セイウンスカイに関する強めの幻覚   作:秋乃落葉

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勝者は必ず、敗者を作る。

 メイクデビューを見事に飾った私とトレーナーさん。次走についてはいくつか候補があったが、まだまだ体力に余裕があり、早めに上に行きたいという私の意向もあって、一月下旬のジュニアCを目標にすることとした。初戦を圧勝したとはいえ、次はオープンクラス。条件戦を勝ち上がってきたウマ娘との戦いだ。さて、その結果は。

 

『──さあ第四コーナー回って、先頭は依然としてセイウンスカイ!セイウンスカイが二番手に二バ身差をつけたまま直線に向いてきました!大外ついて上がってきたのは──』

 

 前回と同じ中山レース場だが、今回は距離が伸びて2000m。だが私にとっては伸びれば伸びるほどいい。スタートを切ってから最終直線まで一度も他のウマ娘に前を譲らずにここまで回ってきた。後ろからこのレースの一番人気の子が上がってくるが、こちらもまだまだ本気ではない。その子が先団にとりついてくるのを確認して一気に突き放しにかかる。並ばせる前にぐんぐんと前へ。

 

『──セイウンスカイが先頭だ!直線に入ってからも勢いは衰えない!後続を引き離して残り100を切った!──も凄い脚で上がってくるが、その差は五バ身!体勢変わらず今ゴールイン!』

 

 後方を大きく突き放してゴール。オープンクラス挑戦初戦で、鮮やかに勝ちをとることができたのだった。

 

 

 

 

 

「セイウンスカイさん!ジュニアC優勝おめでとうございます!」

 

 レースが終わり、トレーナーさんと控室に戻ろうとする道すがら。他のウマ娘達も行きかう通路で、わざわざ私に話しかけてきた男性が一人。

 

「え、ありがとうございます・・・?」

「すみません、失礼ですが貴方は?」

 

 一瞬怯んだ私の代わりに、トレーナーさんが前に出て、聞いてくれた。その男性は、失礼しました、と言って懐から名刺を取り出し、トレーナーさんと私にそれぞれ渡してくれる。

 

「申し遅れました。私、ウマ娘専門誌の『ウマ娘エイト』の新聞記者をしております、横山と申します」

「あー、あの『ウマ娘エイト』か~」

 

 そう、私でも当然その存在は知っている。毎週発刊されるウマ娘情報誌の中でも、特に情報量が多く、質も高いことで知られる業界トップの新聞だ。そんなウマ娘エイトの新聞記者が、自分に何の用かと身構える。

 

「今後ともお見知り置きください。さて、改めまして、ジュニアCの優勝、おめでとうございます。ぜひお話を聞かせていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」

 

 ちらっとトレーナーさんの方を伺うと、スカイがいいなら、というように頷いた。取材なんて受けるのは初めてだから、どうにもどぎまぎしてしまうのだが、別段断る理由もないので、とりあえず受けることにする。

 

「まあ・・・はい。いいですけど・・・」

「ありがとうございます!では、早速ですが今日のレースについて一言お願いします!」

「ええ、まあ、昇格初戦で勝てたので・・・。よかったです」

 

 我ながらつまらないコメント。その後もいろいろと聞かれるが、ありきたりな応答で済ませてしまう。本当はもっと堂々と、いいことを言えればいいのだけど。

 

「なるほど、ありがとうございます。次走について決まっていれば教えていただきたいのですが、どうでしょう?」

「え~・・・、それは・・・」

 

 またトレーナーさんを見る。

 

「次走については、弥生賞を考えています。そこで結果を残して、クラシック三冠に挑戦するつもりです」

「おお!弥生賞ですか!」

 

事前に話し合っていたように、トレーナーさんは次走を弥生賞と宣言した。弥生賞は皐月賞に向けての重要なステップレースだ。条件は皐月賞と同じで、中山の2000m。そして上位三人のウマ娘には、皐月賞への優先出走権が与えられる。本番前の力試しとしてはうってつけのレースだ。

 

「弥生賞には、つい先日にスペシャルウィークさんやキングヘイローさんが出走を表明していますね。既にクラシックの有力ウマ娘と言われるこの二人を意識した出走でもあるんでしょうか?」

