Re;Children The Waking   作:change

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第1話 精霊と聖灰

それは、雷雨の夜の事だった。

黒い雨合羽を着た男と、その後を不安そうに着いて行く白髪の女。外見はどちらも20歳くらいに見え、男の家と思わしき場所に着いた時、男が家の扉を開けながら、後ろに居る女の方を向いて口を開く。

 

「入っていいぞ?」

「お邪魔します・・・・・・プレゼント、本当に良いんですか?」

「良いよ、俺はもうデュエマする相手も居ないしな」

 

家に入ると、プレゼントと呼ばれた男はそのまま靴を脱いで合羽を脱ぎ、女は笠を畳んで灯の一切点いていない地下の物置へと向かう。地下への階段を下っている途中、女は寂しそうに呟いた。

 

「漆黒の騎士こと黒井さんも今はロンドンで活動中。私もプレゼントとは頻繁にデュエル出来なくなってしまって・・・・・・今でも、黒井さんやプレゼントとのデュエル以上に熱くなれた試合は無く、少しだけ、昔に戻りたいなんて思ってしまいます」

「そうか・・・・・・。まぁ、強くなって挑む者から挑まれる者になると、そういうこともあるんだろうな。今じゃ聖灰の皇女なんて大層な名前も貰ってるし・・・・・・っと、えー、鍵は・・・・・・」

 

プレゼントは鍵をポケットから取り出し、地下の扉を開けると、その先に広がる光景に女は驚く。

 

「凄い・・・・・・これ全部・・・・・・」

「あぁ、姐さんの遺したカードと、俺の持っているカードだよ。全部で何枚あるかは俺も知らん。欲しいのがあったら適当に持ってってくれ。聖灰の皇女様に必要なのがあるかは知らないが」

「あの、流石に仕事中でも無いのにその名前で呼ぶのは止めて下さい。いつもの大変さを思い出して疲れます・・・・・・」

 

親しい仲の人との時間中に、わざわざ仕事の事を思い出したくはない。そういう顔でうんざりしたように言ってくる聖灰の姿に、頭を掻きながらプレゼントは謝罪する。

 

「悪い。まぁ、白奈の欲しいカードがあったら、俺に確認なんていちいち取らなくて良いから、本当に勝手に持って行ってやってくれ」

「そうします。・・・・・・これ、文明とか種族分け、カードタイプ分けとかはしてあるんです?」

「姐さんのと俺のを分けたくらいだからな。すまんが地道に段ボールの中から探してくれ。俺が昔作ったデッキならそこにあるから、そっちなら何か良いのあるかもな」

 

そうした会話をして数十分、白奈がカードを探し、プレゼントが部屋でスマホを弄って時間を潰している時だった。

 

「・・・・・・あ、プレゼント」

 

急に名前を呼ばれ、どうした?と声を掛けるプレゼント。白奈は少し思案した後、バッグに入れてあった自分のデッキを持ちながら、真剣な表情で真っ直ぐとプレゼントの目を見て言う。

 

「此処に私のデッキがあります。今、目の前に自分の相手として楽しませてくれそうな相手が居ます。何を言いたいか分かりますよね?」

「お前マジか。いやまぁ、良いけど今の俺がお前と良い勝負出来るかは分からないからな?何せこっちはもう最近触ってないんだ」

「たかが1年触ってないだけで、あのデッキの感覚を忘れるような人じゃないでしょう?それにどうせ情報のチェックはしてるでしょうし」

 

白奈の目が分かってますからね、と言いたげなジト目に変わり、少し目を逸らしながらプレゼントは仕方なさそうに「分かった」と答える。あまり乗り気では無いが、余命僅かとされる(・・・・・・・・)彼女の頼みなら、早々断ることも出来ない。そんな事を考えながら、プレゼントはすぐそこにあったデッキを手に取るが──

 

「それじゃなく、あのデッキで御願いします。プレゼントの相棒とも呼べるあのデッキです」

「・・・・・・あれ使うと色々思い出すんだけど、まぁ分かったよ。取り敢えずやるなら地下より部屋の方が良いだろ?行くぞ」

 

地下室の扉を開け、今度は階段を上がる2人。先頭をプレゼントが歩き、その後ろに白奈が着いて行く。

 

