TS娘に興味はない。   作:胡椒こしょこしょ

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休日に幼馴染

午前10時。

本来は学校に居る時間。

しかし、俺は机の前でPCゲームしている。

なんとか親に頼み込んで買ってもらったそこそこのスペックのPC。

それの結局の用途が顔も知らない誰かと撃ち合いをすることなんだから悲しくなる。

 

「おい!また煽られたぞ!エイムガバガバじゃん真面目にやれぇ?」

 

背後にはにやつきながら耳元で捲し立てる要。

ぴったりと俺の背中にくっつく。

ここに来てからずっとこれだ。

とうとう我慢の限界を迎え、俺は後ろを振り返って口を開いた。

 

「お前の胸が当たってエイムがズレるんじゃボケぇ!!」

 

さっきから狙おうとすればするほどムニュムニュと背中で奴の胸が当たっていたのだ。

俺はTS娘に興味はない。

....だが、件の逆レ未遂事件の時に不本意であるが新たな扉を開いてしまったようで、身体はいっちょ前にTS娘に興奮するようになってしまっている。

まぁ、彼らも中身は元男でも外身はれっきとした女の子となんら変わりない。

要はだから反応することは普通のことだと言ってくれたので、折り合いを自分の中でも付けたつもりだったが、ただでさえ男共に女として見られることに疲労している親友にも反応するようになった。

 

そのことで俺もいずれは彼らと同じになってしまい、親友は誰にも気を許せなくなるのではないかという一種の焦燥感まで抱いていたのだ。

その悩みの元である幼馴染がラフな格好をして、耳元でキャッキャッと騒ぎながらムニムニと胸をくっつけて来たら誰でもこうなるだろう。

人の気も知らないで呑気なものである。

 

俺が悲鳴の如く声を上げると、弾かれたように身体を離す。

しかし、こちらを窺うような目線を向ける要。

その口元には笑みが張り付いている。

 

「あっそっかぁ、そう言えばこんなのついてたよ忘れてた悪いな。それで、お前は私の胸が背中に当たって興奮したってことか?」

 

「しょうがないだろ!お前が言ったんだからな!TS娘に反応するのは悪い事じゃないって!」

 

「おいおい、俺は別に悪い事だとは一言も言ってないだろぉ?ただなるほどなぁって思ってさぁ...?」

 

ニヤニヤと笑みを浮かべる要。

この野郎....明らかに面白がっているな。

こちらを弄るネタが出来て、嬉しいそうである。

やっぱ性格悪いなコイツ....。

 

ジト目で彼を見つめていると、彼は思い出したかのように口を開く。

 

「そういえばさ、お前がFPSやってるとか珍しいな。やっぱり前やってたネトゲは辞めたのか?」

 

「...そりゃギルマスとあんなことになったんだ。もう怖くてゲームやれねぇよ。やめたわ。」

 

やはりトラウマはそう簡単に消えない。

俺がやってたオンゲは協力することが前提であり、ギルドに所属している以上、人間関係がギルド内にも存在する。

そして、そのリーダーがあんな元ホモがやっていると分かった以上、もう奴らと関わり合いになりたくないので続ける理由もないのだ。

 

「まぁ、そりゃそうだな。お前もそのくらいの判断が付くみたいで安心したよ。」

 

「お前は俺をなんだと思ってるんだ.....。」

 

俺が彼をジト目で見つめるも、彼も目を細めて俺を見つめ返しながら口を開く

 

「会う以上、気を付けろって俺が言ったのにホイホイ食われそうになってたのは誰だったっけ?」

 

うっ!中々痛い所を突いてくるな....。

そこを出されると弱い。

要から言われていた忠告にちゃんと耳を傾けていればあんな風にはならなかったかもしれない。

 

「いや、その件についてはその....なんも言えねぇ....」

 

まごう事なき事実である。

論破されてしまったな....。

すると、彼は呆れたように溜息を吐く。

 

「いや、まぁ正直そんなことはどうでもいいんだけど。それでお前FPSやってたのか?」

 

