ハルウララに春が来た(完結)   作:月兎耳のべる

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別の連載あるのに書きたくなって衝動で書いたハルウララのキラキラ恋物語です。
キングとウララの関係性尊すぎる…すき


第一話 春が来た

 ――ハルウララに春が来た。

 

 

 

「あのねっ、トレーナーがこの間言ってくれたの! ウララはがんばってるよ~って!」

 

 肌寒さ残るとある春の夜の事。

 私こと、一流ウマ娘の『キングヘイロー』と元気花丸ウマ娘の『ハルウララ』はいつものように就寝前のお話に興じていた。

 

 それは思いついた事を垂れ流すだけの一幕。

 明確なルールは存在せず、時間制限も話題も決まっていない有耶無耶なひととき。

 最初は同室だから渋々付き合っていたそれは、今では私にとってかけがえのない時間になっていた。

 

 ウララの話はとても魅力的だ。

 

 寝る前なのにお構いない声量。

 裏表のない純粋な発言。

 隙あらば入り込む誤用や間違い。

 大きすぎるジェスチャー。

 シンプルすぎる言葉選び……などなど。

 

 酸いも甘いもひっくるめて彼女のチャームポイントで。

 話していると、まるで桜の木の下で日光浴をしているような気持ちになる。

 誤解を恐れずに言ってしまえば……私は、ウララと話をするのが好きである。

 

 今日も今日とてそんな至福のひと時を過ごしていたのだけど……ふと、違和感を覚えた。

 

「それでねそれでねキングちゃん! トレーナーがね! トレーナーがね!」

 

(……なんだか話すレパートリーに偏りがないかしら?)

 

 飽き性であるため話題が虹のように変わるのが常であるウララトーク。 

 なのに今日は『トレーナー』の話題が多い。異常に多い。

 なんだったら別の話をしても終着点が『トレーナー』になるくらいには、多かった。

 

「トレーナーのおかしをジーっと見てたらね! わたしにくれたんだ~! あまーいクッキー! ほわほわーってするおいしさだったよ~」

 

 やれ『トレーナー』のトレーニングが楽しかった。

 やれ『トレーナー』が面白い事を言っていた。

 やれ『トレーナー』が褒めてくれた。

 やれ『トレーナー』と一緒にご飯を食べに行った。

 

 休みなく繰り広げられる『トレーナー』トークは微笑ましく。

 だけどその一方で、()()()()()()()()()()()()()()いつも以上に嬉しそうに話をするのは、私を複雑な気持ちにもさせてくれた。

 貴方はそう言うのは無縁だ。そう思っていたからこそ、余計に。

 

「……良かったわねウララ。でもそろそろ消灯の時間よ? 明日も朝練があるのでしょう」

「あれー!? もうそんな時間ー!? うぅ~そっかぁ、もっともっとお話したかったなぁ……」

「なら明日またお話しましょう。今日はもうおしまい。一流のウマ娘を目指すなら体を休めるのも大事よ」

「うん……」

「明日、早起きしたらまたトレーナーさんに会えるわよ? だから早く寝ないといけないわ」

「……っ! うんっ! お休みなさいキングちゃん!」

 

 途端に勢いよく布団を被り始めるのだから、現金なものである。

 自然と緩む口元をそのままに、私は彼女が寝息を立てるまで眺め――そして呟いていた。

 

「……貴方にも、春が来ちゃったのね」

 

 何だか喜ばしいような、羨ましいような、そうでもないような。

 少しだけもやもやした気持ちを抱えながら、私もまたお布団に包まるのだった。

 

 

 

 § § §

 

 

 

 ハルウララは学園でもかなり有名な娘だ、と私は思っている。

 

 その天真爛漫な性格や言動も一助になっていると思うが、有名である一番の原因は『()()()()』である事は間違いない。

 

 今年で学園生活3年目を迎える彼女だが、実は入学から今に至るまでほとんどすべてのレースで敗北を重ねているのである。(入賞経験すら滅多にない!)