「そういえば、白奈は今日の予定は大丈夫なのか?今日こっちに来たのは仕事の場所が偶然近かったからだろ?デュエルして遅れたとかなったら、流石に俺には責任取れん」

「大丈夫ですよ、まだ時間ありますし。そこら辺はプレゼントよりしっかりしてますからね、私」

「そうかよ」

 

そんな何気ないやり取りをしながら、プレゼントは自室の扉を開け、机の上に置いてあった1つのデッキが入りそうなくらいの大きさのデッキホルダーを手に取る。そこそこ材質は皮で頑丈な、手触りが良い蒼色のデッキホルダーだ。この中に入っているカードが本当にプレゼントにとって大切なものであるということが窺えた。

 

「さて、んじゃ小さいけど机もあるし、此処でやるか」

「そうですね、早くやりましょうか」

「・・・・・・」

 

コイツ、凄い楽しそうだな、と思いながらも、プレゼントはデッキをシャッフルする。そろそろこのデッキのスリーブも新しくしてやるか、とプレゼントがそう思っている間に、白奈の準備は終わっていた。

 

「そういえばさ、お前はまだ夢、変わってないの?」

「えぇ、変わってませんよ。私は貴方から教えて貰ったデュエマで、最強になります」

 

シールドを展開し、カードを引きながらプレゼントは聞く。その問いへの白奈の答えは力強く、間違いなく本気であることが伺えた。

 

「お前にちゃんと教えたのはデュエマのルールくらいだし、別に俺が教えたとかは関係ないだろ」

「もしかして照れてます?」

「照れてない」

 

いきなり何を言い出すんだ、とプレゼントは反論するが、そんな反応を一切気にせず、白奈は淡々と語る。

 

「貴方から教わったのは、デュエマのルールだけじゃないですから。楽しさも教わったし、勝負の世界についても教わった。何より、高見から見える景色を教えて貰ったんです」

「・・・・・・」

「覚えてます?今から5年前、私が高校1年生の頃。2年生になったばかりのプレゼントが、デュエマの大会のチーム戦に参加する為の数あわせにって理由で、デュエマに興味はあったけど他人に声を掛けられなかった私に、デュエマを教えてくれたんです」

 

プレゼントはその話を懐かしいな、と思いながら手札を見ていた。この時間が心地良い、そう感じていた。

 

「未だに教える力では、プレゼントを越せる気はしませんね。3日で初心者が地区大会のチーム戦で好成績を出せるようになるなんて、普通思いませんよ」

「教えた訳じゃない。お前が勝手に吸収したんだよ。俺のでなく、お前の才能だ」

「確かに私の才能もあるでしょうが」

「そういうとこ謙遜しないよなーお前。・・・・・・まぁ良いけど」

 

昔と比べて、明るく育ったなと思うプレゼントだが、同時に少しだけ気分が重くなる。

この明るさは、きっと自分が長くないということから来る空元気のようなものだと思ったからだ。実際、白奈は避けようの無い事だと思っており、ならせめて、生きてる間は笑顔で居よう。素直で居ようと思っている。

だからこそ、プレゼントは今の白奈を見ていると、少しだけ心が痛むのだ。

 

「・・・・・・でも、プレゼントが居なかったら、私はこうはなれなかったんです。燃え尽きるその時まで、輝き続けたいと願う私には、絶対なれなかった」

「そうか・・・・・・あ、先行良いぞ」

「では先行貰います・・・・・・それと、私はプレゼントに恩返しもしたいですからね」

「恩返し?」

 

どうした急に、と言いそうになったプレゼントだが、どうにか抑える。返して貰う程の恩なんか無いだろ、と思っていたが、白奈からすればそんな事は無かった。

 

「プレゼント、夢があったじゃないですか」

「あぁ、自分の信じたデッキで世界大会優勝な。・・・・・・結局、俺には果たせなかったが」

「だから私、このデッキで世界大会優勝してきます。プレゼントの代わりに、自分の好きなデッキで世界大会に優勝だって出来るって、そう示したいんです」

 

無理だ、と言うのが大半だろう話を、白奈は真剣に言っている。だが、そういった姿勢が人の心を掴むのだろうとプレゼントは思った。白奈のデュエマの腕も、もしかしたら、と思わせてしまう程に高い水準に位置している。