俺のプレイ画面を見ながらそう言ってくる。

画面では『F××K』とチャットが送られていた。

マナー悪いなおい。

 

「元々敬遠してたけど、案外やってみたら面白いかなって初めて見たんだよ。」

 

「へぇ、それで面白かったのか?」

 

彼の問いに首を振る。

昨日の夜から始めて、始めたばかりだからかもしれないが感じた所感を口にする。

 

「今はそうでもない....なんていうかこういうの合わない気がするんだよなぁ。始めたばかりで上手くないからかもしれないけど。」

 

「あ~、なんかお前こういう瞬間的な判断とか苦手そうだもんな。」

 

納得したのか訳知り顔で頷く彼。

なんだその物言いは。

それではまるで...。

 

「俺が鈍臭いって言ってるみたいじゃないか。やかましいわ。」

 

自分ではこれでも鋭敏なつもりだ。

PCの画面ではリザルトが表示されており、溜息が出る程に無惨なスコアが表示されていた。

どうにもこういうゲームは俺には向かないようだ。

 

「やめた。もう今日はいいわ。」

 

そう言うと、アプリケーションを終了してゲームを閉じる。

すると、要はこちらに歩み寄ると横に立つ。

 

「それじゃあ、下にでも行くか?それか外に行っても良いぞ。」

 

まぁ外に行くのも悪くない。

だが俺はまだ飯を食べていない。

結局下に行って何か食べる必要があるということだ。

ただそこには一つ懸念要素がある。

 

「そういえば、姉ちゃんはどうした?下に居るのか?起きた時には既にもうお前が居たから下の様子は知らないんだけど。」

 

tmitterを開いて、適当に眺めながら要に聞く。

すると彼は首を横に振る。

 

「いや、俺がここに来た時に丁度出かけようとしていたお前のお姉さんに会ったから、もう居ないと思うぞ?両親の方はまだ分からないけど.....」

 

「そこはまぁこの時間だし、まだ寝てるんだろ。平日は忙しい分、休日に寝貯めしてるんだよ。まぁ、それならいいや。下に行くぞ。」

 

まぁ偶に冬眠明けのクマみたいにヌッと出てきて冷蔵庫からお茶飲んだりするくらいじゃないか?

父親は起きているかもしれないが、母親は少なくともお昼までは寝ているだろう。

俺の言葉を聞くと、要はどこか呆れた顔をする。

 

「お前、自分の姉ちゃんどんだけ苦手なんだよ。」

 

確かに傍から見ればその感想が出るだろう。

しかし、それは一度あの女の弟として生を受ければ考えが変わるはずだ。

情緒不安定で優しい時と機嫌悪い時の落差が激しいのだ。

なんだよそれ....触れる者皆傷つけるジャックナイフかよ....。

それでいて外面が良いから性質が悪い。

要が呆れるのも、奴の本性を知らないが故なのだ....。

 

 

「...あの人、機嫌悪い時が分かりにくいから怖い。」

 

「お前怖い物だらけじゃねぇか。」

 

たしかに。

TS娘(幼馴染は除く)に恐怖心を抱いたせいで外に出てもビクビクする羽目になり、それでいて家では身内にビクビクしている。

なんだこれは....この世界に俺の居場所はなかった....?

まぁ姉に関しては怖いけど、嫌いじゃないし.....。

 

「うるせぇ。良いから行くぞ。...飯どうしよ。適当になんか作るか?インスタントでも。」

 

「いいな。俺も食ってないんだよ。頂いてもいいか?」

 

「いいよ、別に。」

 

昔からの付き合いだ。

今更拒む理由もない。

俺は彼の申し出を了承すると、席を立とうとする。

すると、ふと思い立ったかのように彼が言葉を続ける。

 

「そういえばさ、お前こういうの好きなの?」

 

「え?何が?」

 

俺が聞き返すと、ほらと彼はPCの画面を指さす。

そこには俺のプロフィール欄。

ちょうど昨日見たおもしろツイートを遡ろうといいね欄を開いていた。

そしてそこにはそのツイート以外にもイラストだったりが並んでいる。

彼が指さしているのは目が据わってなんか男キャラ模したぬいぐるみを持っている少女の画像。

 

