めぞん一刻 二次小説 時計坂通信   作:今津晶

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第09話  夫婦の光景

五代君の実家にて、その日の夕方・・・

 

「裕作、2丁目の平井さんに出前に行ってくれるかい?」

 

「母ちゃん、俺は怪我してんだぞ!忙しくて無理なら、出前断れよな・・・(ぶつぶつぶつ)」

 

「何言ってんだい!そんな捻挫くらいで」

 

「捻挫くらいって・・・」

 

そこへ響子さんが間に入る。

「まぁまぁ、あなた。それにお義母さんも。代わりに私が行ってきますわ。2丁目の平井さんですね」

 

「あら響子ちゃん、いいの?それじゃね、これが地図ね。それで平井さんの家は・・・」

ちゃっかり響子さんの好意に甘えようとしている母を尻目に、五代君は声を掛ける。

 

「なあ響子。いいよ、そんなことしなくても。いつも二人でやってるんだろうから」

 

「でも・・・急に押し掛けたんですし、何かお手伝いしないと。それに、体動かしてるほうがいいのよ」

 

「まぁ、裕作とは大違い!ホント、良く出来た人を貰ったね、裕作。響子ちゃん、裕作なんかよりももっと良い人が居ただろうに・・・済まないねぇ」

 

「な、何で母ちゃんが謝るんだよ!それに謝ることじゃないだろ~」

 

「はっはっは。じょ~だんよ、冗談。それじゃあ響子ちゃん、悪いんだけどお願いね」

 

「はい」

二言返事で快く引き受ける響子さん。そんな響子さんを見て

(俺って、すごく幸せ者なんだよな・・・)

と、今更ながらにじ~~んとする五代君でした。

 

 

~そのころ二階にいる婆ちゃんは~

 

「うんうん。そっからだと、あと2時間くらいだな~」

何やら電話で話をしている様子。

「ん?ああ、んだんだ。駅からはタクシーですぐだかんな~。何年か前に来たっきりだから、タクシーを使ったほうがええな。んん、そんじゃな」

 

#チ~~ン#

 

(これでよし、と)

ゆかり婆ちゃんの陰謀は着実に進む・・・

 

「ひいばぁ~あちゃん」

 

「お~お~、春香ちゃん。どした、ひとりで上がってきたんかぁ~?」

 

「うん!」

目をキラキラさせながら返事をする春香ちゃん。3~4歳というと、何かをやって褒めてもらいたいと思う年頃なのだ。

 

そこは流石、百戦錬磨のゆかりばぁちゃん。

「お~~よしよし、えらいよ~春香ちゃん」

撫で撫で、としっかり褒める。と同時に、

「けどなぁ~、もし落っこちたらイタイイタイだから、降りたくなったら、ひいばぁちゃんに言いなっせ」

 

「いいなっせ?」

さすがにそう簡単には方言に溶け込めない春香ちゃん。それもそのはず、言葉を教えるのがあの響子さんなのだ。

整った言葉遣いをいつも聞かされているのだ。一刻館の住人の影響もあるだろうが・・・

 

「いいなさい、ってことだよ。降りたくなったら、ひいばぁちゃんに言うんだよ~」

 

「うん!」

 

「ん、ええ子じゃ~」

 

「ええこじゃ~」

すっかりばぁちゃんの言葉の影響を受けてしまう春香ちゃん。どうなることやら・・・

 

 

~その日の晩~

 

息子夫婦と孫娘が来たということもあり、「定食五代」はいつもよりも早目に店仕舞いをした。

 

「済みません、私たちのためにわざわざ・・・」

 

「いいのよ~、響子ちゃん。それに、春香ちゃんとも遊びたいしねぇ」

謝る響子さんを、優しくフォローする五代君の母。もしも二世帯生活をしたとしても、嫁姑関係は上手くいきそうだ。

 

「響子ちゃん、さっきは出前に行ってくれてありがとうね。いつもは空いた時間におらが行ってるんだけど・・・」と五代の父親が申し訳無さそうに言う。

 

「いえ、いいんですよ、お義父さん。お力になれて良かったですわ」と響子さんは爽やかに返す。

 

「良い嫁さんだな~裕作。響子さん、裕作なんかよりももっと良い人が居ただろうに・・・済まないねぇ」

 

「父ちゃんも母ちゃんも、夫婦で揃って同じこと言うなよな!ったく。それが可愛い息子に向かって言う言葉かよ~」

 

「まぁこんな息子ですが、響子さん。末永く宜しくお願いしますだ」

 

「こ、こちらこそ。宜しく、お願いします」

 

しばしの沈黙・・・

 

「何やってんだよ、父ちゃん!・・・響子も。5年位前に、もうやったでしょうが!」と少々呆れ顔の五代君。

 

その時・・・

 

#ドンドンドン#

 

店の入り口の戸を叩く音が・・・来訪者は??