 

その話に出た名前に、ぴくりと耳が反応する。そうか、スペちゃんとキングもここに出てくるんだ。最近はトレーニングに必死で、二人の次走のことは知らなかった。

 

「はい、勿論です。彼女たちと走った経験は必ず本番で活きてくると考えています」

「なるほど。彼女達はここまで切れ味鋭い差し足で後方から差し切るレースをしていますね。セイウンスカイさんは次走も逃げで二人を迎え撃つのでしょうか?」

「ははは、それはお答えできませんよ!手の内を明かすことになりますからね」

 

 横山さんはインタビューの内容を手帳にメモし、ぱたんと閉じる。

 

「ありがとうございました!今回お聞かせいただいた内容を元に、弥生賞の特集記事を書かせていただきますので、ぜひウマ娘エイトをよろしくお願いいたします!」

「ええ、では私たちはこれで失礼します」

 

 お辞儀をする横山さんに軽く会釈を返して、トレーナーさんに促されて控室に戻る。控室の椅子に座って、体を落ち着けると同時に、トレーナーさんに聞いてみる。

 

「・・・トレーナーさん、弥生賞にスペちゃんとキングが出てくるって知ってた?」

「ああ、勿論。君の出走計画を立てる上で相手になりそうなメンバーはチェックするからね」

 

 トレーナーさんは知っていた上で、私の次走を弥生賞に決めたんだ。それは、あの二人と戦っても勝算があると考えてのことだろうか。いや、わかっている。私だって強くなった。デビューから二戦を連勝、しかもどちらも五バ身以上つけての圧勝だった。それでも、思い出すのは、選抜レースでのスペちゃんとの戦いだ。全力を尽くして、できる限りの戦略を練って、負けた。思い出すだけで、また手が震えてくるんだ。

 

「スペちゃんと走るのは、怖い?」

「・・・いや、スペちゃんと走るのが怖いんじゃないよ。私もトレーナーさんとたくさんトレーニングして、成長したんだ。でも、スぺちゃんだって一緒だよね。きっと、あのレースの時よりずっと強くなってる。キングもそうだよ。追いつくために努力してるのに、皆も努力してて、その分だけまた離されちゃう。それが、怖い、のかな」

 

 怖いのはスぺちゃんばかりじゃない。キングもだ。その出自から華々しくて、才能に溢れていて、それでいて努力家。私の前を行く、二人が怖い。

 

「大丈夫。僕から見て、君の走りは十分戦えるレベルにある」

「・・・そうかな」

「そうだよ。自分を信じて」

「・・・うん」

 

 トレーナーさんのいうように、大丈夫だと自分に言い聞かせて、でも一抹の不安を心中に抱えながら、弥生賞を目指すことにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 月は変わって二月。一月に二レースを走って、それなりに疲労も溜まっているだろうということで、適度に休息を挟みつつ、弥生賞に向けてのトレーニングを始めていた。張り切りすぎて以前のように怪我をしないよう、十分に気を付けながら進める。ジュニア級の頃ならばいざ知らず、今この時期に大きな怪我をしたとなれば、確実に本番に間に合わないだろうから。

 

「あら、スカイさん」

 

 以前にもこんなことがあった。練習中にばったり会って、声をかけられたのは、彼女。

 

「キング・・・。トレーニング中に会うのは、久しぶり、かな」

「私は貴女のこと、見かけてたわよ。・・・最近、トレーニングに精が出るようだけど、無理してないかしら?」

「うん。おかげさまで、トレーナーさんがメニューを管理してくれてるから」

「そ。・・・よかったわね、トレーナーが決まって」

 

 そういうキングは、何処か安堵しているような声色で、優しい笑顔を私に向けた。

 

「うん。・・・キング。その、よかったら、一緒にトレーニングしない?」

「・・・どういう風の吹き回しかしら?」

「ひどいなぁ!セイちゃんがせっかくやる気いっぱいで誘ったっていうのに~」

 

 らしくないことを言っているのは、自分でもわかっている。また茶化すような態度で返すが、そこからつなげる言葉にも惑って、悩んだ挙句。

 

