「春香ちゃん、おうちに帰って来たのよ・・・ここはね・・・パパとママが初めて会った場所なの・・・・」
噂のあのセリフをかわす響子さん。
「ほんと、可愛いね~。春香ちゃんは・・・・お母さん似だよね~」
朱美さんは五代くんの方を向いて言った。
「な、なんですか!その目は・・・・・・僕にだって似てますよ、春香は・・・・・」
「どこが?」
「鼻のあたりとか・・・・・・・・・・・・・・」
辺りがし~んと静かになった。
「そんな事より早く、中に入りなよ、管理人さん。立ってるの疲れるんだろ?」
と、一之瀬さん。
「すいません、一之瀬さん。それじゃあ、あなた。私と春香は先に部屋に行ってるから」
「何で?僕もいくよ・・・・」
「でも・・・・・・」
響子さんは心配そうに言った。
五代が振り向くと、目の合った一の瀬さんをはじめとした3人がニコッと笑った・・・・。
「まさか・・・・・・・・」
「そうだよ!こんな日に宴会しないで、いつ、やるんだい!ワッハッハ!!!」
(いつも、やっているじゃないか・・・・)
「ごぉお~~だいくん。あとで、茶々丸に来てくださいね。」
と、四谷さん。
「分かりました。でも、おごりませんよ!ぼくは!」
そして、朱美さんが
「管理人さんも来る?・・・・・て、いつの間に中に行ったんだろう」
すでに響子さんは家(一刻館)に入っていた。
「んじゃ、後で管理人さんに言っておいてね、五代君!」
こうして、やっとの事で、みんなは各部屋に戻って行った。朱美さんは先に茶々丸へ・・・・・・
勿論、五代君は管理人室へ・・・・・。
今、五号室は、五代君が着替えに行くくらいしか用が無いらしい・・・・・・・。
寝るのも、管理人室だからである。
「響子、今夜やっぱり、茶々丸で宴会するってさ」
「そう・・・・でも、春香、あんなうるさいところで泣かないかしら・・・・」
「大丈夫だよ、僕があやすから・・・」
「そうね、あなたがいるから、大丈夫ね」
「でも、響子。大丈夫か?立ってるのだけでも疲れるんじゃ・・・・・・」
「大丈夫よ。それに、一の瀬さんや、四谷さん達にとって、これが精一杯の祝い方なんだから。出席しなくちゃ。」
響子さんは笑顔で答えた。
「そ、そう・・・・・・・・・」
そして、時間はあっという間に過ぎていき、みんなは茶々丸にいた。
「あ、そうそう。どこから、この事が漏れたか知れないけど、三鷹さん一家も来るって。」
と、一之瀬さん。
「どうせ、あなたでしょ」
五代君は横目でブスっと言った。
「ごぉお~~だいくんは、まだ三鷹さんを嫌っているのですか・・・」
四谷さんが聞く。
「そんな事・・・・・・ないけど。何となく・・・・そうなっちゃうんですよね・・・・」
すると朱美さんは
「無理もないよ。あんたと三鷹さん、何年もライバルだったんだから・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「かあちゃん、管理人さん、まだ来てないよ」
賢太郎君が心配そうに言った。
「そうだね~。何してるんだろ。管理人さん・・・・・・・・」
「僕、ちょっと見てきます」
五代君はあわてて茶々丸を出て行った。
全速力で坂を駆け登る五代君・・・・・・。
(なんで、こんなに慌てているんだ、僕は)
そう思った五代君は歩き出した。
(でもやっぱり心配だ!)
そしてまた、走り出した。
そして間も無く、坂の上から春香ちゃんを抱いて歩いてくる響子さんがこっちに向かって来る姿があった。
「響子、どうしたんだい。こんなに遅れて・・・・・」
「え?私、一の瀬さんに洗濯物を畳んでから行くからって言ったんだけど・・・・」
「あ、あ、そうなの?な~んだ、心配して損した・・・」
「心配してくれたの?・・・・・・・・・・・・ありがとう」
「うん・・・・・・・・・・・・・。それじゃあ、茶々丸へ急ごう。みんな待っているから・・・・」
「そうね」
『急ごう』といいながらもゆっくり歩きながら、茶々丸に向かう二人であった・・・・・。
#カラン、カラン、カラ~ン#とドアが鳴る。
「いらっしゃい」とマスターさん。
「ちょっと、一の瀬さん!」
と、怒る五代君。
「いやあ、悪かったね。あんたが行って5秒後に思い出してさぁ。ワッハッハ!!」
響子さんはマスターに春香ちゃんを見せていた。
「いやあ、ほんと、可愛いね~。やっぱり管理人さんの子供だよ!」
と、マスターは言った。
「恐れ入ります・・・」
娘を誉められて、響子さんも嬉しそう。
「そうよね、やっぱり、あなたもそう思うよね」
と、朱美さん。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
五代君は沈黙した。どうせ、僕に似てなくて可愛いさ。とか思いながら・・・・・。
その時、
#カラン、カラン、カラ~ン#
「ご無沙汰してます。三鷹です。」
三鷹一家が来た。
三鷹さん、明日菜さん、めいちゃん、もえちゃんと、運転手の君田さん。
明日菜さんのおなかには3人目の赤ちゃんがいる。
「お、来た来た。こっちだよ!三鷹さん!」
「やっぱり、一の瀬さんだったんですね!」