「ほら、こういうのヤンデレって言うんだろ?好きなの?」

 

「...まぁ、好きだよ。」

 

なんというか一途にここまで愛されるなんて男の夢のように思える。

まぁモテない男特有の好意と明確に示してくれるアニメキャラが好きって奴なのだが、それでも好きな物は好きなのだ。

あーあ、俺もここまでべったり好きで居てくれる女の子とか居ねぇかな。

こんなに一途に思ってくれるならストーキングとか監禁されてもおつり来るだろ。

まっ、現実にそんな奴なんか居るわけないんだが。

 

「ふーん、でもなんかこういう女って現実では地雷だよな。」

 

「...あのなぁ。ヤンデレっていうのは現実には原則存在しない物と考えて良いんだよ。だから地雷っていうのは成立しない等式なんだよ。分かったらその口閉じてさっさと下に行けや。」

 

いかん、ちょっとムッとしてしまった。

こういうのに過剰反応してしまうのは面倒くさいオタクになりつつある証拠だな。

そもそも目の前のコイツは、男の頃からあまり俺とはこういう趣味は合わなかったのだ。

今更目くじら立てる必要もないだろう。

そう、寛容な心だ。

目に見えて貶してきてるわけじゃないからな、ムッとする必要もないじゃないか。

 

「ハッ、それって諦めてるってことじゃねぇか。」

 

「....居ねぇんだからしょうがねぇだろ。」

 

嘲笑するようにそう言う要。

なんだコイツ....随分突っ込んでくるじゃないか。

前だったらへぇ(無関心)で済ませていたというのに..。

 

「可哀想だから俺が少しやってやろうか?ほら、これでも見た目は良いだろ?」

 

「物まねって奴か?いや、そういうの良いから....多分癇に障るだけって俺分かるし....。」

 

あまりよく知らない奴の見た所感だけの物まねほどイラッとする物はない。

多分、俺は自分を抑えられなくなるだろう。

だって姉ちゃん相手だとブチぎれたからね。

まぁ、ボロクソに逆切れされたんですけど。

あれ....この家での俺の立場低くない?

 

「まぁ、見てくれよ。最近一つのネタとしてそういうのの真似とか練習してんだよな。」

 

「なんでそんなことしてんだよ。」

 

「そりゃ、女になってから面倒なことばかりだしな。女だから出来ることも探しとかないと鬱になるんだよ。ほら、女性ボーカルの歌とか歌えるようになったとか。」

 

あー、なるほど。

確かに俺も女になったらカラオケとかで声が高くて女性ボーカルのアニソンとか練習するわ。

なんなら好きなキャラの声真似とか出来ねぇかなって一度やってみるかもしれない。

正直、自分がそんなことしてるのを想像すると少し痛いが...まぁ可愛ければ許されるだろう。

コイツもまぁ?見た目だけは確かに可愛いし?

まっ、中身は俺のよく知る男なんですけどねっ!!

 

「じゃあもう面倒だし、お前やってみろよ。ちょっと待ってろ。」

 

部屋を出ると、隣の部屋に行く。

....うん、いないな。

まぁ居ないってのは要に聞いていたし、そりゃそうかって感じだけど。

そして、お目当ての物を見つける。

それを手に持って、自分の部屋に戻る。

 

「どうしたんだよ?....それ、なんだ?」

 

要は俺の手に持っている物を見て、怪訝そうな顔をする。

俺はそれを要に投げ渡しながら答える。

 

「姉ちゃんのぬいぐるみ。」

 

「えぇ!?あの人ぬいぐるみなんか持ってるのか?」

 

それを聞くと、おずおずと手に取りつつ聞いてくる。

まぁ意外だろうな。

外面的にはなんていうか完璧超人気取ってやがるんだから。

だが、それでも弟の俺に隠すことは出来んぞ....。

俺が姉相手に何故か見ていた同人誌のジャンルが筒抜けだったようにな!!!