 

#ドンドンドン#

 

更に何度も戸を叩く音がする。

 

「裕作、ちょっと見て来てくれるかね。響子ちゃん、夕飯作るの、手伝ってくれる?」

 

「はいはい」

響子さんは五代の母親の一言に自然と返事をしてしまった。と同時に、

 

(捻挫してる人をこき使うことないのにな・・・)

とも思う五代君。響子さんに頼もうと思ったが、母の隣で炊事の手伝いを始めてしまっていた。

(ちぇっ、しょ~がないなぁ~もう)

 

#ドンドンドン#

 

再び戸を叩く音。

 

「は~~い、どなた?うえっ!!」

五代君がしぶしぶ松葉杖をつきながら迎えた来訪者は・・・

 

「お~~~い!開けてくれっ!」

 

「五代君も足が臭いですな~。家族同然の私たちを、この寒空の下、3分も待たせるんですから」

何と、一の瀬さんと四谷さんだ。けど朱美さんはいない・・・

 

「あれっ、朱美さんは?」

二人を迎え入れながら誰ともなく聞く五代君。

 

「あの子は、なんか調子が悪いからやめとくって。マスターったら、どうせ大したことないのに心配しちゃってさぁ~」

 

「いつもよりも一人足りませんが、朱美さんの分まで楽しませていただきますよ」

朱美さんは珍しく体調が悪いそうだ。

 

「誰も呼んでませんよ!それに、朱美さんの分まで頑張らなくていいです!四谷さん」

 

「五代君!」

 

「な、何ですか!?」

 

「君は、冷たいね…」

相変わらずの四谷さんだ。

 

 

#チィ~~ン#

 

「かんぱぁ~い!」

 

「今日は、ぱ~っといこう!ぱ~っとさぁ~」

と、いつものチャカポコ音頭♪の一の瀬さん。

 

「婆ちゃんだろ?どうせ呼んだの」

 

「んだ。せっかく裕作たちが来るのに、みんながいねぇと盛りあがんねぇからな~オラが呼んだんだ」

 

「流石お婆さま。ひじきの煮つけ、じゃがいもの煮っころがし、きんぴらごぼう、ナスのしぎ焼き、五目ずし。大変、おいしゅうございました。また、ご馳走して下さいね」

懐かしいセリフだ。ちなみに今日の晩御飯はカレーライス。春香ちゃんのことを意識したのだろうか?

 

「それにしても、朱美さんが気掛かりですわ。大事でなければ良いのですけど・・・」

 

「んだな~。オラも朱美さんがいねぇとちぃ~~とばっかし寂しいなぁ。どしたんだべ?」

 

「まぁまぁ、今夜は何もかも忘れて、ぱぁ~~いこうよ!」

と、最初から飛ばしている一の瀬さん。それに負けじと四谷さんも始めた。

 

「♪落~ちていきましょ、奈落のそ~こへ♪しあわっせも~とめ奈落のそ~こ~へ~♪」

 

いつもの夜は更けていく・・・

 

 

~翌朝~

 

五代君の両親はいつもどおりに起床して、下ごしらえを始めていた。

ゆかりばぁちゃんは、響子さんと一緒に惣一郎さんの散歩。

そして、それ以外のメンバーはと言うと・・・

 

「パ~パっ!パパ~」

 

「ん、んん。あぁ、お早う、春香」と寝ぼけ眼の五代君。

 

まだ小さい春香ちゃんに起こされる始末・・・やれやれ・・・と春香ちゃんも思っているのでしょうか。

 

 

一方、惣一郎の散歩をしている響子さんとゆかり婆ちゃんは・・・

 

「響子さん、裕作のやつはちゃんと父親らしくなったべか~」

 

「ええ。とてもいいパパですわ。春香も元気に育ってくれて・・・」

 

「ん。春香ちゃんは素直でええ子じゃ~。響子さんに似て、しっかり者になってくれるとええなぁ~」

 

「そんな、私はそんなに。いつも裕作さんと支え合ってるんです。あの人、確かに頼りない所もあるけど、私もあの人が・・すぐ傍に居ないと駄目なんです。何かこう・・張り合いが無くて」

 

「ありがとう、響子さん。そこまで、あのろくでもねぇ孫のこと。けどなぁ~響子さん。今のこと、裕作に言っちゃあ、だめだよ。天狗になったあいつの姿が目に浮かぶからな~」

 

「・・・・・・(確かにそうかもな~)」

と、くすくす笑いながら想像する響子さんでした。

 

 

~その日の昼下がり~

 

「裕作!駅まで送るら~」

 

「ばぁちゃん!そんなに乗れないだろ~」

駅までタクシーで行こうと呼び寄せたのは、一刻館メンバー全員が乗れようにということで中型のタクシーだった。

それでもゆかりばぁちゃんまでは乗れない・・・春香ちゃんはカウントしないとしても、定員オーバーだ。

 

「いいよいいよ、お婆ちゃん。乗んな。小さいから何とか大丈夫だろう」

何と気さくな運転手だろう。

五代君はペコペコ謝りながら、婆ちゃんを抱えて乗った。

 

「それじゃ裕作、達者でな。響子さんもみんなも」

 

「あぁ、婆ちゃんも元気でな。体壊すなよ~、歳なんだから」

 

「オラの心配してるでねっ!春香ちゃんも、またな~」

 

「またな~」

と、ゆかりばぁちゃんの口癖が移りつつある春香ちゃん。

 

