「先輩!好きです!!付き合ってください!!」
風が吹きすさぶ中、体育館裏。
一人の初々しい男子が一人の少女に手を差し出している。
目を強く瞑り、返事を今か今かと待ちわびている少年。
そんな少年を見ながら告白の相手である女子生徒はどこか面倒そうに頭を掻くと、溜息交じりに言葉を吐いた。
「悪いけど、俺元男だよ?」
「そんなこと知ってます!それでも、好きなんです!」
少年は顔を上げると、彼女に詰め寄る。
しかしそんな彼を拒絶するかのように手を突き出すと、頭が痛そうにこめかみを押さえる。
「悪いんだけどさ、俺元男だから....女が好きなんだわ。だからお前は絶対にないわけ。ごめんな。」
「そう....ですか....。っ....!」
彼女がそう言うと、少年は顔を伏せながらもその場を後にする。
その去り際に何かがキラリと輝いていた。
そんな少年の後ろ姿を見ながら、疲れたように溜息を吐いている。
そんな『彼』を見ながら、俺は物陰から姿を現す。
今にも漏れ出してしまいそうな笑いを堪えて。
「ぷっ...ふふふ....お、おう。おつか...ぷふふぅっ!!」
俺は彼に手を挙げて声を掛ける。
すると露骨に彼は俺を睨みながら忌々し気に言葉を漏らした。
「お前....見てたのかよ。」
「おう...ククッ...なんかお前が呼び出されたって聞いて急いで来たんだ。イヤーやっばいなお前。」
もうちょっと堪え切れそうにない。
笑いながらも言葉をなんとか口から紡ぐと、彼はどうにもそれが癇に障ったらしい。
「見てるくらいなら助けてくれよ。ああいうの面倒なんだからさぁ。」
「は?そんな野暮な真似するわけないだろ。お前にとっては数十回された告白でも彼にとっては一世一代なんだぞ?それに無用な誤解は避けたいしな。」
「後半が本音だろうが、性悪が.....。こっちの気も知らないで....。」
別に前者が嘘というわけでもないんだが。
あの子泣いてたぞ。
まぁ、俺からしてみれば元男に告白している時点でこういう結末も予測していただろうけど。
「いいじゃん、人気者なんだし。連日他校の生徒まで出張るくらいの告白祭り。もうね、お前人気のラーメン屋かよ。普通に見てて面白いわ、しかも大体元男でも見境ないんだわ。世の中には元男でもイケる奴って案外居るもんなんだねぇ。」
「こっちはまったく面白くないけどな!!」
彼はキッとこちらを睨むと脛を蹴って来た。
痛いんですけど.....。
でも煽ったのは俺なので、甘んじて受けるとするか。
「で、お前は何しに来たんだ。」
彼はそっぽ向きながらも視線だけこちらに向けた。
それに対して俺は答える。
「何って、教室に連れ戻しに来たんだよ。もうすぐ昼休み終わるだろ?なに?身体が女の子になっちゃって時計読めなくなっちゃった?」
「殺すぞ。....別に教室にくらい自分で戻れる。」
どこか意地を張るようにそう呟く彼。
やれやれ...仕方ない奴だ。
どうにも自覚がないらしい。
「お前告白された後、タラタラそこら辺ふらついて授業遅刻するだろうが。連日お前が遅刻するせいでなんでか幼馴染の俺まで怒られるんだよね?理不尽と思わない?だから俺は俺の為にお前を引き戻しに来たのだ!」
俺が胸を張って、そうコイツに言う。
なんで俺がお前のせいで怒られなきゃいかんのか意味分からんしな。
まったくいちいち黄昏やがって、思春期のガキかお前は。
...思春期のガキだったわ。
「結局自分の為かよ....。分かった分かった、わぁーたよっ!教室に戻るぞ....。」
溜息を吐きながらも先を行く彼。
どこか物憂げな表情しているのが分かる。
気にしているのだろうか?
