めぞん一刻 二次小説 時計坂通信   作:今津晶

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第14話  告白と決意

#ジリリリリ~ン#

 

一刻館の桃色電話が鳴った。

「はいはいはい・・・」

響子さんが、小走りで電話に向かった。が、一の瀬さんが先に出ていた。

 

「はい、一刻館~」

お酒が入っている一の瀬さんは、宴会の延長のような感じで電話に出た。

「なんだい、賢太郎かい。ん?ああ、話がある?ああ、いいよいいよ。じゃあ、五号室で一杯やってるからね!」

 

#ガチャン#

 

「賢太郎君でしたの・・・」

 

「ん?ああ、管理人さん。何か大事な話があるんだってさ。何だろうね~まぁ、管理人さんも、五代君と春香ちゃんを連れて、上においでよ」

「もうすぐ来るらしいからさ~アハハハ」

一の瀬さんは、もうノリノリのようだ・・・。

 

「え、ええ。じゃあ、ちょっと呼んで来ますね」

そう言うと、管理人室に戻り、五代君と春香ちゃんを連れて、五号室へ向かった。

賢太郎君が何の話をしに来るのか、五代君も響子さんも察していた。

 

「あなた・・・」

 

「賢太郎を信じよう。黙って、聞いていればいいのさ。あいつはもう、これまでの賢太郎じゃない。ひとりの立派な大人になったのさ」と五代君。

 

「そうね・・」

 

 

~五号室~

 

「おんや~管理人さんと五代君ではありませんか~いや~~。ここのところ、五代君がなかなか来てくれないから、寂しいんですよね~」

「五代~君という、人生の隠し味がないと、充実感が・・・はぁ~」

 

(四谷さん・・・本当に何の仕事をしているのやら・・・)

「僕だって、もう働いているんですよ、そんなに暇な訳が無いでしょ・・・」

と、ブツブツと文句をいう五代君。四谷さんは、何も気に留めていないようだが。

 

しばらくすると、賢太郎君が郁子ちゃんを連れて一刻館に帰って来た。

「ただいま~」

 

例によって、響子さんが小走りに二階から下りて迎えに行った。

 

「お帰りなさい・・・あら?郁子ちゃんも」

 

「こんばんは、おばさま。また来ちゃった。今度はね、一の瀬のおばさんに、挨拶に来たの」

えへっ、という感じでちょっと照れ気味の郁子ちゃん。

 

(良かった・・・ふたりとも、もう何でも無いみたいね・・・)

響子さんは、安堵していた。

 

「管理人さん。母ちゃん、上にいる?」

 

「ええ。もう、いつも通りですよ。待ってるみたいよ」

そう言うと、賢太郎君と郁子ちゃんの後を追って、五号室へ向かうのだった。

 

 

~再び五号室~

 

「おんや~~?郁子ちゃんでは、ありませんか~」

 

「こんばんは!四谷さん。それに一の瀬のおばさん」

郁子ちゃんは元気よく挨拶をした。

 

一の瀬さんに会うのは、賢太郎君との交際が発覚して以来かも知れないくらい、ご無沙汰していた。

郁子ちゃんは、当然ながら一の瀬さんに気に入ってもらいたいという考えがあるからか、実に明るく挨拶したのだった。

 

「あら~郁子ちゃん、いらっしゃい。賢太郎のやつ、迷惑かけてないかい?」

 

いつもなら

「母ちゃん!何言うんだよ!」

と、反射的に反論する賢太郎君だが、今日は流石に何も言えなかった。

 

「賢太郎。まぁ、飲みなよ!たまにはお前もさぁ!一緒に!パーっと行こうよ!パーっとさぁ!!」

一の瀬さんの勢いに、賢太郎君も郁子ちゃんも押されっぱなしだった。

 

そして、肝心の話を切り出すことも出来ずに、一刻館の宴会は再開してしまったのだ。

 

一の瀬さんの扇子がひとたび開けば、そこには何の秩序も存在しなくなる。

ある人がこういう表現で一の瀬さんの特徴を言っていたが、今夜の一の瀬さんは、まさにその通りだった。

 