 しかもハナから諦めたり力を抜いている訳ではなく、全力を出してそれなのだ。そんな境遇なら一流ウマ娘である私だとしても折れてしまうかもしれなかった。

 

 だけど、ウララは折れなかった。

 

 負けても、負けても、どれだけ負けても。

 満開の桜のような笑顔を絶やさず。

 『今度は勝つぞー!』 と楽しそうにまた練習を始める。

 どんな時でも全力で。元気一杯、一生懸命。 

 ちょこちょこと周りを走り回ってはみんなに笑顔を届けてくれる。

 

 だからみんなが注目する。

 だからみんなが好きになる。

 ウララは決して強くはないが、自然と周りに好かれる素敵な娘であった。 

 

「ねえねえ聞いて聞いてキングちゃんー! 今日ねっ、わたしオープンレースだったんだよ!」

「あらお疲れ様。それでどうだったかしら?」

「ふっふっふっふー……――だらららららら、じゃじゃーん! なんと! 4着だったの!」

「まあ! 凄いじゃないのウララさん!」

「すごいよね、すごいよね!? わーいわーい! トレーナーさんもいっぱいほめてくれたんだ~!」

「この間は6着だったものね、素晴らしい成長ぶりだわ」

 

 二人きりの部屋で所狭しにぴょんぴょん飛び跳ねるウララ。

 特徴的な桃色の髪と尻尾をふわふわと揺らして、全身で喜びを表現する彼女に、私は掛け値なしの賞賛を送った。

 

 最近の彼女は特に頑張り屋さんだ。

 負け続けに代わりはないが(たゆ)まぬ努力で順調に成績を伸ばしている。

 それはウララが頻繁に口に出す『トレーナー』のお陰だ、と言う事に皆が気付いていた。

 

 ウララの『トレーナー』。

 それは彼女が学園に来て1年経った頃にスカウトしてきた、新人トレーナーである。

 

 実績のない新人なのに、あの『皇帝』シンボリルドルフを担当に受け持ち、その敏腕ぶりを証明するかのようにウララの成績も右肩上がり。未だに勝利は迎えられていないが、最下位は滅多になくなり、彼女の入賞の数は増えつつあった。

 

 ウララはやる気がない訳ではないが、好奇心旺盛が故に余所事が多く。練習に現れない事や、トレーニング中に消えてしまう事も多々ある。

 そんな彼女を真面目に練習させる手腕は私も認めざるを得ない事だった。

 

「えへへへ……トレーナーが教えてくれたんだよ!」

「足をね、だーんだーん! じゃなくてだだだだーっ! てするの!」

「するとね、するとねっ! 前よりも……ぴゅ~~んってはやく走れてね~!」

 

 余程前よりも速く走れた事が嬉しいのだろう。

 身振り手振りで感動を伝えてくれるウララに、私は紅茶を飲みながら聞き手に徹する。

 ウララの話には相変わらず元気と喜びに満ち溢れているが、それと同じくらい『トレーナー』が含まれている。その含有率があんまりにも多い物だから、私は少しだけ口を挟んでしまった。

 

「ウララさんは、トレーナーさんの事がとっても気に入っているのね」

「え? ――うん! わたしトレーナーの事が好きー!」

「ぶふぉっ」

 

 そうしたら剛速球が飛んで来る物だから、ちょっと……いや、大分びっくりしてしまった。

 

「どうしたのキングちゃん?」

「……なんでもないわ。ちょっと喉がつかえただけよ」

「わっ、大丈夫大丈夫!? お水もってくる?」

「だ、大丈夫よっ、気にしないでいいから!」

 

 口元をハンカチで拭った私はすぐに平静を取り戻す事が出来た。

 なぜならウララの表情には一片の照れも見られないからだ。

 言ってしまえばウララは『恋』を、下手すれば『恋』と言う単語すら分からないだろう。

 そう言う意味では彼女の春は、まだまだ初春と言った所か。

 

