Re;Children The Waking   作:change

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第5話 黄昏

──負けた。

 

紅輝は寄り道をした後に、カードショップを転々としながら帰路に着いていた。ボアロでの1回戦、いきなり黒井と戦うことになった紅輝は、戦うチャンスだと思い、内心ではかなり喜んでいた。だが、想像以上に相手は強く、対戦が終わった頃には、自分の限界をどこか少し感じていた。

 

──新しい《ボルシャック》のカードは、近いうちに来るだろう。強いかどうかは分からないが、大きなチャンスではある。だが、場合によってはアイツもまた、その頃には強力なカードを新たに得ているかもしれない。まだ俺は強くなることはきっと出来る。だが、大会で対決するまでに追いつけるかどうかで、どうにも自信が持てない自分が居る。

 

誰もが夢を持って、それを叶えることが出来る訳じゃない。どれだけドラマティックな事を夢想しても、現実に起きる事は少ない。

だからこそ人は夢を尊いと思うのかもしれないが。

 

──あの男に、自分と対等だと認めさせたい。あの強さに俺は、勝ちたい。ならどうすれば良い?俺は、何をすれば追いつけるんだ?

 

炎帝と言われ、結果を残し、強さを周囲に見せつけた。だがどれだけ自分自身の強さを誇示しようと、切札という名字を持つだけで、架空の存在と比較され、どこか相手は自分を見ているというよりも、自分に別の存在を幻視しているような感覚がする。

使用しているデッキが《ボルシャック》を主軸としたものであることも原因ではあるのだろうが、それは彼自身が、純粋に全てのテーマから自分に合うと感じた物を選び取っただけの話であり、決して、自分の名前を意識して選んだものという訳ではない。

 

自分を見ろ。比較なんてさせるものか。俺が、最強になるべき存在だ。

 

そんな思いを小さな頃から胸に、紅輝はデュエマをしている。

 

「・・・・・・兎に角デッキの構成を練り直し、プレイングと奴の癖を見抜くしかない」

 

黒井の腕は確かだ。紅輝も今回の戦いを通して、得られたものは多少なりともあった。

完璧な人間なんていない。どれだけ強かろうと、盛者必衰の理は絶対だ。紅輝は必ず黒井を倒すという意思を固め、駅の方へと歩いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

18:00を少し過ぎた頃、カードショップ『ボアロ』での店舗大会も終了し、3位だった蒼崎と、安定の1位だった黒井は駅まで歩きながら、今回の結果や、お互い合っていない間どうしていたかなどを軽く話していた。

お互いに話す話題が尽きてきた頃、蒼崎が話は変わるけど、と思い出したように黒井へと話を振る。

 

「電話で言ってた、話って何だ?」

「そうだな・・・・・・遅くなったが話そうか」

 

黒井は歩きながら、蒼崎の横でどうしても伝えなくてはと思っていたことを話し始める。

 

「まず、白奈の寿命についてだ」

「・・・・・・おい、まさかとは思うが」

「その感じ、何となく理解したか。・・・・・・この前の診断で、悪化していたことが発覚したらしい。思っている以上に、あまり長くは無いのだろう・・・・・・白奈もこの事は世間に発表しないつもりらしい」

「・・・・・・どうにもならなのか?」

「現状打つ手無しだ。医師が今まで生きてこられた事が、既に十分奇跡だと言う程のものだ」

 

打つ手無し、その言葉で、蒼崎も、それを伝える黒井も、胸にどうしようもない苦しさと、それでもどうにか出来ないか、と焦燥感を感じていた。

白奈はきっと、自分の今の注目のされ方から、死までの残り時間が明確になってきたことを公表すれば、メディア陣などによって自分の参加する予定の大会に支障が出るかもしれない、と考えたのだろうと、後から黒井は言う。

 

「・・・・・・なぁ、黒井。白奈は・・・・・・きっと世界大会を優勝したがってる。自分の命が尽きる前に、頂天に立ちたいと思っている筈なんだ。だから・・・・・・」

「プレゼント、それ以上は聞かないぞ。俺だって苦しい。だが、お前もお膳立てされた勝利なんて、アイツが喜ぶ筈が無いというのは分かるだろ?」

「それは・・・・・・そうだけど」

「・・・・・・まぁ、お前がそれだけ白奈のことをちゃんと思ってくれていることに、少し安心した。そして、もう一つ伝えたい事はあってな」

 

蒼崎は白奈の話を聞いて、少し悲しい気持ちになっていたが、黒井はそれを知りながらも次の話を始める。白奈のことも大事な話だが、これも十分、大事な話であるからだ。

 