まぁ気にはなるだろうな。
女になった瞬間、急に男に群がられるように告白されているわけだから。
俺からしてみれば親友に男が群がってらぁwwとなるような光景だが、アイツからしてみれば溜まった物じゃないだろう。
振る方も疲れるという話は姉ちゃんが腐るほどしてたしな。
「なぁ、気にしてんのか?どうせ今の奴も見た目が良い奴見つけたらお前のことなんか忘れてそっちに告白するさ。男のお前に告白するような奴らだぜ?見境ないって。いちいちそんな連中気にしてたってしょうがいないだろ?間抜けな奴らが引っかかったって笑っとけば良いんだよ。俺だってネトゲでネカマしてる時はそうしてる。」
「お前の例と一緒にするな....でもまぁ、そうだな。あんがと....ちょっと気が晴れた。」
奴は笑うと、また教室へと歩き始めた。
やっぱ女体化した奴は難儀なものだなぁ。
今日は一段とテンションが低い。
しょうがねぇなぁ....俺が帰り際にラーメンでも奢ってやるか。
そう思いながら、彼...牧町要の後をついて行く。
女性名に変わって今の名前は奏だそうだが、そんなのは関係ない。
アイツは、俺の幼馴染で親友で女が好き。
見た目が変わっても、そこはなんら変わらない。
◇
放課後。
授業が終わったことでクラスメイトは皆疲労感を露わにしながら思い思いの友人に話しかけつつ、教室を後にする。
そして、そんな俺も要の机に向かった。
「お~要、一緒に帰ろうぜ~。つか、帰り際ラーメン屋行かね?奢ってやんよ。」
俺はこの前行った時にもらったラーメン半額券をぴらぴらとさせる。
いや~、それにしても優しいな俺って。
普通元気なくても飯奢るなんてあんましないだろ、半額だけど。
そういう意味では俺と幼馴染であることのありがたさを噛み締めてもらいたいね。
おらっ!今日元気ないね!?ラーメンぶちこんで気つけしてやるからなぁ~。
俺がそう言うと、アイツはどこか残念そうな表情をする。
どうしたのだろうか?
さては放課後にまた告白に呼ばれたのか?
かぁっ~、顔が良いと辛いねぇ~。
俺も女の子に告白とかされねぇかなぁ。
あっ、元男はNGで...いや選ぶ立場ですらないってことは分かってはいるんだけどね?
「お前がおごるとは珍しいな。だがすまん。今日は姪っ子が家に来るから家族総出でどこかにご飯を食べに行くんだ。」
「へぇ、それじゃあラーメンは無理だな。」
「あぁ。明日は一日休みだろ?明日にしてくれ。」
要は明日にしようと言ってくる。
明日か...創立記念日だから確かに一日休みだな。
だが、悲しいかな俺にも用がある。
「悪いな、明日はネットの友達と会わなきゃいけないんだ。」
「ネットの友達か....ネット上とはいえ俺以外の人と遊ぶなんて本当に珍しいな。どんな奴なんだ?」
何故かコイツはそこに食いついてくる。
え~、普通人の友達の事なんか知りたいかぁ?
「なんでも元男の人なんだって。」
「はぁぁあああ!?」
奴の突然の叫び声が耳をつんざく。
なんだコイツいきなり....うるせぇな。
ジト目を奴に向けると、奴もこちらに詰め寄ってくる。
「お前、散々『元男に告白する奴とか世間にはいるもんだなww』とか『男のお前に告白するような奴だぜ?ww』とか抜かしておいて、自分も元男と知ると飛び付くのか!?どこぞの!顔も知らない男女と!?」
なんか凄い剣幕で迫ってくる。
なんだなんだ....。
なんでこんなに怒ってるんだ....。
あっ、そうか!
コイツは最近自分が女になった瞬間告白してくるような奴らに疲れている。
つまりは良い印象を持っていないということだ。
そして、親友であった俺がそんな奴らと同じような輩だと思ってキレてるってことか。
まったく、親友として嘆かわしい。
俺の事が分かっていないじゃないか。
「おいおい、勘違いするなよ。そういうんじゃないよ。」
「ハッ、どーだか。どうせお前もち〇こでしか考えていないんだろ!?元男だからわかってくれそうとか勝手な期待持ってるんだろ!?そういうの迷惑してるんだよ俺みたいな奴はぁ!!」
「わ、分かったって。声大きい....近所迷惑になるだろ。」
彼をまるで暴れ馬を落ち着かせるようにどうどうと制す。
怖いなぁ...女の身体になったわけだし、もしかして生理とかだろうか?