「前よりも、びゅんびゅんびゅーんってはやく走れるのがたのしいの!」

「そうね」

「それでね、はやく走れるともっといろんな子と走れるようになって~、それがすっごくうれしいの!」

「素晴らしい事ね、私も色々な方と走るのは好きよ」

「ルドルフさんも、トレーナーもね、わたしががんばると、ほめてくれてねっ! またがんばろーって気持ちになるんだ~!」

「それで頑張ったからこそ、ここまで順位が伸びたんだものね。間違いなく貴方の功績だわ」

「えへへ、だからここまでそだててくれたトレーナーはね、わたしは好き! ねぇねぇキングちゃんは? キングちゃんはキングちゃんのトレーナーさんの事は好きー?」

「げほっ、げほっ、げっほっ!」

「……?」

 

 二度目の不意打ちに含んでいた紅茶を再度噴き出しそうになったのを、私は鋼の精神で耐えた。

 あの剛速球を耐えれたのは一流のプレイだと言っても差し支えないだろう。

 

 それはともかく……私が、私のトレーナーを、好きかだって?

 一流の私に唯一付き従う事を許した一流見習いのアイツを?

 未だ一流らしからぬ所作が多く、頼りない()()()()を?

 ……いや、まあ何だかんだで頼りになる事もあるけど。

 

 ウララの発言に他意はないのは分かる。

 でもだからと言ってアイツを好きだ、と断じるのは、何だか抵抗がある。

 それは、一流ウマ娘である私から言うような内容ではないんじゃないか。

 

「キングちゃん?」

「……そ、そうね。私のトレーナーね。……ま、まあアイツは? まだまだ一流には程遠いけれども、最近は分かってきていたというか、私にふさわしくなって来ていると言うか」

「?????」

「つまりは………………好ましく。思うわ」

 

 たちが悪い、と悪態を付きたくなった。

 この子の『好き』がそう云う『好き』ではないのは分かってる。

 分かってるのに、そんな無垢な瞳で見られては……言わざるを得ないじゃないの。

 あぁもう。こんな事を言ってしまって。

 そんな感情全然持ってなかったってのに、明日から変に意識してしまったらどうするつもりなのだ……!

 

「そっかぁ~……! ならキングちゃんも私といっしょだね! えへへ、おそろいだおそろいだ!」

「そ、そうね」

「……? キングちゃんお顔が赤いよ?」

「な、なんでもないわよ! ちょっと……のぼせただけよ!」

「?」

 

 ……この鬱憤は、絶対へっぽこにぶつけてやろう。

 決意を胸に秘めながらも、私はウララと話を続けるのであった。

 

 

 

 § § §

 

 

 

 清々しい日本晴れを迎えた初夏のある日。

 私はグラウンドで走り込み練習を行っていた。

 常に一流を目指す私は、来たる安田記念を制するために、あのへっぽこに普段より厳しいメニューを用意させた。

 アイツが「かなり厳しいよ」と言うだけあってハードな内容だった。

 

 ようやくインターバルを与えられた私は膝をついて乱れた息を整える。

 そしてふと、隣のレーンを見れば……ミニハードル練習をしているハルウララ、そしてそれを見守るルドルフ会長と、例のトレーナーの姿が見えた。

 

 彼女のトレーナーは真剣な表情で、ウララから決して目を離さない。

 時折何事か叫べば、ウララの動きにすぐに変化が現れる辺り、二人の間には確かな信頼感が見てとれた。

 ……だけど『もっとぐんぐん!』『足をざくざく!』などと大真面目に言うのは、申し訳ないが笑ってしまいそうになる。

 

「う~~~らららら~~~~~っ!!!!」

 

 いささか覇気のない叫び声が響き渡ったかと思えば、あの子がラストスパートをかける。

 短間隔に敷き詰められた険しいハードルの道。

 それを超えるスピードは決して速いとは言えないが、しかし以前と比べれば確かな成長を感じさせるものであった。

 

「~~~~ゴールっ! ねえねえ! どうだったどうだった!?」

「…………………。………………」

「………………………」

「ほんとっ!? わーいわーい! わたしまた速くなっちゃったー!」

 

