「で、何なのよ。今日は」
響子は恐る恐る母親に尋ねた。
「あのね、響子。あたしはね、あんたにもう何も言う事は無い」
「う、うん。それで?」
「それでね。あたしもお父さんも、もう、歳を取るだけなのよ・・・」
「え?何言ってるのよ、おかあさん・・・・・・」
「と、いうことで。春香ちゃんをこっちに連れてって」
(そうゆうことね・・・・)
響子は心配して損したという声で答えた。
「うん。いいわよ。今度の日曜日ね」
#ガチャン#
(それにしても、お母さん、何故かちょっと悲しそうだったな~)
(あ、きっと演技よ、演技)
「さあ!お洗濯しなくちゃ!」
と、言う事であっという間に一週間が経って・・・・・
「それじゃあ、一之瀬さん。いってきます」
「うん。ゆっくり親孝行しておいで」
「行くぞ、響子」
五代君は春香ちゃんの小さい手を握って一刻館を出ていた。
「いってきます」
「いってらっしゃい」
慌てて五代君たちを追いかける響子さん。
そして、その後を続くように賢太郎君がドアから出て来た。
「おや。賢太郎、どこ行くんだい?」
「か、母ちゃん・・・。ちょ、・・・・ちょっとね。いってきます」
「そうかい。いってらっしゃい」
賢太郎君は慌てて坂を降りて行った。
「何だい、あんなに慌てて・・・・・。それにしても、何だか管理人してるみたいだね~。あたしって」
一の瀬さんはそんな事を言うと、竹箒を玄関から取ってきて、掃除し始めた。
#サッサッサッサ#
「管理人さん、いつもこんなことしてるんだね~・・・・・・・。あ~しんどい」
10秒間、掃除すると、竹箒を玄関に置いて、1号室に入って行った。
その頃、五代君たちは、時計坂を降りていた。
「どうしたんだい?響子」
元気の無い響子さんを見て、五代君が尋ねた。
「うん。ちょっとね。何だかイヤな予感が・・・・・するのよね」
「大丈夫だよ。お母さんは春香に会いたいんだろ。ただそれだけだよ」
「そうね。お母さんを信用してあげなくちゃね」
「そうさ」
「ふふっ、本当にあなたは優しくて温かい人なのよね」と響子さん、とっても嬉しそうに言う。
「そうかい?そう言われると自信がつくな」
「何の自信?」
「響子の夫としてね」
「え!・・・・・・・・・・・・」
赤くなってしまった響子さん。
いっしょになってから早4年。
二人は結婚してから・・つましくてささやかながら、お互いに支え合う幸せな夫婦生活を送り、毎日精神的にも肉体的にも愛情を確かめ合ってますます愛が深まってきたのだろう。
とにかく時間さえあれば一緒に、お互いの傍に必ず居て文字通り寄り添いながら過ごす日々・・・。
そして、その愛の中から産まれてきた春香ちゃん。
この五代家は本当に愛情深い温かい家族になっているのである。
こうして、一家は3人揃って千草家へと向かった。
それから、一刻館でのもうひとつの家族。
一の瀬一家の息子さんはというと・・・・。
「はっはっはっ」
息を切らして走っている。
そこは、とある公園だった。
(ここら辺なんだけどな~)
どうやら、何かを探しているらしい。
賢太郎君は公園の空き缶拾いをしている人に尋ねた。
「すいません、噴水はどこですか?」
「あ、それなら、こっちの道からまっすぐ行って、すぐ右だよ」
「そうですか、ありがとうございます」
お礼を言うと慌てて目的地へ走り出した。
「ここだな、え~と・・・・」
今度は誰かを探している・・・・。
どうやらデートらしい・・・・・。
(い、いた!)