「それに、考えてもみろ。その人社会人なんだよ。つまりは女になる前はおっさんってわけじゃん。」
「...まぁそうかどうかは確かではないが、その可能性が一番高いな。」
貧乏ゆすりをしながらも、要は頷く。
どうやら少しは抑えてくれるようだ。
ヒステリックな人間は男にも女にも忌避されるぞと思いつつ、俺は口を開く。
「無理だよ、元々おっさんってことがチラついて女として見れねぇよ。だって女になるまでは俺と同じくAVとか見てちんぽこ扱いてたような奴だぜ?親友であるお前ですら全くそういう風に見れないのに、どこのどんな生活習慣と嗜好をしたかも知らないおっさんなんか無理無理w」
そもそも俺は純女の子が好きな質だ。
AVでも元男だと分かると抜けなくなるような男なのだ。
俺が言うと、要はどこか納得したようなしていないようなどっちつかずの何とも言えない表情になる。
「...まぁ、お前はそうだな。それで?じゃあなんで会いに行くんだ。」
「そりゃギルマスだし、始めた時から世話になってるし趣味の話とかも合いそうだし?それに何を勘違いしてるのか知らないけど、俺以外にも男居るみたいだから心配いらないって。」
「...そうか。まっ、どうでもいいがな。」
急に興味を失ったかのようにそっぽ向く要。
いやお前、聞いといてどうでもいいって.....。
なんだコイツ情緒不安定なんか?
やっぱ生理説が濃厚ですねこれは....。
なんで姉ちゃんに気を遣って、親友の生理にまで振り回されないといけないんですかね....。
勘弁してくれよ....。
「まっ、それでもどんな人間か分からないんだから注意くらいはしとけよ。」
深刻そうな表情で俺に言ってくる。
おいおい、何言っちゃってんの?
女の見た目のお前が男の俺に言ってもギャグにしかなんねぇつーの。
「それを言うのは俺の立場だろ?大丈夫大丈夫、俺はお前と違って男なんだから。そんな何かあったら自分でなんとか出来るって。」
俺は笑って答える。
まったく、あべこべでちゃんちゃらおかしい。
女の子がネットの友達に会いに行くならまだしも、男だよ俺は?
コイツも、色々あって疲れているのかね。
そんな調子で話しをしていると、ちょうど俺の家に着いたので要に手を振る。
すると彼もはす向かいの自分の家の扉の前で手を振り返した。
携帯を見ればギルマスであり、明日会う予定のガンギマリ筋肉さんから待ち合わせ場所と時刻が送られてきた。
ガチムチーターさんと会うのも初めてだし、オフ会楽しみだなぁ。
◇
オフ会当日。
駅の前で人を待っている。
この像の前で間違いはない筈だけど....。
そう思っていると、前方に二人の女性が歩いてくる。
一人は眼鏡をかけた知的そうな女性、そしてもう一人はなんかちょっと褐色のガラが悪そうなギャルのような恰好をした女性。
そして、俺の方まで真っ直ぐ来ると眼鏡の女性はにっこりと笑って俺に声を掛けてくる。
「え~とぉ、しっぽりマッコリさんですかぁ?」
「え、は....はい。」
俺が頷くと、その女性は嬉しそうに手を合わせる。
「あぁ~、すぐ見つかってよかったぁ~。私、ギルマスのガンギマリ筋肉ですぅ~。初めまして~。」
「あっ、ガンギマリ筋肉さんでしたか。リアルでは初めましてですね。」
どうやらこの女性がガンギマリ筋肉さんのようだ。
いきなり普通に美人な眼鏡お姉さんに話しかけられて緊張したが、なるほどそれは納得だ。
確かに美人に見えるが元男。
それ以上に社会人であり、元おっさんだ。
何を緊張する必要があるのか。
俺はあくまでリアルでは初対面である為に一応敬語を使って話す。
すると隣の褐色の女性も口を開いた。
「事前に高校生って聞いてたし、青臭い感じがしてすぐに分かったわwねっ、麗華。」
「ホントそうだねぇ。若さって言うのを感じるよ~。」
褐色の女性の言葉にガンギマリ筋肉さんが同意する。
この人は....一体誰だろう?