 ウララの声はよく通り、よく響く。

 遠間から眺めている私の元には、彼女の声だけが届いていた。

 恐らくはトレーナーに褒められたであろう彼女は、ぴょんぴょんとその場を飛び跳ねるばかりか、喜びを持て余して抱きついてすらいた。

 なんと直球な表現方法。だけど、とてもウララらしいとも思えた。

 

「えへへ~、うれしいな、うれしいなっ! これでルドルフさんよりはやくなったかな?」

「……。…………………」

「おぉ~っ……! よ~し、わたしがんばるよっ! 次はいっしょにレースしよ~ねっ!」

 

 ……あの七冠ウマ娘に不遜とも取れる発言。全く持って冷や冷やする。

 

 だけど不快さを覚えるどころか、あの子の顔を優しくタオルで拭う会長。その様子はさながら可愛い妹に世話を焼く姉だ。

 拭っている間もウララは落ち着きないが、耳をぺたんと折りたたみ、気持ち良さそうにされるがままになっていた。

 

 ……自分もあの場に居たらきっと同じことをしていただろう。

 と言うか彼女の近くにいて世話を焼きたがらない人など、居ないと思う。

 ウララは、親しい人をまるで姉や兄のような気分にさせる。そんな子だから。

 

「えぇ!? 今日はご飯につれてってくれるの? やった~!」

 

 ふと今まで以上に大きな声が聞こえたと思えば、ウララは二人の周りをぐるぐると走り、喜びを余すことなく表現していた。

 

「わたしね! わたしね! にんじんハンバーグが食べたいな! ねえねえふたりとも早くいこっ! いこ~よ~っ!」

 

 待ちきれないとばかりに二人を急かしたウララは、本当に待ちきれなくなったのか次の瞬間明後日の方向に駆け出してしまった。

 そんな彼女をトレーナーとルドルフ会長が目を合わせ、くすりと笑い合う。

 まるで夫婦のようなやり取りだ。そして二人が夫婦なら、ウララは二人の子供だ。

 

 当然二人がそんな関係な訳はないが……総じてウララもトレーナーも会長も。三人が三人を大切にしあう良きチームだと、私は腑に落ちていた。

 

「素敵なチームに恵まれたわね。ウララ………………私も、今日はご褒美をもらおうかしら」

 

 無性に誰かの奢りで何か食べたくなった私が、練習後に誰かさんにグレートジャンポパフェを奢らせたのも、無理もない話だろう。

 

 

 

 § § §

 

 

 

 昼を知らせるチャイムの音は、ウマ娘達への福音だ。

 眠たげな子も、憂鬱そうな顔をしていた子も一気に目を輝かせ、一路食堂を目指す。

 ダッシュで駆け込む子もいれば、ゆったり後を追う子もいる。それは、さながらレースのような光景。

 そんな昼食レースに対して、私は追込気味に皆の後を追う。

 

 私は一流ウマ娘だ。一流たるもの決して急ぎはしない。

 移動している間ゆっくりと献立を考え、そして着席する場所を見定める。窓際から少し離れた掲示板辺りは閑散ポイント。素早く着席出来る狙い目だろう。

 席を陣取ったら静かに、慌てず、さりとて遅くならない程度に食事を取り、速やかに去る。そして残りの時間はトレーニングに充てる――完璧なプランであった。

 

(さて、今日は何を食べようかしら)

 

 一昨日はにんじんパスタ、昨日はサバの味噌煮と来たら……今日は肉じゃが定食だ。

 などと一流にふさわしい食事を考えていると、ふと、視界に入る人物が居た。

 

 ルドルフ会長とハルウララの二人である。

 

 組み合わせとして珍しく思えるが、実の所同じチームになってからは良く見られる光景だ。

 会長はその完璧さ故にどこか近寄りがたい雰囲気があったのだが、ウララと一緒に居るとその堅さも消え、周りにはどこか親しみやすい印象すら与えていた。

 

 昼食を「おいしいね! おいしいね!」と周りに聞こえる声でよく食べるウララを見守る会長の構図は、本当の姉妹のような印象を与えていた。

 

「……? あ! キングちゃんだ! おーいキングちゃん! こっちでいっしょにたべよ~~!」

 