しにたい。

 

「意外だろ?そういうファンキーなデザインのキャラが好きなんだってよ。」

 

「...てかお前大丈夫なのか?これ。」

 

不安げな表情を浮かべる要。

まぁ、あの姉が隠していた物を引っ張りだしてきたんだ。

それに俺があの姉を怖がっているのを知っているのだ。

そう聞きたくなるだろうな。

しかし、これに関しては断固として言い切れる。

 

「大丈夫じゃないね。きっと明日生きているかどうかは五分五分だろうな。」

 

「えぇ....大丈夫かよ。戻して来たら?」

 

本気で心配そうな表情をする要。

しかし、心配することはない。

これも覚悟の内だ。

 

「これは復讐なんだ....。家族にはね、勝てないと分かっていながら戦わないといけない時があるんだ....。」

 

「そう...なのか?俺、一人っ子だからよく分かんねぇなぁ。」

 

そうなのである。

あの野郎、俺の読んでた同人誌の話黙っててくれるって約束だったのに親の前でちらちら匂わせやがって.....。

それなら俺だって他人にアンタの秘密見せてやるんだから!!

これでキレられたらあの時のあの人のように逆キレしよう、そうしよう。

 

俺が決意を新たにしていると、彼はPCの方に目を向ける。

どうやら何か検索していたようだ。

少し身構えてしまう。

つい先日ネットで品定めしていたエロ同人がバレたのだ。

そりゃびくつくに決まっている。

しかしどうにも見るにネットの百科サイトっぽい。

 

「ヤンデレについて調べてたのか?」

 

「まぁ、原則どういう物か分からないと真似できないだろ。」

 

こんな所でちゃんとする必要なくない....?

まぁでも、くだらない所で変に凝ってしまうのは俺もよくあることだ。

であれば、まぁ何も言わない。

コイツの女だから出来ることとやらに付き合ってやるとするか。

 

「それじゃ、その物まねとやらを見せてくださいよ。ちなみに、俺は駄目だと思ったら親友であろうとボロクソ言うからな。ヤンデレに関してはそこは譲らん。」

 

「どこ目線で言ってんだよ....。」

 

「有識者目線だ。」

 

自分が好きなコンテンツについては、オタクであればみんなこうなると思う。

長らくヤンデレを愛してきた男であると自負している、だからこそ有識者と言っても良いだろう。

実の所、俺はまったく期待していない。

まぁ酷なようだが、どんなふうに扱き下ろすかだけ考えておくか。

 

すると、要はずっと考え込んでいると思ったら後ろを向く。

そして振り返る。

その表情は、笑みを浮かべている。

されど、目はまるで汚泥のように濁り切っていて意図が読み取れない。

ギュッとぬいぐるみを抱く姿はどこか所在なさげな雰囲気と共に、まるで溢れ出さんばかりの感情をそこにぶつけているようだった。

....なんだろう。

 

「中途半端にうまいの、やめてくれないか?言葉に困るんだよな。」

 

「やっぱあんま好みじゃない物の真似は出来ねぇか。まっ、でも?有識者とかなんだとか抜かしてた奴を黙らせられるくらいにはクオリティが高かったってことで良いのか?」

 

観念したかのように肩を落とすも、ニヤニヤとこちらに笑みを浮かべる。

しかし、正直意識は彼ではなく彼の腕の中のぬいぐるみに向いてしまう。

 

「それより、さっさとぬいぐるみ返してくんない?」

 

「どうした急に。」

 

「いや、やけに強く抱きしめるやんけって思って..。いやこれはないわ。流石に俺が渡したとはいえ、これは流石にまずいわ。お前は俺の命が大事じゃないの?」

 

真面目に要に尋ねる。

いや普通に抱くだけやと思うやん。

滅茶苦茶強く抱きしめるやんけ。

顔潰れてて度肝抜かされたわ。

 

「いや、そんなの知らんし....。てかそれなら最初から渡すなよ....。」

 

そう言いながらも、彼はすなおに返してくれる。

どうにも、俺の様子から尋常ではないと気づいたのだろう。

やばいなぁこれ....ぬいぐるみに癖ついてたら多分持ち出したこと以上に切れるだろうな....。

今更ながらに後悔してきた。

そもそも復讐ってなんだよ、親相手にエロ同人見てたのバレそうになっただけじゃないか。

 