というか、ガチムチーターさん遅いなぁ....もう約束の時間なのに。
「えーと、まだガチムチーターさんは来ていないみたいですね。どうします?なんかお連れの方もいらっしゃるみたいですけど....。」
俺が言うと、二人は顔を見合わせた後におかしそうに吹きだす。
なっ、なんだ....?何かおかしなことを俺は言ったのだろうか?
「悪いけどさ、ガチムチーターってのはオレなんだわ。」
「えっ、でも男性って.....。」
どういうことだ、話が違う。
俺が戸惑っていると、彼女....いや彼はヘラヘラと笑う。
「そりゃ前は男性だったわけだから男って言っても別に問題なくね?なに?文句あんの?」
「い...いや、別にないですけど.....。」
何故か剣呑な雰囲気でこちらに詰め寄ってくるので咄嗟に目を逸らす。
なんだか怖い....どうしたんだろうか?
何か気に障ることでも言ってしまったのか俺は?
俺が困惑していると、ガンギマリ筋肉さんが笑う。
「ちょっとぉ~、怯えちゃってるでしょ~やめなって。いきなりお姉さんに囲まれて怖かったよね?ほら頭撫でてあげよっか?ふ...ふふっ.....。」
彼ら二人は俺を見て笑っている。
な...なんだ?なんで笑ってるんだ?
ていうかなんでそもそも男だって嘘を吐いたのか?
おかしい....今の状況は明らかにおかしい。
「おろおろしやがって....あぁ、もう我慢できねぇ.....もう面倒な前段階なしにしようぜ。」
そう思った瞬間、ガチムチーターさんに急に腕を掴んで俺を自分の方に引き寄せる。
その掴む力は手首に痛みを感じるほどに強く、否応なしに引き寄せられる。
そして、がっちりと抱き留められる。
強く締め付けられて腕の中から出られる気がしない。
そんな彼を見て、ガンギマリ筋肉さんは別段止めることすらなく笑みを浮かべている。
「うわぁ、もうそんな興奮しちゃうの?流石食いついて来ただけあるね。」
「当たり前だろ...だって男子高校生、未成年だぜ?男の時から男子高校生とヤッてみたかったんだよなぁ。」
そんなおぞましいことを口にする彼。
その瞬間、嫌な想像が頭を過る。
コイツ、もしかして男の時はホモだったのか?
そして態々男だって嘘を吐いて、ここに来た理由....まさか。
それを想起した瞬間、身体が震えた。
「それ、私も。良いよねぇ女になって。ちゃんとマンコ使って男とヤレるんだからさ。」
すると、ガンギマリ筋肉さんも後ろから抱き締める。
彼の腕の力も強く、身動きが取れない。
俺の最悪の想定は、的中した。
この野郎どもは、元からこういうつもりでここに来たのだ。
こんなことなら、チャットとかで学校のこととか愚痴らなければ良かった...。
「や...やめてください。」
絞り出すようにしか言葉が出ない。
身体を狙われている。
しかも元男のホモ共に。
それだけで、身が竦む。
俺が精いっぱい口にした言葉。
しかしそれを聞いても一層彼らの笑みが濃くなるばかりだった。
「うわぁ....可愛い。私も辛抱堪らなくなってきた。もうさ、ホテル行っちゃおうよ。」
「ほ...ホテル...!?」
俺が驚きの余り聞き返すと、前で抱き留めてやがるガチムチーターが笑う。
「お前さ、前チャットでバキバキ童貞だって言ってたろ?だからオレらが童貞卒業させてやるよ。よかったな、年上の眼鏡美人に黒ギャルだぞ。」
耳に口を寄せてねっとりと絡みつくようにそう言ってくる。
気持ち悪い。
もしや、TSした人が居ると聞いて俺がそういう人に興味があると思っているのだろうか?