怒る五代君。
「そうですか・・・・・五代君にとって、僕は邪魔だったかな・・・・・」
と、三鷹さん
「そ、そんなこと、ないですけど・・・・・・・」
「そうだよね。お互い、パパ同士、ゆっくり語り合おう。賢太郎君も」
「僕。まだ、お酒が・・・・・・」
すると、五代君。
「大丈夫だよ。一の瀬さんの子供だもん!」
「言うじゃないか!五代君!」
と、一之瀬さんはどこからともなく豪快に笑いながら答えた。
「あなた!子供にお酒を飲ましてはいけませんよ!」
叱る響子さん。
「ごめん・・・・・」
謝る五代君。いつになっても、響子さんには気が弱い五代君だった・・・・。
一方、明日菜さんは・・・・・
「へ~、この二人が、めいちゃんと、もえちゃんですか。可愛いですねぇ~」
「恐れ入りります。それにしても、あなたの娘さんの春香ちゃん、とても血色が良いようで・・・・・」
響子さんと明日菜さんはお互いの子供を褒め合った。
「今、お腹に赤ちゃんは・・・・・・」
「はい、男の子だと医師から言われております」
「良かったですね。長男ですね」
「恐れ入りります・・・・・・・・」
「何言い合っているんだい。そこの、お二人さん。今日はパー!と行こうよ!パーっとさ!!」
二人の会話をササッと流した一の瀬さん。
そして、時間は刻々と過ぎ、楽しい(五月蝿いだけ?)のパーティー(宴会?)の夜が幕を閉じようとしていた。
#カラン、カラン、カラ~ン#
「毎度あり~」
「じゃあね。みんな。おやすみ。」
と、朱美さん。
「僕たちは、隣の駐車場に車を留めているのでこの辺で・・・・」
どうやら、三鷹家一家は運転手の君田さんが運転するらしい・・・・・・。
「じゃあ、僕たちも帰ろうか・・・・・」
そして、長い長い坂を登る一刻館の住人。
みんなにとって、もうこの坂を登るのは、どうって事ないらしい・・・・・。
こうして、着いた一刻館の前に・・・・・・
何と誰かがいた・・・・・・。
「誰ですか、そこにいるのは?」
五代君が尋ねた。
「・・・・・・・・・・僕ですよ」
「その声、聞き覚えがありますな~。え~と・・・・・・・」
四谷さんが悩んだ。
「僕ですよ、二階堂ですよ」
「あ、そうそう。二階堂の坊ちゃんの声ですな~。この声、一生忘れられませんな」
「どうしたんですか、こんな夜遅くに・・・・・」
響子さんは尋ねた。
「それが・・・・・・・・」
どうやら、理由があってここに来たらしい。その事情とは・・・・・・・
二階堂は事情を響子さん達に話した。
「え!家出したですって!また、どうしてですか?」
「いやあ、ちょっと、母と大喧嘩してしまって・・・・・・」
すると一の瀬さん、
「あんた、母親の前じゃ、いい子ブリしてたんだろ?」
「僕だって、親に反抗くらいしますよ!」
「で。理由は何なんだい?」
二階堂は話し始めた。
「僕って、大工仕事が大好きだという事知ってるでしょ。だから、大工になりたいといっただけで・・・・」
「何で、また突然・・・・・」
「今、通勤している会社はコンピューター関係なんですけど、僕、いまいちダメでして・・・」
「あんた、機械弱いの?」
「はあ・・・・・」
張り詰めた空気の中、春香ちゃんは気持ち良さそうに寝ている。それを見て五代君は
「まあ、立ち話でも何だから、明日、話そうよ。」
「あ。すいません。春香ちゃん早く寝かせてあげないと・・・・」
そこで、響子さん、
「二階堂さん。今日は5号室に泊まっていってくださいな」
「すいません。重ね重ね・・・・・・・」
そして、次の日の朝。今日は日曜日。みんなは五号室に集まっていた。
「まあ、あんたの母なら、やっぱり反対して、当たり前だよ」
一の瀬さんがタバコを吸いながら話し始める。
「実は、理由はそれだけじゃ無いんです」
「ふ~~ん。で、その理由は?」
春香ちゃんを抱きながら、五代は聞いた。
「その、会社の社員と上手くいかなくて。僕、機械に弱いから、みんなから、『坊ちゃんだからね~。』とか言われて」
「新入社員イビリかい?あんたらしくないね」
タバコを吐きながら一の瀬さんが言った。
「いつもなら、あの大好きな大工道具でそこら辺のもの壊しちゃう勢いなのにね」
朱美さんの姿もあった。
「何だか、社会人になると、気が重くなって・・・・・」
本当に人が変わったようになってしまった二階堂君。
「それじゃあ、なりなよ。大工にさ!」
一之瀬さんはタバコを灰皿でつぶしながら言った。
「そうですよ。だから、大工になるために、一刻館に来たんですよ」
そして、響子さん。
「それなら、二階堂さん。2号室に戻ってくるんですね。それじゃあ、私は畳を拭いて来ますね」
「それじゃあ、あたしは、あんたの母親に話付けてきてやるよ」
ヨッコラセと立ち上がった一の瀬さん。
「ありがとうございます。色々と・・・・・」
「これで、坊ちゃんとも、また遊べますなぁ~」
「参ったな~。四谷さんには。ハッハッハ」
二階堂君の久しぶりの笑顔。それは本当の笑顔だった。
(戻ってきて、良かった。やっぱり、一刻館は最高だな)
こんな事を思いながら、二階堂は2号室に戻って来たのでした。
以下、次回