「近い内に、白奈と俺でチーム戦に出る。もう一人誘おうと思っていたんだが、プレゼント、お前と出たいと白奈が言っててな。俺もそう出来たら、と思っていた」

「・・・・・・良いよ」

「そうか・・・・・・白奈が前に、家にまで行って復帰しないか聞いたが、断られたと聞いていたから、正直、これも断られるんじゃないかと思っていたが」

「さっきの話聞いて、3人で久々にチーム戦がしたい、とか言われたら・・・・・・流石に、断れないだろ」

 

あの時とは少し違う。今の蒼崎の心境はあまり穏やかではなく、白奈の死が自分より早いことは昔から理解していたが、「きっとこの先でどうにかなる」「まだ未来の話だ、今じゃ無い」と、現実と向き合わないよう、楽観した考えをしていた。そして、その瞬間がもう近いことを、確実に現実は白奈の命を握りつぶそうとしていることを、こうして今日、黒井の口から明かされた。

デュエマをするのは、まだかなりの抵抗があった。今の蒼崎に深く根付いている問題である、冷月 紫音の殿堂入りという名の、事実上の強すぎた個人への大会出場禁止の処置は、とても大きな怒りと悲しみとして、蒼崎のデュエマへの気持ちを沈めさせている。

だが、もしかしたらこれが、白奈の最期の叶えられる願いになるかもしれない。蒼崎はそう考えた時、自分の中にある怒りや悲しみの気持ちが、未来に残すことになるかもしれない後悔への恐怖で、大きく揺らいだ。

 

「もし白奈が世界大会前に死んで、この願いが最期の願いだったってなったら・・・・・・その望みを叶えさせてやれたかもしれなかった今の自分を、絶対に先の自分が後悔するって分かるんだ。それも一生引きずって、そんな苦しい思いを抱えながら、腐り死んでいく自分が想像出来た」

「・・・・・・」

「怖いんだよ、大切な人に何もしてやれないで、その人が悲しい思いをしながら去って行くのをただ見てるのって。明らかに自分に何かが出来た時とかは、特にね・・・・・・だから、自分の為にも、その願いを叶えさせたい」

「珍しいな、お前が俺や白奈の為と言わずに、自分の為にって言うのは・・・・・・いや、元からそうだっただけか」

 

黒井がそう言ったと同時に、駅に電車が停止する。蒼崎と黒井はそれに乗りながら、奇跡的に席が空いていた為にそこに座る。

車内で会話するのは、少し躊躇いがあった為に、お互いに先程までとは打って変わって無言を貫く。そんな中、蒼崎は黒井に言われたことを考えていた。

 

「でも、本当に俺は二人より強くはないぞ。この前も白奈とやった時は負けたし、牙帝とのアレは偶然も良いところだったからな」

「本当に運でも、その運を手繰り寄せられるような構築を練ったのはお前だ。お前は十分強い、復帰してすぐに牙帝との戦いに勝利している時点で、周りの人間に強いかどうか聞いても、強いと答える者は多いだろう」

「そこまで言うか?・・・・・・まぁ、嬉しいけど」

 

あまり褒められ慣れてない為、少しだけ気恥ずかしさを覚えながら、蒼崎は頬を掻く。

 

「あぁ、あのさ、黒井。少し気になることがあるんだけど、教えて貰っても良いか?」

「なんだ?」

「3人で出るって言うけど、規模とか参加してきそうな強い人とか、環境からの参加デッキの傾向なんかは見当付いてるのか?」

「少し先の話だから、誰が参加してきそうかはまだ分からないが、そうだな・・・・・・環境なら速攻、5c辺りは多いだろうな。だがそう簡単な話でも無い、予想だが、速攻のメタとしても、天門を持った参加者が出てくる可能性は十分有り得る」

「今日の夜は牙帝との約束もあるから無理だけど、近い内に一度、これまでのデュエマの流れについて教えてくれ。流石に、このままお前ら2人と大会に出るのはこう、器というか、資格みたいなのが全然足りない感じがするから、出来る限り知識で補う」

 

黒井は、分かった、と応え、二人は喋ることが無くなったのか、後数分で来るだろう電車をただジッと待っていた。空気に耐えられなくなった蒼崎も黒井も、何度かスマホを出して何かを確認したり仕舞ったりを繰り返し、内心で早く電車が来ないかと思っていた。

そんな時だった。

 

「ん、漆黒か・・・・・・」

「炎帝・・・・・・今日は楽しかった。礼を言う」

 

丁度駅に来た紅輝が黒井を捕捉し、声を掛けた。店内と違い、駅のホームではこうした会合をしても人が集まってきたりせず、非常に気が楽で良いと2人は思っていた。

そして、そんな二人の遭遇に、蒼崎は少しビビっていた。

 

──うわぁ、炎帝の威圧感凄いな・・・・・・いや、他人から見た黒井もこんなもんなのかもな。

 

「あぁ、今日は俺も楽しかったし、良い経験になった。・・・・・・その横の人はお前の友人か?」

「そうだ。・・・・・・あぁ、俺をいつか倒すかもしれないくらいには強い友人だ」

「何・・・・・・」

「おま・・・・・・おまおまおま」

 