だとしたらしっかりと言わないと....。
「そ、その....お、俺.....、元男の人ってそういう対象で見れなくて、だって元々俺と同じ野郎だったわけでしょ?な、なのでこんなことしても無駄なんでやめてください...俺興味なくて...勘違いさせたなら謝りますから....。」
俺がそう言いながら顔を上げると、ガチムチーターの目が据わっている。
底冷えのするような感覚を感じて後ろを見るとガンギマリ筋肉も同じだ。
「ねぇ、このガキ私達に興味ないって言った?選べる立場じゃない癖に?」
「なんだこの餓鬼生意気だな...トラウマ残るくらい滅茶苦茶にしようぜ。」
「な、なにを.....。」
俺が尋ねようとした瞬間、身体を締め付ける腕の力が強くなる。
痛い。
「お前の人生台無しにしてやるって決めたってことだよクソガキ。もう取り繕うのはなしだ。これからぐちゃぐちゃにレイプした後に裸の画像なり撮って、肉バイブにしてやるからな。」
「抵抗しようとか、思わないでねぇ?今も分かるでしょ?私達これでも鍛えてるんだよぉ?君じゃ力では勝てないねぇ....?...これさ、男だった時にノンケ無理やり食って泣かした時に似てない?」
「アレ、マジで楽しかったな。」
楽しそうに二人は言葉を紡ぐ。
しかし、俺は全くの逆。
地獄の底に突き落とされたかのような絶望感。
コイツら頭おかしい....。
身を捩ることぐらいしか出来ない二人の腕の牢獄の中、自身の貞操を狙われているのだ。
女の身体ではあるとはいえ、ホモに。
ど、どうしたら.....。
そうだ、助けを呼ぼう。
声を上げて周りの人を呼んで....。
「だ、誰か助け...ふごっ!」
「油断も隙もねぇな。」
ガチムチーターに無理やり顔を胸に埋めさせられる。
大きな胸の間に挟まれる。
すると、後ろからも挟み込むように胸が押し付けられた。
これでは、まるでサンドイッチだ。
「うわぁ....必死に出ようと藻掻いてるよ....。可愛いなぁ...そんなことしても却ってコッチが興奮するだけなのに....。」
「取り敢えずホテル行く前にさ、ここで一旦イカセて大人しくさせようぜ。」
「いいね。」
こんな公共の面前で!?
やっぱりこの人たち正気の沙汰じゃない。
イカレホモだ....。
前に居るガチムチーターがゆっくりと俺のケツに手を伸ばすとゆっくりと揉み始める。
そして、後ろからガンギマリ筋肉が身体を舐めるように撫でて来た。
そしてその手は段々と俺の男の象徴を掠める段階にまでたどり着く。
撫で方とかが、本当にキモイ。
しかし、顔や頭に感じる胸の柔らかさ、匂い。
それを感じ取っていると段々頭がポッーと朧げになっていく。
そして、下半身がおかしな感じになって来た。
これは....嘘だ!何かの間違いだ!!
だって、そうじゃないと...これじゃあ。
俺は、こんな元男の糞ホモに興奮しているみたいじゃないか!!