どうにも予感ではあるが、俺の死期が近いように感じられる。

そう思うと、上を見上げて変わり映えのしない白い天井を見ながらも口を開く。

 

「外に....行くぞ。」

 

「え?何が?」

 

不安げな表情で俺を見つめる要。

俺はそんな彼の目を見つめ返して、彼の問いに答える。

 

「...明日、俺は居ないかもしれない。だから、今日....思う存分、遊ぶんだ.....!」

 

「大袈裟だろ....。まぁでも、面白そうだし外で遊ぶのは賛成。それで?何か考えているのか?」

 

呆れながらも俺の言葉に賛同する要。

やれやれ、それにしても呆れた奴だ。

本当に幼馴染なのかと疑いたくなってしまう。

今、こんな状況で俺がこの先のことなど考えていると思うのか?

 

「今思い立ったから考えてない。」

 

「はぁ...そんなこったろうと思ったよ。それならその....。」

 

溜息を吐きながらも、なぜか言い淀む要。

どうしたのだろうか?

そんな彼の様子を不思議そうに眺めていると、彼は今度はしっかりと言葉を口にした。

 

「そ、それなら....映画見に行こうぜ。そのっ...見たい物、あるし....。」

 

「いいな、それ。じゃ、さっさと飯済ませちまおうぜ。」

 

休みの日だからこそ、態々映画館に出張るのも良いかもしれない。

最近は映画なんか点で見てなかったからな。

見たい物...か。

俺らの中だったら、多分アクション物か?

丁度最近CMで時が戻ったり進んだりするようなアクション映画を見た。

多分、それであろう。

であれば、楽しみだ。

期待に胸を膨らませながら部屋のドアノブを捻る。

 

「そっか、決まりだな。」

 

そして背後では要はさっきまでのムカつくようなニヤケ面ではなく、安堵したかのように微笑む。

なんだコイツ、急に顔の良さを前面に押し出して来やがって....。

そんなに風に笑う程、俺が自分の提案に賛成してくれるか不安だっただろうか?

 

何はともあれ飯を食べなきゃ始まらない。

今日一日の方針を決めると、俺達は部屋を出て階段を降りて行った。

リビングには誰も居ない。

まぁ予想通りだな。

 

「あっ、そうだ。俺さ、飯食ったら着替えてきていい?」

 

「え、なんで?」

 

なんで態々そんなことするんだろう?

そう思っていると、彼はジト目で俺を見る。

 

「こんな格好で外を歩き回れる訳ないだろ?」

 

確かに彼の恰好は正直外に出るにはラフすぎる。

多分、これコイツ部屋着のまま来ただろ。

出るとこ出てるのが目に入って大変目に毒なので、次からその余所行きとやらで家に来て欲しい。

しかし、態々コイツが家に戻るのも二度手間じゃないか?

 

「じゃあさ、俺着替えるからお前の家で飯食わない?...っていうかもうさ、外で飯食わない?俺金あるぞ。」

 

「えっ!?奢ってくれるのか!?」

 

「黙れ。自分の飯は自分で買え。飯は前に奢ったろ?」

 

もうこの前ラーメン半額券使ったけど奢ったもん。

委員会の集まりブッチして奢ったのだ。

心が狭いように感じるが、俺も学生。

金があると口にはしたが、そんな頻繁に他人に奢れるほどじゃない。

ましてや安く済ます為のクーポン的な物がないようでは、そのように確約することは出来ないのである。

 

「はぁ~、まぁ確かに?じゃ、俺先に部屋に戻ってるから...お前もそのくっそダサいパジャマから着替えろよ。」

 

「分かってるって。またな。」

 

1階にまで降りると、手を挙げて要が俺にそう言ってくる。

そんな要に手を振り返すと、俺は着替える為にも結局また2階に上がっていった。

...そういえば起きた頃にはアイツが既に居たから気づかなかったけど、アイツあの恰好で一度外に出たんだよな。

俺の家ははす向かいで目と鼻の先であるが、ちょっと無防備な気もする。

まったく....中身は男とはいえ身体は女。

少しは警戒心を覚えて欲しい物だ。

 