 ただウララとばちり、と目が合った次の瞬間。私は一人で食べると言う選択肢を失った。

 食堂中に響く大声によって奇異の目に晒された私は、そそくさと二人の元へ進むしかなかった。

 

「う、ウララさん、あなたねえ……! あ、あの……ご同席してもよろしいでしょうかルドルフ会長?」

「構わないさ。他ならぬウララの希望だからね」

「えへへ! キングちゃんとごっはんっ! うっれしいな~!」

 

 穏やかに笑う会長に頭を下げると、ちょうど二人の対面に座り込む私。 

 以前より柔らかな雰囲気とはいえ、間近に会長が居ると流石に落ち着かない気分になる。

 一流ウマ娘として粗相がないようにしなければと気を引き締めれば、緊張と無縁のウララが楽しそうに話しかけていた。

 

「ねえねえ、キングちゃんは何食べてるの?」

「……見れば分かるでしょ、今日は肉じゃが定食よ」

「わぁ~~~~! おいしそうっ! いいな~~! あ! ねえねえわたしのはねっ、にんじんハンバーグなんだよ!」

「ウララはにんじんハンバーグが本当に好きなんだな」

「だって~、お肉もにんじんもどっちもだいすきなんだもん!」

 

 口が汚れる事も気にせず、大きな一切れを一気に頬張るウララ。

 「はうぅぅ~~!」と両手と両足をぱたぱたさせる様子は非常に微笑ましいが、口元は案の定ソースまみれ。私はいつものようにハンカチを取り出したが、その時にはもう会長がウララの口元を拭っていた。……少しだけ、残念な気分になった。

 

「それにしてもキングヘイロー、君とこうして話すのは初めてだね」

「は、はい……ルドルフ会長」

「そう堅くならないでくれると嬉しいな。君が良ければ気軽にルドルフと呼んでくれてもいいのだが」

「仮にも先輩ですから、それは……」

「? キングちゃん何だかいつもと違うよー? いつもなら『いちりゅーウマ娘の私に任せなさーい、おーっほっほー!』って言ってるのに」

「ちょ、ちょっとウララさん!?」

 

 よりにもよって大声で真似をするとは!? しかも裏声で!?

 口止めしようと手を伸ばすも時すでに遅し。その時には会長にくすくすと笑われた後だった。

 

「すまない、跛立箕坐(はりゅうきざ)な真似を許して欲しい」

「……はぁ。いえ、お陰でいい感じに緊張が解れました……良しとさせていただきます」

「ふふ。それなら私もウララに感謝しよう。ありがとうウララ」

「??? どーいたしましてー?」

 

 それから、嘘のように会長との話は進んだ。

 

「ウララさんと来たら毎回私のお布団入り込むんですから」

「ほう。そうなのかいウララ」

「え? そうかなぁ~……私ちゃんとおふとんに入ってたよー?」

「私のお布団にね! すぐ寝ぼけちゃうんだから、全くもう」

 

 当たり障りのない話で始まり、レースやトレーニングの話になった後、私と会長は目下の共通の話題……そう、ウララの話をしていた。

 互いに知り得たエピソードで始まり、ひとしきり盛り上がると互いに知り得ないウララ情報を交換しあった。

 会長は同室の私の話を興味深そうに聞いてくれたし、私もまた会長だけが知り得る話を、楽しく聞くことが出来た。

 会長の口から、ウララが良く私の事を語ってくれると聞けて、少しばかり誇らしい気分にもなった

 

 ウララもまた話題の中心になっているのが嬉しいのか、相槌をうつだけでなく、心情を赤裸々に語ってくれて、私達の話に更なる花を咲かせてくれた。

 

「おっと……そろそろ時間のようだ」

 

 ひとしきり盛り上がった会話は、会長の一言で終わりを迎える。

 時刻はあと10分で午後1時を迎える所。

 時間があっという間に過ぎてしまったのも驚く所だが、会長との間にあった壁が全く無くなってしまったのも、また驚く所であった。恐るべしはウララの力。

 

