの照れ笑いに、レイははにかみを返した。

 

「でも、本当にいつも感謝してるのよ。この街は、人類はあなたとエヴァがいたから守られている。足元の人々の命まであなたに託しているの、申し訳なく思っているわ」

 

レイは素直に、はいと答える。

 

「それなのに、あなたは死んだ人のことまで気にかけて……やだ、また泣いちゃいそう」

 

レイが差し出したティッシュをありがたく受け取り、ズバビーーーッ! と盛大に鼻をかむミサト。

 

「だからあなたを守るのはこの私、そう思ってたんだけど」

「十分守ってもらってますよ……帰る家があって、そこに誰かがいるのは、とても心地良いことだなって。最近思います」

「でも、お掃除も洗濯も、お料理も任せっきりだし」

 

事実だった。

同居開始当初ゴミ屋敷だったミサトの居室は、レイの奮闘でかなり快適な空間となっていた。

洗濯物は女同士だから気兼ねせずに済むし(しかしレイのほうがブラ大きいのはどういうことだともミサトは思った)、料理に至ってはもともとかなりの腕前だったものが、最近ではレイの手料理でないと酒も進まない有様となっている。

守護らねばと思っていたのに、これでは。

 

「うーん。これじゃどっちが保護者かわかんないわね……そうだ! レイちゃん、ちょっち寄り道していきましょ」

「え? あ、はい」

「じゃ、善は急げね。しっかりつかまってて。いっくわよぉ!」

 

エンジンが咆哮し、車体は猛然とダッシュを開始する。

その週末、葛城家には防音室といくつかの楽器が運び込まれた。

もっとも、その半分はレイが配信者時代に作った貯金から出すことになったのだが。

 

[レイ、心の向こうに EOF]

 

◆◇LOGxxxx◇◆

 

「しかし、エヴァンゲリオン初号機。その運用実績には眼を見張るものがあるね」

「左様。損傷も少ないし、第3新東京市の被害も小さい。あの子はまさに逸材だよ碇」

 

「は。ありがとうございます」

 

「しかし……メンタルデータを見る限り、事前の報告とはまた随分様子が違うようだが?」

「うむ。これでは彼女が本当に第3の子なのかわからない。あるいは君、隠し子だったのではないのかね?」

 

「いえ、それはありません」

 

「自分の子どもだからといって、余計なことをしているのではあるまいな?」

 

「誓ってありません」

 

「ならば良い。だが嘘だったときは、それなりの覚悟をしてもらうよ」

 

「はい」

 

「話は変わってアヤナミシリーズの件だが、あれはどうだ?」

「ユーロネルフ、アメリカ第2支部が独自の動きを見せている。いずこもエヴァの兵器化を急いでいるし、ドイツ支部では式波シリーズの絞り込みが終了した。このままでは人類補完計画の発動前に世界大戦が始まりかねない。そうなっては元も子もない」

「それを防ぐためのアヤナミシリーズだ。ものにしてくれないと困るぞ、碇」

 

「……委細承知しております。全てはゼーレのシナリオ通りに」

 

02.Log out.

03.Log out.

(中略)

13.Log out.

 

「碇クン……君は少々疲れが見えるが、大丈夫かね」

 

「は。気にされるようなことではありません」

 

「……そうか。だが、しっかり休み給え。君が倒れてもらっては私が困る」

 

「わかりました。善処します」

 

「おっぱいでももむかね?」

 

「結構ですお断りします私はこれで失礼しますそれではまた」

 

Gendou Ikari Log out.

01.Log out.

 

[Log xxxx EOF]

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