 

 

 

 

朝。

俺はアイツの家の前に居た。

昔から飽きるほどによく遊びに来ていた場所。

しかし、こうなってからはいつも少し緊張してしまう。

胸の中が張り詰める。

そんな胸中を押さえつけながら、インターホンを鳴らそうと手を伸ばす。

その瞬間、扉が一人でに開く。

 

「いってきま~....ん?アレ...君。」

 

扉が開いた先。

長い髪を降ろして、気だるげな眼をして家を出ようとする女性。

その人は、俺を見ると目を丸くする。

 

「お、おはようございます....美玲さん....。」

 

つい一瞬目を逸らしてしまうが、俺は美玲さんに挨拶する。

この人は真好美玲さん、アイツの姉だ。

俺は...昔からこの人が苦手なのだ。

 

「あぁ、“要君”か。おはよう....玲人に会いに来たんでしょ?」

 

「そ、そうです....遊びに来たって言うか...迷惑でしたか?」

 

あくまで目上でもあり、また苦手意識からか美玲さんの顔色を窺ってしまう。

すると、美玲さんは笑みを浮かべて俺の言葉に答える。

 

「いや?なんなら良いタイミングに来てくれたって感じかな?私、これから出かける予定だからさ。代わりに玲人起こしてよ。」

 

そう言われて、胸の中が跳ねる。

今、アイツは寝ているのだ。

それを顔に出さないように、笑顔を見せる。

 

「わかりました。任せてください!」

 

「そっ、じゃあ頼んだよ~。」

 

飄々とした様子で俺の肩を叩いて、歩き出す美玲さん。

気を抜けば息を漏らしてしまいそうな程の安心感。

なんとかつつがなく会話を終らせることが出来た。

 

「あっ、そうだ要君。」

 

「えっ、な...なんですか?」

 

そう思った瞬間、美玲さんは振り返って俺に声をかける。

なんだと言うのか、せっかく会話はあれで終わったと思ったのに。

そう思うも、美玲さんの目が逢うとその考えは途切れて消えた。

胸がひくつく。

感情が窺えず、されど俺を見定めるかのような目。

それはさながら俺の心中を見透かしているかのようだった。

 

「私の弟、『ちゃんと』起こしてよ。」

 

釘を刺された。

そう思う程に、その言葉の語気には棘があった。

 

「あ、当たり前じゃないですか....。」

 

「だよね~。」

 

そう言うと、興味を失ったかのように視線を他所に逸らしてしまう。

そして、そのまま歩き去る。

これだ。

俺は昔からこの人が苦手な理由。

感情が窺えないのにも関わらず、こちらの心の内を見透かしているかのような人。

子供心にそれが怖くて、それはこの身体にもなっても変わらない。

 

心中を騒めかせながらも、玄関に入る。

そして、ゆっくりと靴を脱ぎながら深呼吸。

心を落ち着かせる。

 

「おじゃまします...。」

 

返事はない。

どことなく静かにしなければいけない気になって、ゆっくりと階段を上がって二階へと上がる。

何回も上がっているこの階段も、今では別の意味を持っている。

どこか胸の鼓動が速くなる。

そして、アイツの部屋の扉の前。

 

ドアノブに手をかける。

それに呼応して、息が苦しくなる。

始めは困惑した感覚も、今では自分の物だと臆面もなく認めることは出来る。

言葉には出せないけれど、自覚している。

 

そして、扉を静かに開く。

生活感が窺えるような部屋。

前日にマンガでも読み漁っていたのか床には単行本が何冊か転がっている。

その本人は、ベッドで毛布を蹴り飛ばしたかのような姿勢で腹丸出しでいびきをかいている。

 

「ばーか、風邪引くぞ。」

 

ぼそりと呟くも、誰かが返事するわけもない。

ベッドの横にまで歩き寄る。

だらしのない寝顔だ。

こんな物を見て、笑っている。

それも昔とは別の意味で。

こんなの、自分でもどうかしてると思う。

 

