ハルウララに春が来た(完結)   作:月兎耳のべる

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第四話 そしてまた春が来る

 ――あの有馬記念から既に3か月が経っていた。

 

 春の気配を薄々感じる三寒四温の真っただ中。

 日の上りきらない早朝の内から、布団の誘惑を乗り越えた数多の競争バ達がぞろぞろと寮から出てくる。

 その中から桃髪桃耳桃尻尾のウマ娘を見つけた私は、いつものように声をかけていた。

 

「おはようウララさん。今日もちゃんと起きれたようね」

「あっ、おっはよ~キングちゃん! えへへ~……ちょっと危なかったけどね」

 

 ハルウララは今日も元気でいっぱいだ。

 白い吐息を()()()と零す彼女の頭には一際目立つ長い寝癖。

 少しだらしはないが、これから更に乱れるのだ。口(うる)くするのは止しておいた。

 

 

 私達のトゥインクル・シリーズは一応の終わりを迎えた。

 そして短くも濃密な3年間を戦い抜いた私達は、様々な選択肢の中から自分に合った道を選ぶ段階に至っていた。

 

 

 当然、選択肢の中には競争の世界から退くというものもある。

 地元に帰る。就職をする。競争バではなく裏方やトレーナーを目指す。

 あとはまあ、誰かと結婚するとか……そういうの。

 

 けれど私もウララもまだまだ現役を退くつもりはなかった。

 私は海外戦を視野に入れて日々の調整を行っており、ウララもその愛嬌と頑張りが認められ、地元高知レース場で広告塔としての活躍を期待されているようだ。

 

 故に休むなんて選択肢は選んでいられない。

 最早我々にとってこの早朝のトレーニングもルーティーンに過ぎず、約束せずとも決まった時間に集まるのがお決まりになっていた。

 

「今日はね~っ、いい夢見ちゃったんだ~!」

「よかったじゃない。トレーナーさんとデートでもする夢? それとも……もしかしてまたにんじんハンバーグの夢じゃないでしょうね?」

「えっ!? なんでキングちゃん分かったの?」

「……あのねぇ」

 

 ウララは今、昔と変わらずの笑顔を皆に振りまいている。

 私にも。クラスメイトにも。友達にも。

 商店街の皆にも。ファンの皆にも。

 ルドルフ会長にもトレーナーにも。それこそ分け隔てなく。

 

 有馬記念の直後は、この大好きな笑顔が二度と見られないと覚悟はしていたから、本当に良かったと思っている。

 

 

『キングちゃん……っ、わたし、わたしやっぱりあきらめきれないよ……』

『トレーナーさんがすきなのにっ……なのにずっと、すきっていえないの、やだっ、よぉ……!』

 

 有馬記念が終わって数週間の間、ウララは前以上に苦しんでいた。

 他ならぬ自らの弱さが招いた結末を必死に納得させようと藻掻き、けれども日に日に膨らむ気持ちに(ふた)をする事も出来ず、枕を濡らす日々を過ごし続けていた。

 

 私は悲しみに暮れるウララの様子が見るに()えなくて――つい、やってしまった。

 

『――諦める必要なんて、どこにもないわよ!』

 

 泣き腫らすウララの手を取り。

 無断で寮を抜け出し。

 トレーナー寮へと殴り込み。

 就寝中のトレーナーさんを叩き起こし。

 ウララをトレーナーさんの腕の中へ突き飛ばし。

 強制的に決戦の場を整えていた。

 

『ウララさん、さぁ言ってしまいなさい』

『で、でも……いいの?』

『良いのよ! 貴方がこれからするのは【()()】じゃないわ、【()()】よ!』

『……あの、キング? ウララ? こくはくとか、せんげんとか……ええっと?』

『~~~~~……トレーナーっ!! わたしっ、わたしトレーナーがねっ、とれーなーがねっ……!!!』

 

 すきなの。

 すきです。

 すき。

 すごくすき。

 すきすき。

 だいすき。

 すきだよ。

 

 一度堰を切ってしまえば止まらない、たくさんの『すき』の二文字。

 それが涙交じりのウララの口から紡がれる。

 そして止まらない『すき』の合間に、今までの思い出が溢れかえる。

 

 トレーナーに教えて貰うのが嬉しかった。

 どんどん自分が速くなっていくのがわかって、

 もっと走りたくなった。

 

 トレーナーとお話をするのが楽しかった。

 優しくて、物知りで、わくわくする話ばっかりで、

 もっと聞きたくなった。

 

 トレーナーとお出かけをするのが好きだった。

 一緒に行った遊園地が面白くて、

 また絶対に行きたいって思わせてくれた。

 

 トレーナーに褒められるのが幸せだった。

 私に勝つ楽しみを教えてくれて、

 どんどんレースが好きになった。

 

 トレーナーと共に過ごす日々が誇らしかった。

 隣に居てくれれば、どんな相手でもどんなレースでも

 勝てる自信があった。

 

 

 しゃっくり交じりで、形式も何もない。

 ただ気持ちを羅列するだけの酷い『宣言』だ。 

 だけど……私もトレーナーさんも、込められた万感の想いを涙なしに聞くことは出来なかった。

 

『わたしをスカウトしてくれてありがとう』

『ずっと教えてくれてありがとう』

『勝てなくてごめんなさい』

『わたしは負けちゃったけど、あなたがずっと好きです』

 