「おいおい、僕は興味ありましぇ~んとか言っておいていっちょ前に勃起してんじゃねぇかw」
「ピュアな童貞君に教えてあげるけど、男の身体っていうのは弄れば意志に反して準備万端になるんだよぉ?ぷっ...コイツ涙目になってる。」
彼らは嗜虐心を露わにしながらまるで追い立てるように手を動かす。
俺は、なんとかその手を避けようとするも締め付けられて動けない。
こんな...こんな場所で元ホモにイカされちゃうのか...俺。
『まっ、それでもどんな人間か分からないんだから注意くらいはしとけよ。』
親友の言葉が脳裏に過る。
あの時は考えすぎと一笑に付していたが、今は身を持って要の正しさが分かる。
せっかく親友が忠告してくれたのに、こんな所でこんな奴らに好きにされるなんて...情けない。
コイツら、俺を撮るつもりだ....そんなの嫌だ....。
誰でも、何でも良いから誰か助けて....。
必死に祈りながらも身体を触られてびくりびくりと身体を揺らす。
その瞬間、そんな混沌を切り裂くように清涼で...それでいて聞きなれた人物の声がした。
「なにしてるんですか、俺の幼馴染放してくれませんかね?」
その声を聞いて、なんとか胸の間から顔を出してその方向を見ると一人の少女。
しかし、俺はソイツが女ではないことは知っている。
俺の幼馴染、親友である牧町要。
彼が、携帯電話を持ちながら俺を挟んでいる二人を睨んでいた。
そんな...どうしてお前が、そこに居てくれてるんだ。
「は?幼馴染ぃ?えっ、マジ?」
「....何っていちゃついてるだけですけどぉ?たとえ幼馴染だったとしても、なんら関係ないよねぇ?」
ガチムチーターは露骨に嫌そうな顔をし、そしてガンギマリ筋肉は悪びれる様子もない。
しかし、俺の幼馴染はまったく引く様子を見せない。
「....関係ありますよ。そいつ、親が今日遠方から叔父が来るのをもてなさないといけないの忘れてたんすよ。だから親から引き戻せって言われてるっす。分かるかよ、そいつの保護者が戻ってこいって言ってんの。多分、未成年の保護者の合意もなしにアンタらがそいつ連れて行ったら警察、呼べますよね?」
そんな予定はなかったはずだ。
多分、俺の為に嘘を吐いてくれている。
すると、俺の後ろに居るガンギマリ筋肉が心底面倒くさそうに溜息を吐いた。
「放すよ。」
「えっ、良いのかよ。別にしょっぴかれるか分からねぇじゃん。」
「そうだとしても面倒臭いじゃん、レアな男子高校生逃すのは口惜しいけど、面倒事は避けたいよねぇ~。」
そう言うと、後ろから抱き締めていたガンギマリ筋肉の拘束が弱まる。
するとそれに付随して、ガチムチーターの腕の力も緩んで二人は俺から離れる。
これ幸いと、要の方へと走っていく。
要は立ちはだかるように彼らをただ睨んでいる。
すると、彼らはヘラヘラと笑って手を振る。
「女付きかよ...ホント世の中クソだわ。」
「うわぁ、マッコリ君運がいいね~。次からはネット上の友人とリアルで会わないようにしなよ?こんな風に怖い思いするからさぁ?」
そう言って彼らが歩き去っていく。
「下衆が....、おい大丈夫か?」
そんな彼らを見ながら要は吐き捨てると、俺の目をまっすぐ見つめてくる。
顔も知らない、元ホモのおっさん共に貞操を狙われて恐怖を感じていた。
だからこそ、同じ元男の女でも見慣れていて心が通じ合っている親友を見ていると安堵感で目の前がぼやけて。
「マジで...マジで有難う、本当に!お前が居なかったらどうなってたか....助けてくれて、マジで有難う...有難う....っ。」
「お、おい何泣いてんだよ.....。」
どこか困った様子を見せる要。
本当に、有難う。
お前が幼馴染で、本当に良かった.....。
◇
帰り道。
一通り泣いたら少し落ち着いた。
しかし、ある事実が俺の心中に影を落としていた。
「...おい、マジで大丈夫かよ。」
要が心配そうに聞いてくる。
2回目の質問だ。
俺は、そんな彼に向かって心配させないように笑顔を作る。
「だ、大丈夫だよ。うん.....。」
しかし、そう答えるもさっきのように彼は納得しない。
ただ深刻そうな表情で俺に言葉を掛ける。
「...俺達、幼馴染じゃん。何かあるなら言ってくれ。...嫌なことがあった時、溜め込めないで言った方が良いって聞くぜ?」