 

「そうか。まぁ応援するけど・・・・・・」

「えぇ、見てて下さい。次の世界大会は今年の秋。凡そ5ヶ月後です。黒井さんも来るでしょうけど、負けませんよ」

「・・・・・・黒井は強いぞ。誰よりも強い。悪魔的な強さだ」

「それでも、私は優勝する為に止まりませんよ。人事を尽くして天命を待つ。やれるだけのことは、精一杯やる。ただそれだけ」

「・・・・・・夢に潰されるなよ。それだけは忠告しておく」

 

2人のデュエマも、気付けば大分ターンが経過していた。白奈の場には《ホーリーエンド》と《サッヴァーク》が存在し、プレゼントの場には《デドダム》2体と《御嶺》が居る状況。どちらかと言うと、白奈の方が優勢に見える展開だった。

 

「《ホーリーエンド》でシールド攻撃時、《ミラダンテⅫ》に革命チェンジ。《ジャミング・チャフ》を唱えて1ドロー。Tブレイク」

「受ける。トリガーは無し」

「《サッヴァーク》でシールド攻撃時、表向きにシールドを2枚、既存のシールドの上に。Wブレイク」

「受ける・・・・・・トリガーで《ジョ喰ンマ》を《御嶺》に付け、《ミラダンテⅫ》を破壊」

 

プレゼントはコスト7以下のクリーチャーの召喚を封じられ、呪文を唱えられずシールドが0になり、白奈は2回の除去耐性を持った《サッヴァーク》を場に残せている。もう決着も近い。

ターン終了を白奈が宣言し、プレゼントはカードをドローしターンを終了する。攻撃すれば良いかもしれないが、変に《ヘブンズ・ゲート》やら《ドラゴンズ・サイン》やらを踏んだら、それこそ本当に勝てる気はしない。

 

「ドロー、マナチャージ。《エモーショナル・ハードコア》を召喚し、《怒流牙 サイゾウミスト》を宣言。《サッヴァーク》でダイレクト」

「負けだよ。やっぱり強いな」

「・・・・・・ふぅ、プレゼントと戦うと緊張しますね。ロックしても掻い潜って来るんで」

「そういうデッキだ。・・・・・・どうだ?満足出来たか?」

「んー・・・・・・私は満足しきれてないですね。本来のプレゼントはもっと強かった筈です。プレゼント、今度大会に出てみません?私も一緒に出るんで、どうです?」

 

誘ってくれるのは嬉しいが、それは御免だ、とプレゼントはその誘いを断る。幾ら彼女の頼みでも、そこまでは許容出来なかった。

 

「俺はもうやらないんだよ。このデッキを改造してやるだけでも十分だ」

「・・・・・・むぅ。まぁ、分かりました。無理強いはしません・・・・・・でも、もしまたやりたくなったら、いつでも声掛けて下さいね。私は喜んでデュエマしますよ」

「馬鹿、お前はもうそう簡単に俺みたいなのとデュエマしてる暇ないだろ。チャレンジャーの相手とかでもしてろ・・・・・・。あ、時間大丈夫か?もう結構経ってるけど」

 

楽しい時間はアッと言う間で、気付けば2時間経過していた。

 

「あぁ、そうですね。そろそろ出ないと・・・・・・それじゃあプレゼント、今日はありがとうございました」

「ん。まぁ気を付けてな。今日は雨も風も凄いし、呉々も不審者に襲われないように」

「お母さんです?まぁ、それじゃあお邪魔しました」

 

白奈は最後にそう言うと、荷物を纏めてプレゼントの家を出て行った。白奈が居なくなり、静かになった影響か、プレゼントには余計に雨風の音などが強く聞こえた。

 

「・・・・・・白奈が優勝したら良いけど・・・・・・もし出来なかったら、辛いな。残された時間も他より無い分、1勝1敗の重みは、常人のそれとは訳が違う。折れなきゃ良いが・・・・・・」

 

プレゼントはどこか、白奈の先行きが心配で仕方が無かった。親友として、支えになれるような部分が無い事が、少しだけ無力さを感じさせていた。

 

「・・・・・・優勝、か。俺には・・・・・・縁が無かったな」

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