Re;Children The Waking   作:change

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第2話 炎帝と漆黒

黒井vs白奈、この対戦カードはきっと、現代デュエマにおいて今までで一番注目されるだろうことは、誰の目にも明らかだった。

 

ロンドンで今も海外チームと合同練習に励む、多才にして天才、容姿も優れているという文句なしの男。世界最強とまで言われる、未だ大会などの場において無敗の黒井。

人を魅了するデュエマへの熱意と姿勢。余命僅かな美女であり、デュエマの才能においては黒井を凌駕するのでは、と噂される白奈。

 

どちらも異名が付く程に、近頃のデュエマを盛り上げている。その人を代表するエースカードが常にデッキに存在するのも、人気の理由にあるかもしれない。

 

「なぁ、黒井さんと白奈ちゃんが戦ったとしたら、どっち勝つと思う?」

「やっぱ白奈ちゃんに勝って貰いたいけど、黒井さんだろうなぁ。腕が同じくらいだとしても、カリスマある分、対戦時に威圧感も凄いだろうし。白奈ちゃんでも流石に怖気付くんじゃないかなぁって」

 

秋葉原のカードショップでパックを開ける、カードオタク男子2人の何気ないやり取り。

こういった会話をしている人達は、今かなり存在している。殆どの人がその2人が高校が同じだった事や、もう1人を加えた3人チームで嘗てデュエマをしていたことを知っており、その戦績やプレイングの変化などが話題になったりもしていた。

 

「っ!?《Re:ライフ》のBレア出たっ!?」

「は?マジか!?」

「店内では静かに。黙らないと出すぞー」

「「あ、すみません・・・・・・」」

 

店員に怒られて申し訳無くしょぼくれるオタク2人。こういう人もまた多い。

 

「っと・・・・・・らっしゃい。今日は何?」

「カードのショーケース頼む」

「はいよ」

 

店に入って来たのは、白いフード付きの上着を着た金髪の男。緋色の瞳はどこか暗く、見る者に冷たさを感じさせる。

店員は常連の男と共にデュエマのショーケースの場所へと鍵を持って移動していく。

 

「これとこれとこれ2枚を頼む」

「はーい・・・・・・状態確認御願いね」

「・・・・・・大丈夫だ」

「ん、じゃあレジに先どうぞー」

 

慣れたやり取り。そんな2人のやり取りを、何となく怒られてしょんぼりしていたオタク2人は見ていた。

 

「・・・・・・あ。なぁ、あれってもしかして──」

「あぁ、『炎帝』だ。此処でカード買ってたのか・・・・・・」

 

炎帝。嘗て1度だけ、中国の国内大会に参加し、全試合をシールド5枚のまま完全決闘を果たした偉業を持つ、黒井や白奈と同じ最強と呼ばれる者の一角。他2人への期待などが大きいだけで、十分に有名なプレイヤーである。

 

「炎帝も今年の世界大会出るんだよな・・・・・・」

「『牙帝』も出て来たら、いよいよ今年は伝説の年になるんだがな・・・・・・」

「牙帝なぁ、正直他と比べるとちょい見劣りするというか・・・・・・」

「まぁ、大会で偉業を成し遂げた訳でも、何か人の心を惹く背景も無いし、分からなくもない。でも関西でのやらかしは本当に面白かったわ」

 

炎帝と同じ世代には他に牙帝と『邪帝』の2人の帝と呼ばれた者が存在しており、3人なので三帝と呼ばれていたが、中でも牙帝はそのやらかしが話題に上がる人物だった。

炎帝が中国で結果を出し、日中をざわつかせた後、すぐに関西で大きな大会が開かれたが、牙帝はエントリーしていたのにも関わらずこれを当日になってバックレ。実力の高さから注目されていた分、それには当時酷いバッシングが起きた。何故来なかったのか理由を聞くと、本人曰わく、寝坊したわ、めんご、という始末。

 

「はぁ、早く秋来ないかなぁ」

「なー。誰が戦い、誰が勝ち上がるのか。凄い気になる」

「良い時代に生まれてこれたよなぁ」

「それなぁ」

 

「だってよ?期待されてるみたいじゃん、紅輝くん」

「興味無い。俺は俺のデュエルをするだけだ」

「出るの?」

「何に?」

「世界大会」

 

オタク2人の会話を聞きながら、客が来ないためにレジで駄弁る店員と炎帝こと紅輝。

紅輝の家は切札という名字を持つ。デュエマのアニメや漫画の主人公達の名字と同じであることから、前から幾度と無く架空の存在である切札の名を持つ主人公達と比較されてきた。ただ同じであるならそこまで注目もされなかったが、デュエマが上手く、炎帝に至っては使うカードがそれを連想させるような家系でもあったのが、余計に騒がれた原因だった。

 

「フィクションの存在と比較なんてさせない。俺は俺だ。俺のデュエルは俺にしか出来ない、俺だけの物だ。だから他人の為にはしない」

「じゃあ、参加しないの?」

「・・・・・・いや、1人気になるやつが居る。そいつとは戦いたい。その為なら世界大会に出場するつもりだ」

 

紅輝の脳裏を過るのは、漆黒の名を冠する眼鏡の男。

 

「ふぅん?牙帝ちゃんとかはどうするって?」

「アイツは出ないつもりだそうだ」

「あらそう。じゃあ、秋の世界大会は3人の凄い戦いになりそうねー。界隈が盛り上がれば高いカードも買われるだろうし、ちょっとだけカードの値段上げておこうかな・・・・・・」

「変わらないな、相変わらず。・・・・・・それじゃあな」

 

最後に少し雑談をし、買うものは買った、と紅輝はその場を去る。去っていく背に、店員は手を振る。

 