「あ! もうこんな時間! 時間がたつのは早いね~」

「本当にね。すっかり話し込んでしまったわ」

「私もだよ。ありがとうキングヘイロー、君と話せて良かったよ」

「こちらこそありがとうございましたルドルフ会長。またお話出来れば嬉しいです」

「うん。では私はこれで。ウララ、授業には遅れないようにな」

 

 食器を片し、それぞれ別の場所へ向かう直前。急にウララが大きな声を上げた。

 

「ルドルフさんまたね~! ご飯、一緒にたべてくれてありがとう! また食べようね~!」

 

 昼食時にはいささか喧しい大声と、ぶんぶんと振られる手。彼女の去り際の挨拶はずっと会長に向けられていて、ち~っとも私に向く気配が感じられなかった。

 あれっ、私には声をかけてくれないのかしら? と考えてすぐに頭を振る。

 子供でもあるまいし、一体何を考えてるのやら。じゃあこれで私も、と軽く伝えて私も背を向けたのだが……直後、背中に大きな声がぶつけられた。

 

「キングちゃんもありがと~! またご飯食べようね!」

 

 ……私の足取りが行きよりも軽く感じたのは、きっと気のせいではないと思う。

 

 

 

 § § §

 

 

 

 今日のウララはいつに増してもハイテンションだ。

 その理由を私は知っている。

 実はウララ、最近オープニングレースで1着を()ぎ取ったのだ。

(その時ばかりは関係者総出でお祝いしたものだった)

 

 そしてご褒美に彼女は例のトレーナーさんと遊園地に行ってきた帰りだった。

 ウララは観覧車、ジェットコースター、お化け屋敷とありとあらゆるアトラクションを楽しんですっかりご満悦のようだった。(ちなみに会長同伴である)

 

「あのねあのねあのね! すっっっっごかったんだよー! ジェットコースター! ぐおーってなって、びゅーんって下がって! トレーナーさんがひえーってなって! 怖かったけど面白かったの!」

 

 その小さな腕をこれでもかと広げ、ダイナミックに右へ左へと傾いて表現したウララコースターは、傾き過ぎてベッドに激突していた。可愛いけど大惨事である。危ないから90点。

 

「観覧車もね、すっごかった~! すっごくすっごく高くってね、町がね、みーんな見えちゃうの! 海もね、遠くまで見えたんだよ! きれいだった~!」

 

 次に相まみえるのはウララ観覧車。全身をこれでもかと伸ばして高さを。両手をぐるぐると回してゴンドラの回転を表現。回転スピードがいささか早すぎるが、愛嬌たっぷりなので95点。

 

「お化け屋敷はもうず~~っとこわかったよ~! ルドルフさんと手をつないでいったの……でもね! でもね! ずっと目をつむってたからちゃんと最後までいけたんだよ!」

 

 ウララお化け屋敷は怖さよりも可愛さ特化。お化けの表現と怖がるウララ、そして会長の真似が入る芸細っぷりには思わず拍手。98点。

 

 ここまでノンストップで1時間。

 いつもならこの辺りでうつらうつらとし始める頃なのにまだ眠くならない辺り、相当嬉しかった事が察せられる。……羨ましい、私も一緒に行けてたら良かったのに。なんて詮無い事を考えてしまうあたり、私はウララ中毒かもしれない。

 

「それでねそれでね! えっと、しゃて…き? 銃でぱーんってするやつ! 私はとれなかったけど、トレーナーさんが取ってくれたんだ~! えへへ~」

 

 そう言って先程から抱きかかえていた、クマさん人形をこちらに突き出すウララ。

 止してくれるかしら? 逆に私が抱き着きたくなってくるじゃないの。ウララを。

 

 それは兎も角として、最近ウララの部屋に明確な変化が表れつつあるな、と私は思っていた。

 今言ったようなトレーナーからのプレゼント品もそうだが、トレーニング中の写真(ウララと例のトレーナーが写っている)やウララ自作の、稚拙だがトレーナーと思われる絵が飾られるようになり、よりウララの心がトレーナーに近付きつつあるような……そんなイメージが漠然とできていた。