「コラッ!だめよ春香。お婆ちゃんにきちんとバイバイしなさい」

春香ちゃんをきっちりと嗜める響子さんでした。

そして、短い里帰りに幕を下ろすのでした・・・

五代君の捻挫も癒え、また保育園へと仕事に行き始めたころ、茶々丸では大騒ぎになっていた。

 

「ちょっと~朱美さん、本当かい?それ」と一の瀬さん。

 

「まぁね~。本当よ~」

 

「けど、お医者様は本当にそうだっておっしゃったんですか?」と響子さんも尋ねる。

 

どうやら、話の種は朱美さんにあるようだ。一の瀬さんも響子さんも、朱美さんに確認を取っている。

 

「管理人さ~ん、さっき病院まで一緒に付いてってくれたでしょう?その時からず~っと言ってるじゃないのサ」

 

 

#カランカラン#

 

「あ、マスター。お帰り。何買ってきたんだい?」

一の瀬さんが帰って来るなり質問する。

 

「え、ああ。ガラガラとミルクをね。服も買ってこようかと思ったんだけど、女の子か男の子かまだ分からないし・・・」

 

「な~に言ってんのよ。全く、気が早いのよね~。予定日は9月なのよ、今からそんなに買ってそうすんのよ」

そう言うやタバコに火を点けようとする朱美さん。

 

「朱美さん!いけません!お腹の子に良くありませんよ!出産まで、タバコは禁止です!」と響子さんは真面目に忠告してくれる。

 

「な、な~~に怒ってんのよ、管理人さん。大丈夫だって、一本くらい・・・」

朱美さんはどうしても吸いた気だ。

 

皆さん、もう気付かれただろう。そう、朱美さんは妊娠しているのだ。出産予定日は9月の中旬らしい。

タバコを吸おうとしている朱美さんをただひたすらに止める響子さん。

 

「管理人さ~ん、何もそんなにムキにならなくたて・・・」

 

「いいえ。管理人として・・知り合いとして、胎児に悪影響が出るようなことは、許しません!」

 

「ちぇ~。つまんないの~」

大好きなタバコを禁止され、不満気の朱美さん。しかし、本心は違っていた。自分のような人間を心から心配してくれる管理人さんに、感謝の心でいっぱいなのだ。

朱美さんはただ照れくさくて素直に言えてないだけ。無事に出産が済んで、元気な赤ちゃんが生まれた暁には、ちゃんとお礼を言おう、そう思っていた。

 

「名前、何て付けるんだい?」

 

「一の瀬さん、まだ男の子か女の子かも分からないんですから・・・」

 

「な~に言ってんのよ管理人さん。そんなもん、両方考えておけばいいじゃないの」

 

 

~一方、一刻館では・・・~

 

「ただいま~。あれ、誰もいないな。せっかく良い知らせが・・・あれ??四谷さん。いたんですか?」

「もう、いるならいるで一言言ってくださいよ、もう。びっくりするじゃないですか(ぶつぶつぶつ)」

相手が四谷さんなのに、こんなに一方的にまくしたてられる人物。そう、二階堂君だ。

 

「何ですか~~。良い知らせって。まさか!おごってくれるんですか?」

 

「違いますよ、ったく。とにかく、管理人さんは?」

 

「管理人さんなら、産婦人科に行きました。何やら嬉しそうな顔で・・・」

 

「ええっ??ってことは、二人目が?そうですか~。いや~めでたいな~。五代さんも、しっかりしてますね~そうか~いや~いいことは続くんですね~」

 

「君はさっきから何を言って、るんですか?いいことって、何ですか?やっぱり、おごってくれるんですね!」

 

「違うっての!まぁ、いいじゃないですか。管理人さんが帰ったら言いますよ。では」

そう言って、自室に入って行った。四谷さん相手にマイペースを崩さないとは、さすが二階堂君だ。

 

「さびしぃ~」

と一人漂う四谷さん。

 

「さてと・・・昼ごはんでも食べてくるか。何にしようかな」

と、四谷さんを追い払ってからお昼ご飯を食べに行く二階堂君。流石に、手馴れている。

 

#ガチャッ#

 

「バウ!バウ!」

 

「行ってきます、惣一郎さん!」

しかし、やはり四谷さんのほうが一枚上手だったようだ。

 

「ど・ち・ら・へ・い・く・ん・で・す・か~?」

この人は本当にどこから湧いてくるんだか・・・神出鬼没という言葉がこれほど似合う人はいないだろう。

 

「はぁ~~分かりましたよ!全く、かなわないなぁ、四谷さんには」

 

「いいえ、どういたしまして。豆蔵の焼き魚定食、ご飯大盛りでいいですよ~」

 

「あのねぇ・・・残念ですけど、昼ごはんはパン派なんですよ」

 

「いいえ~ご心配なく。わたくし、パンが大好きですから」

(何が何でもついてくる気だな・・・せっかく仕事が休みなのに・・・)

 

そうこうやりあっているうちに、二人は茶々丸を通り抜け時計坂商店街へ。

しかし、そこで二人が見たものは・・・

 

 

 

以下、次回

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