「はーい、またね、紅輝くん。カードショップ『ボアロ』はいつでも開いてるからねー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「黒井、お前から見て世界大会に出てきそうな何か面白そうな奴とか居るのか?」

「どうした急に?」

 

朝、ロンドンのカフェで2人のデュエリストが珈琲を飲みながら雑談をしていた。片方は漆黒の騎士こと黒井。もう片方は中国出身のリャンという男性。

 

「いや、気になってな。うちの国で話題になった炎帝とかさ」

「そうだな・・・・・・確かに炎帝は強いだろうが、あのままの強さで満足しているなら興味はない。あれ以上に強くなっているなら別だがな」

「へぇ、聖灰の皇女とかは?」

「寿命のことが気になりはするが、それで手加減をするつもりもない。相変わらず強さに際限が無いと見えるから油断も出来ん。楽しみだ」

 

だが、と、黒井は少し俯く。カップに入っている珈琲の表面には、そんな黒井の憂うような表情が写っていた。

 

「・・・・・・出来ることなら本気のアイツと戦いたい、と思ってしまうな」

「アイツって?牙王とかか?」

「いや、身内の話だ。何でもない。・・・・・・そうだリャン、お前は神域の覇者について知ってるか?」

 

神域の覇者、というワードに即座にリャンは反応した。そんなものデュエリストなら大体が知ってるだろ、と言いながら、聞いても無い詳細を説明し始める。

 

「初めて参加した関東大会で、1ターンキルを決勝で起こして優勝。その後、関西の大会にも顔を出して、同じく決勝を1ターンキルで優勝した化け物。その異常なまでの無敗っぷりと1ターンキルの発生率に不正が疑われたけど、明確な判断材料もなく、プレイヤーの殿堂入りという形で実質的な大会出禁になった女性デュエリストだな」

「それの弟子については?」

「弟子ィ?あー・・・・・・流石に知らないな。確か邪帝は実の妹だったと思うけど」

 

それを聞くと、黒井はそうか、と残念そうに珈琲を飲んだ。無糖の苦味が程良く全身に行き渡る感覚を味わいながら、神域の覇者と、その弟子について話をし始める。

 

「神域の覇者が行方不明になっているのは知ってるな?」

「あぁ、殿堂入りだとかで大会出れなくなって、それでじゃないかって噂もある」

「どこに行ったのかを知る者はそう居ないだろう。俺も知らん。・・・・・・神域の覇者はそうして戦いの場を失ったことで、戦うことを止めた。弟子とも言える、1人の男を残してな」

 

ふっ、と口角を僅かに上げて笑う黒井に、リャンは話の続きが気になるのか、珈琲片手にジッと黒井の顔を見ていた。

 

「・・・・・・俺達3人がまだ中学生だった頃の話だ。中学では1人だけ別だったが」

「・・・・・・一応、中学で一緒じゃなかったのは聖灰の皇女だったか」

「そうだな。当時はカードゲームの部活、というのもあの中学校には無くてな。テーブルゲーム部に纏められていた。そこで俺は、神域の覇者の弟子である男と出会った」

 

本人曰わく、師匠とかそういうのでは無かったらしいが。少なくとも、教えを乞い、慕っていた男の姿からは、そういう関係が一番他者にも説明し易いと黒井は思っていた。

 

「ソイツはデュエマ以外の面は俺達のような騒がれている者達と違って平凡でな。デッキも幾つかあったがテンプレが多く、俺が動きを理解している物であれば、勝つ事自体は容易だった」

「ふぅん、じゃあ大したことなかったのか」

「いいや・・・・・・確かに戦ってみれば俺が勝利という結果に辿り着く事ばかりだった。が、アイツの強さは他とは違う」

 

黒井は内心少し気持ちが良かった。身内の凄いところを話して、良い反応をリャンが示してくれるからだ。

片手に持った珈琲を口に含み、少し渇いた喉を潤して続きを話す。リャンにとっては黒井が此処まで楽しそうに話すところは初めて見た為、そんな珈琲を飲むだけの数秒の動作に、長い時間焦らされているような感覚を感じていた。

 

「・・・・・・兎に角アイツは、本気のデュエルで接戦に持ち込むんだ」

「・・・・・・ん?」

「より分かり易く言うと、アイツはどんな相手でも接戦に持ち込む才能がある」

 

それは・・・・・・強いのか?とリャンは率直に思った。リャンの反応を見て、あまりに予想通りだったからか、黒井は少しだけ声に出して笑ってしまった。

 

「ふっ・・・・・・今、それは強いのか?と疑問に思っただろう?」

「まぁ、そうだな。正直それって、初心者にも負けかねないってことだろ?」

「そうだ。だが同時に、どれだけの強さを誇る人間に対しても、本気のデュエルをしたアイツは接戦まで持ち込める。まるで実力が相手と同じレベルに変わる、鏡のような奴だった」

 

どれだけの上振れをしても、どれだけの下振れをしても、自分が事故っても、接戦になる。そういう男だったと黒井は語る。ある意味でそれは、どれだけ努力しようと変わらない、という呪いでもあると思いながらも、またあんな接戦をしたい、と黒井は心の底から思っていた。

 

「なぁ、その男って何か結果を残しはしたのか?」

「・・・・・・」

「黒井?」

 

リャンのその質問に、少しの間を空けて黒井は少し暗い表情で答える。

 

「無い」

「無いの?」

「あぁ、一度もアイツは、1番になった事は無い。だが永遠に大会などでも2番3番を独占していた、といえば、強いことは分かるだろう?」

「変わった奴だなぁソイツ・・・・・・なぁ、ソイツの名前は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「蒼崎 零。そいつが昔読んでいたクリスマスキャロルに出てくる精霊に因んで、俺と白奈は良く、プレゼントと呼んでいる」

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