 

 とは言え、現状の彼女の「好き」のベクトルは家族のそれに近いのだろう。

 巷で広がっている熱に浮かされるような激しい恋は、ウララには程遠い。

 一番近いのは恐らくは父性という物か。親族と離れた学園生活で一番心を預けられる存在が、トレーナーになっているだけなのだろう。それはきっと間違いじゃないと思う。

 

「――あ、そうだそうだキングちゃん! 『こい』って知ってる~?」

「……」

 

 だから、思わずウララを二度見してしまったのは、仕方のない話だと思う。

 

「みんながね、わたしに言うんだ~。わたしはトレーナーさんに『こい』してるんじゃないかーって……『こい』って、よく聞くけど……なんだろー?」

 

 ……私の目の届かぬ所でそんな事を口にした不届き者は、後でこらしめてやるとして、なんてキラーワードを投げかけてくるのやら!

 純な目でじーっと見つめられる中、どうしたものかと頭を悩ませ。ようやく絞り出せたのは、陳腐で、子供騙しな内容であった。

 

「恋っていうのは――その人と居て、どきどきして、わくわくするってことよ」

「えー? ドキドキとか、ワクワクとかはいつもしてるよ~? じゃあ私みんなにずっと『こい』してたのかなー?」

「……そ、そういう事ではないわね」

 

 私は再度頭を悩ます。

 そもそもの話、私だって恋らしき物を体験してはいないのだ。

 経験も知識もないのに語る事なんて出来やしない!

 しかし彼女の暫定姉としてウララの質問に答えないなんて選択肢は、そもそもなかった!

 

「恋は……まだウララさんには難しい、とは思うわ。一言では言い表せないものだから」

「むずかしいの? うーん、こいこい、こいこい~……? キングちゃんはしたことある?」

「――……な、ないわ」

「そっかぁ」

「い、言っておくけどまだしてないだけよ!? 私だって恋の一つや二つくらいその内するわ!」

 

 と、そこまで啖呵を切った後、きょとんとするウララを見て私は無性に死にたくなった。

 一流ウマ娘が一体なんたる無様な姿か!

 天然物の売り言葉を即買いしてしまった己の不明を恥じるしかない。

 

「……まあその、あれよ。私も分からないなりに答えるけど……大雑把に言ってしまえば、特別好きになるって事かしら」

「? とくべつ?」

「えぇ……貴方のご両親よりも、友達よりも、ルドルフ会長よりも、誰よりも特別好き……多分、それが恋って事」

「……うーん、うーん。トレーナーさんもー、ルドルフさんもー、キングちゃんもー、みんなみんな大好きだよ? 私はやっぱり『こい』してないのかな?」

「さて、ね。恋という意味は人によって変わるから……気になったなら他の人に聞いてもいいかもしれないわね」

「うーん……わかった! じゃあ私トレーナーさんに聞いてみるね!」

「そうね。そうしなさ……えっ」

 

 一瞬何を言ったのか分からず、聞き返そうとした時には、もうそこにウララはおらず、開け放たれた扉の先からは足音が鳴り響いていた。

 ……よく分からなかったけど、もしかすると今彼女はとんでもない事をしようとしているのではないか? 嫌な予感が私の頭をかすめれば、私もまた廊下を走り始めていた。

 

(よりによって本人にとんでもない爆弾発言をするのはやめなさいよ!? 成就してもしなくても地獄じゃないの!)

 

 そして焦る私がへとへとになって見つけ出した彼女は――何故か満面の笑みで飴を舐めていた。

 

「あ、キングひゃん~、トレーナーさんにあめさんもらっちゃった~、えへへ~あまくておいしい~」

 

 どうやらウララは飴で懐柔されて質問の事をすっかり忘れてしまったらしい。

 その場で膝をつきながら項垂れると同時に、伊達に彼女を見ていないトレーナーさんの手腕に改めて感心するのであった。




浮気してごめんなさい(陳謝)
アッ2話まで書けてます。3話はまだ作成中ですデキルカギリハヤメニダスネ
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