「さささ。管理人さんも五代君も、どうぞどうぞ」

四谷さんがさらに盛り上げる。

 

「あ・・・あの。四谷さん、私は・・・・」

 

「そうですよ!僕たちは、宴会しに来たつもりじゃ・・・」

響子さんも五代君も、なんとか賢太郎君と郁子ちゃんに話しやすい雰囲気を作ろうとしたが、一の瀬さんも四谷さんも、

久し振りに人数が多いせいか、過去最大のペースで飛ばしている。

 

そう・・・五代君と響子さんの結婚を祝う、あの恐ろしかった非常識な十日連続宴会以来の勢いだった。

 

結局、五代君も響子さんも何の力にもなれず、数時間後には管理人室へと戻って行ったのだった。

 

 

~管理人室~

 

「全くどうしようもないな!一の瀬さんと来たら・・・賢太郎の奴が大事な話があるっていうのに、あんなに飲んで・・・」

五代君は、管理人室に戻ってくるなり、やれやれ・・・という気持ちを言葉にしていた。

 

「ぱぁ~ぱっ!だっこ~」

春香ちゃんが五代君に甘えてきた。

 

「ん?ああ、春香。よしよし・・・」

 

「あなた、賢太郎君と郁子ちゃん。大丈夫かしら・・・」

春香ちゃんをあやしている五代君に向かって、響子さんは心配そうに言った。

 

「うん・・・・けど、俺たちに出来ることは、もう・・・」

 

「そうね・・・」

五代君も響子さんも、自分たちの力の無さにふがいない気持ちだった。

特に、今日の一の瀬さんの勢いには手が付けられなかった。

 

 

~こちらは五号室~

 

さっきまでの喧騒が嘘のように、静まり返っていた。四谷さんは、例の穴から6号室へ戻っていた。

郁子ちゃんは疲れ果てて、横になっているうちに眠ってしまっていた。

賢太郎君はそんな郁子ちゃんに布団を掛けてやり、窓から外を見ていた。

一の瀬さんも、右手に日本酒の一升瓶・左手に扇子を持って沈没していた。

 

「・・・・ったく・・・しょうがねえ母ちゃんだなぁ・・・」

賢太郎君はぶつぶつと文句を口にしていた。

 

文句を言いながらも、風邪をひかないように布団を取り出し、掛けてやった。

賢太郎君は主に五号室で寝泊りしていたので、押入れには布団が入っていたのだ。

賢太郎君が布団を掛けようとした時・・・。

 

「賢太郎・・・」

 

「??母ちゃん・・・起きてたんか」

むくっと起き上がり、賢太郎君に背を向けた。

そして、近くにあったグラスに持っていた日本酒を注いだ。

 

「賢太郎・・・・・・・話は聞いたよ。郁子ちゃん、妊娠してるんだってね・・・」

 

「!!!!な、何でそれを・・・」

 

「さっき、四谷さんにね・・・本当なんだね?」

そう言うと一の瀬さんは、横になっている郁子ちゃんに目をやった。

 

賢太郎君は黙って頷く・・・

 

「可愛い寝顔じゃないか・・・郁子ちゃん。なぁ、賢太郎。子どもの頃から苦労を掛けたね・・・お前には」

「こんな母ちゃんで・・・でもね・・・お前はあたしの自慢の息子だよ」

 

「・・・・・・・・・・・」

 

「郁子ちゃんの親には言ったんかい?」

 

「ん・・・・ううん。まだ・・・」

 

「そうかい・・・お前、郁子ちゃんとこと、幸せにできるのかい?」

 

「え・・・?」

 

「幸せにできるのかいって聞いてるのさ。お前さ、まだ大学生だろ・・・稼ぎだってバイトだけだろ?それだってほとんどが学費用なんだし・・・」

 

「う・・うん」

 

「子供を育てるってのは、大変なんだよ。郁子ちゃんの親御さんも納得してくれるかね・・・」

 

「・・・・・・・・・・」と賢太郎君はさっきからマトモに言葉が出て来ない。

 

