繰り返しの違い   作:もえみ

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『素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。
降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ
閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。
繰り返すつどに五度。
ただ、満たされる刻を破却する
――――告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ
誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者、
我は常世総ての悪を敷く者。
汝三大の言霊を纏う七天、
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――』


-3

あ、思い出した。私は先頭の彼らに追いつき言葉をかけた。

 

 

「そうだ、クー・フーリン。ルーン魔術を私に教えてください」

 

「は?」

「え?」

「ん?」

 

 

 

順に、クー・フーリン、マシュ、ロマニである。オルガは一度休憩に入っている。

 

 

 

「あー、オレ、真名言ったか?」

「・・・ランサーでルーン魔術に詳しくてキャスターの素養を持つならクー・フーリンだと思ったんだけど?ケルトなら手の速さも納得いくし」

「手の速さ!?っていったい何があったんだい!?」

「マシュが穢された」

「おのれボクの可愛い娘を!」

「ドクターの子供になった覚えはありません!」

「ケルトってケルト神話?」

「クー・フーリンなら色んなゲームでも起用されてるから知ってる!確かに槍のイメージ強いわ」

 

 

 

ロマニを交えてヒートアップしていく四人は放って置いて、再度クー・フーリンに尋ねる。―彼がマシュの尻を叩いたことを許しはしない。彼女は無垢なのだ。守られるべきだ―

 

私が死なないために出来る事は全部やるつもりだ。それが今ここで彼に教えを乞う事である。ルーン魔術を学び扱えるくらいならないと、シャドウサーヴァントとはいえ、生き残れなんて無茶振りに程がある。

私の表情から言葉を変えるつもりがないと分かったのか、彼は少し考える素振りをして、私の身体を見つめた。・・・このセクハラ野郎。

 

 

 

「魔力糧は十分すぎるし、魔術回路も問題ない。そそる体ではないがまあいいだろう」

「おい。誰かこのセクハラ野郎を座に還して来い」

「おいおい、教えを乞う立場だろ?」

「だからって人権侵害を許すつもりはない」

「その体で気にすんなよ、なっ?」

 

 

 

笑いながら人の背中を力強く叩いてくるクー・フーリンはこの姿勢を崩す気がないようなので、こちらが折れることにする。

 

が、私は忘れんぞ。面倒くさい系人間だからな。

 

 

道中はスケルトンとの戦闘ばかりで、マシュには申し訳ないが基本戦闘を任せて私は勉学に励む。

かれこれ三度目の戦闘で基礎は教え切ったからやってこいとマシュの横に立たされたのは絶対に許さない。どうにかやり切ったし、攻撃と補助を主に使用しただけ。威力に関しては英霊にはまったく脅威にはならないレベル。クー・フーリンにも言われたが、目くらまし程度でどう頑張っても今の状態ではやはり雑魚専になる。

 

まあ、ここをどうにかしてから研鑽していくしかないか。思考を切り替え、そこらにある石にルーンを刻んでいく。手持ちに武器としての手段を残しておけば彼らにおいてかれても多少は生き残れるだろう。

 

 

「・・・・・・」

「ちょっと、キミら。藤丸姉弟。キリエライト、見るからに落ち込んでいるわよ。アナタ、一応マスターなんでしょ。何かケアしてあげなさいよ」

 

 

 

マシュはルーンを刻んた石を持った私が隣に立つと黙ってしまった。

私が何かしたパターン??

 

とても落ち込んでおり、暗い。何故だ。そこまで嫌われるほど関わってこなかったと思ったけど・・・。

 

 

 

「マシュ、どうかした?」

「・・やっぱり・・アレ?」

「・・・・はい。わたしから宣言するのは情けないのですが・・。・・その。わたしは先輩の指示のもと、試運転には十分な経験を積みました。なのに・・わたしはまだ宝具が使えません。使い方すら分からない、欠陥サーヴァントのようなのです・・」

「フォウ・・・」

 

 

 

あー、そういえば初期のマシュって自分自身がどんな英霊かも分かってないから宝具がちゃんとしたものじゃないって設定だっけ?どっかの特異点に行って、自分の英霊を知ってからようやくマシュ強い!マシュ神!な性能になってくれるんだったよね。思い出した。思い出した。

 

 

彼女は私が人間で横に立って戦っていたせいで余計に自分に劣等感を覚えたのだろう。

 

そんなので落ち込まれても困る。マシュと違ってただの人間なので、横に並び立つ気なんて毛頭ないし、英霊の一撃なんて喰らったらKOだ。初期性能が違うのだから。

 