何言ってるんだコイツ!?と言いたかったが、それより先に紅輝が訝しむような目で蒼崎を睨み付けてきた。蒼崎は恐ろしさから思わず後ずさりする。

 

「・・・・・・冗談か?」

「いや、本当だ。まぁ、復帰すればだが」

「復帰?まさか引退者か?」

 

引退していた者が、あの漆黒を倒せるかもしれないだと?と視線で訴えてくる紅輝に、蒼崎は全身が動かすことも出来ず、頭の中はすぐにでも電車に乗って此処を去りたい気持ちで一杯だった。最早蛇に睨まれた蛙のような気持ちである。

 

「だが強いぞ、コイツは。デュエルの性質なんかは、お前とは方向性が逆だがな」

「守りのデュエルか。成る程、だが聖灰と同じようなデュエルスタイルなら、差して珍しくもないだろう。天門系は人気だが、それだけどのデッキにも対処方法や動きの癖が共通することが多い」

 

紅輝はそう言うと、少し考える素振りを見せ、蒼崎に提案をすることにした。

 

「お前、一番通ってるカドショはどこだ?」

「えっと、一番っていうなら・・・・・・池袋の『パンドラ』かな?」

「そうか。ならいつでも良い、空いてる日にデュエルをしないか?」

 

──は?

 

「は?」

「いや、引退しているにも関わらず、漆黒が認めているのが俺は気になった。だからデュエルをしてみたいと思った」

「・・・・・・は?え、いやどうせコイツの出鱈目だと思いますよ?黒井・・・・・・えっと、漆黒に勝てたことも無いですし」

「何でも良い。兎に角空いてたらデュエルしよう。自分自身は弱いと思っているだけで、実際は強かったなんて話は良くあることだ。自信が無い奴は謙遜が癖になって、自己を真面に評価出来ない事が多いからな」

 

紅輝はそう言い放ち、少し慌てている蒼崎を放置して電車を待ち始める。黒井はどこか面白いものを見たように、ほう、と少し口元をニヤリとさせる。電車はまだか、蒼崎はただ、そう思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・」

「お姉ちゃん、大丈夫?どうかした?」

「ううん、大丈夫。何でも無いの。ただ、何か急に空が見てたくなって」

 

机の上にカードを散らかして、椅子に座ったままうっすらと星が見え始めた空を無言で窓から見上げる一人の女性。そんな女性を気に掛ける彼女の妹。

何でも無い、と言う割には、自分の姉が分かり易く感傷的になっているように見えた彼女の妹は、その理由に思考を巡らせる。

 

姉は昔から体が弱く、その寿命も、常人より遙かに短いと言われてきた。そしてつい最近、もう時間が本当に残されていないのだということを、知ってしまった。

だが、姉はそれには動じなかった。少しは動揺したりすると思っていたのにも関わらず、全くと言って良い程、興味を示していないように見えた。それよりも自分の姉が気にしていたのは──

 

「そんなにその、世界大会のこと、気にしてるの?」

「・・・・・・うん」

 

返って来たのは、聞く者に意思の強さを感じさせる、深みのある肯定だった。

彼女には分からなかった。デュエマをしていないから、自分の姉がどれだけのめり込んでいるのか、姉が、何故そこまで執着するのか。

 

医師にはもう、プロのデュエマプレイヤーとしての活動を休止するようにも言われてしまった。だが、それだけは出来ない、と必死に抵抗した姉の姿に、ずっと今まで一緒に生活をしていたのにも関わらず、今まで一度も見たことの無い姉の一面を見たような気がして、その妹は心の底から驚いた。

 

『私は、ある人にどうしても、見せたいものが、見せたい景色があるの』

 

姉がいつの日か、そう言っていたのを妹は思いだした。その時は何となくで意味も分からず流していたが、今なら何となく、どういう意味か分かる気がした。

 

「お姉ちゃんは、大事な人と世界大会に出たいの?」

「・・・・・・まぁ、出来るなら本当はそうしたいね。また3人で、今度は世界大会なんて大きな舞台で、全力で戦って・・・・・・それで──」

 

 

 

 

「泣いて、笑って、楽しみたい。最高の思い出を作りたい・・・・・・それが叶えば、きっと私、どんな後悔が幾らあっても、消し飛んじゃうくらい幸せに・・・・・・死ねる」

 

 

 

「・・・・・・そっか」

 

姉の言葉が少し震えていたことに、妹である自分は気付いてしまった。

だから、そっと姉の部屋を出た。姉は自分の命を気にしていない訳ではなかったと、その声だけで分かってしまった。死というものを常に意識していたが故に、抱く願いの方向性が、どうしようも無く死の間際に後悔しないことを意識したものになっていることも。それが、もうどうしようも無く姉の中で自然なものになっていることも。

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