一の瀬さんは、酔っているとは思えないくらいにしっかりとした口調で、賢太郎君に話をした。そして立ち上がると・・・。

「ちょっと、待ってな」

と言い残し、下へ降りていった。

 

「母ちゃん・・・母ちゃんには何もかもお見通しか・・・」

賢太郎君は、無意識に口ずさんでいた。

 

「賢ちゃん・・・・?」

 

「い、郁子ちゃん。寝ちゃってたんだよ」

郁子ちゃんは目を覚まし、賢太郎君に寄り添った。

 

「あれ?おばさんは?それに、響子おばさまも五代のお兄ちゃんも・・・」

 

「五代の兄ちゃんと管理人さんは、部屋に戻ったよ。四谷さんも。母ちゃんは・・・さっきまでいたんだけど・・・」

「知ってたよ、母ちゃん。全部。郁子ちゃんのこと・・・」

 

「えっ?」

郁子ちゃんは寝起きということもあって、きょとんとしている。

 

そこへ、一の瀬さんが戻って来た。

「あら、郁子ちゃん。起きてたのかい」

 

「え、ええ。おばさん、あの・・・」

 

「ん?いいんだよ。郁子ちゃん、ウチの賢太郎、頼むよ・・・」

 

「母ちゃん・・・」

 

「ウチの賢太郎はね、もう小学校の頃から郁子ちゃんのことを好いていたのさ。だんだん大人になって、本当に付き合ってもらっちゃって・・・」

「しかも、結婚だなんて・・・・私はね、嬉しいんだよ本当に」

 

「そんな・・・私こそ。宜しくお願いします」

そう言うと、郁子ちゃんは深々と頭を下げた。

 

「賢太郎・・・これをやるよ」

一の瀬さんは一冊の通帳を差し出した。

 

「これ・・・・」

名義は“一の瀬賢太郎”となっていた。

 

「これはね・・・お前が生まれてからずっとね、毎月毎月貯めてたんだよ。ほら、母ちゃんさぁ、いっつも飲んで飲んでばっかだろ?」

「・・こうでもしないと貯まるものも貯まらないからね」

 

賢太郎君は開いて中を見てみた。

そこには、賢太郎君が生まれてすぐの昭和47年くらいから、毎月コツコツとすずめの涙ほどの額が積み上げられていた。

月によっては入金500円なんてものあったが、口座開設以降全ての月に入金されており、それでいて一回も出金されていなかった。

 

「遂にお前も人の親になるときが来たんだ。あんなに小さかったのにねぇ・・・今しか無いだろ?これをお前に渡すのは」

 

「母ちゃん・・・」

賢太郎君の目には大粒の涙が浮かんでいた。

 

「賢太郎・・・そして、郁子ちゃん。幸せになるんだよ・・・母ちゃんに出来ることは、もう無いからね・・・」

 

「うん・・・ありがとう・・・」

賢太郎君は、これまで心のどこかで残っていた、母親へ対する苛立ちのようなものが消えていくのを感じるのだった。

 

 

次の日、五代夫婦はやきもきしていた。

 

「なあ響子、今日こそは一の瀬さんにちゃんと聞いてもらわないと・・・」

 

「そうね・・・」

と、賢太郎君たちが一の瀬さんに言いやすい様になんとかしようと画策していた。

 

#ドン ドン#

 

「はい?」と響子さんがノックに返答する。

 

#ガチャッ#

 

賢太郎君と郁子ちゃんだ。

 

「おはよう、響子おばさま。結局泊まっていっちゃた」

 

「おはよう、管理人さん」

 

「2人とも、どうしたの?そんなにニコニコして・・・・」

響子さんが不思議そうに尋ねた。

 

五代君も、“あれっ”という感じで拍子抜けした表情を浮かべている。

それもそのはず、すでに一の瀬さんとは話がついているのだから・・・

賢太郎君は、一の瀬さんから通帳をもらったことは隠しつつ、了解を得たことを話した。

 

「そうか・・・知ってたのか・・・でも、よかったな!賢太郎」

 