要は真摯な表情で俺に言ってくる。
溜め込まないで言う....か。
確かにずっと思い悩むのは精神衛生上よろしくないし、それにコイツの忠告を聞かないで今日の体たらくだ。
ちゃんと忠告は聞こう。
「俺さ、TSした奴は対象外って言っただろ?」
「...言ってたな。」
どこか歯切れの悪い様子で同意する彼。
しっかりと彼は聞いてくれている。
「でもさ、さっき...俺、アイツらで勃起した。おっぱいとか押し付けられたり、身体撫でられたりしたけど、それでもあの元男にしてクソホモに俺は勃起しちゃったんだ....。」
「...へぇ。」
最低の気分だ。
あんなに高らかに言ってたのに、まさか寄りにもよってあんな奴らで勃つなんて。
「TS娘って元男だよ?それで勃起するとか....もうホモじゃん。俺、本当はホモだったのかな.....、本当はその才能が有ったのかなぁ....。だとしたら自己嫌悪で消えてしまいたい....。」
俺は、純粋に女の子が好きなはずだ。
そんなことは受け入れられない。
頭を抱えると、要は肩に手を置く。
そして、やさしい表情で言葉を掛けてくれる。
「それはホモじゃねぇよ。少なくとも身体はれっきとした女だったんだろ?だったら、お前は間違ってない。アイツらが間違っているだけだ。」
「そうかな....そう、かも。元男でも身体は女だもんな...うん。」
「あぁ、だからTSした奴に欲情するのはなにもおかしくねぇ。自然だ、だから『そのまま』で良いんだよ。」
いつもは減らず口を叩き合うような仲。
だけど、今だけは俺を完全に肯定してくれている。
その気遣いが、嬉しかった。
「...ありがとな、要。俺はつくづく親友にお前が居てくれてよかったと感じてるよ。」
「...良いってことよ。....それにしても、元男に欲情ねぇ。」
彼の言葉を聞いて、彼の顔を見る。
すると、どこか微笑を湛えている。
ただその目は俺を見ているも、まるで品定めするような鋭さを感じてどこか胸騒ぎがした。
「な、なんだよ....。」
俺がそれに耐えきれずに尋ねると、奴の笑みがまるで小馬鹿にするような物に変わる。
「いや?前に俺が告白とかいう面倒臭いことされてキツイ時に笑ったろ?その仕返し。」
「今!?器がちいせぇなお前!お前の時と違ってこっちは貞操かかってたんだぞ!?もっと優しくしてよ!!」
「あーあー、もっと優しくね。了解。」
嘆くようにそう言うと、彼はやれやれと言った様子で首を振りながら手を繋ぐ。
さっき無理やり引き寄せられた時とは違って、やさしく掌を包まれる。
なぜか胸が跳ねるような感覚がした。
「なっ!お、男と手つないでなんのつもりだよお前!」
「は?親友がせっかく怯えているお前を安らがせてやろうと思ったのになんだその態度は。別に変な意味なんかねぇよ、だって俺達『親友』....なんだろ?」
「...そ、そうだけど。」
心底不思議そうに首を傾げる彼。
しかし、俺は要の顔を直視することが出来なくなっていた。
おかしいだろ!
可笑しいだろ!コイツは俺の親友で幼馴染で女好きなのだ。
コイツでこんなことになるはずが....。
畜生、やっぱり変だ。
さっきのことを引き摺ってしまってる....。
「だったら問題ないだろ。」
「そ、そうだよな。は、ハハ.....。」
なんだか押し切られているような感じもするが、態々親友が俺の為に気を遣ってくれたのだ。
それならば、享受するべきだろう。
俺はしっかりと彼の手を握り返し、そのまま帰路についた。
しっかりと握られている手。
どこか緊張でもしているのか彼の手の平が手汗でじっとりしているような気がするも、大した問題じゃない。
目下の自分の問題は目の前の幼馴染にバレないようにする為。
彼に見えないように笑みを浮かべる。
それもむべなるかな。
これまで求めて来た者は手に入る望みがなく、諦めるしかなかった。
しかし、今回の出来事とさっきの彼の発言で一縷の光が見えたのだ。
(これ、行けるじゃん....。)
その心中はさながら狙いを定める肉食獣のような面持ち。
しかし、少年はそんなことに気づく余地もない。
僕は多分可愛い子が何か企んでいるシチュが好きなんだろうなって思いました。