見つけた賢太郎君は恐る、恐る、その人に近付いて行った。
その時、その人はこっちを振り向いた。
「あ、賢太郎君」
「ごめん、待った?」
「ううん。今、来たところよ。それじゃあ、行こう」
「でも、どこに・・・・。何にも考えてないから・・・・」
「それじゃあ、映画行かない?」
「うん。それがいいや」
「ねえ。賢太郎君?」
「何、郁子ちゃん?」
何と、賢太郎君のデートの相手はあの郁子ちゃんだったのだ。
そう言えば、賢太郎君と郁子ちゃんは結構仲が良かったような・・・・。
「おばさま達、元気にしてる?」
「ん?管理人さんたち?うん。元気だよ」
「そう・・・・」
「そうだ、郁子ちゃん。今度、一刻館に来ない?」
「え?いいの?」
「うん。管理人さんには、僕から言っておくから」
「ありがと~!それじゃあ、映画早く行こ!」
「うん」
こうして、二人のデートが始まった。
一方、五代家は・・・・
すでに、マンションに着いていた。
今、エレベーターに乗っているところだ。
「響子、明るくいこうよ。明るく」
「そうね」
#チ~ン#
目的の階に着いた。
部屋へと向かう、五代君たち。
そして、響子さんがインターホンを押そうとした時、
「春香が押す~」
「はい、はい」
響子さんは春香ちゃん持ち上げて、春香ちゃんはとってもにこにこしながらインターホンのボタンを押した。
#ピ~ンポ~ン♪##ピ~ンポ~ン#
「は~~~~い」
律子(響子の母)が慌てて向かって来た。
#ガチャ#
「あら、いらっしゃい。さあ、入って下さいな・・・・」
「ど・・どうも、お邪魔じゃまします」と五代君、少しだけ緊張気味だ。
「あなた。そんなに固くならないで・・・」
「う、うん・・・」
みんなはリビングに行き、ソファーに座った。
「わ~い。ふかふかぁ~」
春香はソファーで暴れている。
無理もない、久し振りのソファーだから・・・・。
だって、一刻館には誰の部屋にだってソファーが無いのだから・・・。
「こら、春香!」と父親の五代君、慌てて注意する。
「いいんですよ。まだ、小さいんだから」と律子さん。
「やけに優しいわね~。お母さん・・・」
「そう・・・・。なんかね、孫見てると、嬉しいのよね。さあ、春香ちゃん。こっちにおいで!おばあちゃんの所にいらっしゃい!」
「うん!」
春香は元気に返事をして、おばあちゃんの方に行った。
「そんなものかしら・・・・」
響子さんは、まだ、自分の親が何かたくらんでると、思っている。でも、
(なんだか、お母さん。幸せそうだな~)
律子さんと春香ちゃんが一緒に遊んでいるのを見て、何だか、自分も嬉しくなってきた響子さん。
そんな響子さんの笑顔を見た五代君も緊張もほどけてきて、笑顔が見えてきた。
こんな状態が一番いい。
と、誰もが思っていた。
その時、響子さんは何かに気付いたのである。
「お母さん・・・・・。お父さんは?」
「そうなの、今日はその事で来てもらったのよ」
「どうかなさったんですか?お義父さん?」
「ちょっとね。今・・・・・・・時計坂病院にいるわ」
「え!?」
響子さんと五代君は声を揃えて言った。
「で、どこが悪いの?」
「それがね。まだ、良く分からないのよ・・・・・・」
「それじゃあ、早く行きましょう。お母さん」
「そうね。それじゃあ、あたし支度してきますわ。」
そう言うと、律子さんは準備しに、和室に行った。
「それじゃあ、響子。俺は先に外でタクシー捕まえて来るから」
「あ、ありがとう。」
こうして、リビングに残ったのが春香と響子さんの二人。
「ね~。春香。今からおじいちゃんに会いにいくのよ」
「(こくっ)・・・・・・・・・・・」
「だからね。優しくしてあげてね」
「(こくっ)・・・・・・・・・・」
「おじいちゃんね、もしかして、もう・・・・・」
「ママ?」
悪い宝庫に考え過ぎて遂に涙を流してしまった響子さん。
それを見ている春香ちゃんは、ママの様子がおかしいと、ママ、ママと、ずっと呼び掛けていた・・・・・。
数分後・・・・・・・
もう、泣き止んだ響子さん。
そして、
「響子。行くわよ」
「うん、お母さん」
外では、タクシーと五代君の姿があった。
「それじゃあ、行きましょう」
「運転手さん、時計坂病院までお願いします」
「はい。」