「そうね。あとはお義姉さま夫婦だけね・・・」

 

それを聞いた途端、賢太郎君の表情が曇った。

 

「どうした?賢太郎?」と五代君が尋ねる。

 

「だって・・・やっぱり抵抗あるだろ?ウチの母ちゃんは一風変わってるから何てことなかったけど・・・普通はやっぱり・・・・」

「五代のお兄ちゃんだって、将来、春香ちゃんがいきなり『赤ちゃん出来ちゃったから、この人と結婚します』とか何て言ったら、どう?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

五代君は流石に何も言えなかった。

 

しかし響子さんは、賢太郎君を諭した。

「でもね・・・賢太郎君が、本当に郁子ちゃんのことを真剣に考えていて、幸せにするんだ、幸せになるんだっていう気持ちをしっかり持っていれば・・」

「きっとお義姉さま夫婦も分かってくださると思うのよ・・・」

 

賢太郎君と郁子ちゃんは、響子さんが最後に言ってくれた言葉を胸に秘め、音無家へと向かったのだった。

 

その2人を見送った響子さんと五代君。一体どんな気持ちだったろう?

 

 

「じゃあ響子、オレも行って来るよ」

 

「はい、いってらっしゃい・・・」

五代君を見送ると、響子さんは音無老人のこと、一刻館のこと、そして音無家のことを再び考えていた。

 

音無老人の申し出を受けて、一刻館・音無の家をもらうべきか・・・・?

郁子ちゃんたちが音無の家に入って、一刻館だけもらうべきか・・・?

どちらの申し出も断って、今の立場を変えずにいるべきか・・・?

 

「はぁ・・・どうしたらいいの?誰か・・・教えて・・・」

響子さんは、大恩ある音無老人をはじめとする音無家の意思を、無下に断ることが出来ないように思っていた。

 

 

「どうしたんだい?管理人さん。そんな溜め息吐いちゃって」

一の瀬さんが、考え事をしている響子さんに話しかけた。

 

「あ、あら。一の瀬さん」

 

「ったく、隣に座ったってのに気付かないなんて・・・何かあったの?」

一の瀬さんの、そっけない聞き方の中にも、たっぷりの愛情が篭っていた。

 

「い・・・いえ。それよりも、一の瀬さん。知ってらしたの・・・賢太郎君と郁子ちゃんのこと」

 

「ん?ああ、四谷さんがね。まぁ、賢太郎が自分からきっちり言ってくるまでは、知らない振りをしようって思ってたんだけどね・・・」

「昨日、その話をしに来たみたいだから・・・その姿勢だけでわたしゃ、もう十分うれしくてねぇ・・・あの子も、何だかんだ言って、大人になったんだね・・・・」

一の瀬さんは、自分の息子が、いつの間にか成長しているのを素直に喜んでいたようだ。

 

「んで?今回の溜め息は何?」

 

「え・・・?・・・」

響子さんは、五代君と話し合ったことを思い出していた。

 

『響子が住みたいっていうなら、いいんじゃないか?』

『オレだからこういうことを頼まれたのかな・・・?』

 

(あたしは・・・・どうしたいの?誰かに決めてもらおうとしていて・・・)

「実は・・・」

そう言うと、響子さんはついに、一刻館の住人にこのことを言うことを決心した。

 

 

「何だって!?」

 

「何ですと!!」

いつの間にか聞き耳を立てている四谷さんも一緒に驚いた。

 

「・・・・んで?」

 

「でって・・・」

 

「どうするかってことだよ、一刻館も音無の家も」

 

「もしも財産をもらえたら、ご馳走してくださいね!」

四谷さんは、大事な話だと分かっていてもこういうセリフがでてくる。

わざとなのか・・・病気なのか・・・・

 

(あの人は・・・主人は私に任せるって言ってたわ・・・)

響子さんは、その場の2人を投げ出して、ある場所へと向かった。

「お昼くらいには戻ります。それまで、留守番をお願いしますね」

 

響子さんが向かった先は・・・?

 

 

 

以下、次回

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