 顔をぐしゃぐしゃに汚したウララが無理やり笑顔を見せようとした所で、トレーナーが感極まって抱きしめ……そして彼女はそのまま大声を上げて泣いてしまった。

 

 結局、トレーナーさんがウララの『宣言』に応えたかどうかは分からなかった。

 しかしウララはあの日のお陰で、また笑顔を見せるようになった。

 それはとても喜ばしい事に違いはなかった。

 

(――ちなみに、その後は騒ぎを聞きつけたフジキセキ先輩とヒシアマゾン先輩に私はその場で取り押さえられて、叱責の嵐を受けた後、反省文+トイレ掃除1か月を言い渡された。

 ウララ? ウララは泣き疲れて眠ってしまったから、そのままトレーナーの元で寝させてあげて欲しいと私が嘆願した。死ぬほど頭を下げた。そうしたら通った。翌日以降、会長の私への目つきに冷たい物が混じっていたのは気のせいではなさそうだ)

 

 

「……ねえねえ、キングちゃん今日時間ってある?」

「ん? そうねぇ。トレーニング後なら大丈夫だけど、どうしたのかしら?」

「えっとね……良かったらまた服とか、一緒に買いに行って貰っていい?」

「ふふっ、今度は別路線で攻めたいのかしら? しょうがないわねぇ……勿論付き合って上げても良いわよ!」

「やった~~! ありがとキングちゃんっ!」

 

 

 思いの丈を本人にぶつけてからと言うものの、ウララのトレーナーさんへのアタックは会長よりも直球で、それで居て清々しい正当アプローチだ。

 そして『恋をすれば女は変わる』。そんな格言通り、今のウララは小動物的な可愛さだけではなくなり、時々ドキっとしてしまう美少女へと昇格したと私は本気で思っている。

 

 

「ルドルフ会長も引退して、春からはトレーナーさんのサブトレーナーになるっていうし……まだ会長業で忙しい今こそが勝負時ね」

「うんっ! ルドルフさんに悪いけど、忙しい内にい~っぱい、ポイントかせぐんだ~っ!」

「その意気よウララさん! サポートは任せて頂戴っ。なんだったら今度は二人きりで夕飯を誘ってみてはどう?」

「おぉ~! まさか……手作りしちゃうの!? キングちゃん料理について教えてくれる!?」

「……す、助っ人を呼ぶわ!」

 

 

 思うに……私はハルウララというウマ娘を過小評価していたのかもしれない。

 知識がないからこそ危なっかしく見えていたが、彼女は最初(ハナ)から自分でどうにかする力を持っていたのだ。

 彼女に足りないのは知識と経験だけだった。

 しかし悔しさを知り、一度は失恋しかけたウララは加速度的に知識を吸収しつつある。

 きっとウララを子供扱い出来る日は、近い内に無くなる事だろう。

 

 

「えへへへ~、楽しみだな~っ、またいっぱい色んな事教えてね!」

「えぇ……貴方が望むなら、どれだけでも」

 

 

 ウララとの話は相変わらず楽しく、話題が尽きず、飽きさせない。

 けれど、こうしてウララと気兼ねなく話せる日が少なくなってしまうと思うと……本当寂しい限りだった。

 

 

「――あ! ねえねえみてみて! キングちゃんアレ!」

「え? なによウララさん、何を指さしてるの?」

「桜の木だよ~! ホラ見て! つぼみが見えてる!」

 

 

 ウララが元気よく桜並木を指さす。

 何だ何だと思って見上げれば成程、桜並木のどれもこれもが小さな蕾を蓄えており、春の訪れをいまかいまかと待ち侘びていた。

 

 

「そっか。もう桜の時期なのね」

「いつ咲くのかな~? 楽しみだねキングちゃん! ……あーっ! そうだ! 桜が咲いたらお花見しなきゃっ!」

「お花見ね。いいじゃない! 節目だしこの際盛大にやってもいいわね」

「わーい! それじゃあね、じゃあねっ、みんな呼ぼうよ! 友達も、ルドルフさんも、トレーナーもみんなみんなみーんなっ! そうしたら絶対楽しいよっ!」

 

 

 想像しただけで嬉しくなったのか、ペースをあげて道ではしゃぐウララ。

 一望できる限りの桜の木はそのどれもが開花していない。

 

 でも、私には見えていた。

 

 満開の桜の中、ウララを応援する皆が集まって花見をする姿と。

 トレーナーの傍で笑う、ウララの姿が。

 

 

「キングちゃーん、ほらほら早く行こ~よ~!」

「はいはい」

 

 

 季節は廻り、冬が終わる。

 そしてまたハルウララの春が来るのだ。

 

 

 

 

 




この小説の切っ掛けはどなたかがTwitterに上げていたハルウララの絵、そしてキングヘイローの絵が元となっています。

そして調べれば調べる程エモいキングヘイローとハルウララの関係性と、ハルウララのストーリー(特に有馬記念イベント)で見たエグみが頭から離れなくなって、その上で純真なウララが恋をしたら、どうなるんだろう? と思考実験的に書き連ねていたのが拙作です。結局は性癖のままにストーリーを連ねてしまってごめんなさ後悔はしていません。

ウマ娘。本当に大好きです。
今後も頭に浮かんだ衝動を、自分なりのリスペクトを添えて書いていきたいです。
最後まで読んでくださり、誠にありがとうございました。
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