今、この場には俺しか居ない。

彼は居るが彼の意識はなく、ここで何が起きようが知る由もない。

 

「おい、幼馴染がお越しに来てやったんだぞ...。起きろよ....。」

 

小声で彼に声を掛ける。

だが、答えない。

答えないなら、もっと近づかないと。

美玲さんにちゃんと起こせと言われたのだ。

だから、これは仕方のない事だろう。

 

「....ふがっ....」

 

俺が顔を近づけているのさえ知らずに、呑気に惰眠を貪っている。

口の端には涎が垂れていて、口は開きっぱなしだ。

自分としては閉じていた方が都合が良いが、贅沢は言ってられない。

 

そのまま顔を近づけていく。

あと少し、もう少しで...。

それと同時に詰まる胸中。

しかし、そんな俺のことなど知ったこっちゃないと言わんばかりに。

 

「ふごーっ...、んあっ....えっ....な、なに....?」

 

吐息が鼻を撫でたからか、目をパッと開ける。

状況を理解できずに困惑した様子を見せる。

反面、こちらはそれどころじゃない。

流石に、この距離で目覚められるのはまずい。

未だかつてない程の焦燥からか全身の熱が抜けて行く。

 

やばいやばいやばい、どうする?どうすればいい?

クソッ、こんな時に高鳴ってんじゃねぇよ思考纏まんねぇだろうがッ!!

頭が回らないことに歯噛みしながらも、なんとかしようとひねり出したのは。

 

「チッ...起きやがった.....。」

 

いつも通り、昔通りの悪態だった。

その言葉を聞いた瞬間、顔色を豹変させる。

そしてアイツは大きく口を開いた。

 

「お前、まさか....やりやがったなぁ!!」

 

そう叫ぶとバタバタと起きると、部屋を出る。

その様を見て、思い起こすのはあの日。

コイツが心配でこっそりついて行った先で見た、あの光景。

自分と同じ女擬きに、絡みつかれて怯えていたアイツ。

流石に....今のは、まずかったか。

意識がない内に、そのちゅ...チューとかは。

そう考えていると、再度部屋の扉が開く。

 

「...えっとぉ、どういうことなの?顔、落書きされてなかったんだけど??」

 

髪の端などが湿り気でぺったりと下を向いている。

...そう言えば、前に悪戯でコイツの顔に落書きしたことがあったっけ?

消えないと困るから水性でやった悪戯。

どうにもコイツはそれと勘違いしている模様。

咄嗟に出た悪態が思いもよらぬ方向で働いたようだ。

 

これは誤解だ。

でも、それなのに俺は....。

 

「俺が書く前にお前が起きたんだよ。ったく、つまんねぇなぁ。」

 

悪態を続けた。

あくまで、アイツの誤解に乗ることにした。

すると、アイツは呆れた様子でジト目を向けてくる。

 

「何お前がキレてんの...?滅茶苦茶だなお前....。」

 

やってしまった。

焦っていたとはいえ、昔通りに逃げてしまった。

やっと見えた望み。

あの日から距離を縮めていくと決めたのに....。

どこかで取り返さないと....。

 

そう焦る中、コイツはまぁいいやと簡単に流して、俺の目をまっすぐ見て口を開いた。

 

「おはよう。」

 

「...おう、おはよう。」

 

俺は挨拶を返す。

ただこれだけでも少し気分が上向きになる。

自分のことながら呆れる。

欲しい物が、好きな物が目の前にあるはずなのに手を伸ばそうとすれば思考が乱れる。

だが、それでも,,,,伸ばさないといけない。

自分で手を伸ばさなければ掴み取ることは出来ないんだから。




主人公のエイムは乱れたけど、その前に幼馴染ちゃんくんの心は乱れまくったから両成敗ってことで良いですね!!
男目線では飄々としているように見えて、本人は乙女しているシチュが好きです。
それでいて、男だった時のガンガン行くような肉食さが垣間見られる内面。
こういうのが僕のTSにおける性癖なんでしょうね。
次回はお出かけです。
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