こうして、五代一家と律子さんは病院へ向かったのであった。
一方、賢太郎君と郁子ちゃんは・・・・・・
「賢太郎くん。楽しいね」
「うん」
「喉が渇かない?」
「あ、僕買って来るよ」
「ありがと~~!」
映画館で楽しんでいたのでした。
~~時計坂総合病院~~
「着きましたよ、お客さん」
「お幾らですか?」
「あ、お義母さん。僕が出しますよ」
「とんでもない。あたしの方から頼んでいるのに」
「そ、そうですか・・・」
全員でタクシーを降りた五代君たち。
「それより、響子。早く、お父さんのところに」
「うん」
「お母さんは、お花買ってから行くから」
「じゃあ、行こうか、響子」
「いくわよ、春香」
響子さんは春香ちゃんの手をしっかり握って、五代君と病院に入って行った。
そして、受け付けでお父さんの部屋を聞いて、305号室のドアまで来た。
「え~と。千草様・・・・・・と。ここね」
#ガチャ#
「お父さん、だいじょ~ぶ?」
と、ベットを見た時、誰もが驚いた。
「!!!!」
「よお、響子。来てくれたんだね~。あ、裕作君も」
「あ、ご無沙汰しています。お義父さん・・・・・」
「うん、うん。元気してるかい、春香ちゃん」
「うん!おじいちゃん!」
とっても元気に返事した春香ちゃん。それには響子さんのお父さんも実に嬉しそうだ。
「お父さん、これどういう事?」
「どういうこと、て、言われてもだな・・・・」
何と、お父さんは、重病などではなくて、ただ単に包帯を巻いた右足を吊るしているだけであった。
「それがな、つい前まで家のマンションのエレベーターが故障しててな・・・・」
どうやら、お父さんは、三日前、酔って帰って来て、階段を踏み外して、こんな状態になったそうで・・・・・。
「ああ、良かった・・・・」
安心した響子さん。
もしかして、お父さんの命が危ないのかも・・・・何て、思った自分が馬鹿らしくなってきてしまった。
「良かった、とは何だ!良かった、とは・・・・・」
「ううん。何でもない」
「それより、何で、急に、ここに来たんだい?」
「お母さんと来たの。お母さんはお花買ってくるって・・・・・」
「そうか、そうか。」
その時、
#ガチャ#
「大丈夫?あなた」
「おう、律子さん」
お母さんが花を持って帰って来た。
「ちょっと、お母さん。どういう事よ~!」と詰問する響子さん。
「どういう事って?」
「お父さん、全然元気じゃない!」
「私が何か言ったかしら?」
「え!?」
今、思えば、勝手に自分が変な方向に考えていただけであった。
と、気付いた響子さん。
けれど・・・・
「だって、お母さんは、お父さんのこと、入院の原因知らなかったって言ったでしょ?」
「それはね・・・・・・・・・」
「それは??」
「それはね・・・・・あんたを試したのよ」
「あんたが、どんだけ、お父さんこと心配するか・・・・・」
「じゃあ、まさか、見てたの?あれ」
「あの泣いていた時でしょ。あんたでも、あそこまで、思っていたのね」
「当たり前じゃない。普通はそうよ。一応、お父さんなんだから」
「一応って何だよ!」
眼鏡を拭きながら、お父さん、少しだけ怒った。
「ごめん、ごめん。お父さん」
こんな千草家の会話を病室の片隅で眺めていた五代君。
昔と違って、今は本当に、仲が良いっていうか、何と言うか・・・・・やっぱり特殊だけど。
まあ、とにかく、温かい家族になりつつあることは、感じていた。
(俺も、今度、家に帰ってみようかな・・・・・)
こんな事も自分から思ってきた五代君。
そろそろ、親に本当に感謝したくなってくる歳のだろう。
こうして、響子さん早とちり?事件は、丸く収まったのだった。
一方、賢太郎君たちは・・・・。
マクドナルドにいた。
「おいしいね」
「うん」
フィレオフィッシュバーガーを食べている賢太郎君。
「ねえ、賢太郎君。今日、行っていいかな?」
「え?どこに?」
「一・刻・館・よ!」
「い、いいよ。でも、確か、五代の兄ちゃん達、どっか行ってたな~」
「それじゃあ、それまで待ってるよ。一刻館で」
「散らかってけど、いい?」
「いいよ、いいよ。あ~、久し振りだな~~」
「それじゃあ、行こうか」
「うん。あ~、ドキドキしちゃうな~」
こうして、郁子ちゃんたちは、一刻館へ向かうのでした。
以下、次回