「・・・前、断っちゃったからさ」

 

 絞り出すように、正直に一言を言えた。それを聞いたキングは、少しだけ驚いたような顔をして、はあ、とため息をついた。そのため息に、びくっと反応すると、今度は呆れた様子で言った。

 

「そんなにおっかなびっくり言わなくてもいいでしょ。いいわ、一緒に走りましょう」

 

 そんなわけで、キングと並走しながら軽くトレーニング場を回る。しばらく無言で走りながら、たまにちらっとキングを横目で伺う。何度か繰り返して、ランニングの小休止に入るタイミングで、意を決して口を開いた。

 

「・・・私、オープンまで勝ち上がったんだよね」

「知ってるわ。テレビで見てたけど、いいレースだったじゃない」

 

 キング、見ててくれてたんだ、と驚く。まあ、情報収集の一環で見ていただけかもしれないけど、自分の走りなんて注目されるようなものではないと思っていたから。意外だった。

 

「で、さ。・・・次走、なんだけど。・・・弥生賞、出る予定なんだよね」

「・・・へえ、そう」

 

 私が次走について伝えると、キングは意図をつかみかねているようで、怪訝そうな顔で曖昧に相槌を打つ。

 

「うん、で・・・。キングも、弥生賞出るんだよね?」

「ええ、そのつもりよ」

「そう、じゃあ聞きたいんだけど、キングはなんで弥生賞を走るの?」

「はぁ?」

 

 キングは心底意味の分からないといった感じで、素っ頓狂な声を上げた。単刀直入に聞きすぎたかな、などと考えていると、そのまま困惑した様子で、答えてくれる。

 

「なんでって、クラシック三冠のステップレースなんだから、ここから皐月賞に行くために決まってるでしょう?」

「いや、そうじゃなくてぇ・・・。弥生賞、スぺちゃんもでるんでしょ?もしかしたら、負けるかもしれないよね?それなのに、なんで走るのかなって」

「・・・なんで負ける前提なのよ。勝つつもりで出るにきまってるじゃないの。スカイさん、言ってることが変よ?」

 

 うーん、とうなりながら、どう聞いたものか、と思考を巡らせる。だが、いい考えは出てこない。正直、自分が何を聞きたいのかもあやふやで、考えるほどに混乱してくる。当然聞かれたキングの方はもっと混乱しているので、おさまりが付かなくなってくる。

 

「あー、ごめん。やっぱ忘れて。私も何を聞きたいのかわかんなくなっちゃった」

「・・・レースで勝つウマ娘は一人だけなんだから、他のウマ娘は必ず負けるでしょ。負けたくなくたって、走っていれば負けることだってあるわよ」

「・・・でもそれって、辛い、じゃん。せっかくトレーニングしてきたのに、勝てないってわかったら、その時はどう受け止めればいいの?」

「そんなの、勝てるまで挑戦し続けるしかないじゃないの。一度や二度負けただけで、私は一生勝てないんだなんて言うつもり?」

 

 それは、その通りだ。一度負けたからと言って、別に二度と走れなくなるわけではない。でも、負ければ辛い。悲しい。苦しい。

 

「大体貴女、負けることをネガティブに捉えすぎ。負けてふさぎ込んでたら、それは意味がないに決まってるじゃない。負けから学べることだってたくさんあるわ」

「・・・そういう、ものなのかな」

「そうよ。負けた時のことは、負けてから考えなさいな。それから、敗北を次の勝利のための糧にできるウマ娘が一流のウマ娘なんだから、間違っても敗北して思考をやめたりしちゃダメ。次はどうしたら勝てるのか、考え続けるのよ。貴女は賢いんだから、できるはずだわ」

 

 これまでは、負けるということは、自己嫌悪につながるだけのことだった。それが間違っていたということはわかる。でも、敗北を糧にするって、どうしたらいいのだろう。今の私には、まだわからない。




セイちゃんシナリオのキングめちゃくちゃいいですね・・・。二人の関係がてえてえ・・・。

泥にまみれても、決して諦めないキング、めちゃくちゃ好きです。
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