 

 

「ああ、そこを気にしていたのか。マシュは責任感が強いからなあ・・。でもそこは一朝一夕でいく話じゃないと思うよ?だって宝具だし。英霊の奥の手を一日二日で使えちゃったら、それこそサーヴァントたちの面目がたたないというか、」

「あ?そんなのすぐに使えるに決まってんじゃねえか。英霊と宝具は同じもんなんだから。お嬢ちゃんがサーヴァントとして戦えるのなら、もうその時点で宝具は使えるんだよ。なのに使えないってコトぁ、単に魔力が詰まってるだけだ。なんつーの、やる気?いや弾け具合?とにかく、大声をあげる練習をしてねえだけだぞ?」

「そうなんですか!?そーうーなーんーでーすーかー!?

 

 

 

マシュがクー・フーリンの発言を受けて周りもびっくりの大声を発した。藤丸姉の腕の中にいたフォウは飛び跳ねて大きな鳴き声を響かせた。

私も急な音に身体を震わせる。無理矢理治療したばかりの耳には痛い。それに敵に聴覚があったらどうすんだよ!

 

 

 

ファーーーーー!?

「鼓膜が破れかけたよ」

「ぁ・・申し訳ありません、ユキ。でも、大声をあげればいいとクー・フーリンさんが・・」

「いや、モノの例えだったんだが・・。まあ、ともあれやる気があるのは結構だ。立夏に夏海よ。お嬢ちゃんがこう言ってるんだ。少しばかり寄り道して構わねえな?」

「問題ないけど寄り道って、どんな?」

「純真なマシュをからかわないで」

「いや、これはそのまま受け取ったマシュの問題でしょ」

 

 

 

どんな理屈か知らないが、マシュの契約者は立夏と夏海の二人で、正式に魔術的な契約が為されている。―まあ、Fateだし。七騎の英霊の勝負って言っておいて八騎目がいたり、本来一人一騎しか召喚出来ないのにこのアプリは召喚し放題だったし、おおきな問題はないのかもしれない―加えて、クー・フーリンとの仮契約は立夏が結んでおり、それの影響か、出会ってから夏海の方がマシュに甘いイメージがある。まあ、甘いだけでは彼女のためにならないのでちょいちょい口を挟ませてはもらおう。

今回の発言は言葉の裏を読まなかったマシュに落ち度があるわけだしね。

 

 

 

「なに、ただの特訓だ。すぐに終わる。今のオレはキャスターだぜ?治療なら任せておけ。コイツも居るワケだしな」

「こいつ呼ばわり止めてもらっていいです?」

「このルーンも覚えとけ。まずは・・ちょい、ちょいと。厄寄せのルーンを刻んでだな・・よし出来た」

 

 

 

彼が私の持っていたお守りに厄寄せのルーンを刻みやがった。

覚えとけ、じゃねえよ!!

 

 

 

「何してくれてんの!?」

「お前ならあいつらと違って狙われても自分でなんとかできるだろ。ほら、来たぜ」

「そういう問題じゃないんですけど!?オルガが作ってくれたのに!」

「え、所長がそんなに可愛らしいものを!?」

「どういう意味よロマニ!」

「うわあ、所長!タイミング最悪だ!戻られてたんですか!?」

「貴方はいつも一言多いのよ!」

 

 

 

全体の被害の把握など、カルデアの現状を確認する作業から戻ったオルガはいくらか顔色が悪くなっていた。それに構っている暇はない。こっちは大事件だ。ルーンに引き寄せられるようにスケルトンがどんどんこちらへ集まってくる。

 

 

 

「皆さん、わたしの後ろに!先輩方も、戦闘準備お願いします・・!」

「よしよし、こんだけ集まれば十分だ。つまるところ、宝具ってのは英霊の本能だ。なまじ理性があると出にくいんだよ。なーんで、お嬢ちゃんにはまず精も根も使い果たしてもらうって寸法さ!冴えてるな、オレ!」

「これ治療じゃない、ただの荒治療だ!」

もしかしてバカなんですかー!?

 

 

 

もしかしなくても馬鹿だよ!!罵声を浴びせたところでこういうタイプは悪びれない。

とにかく目の前の敵を捌いていった。

 

 

一度スケルトンの波が止んで、マシュと私は肩で息をした。

 

 

 

「限界、です――これ以上の連続戦闘、は――すみません、クー・フーリン、さん――。こういった根性論ではなく、きちんと理屈にそった教授、を――」

「――分かってねえなあ。コイツは見込み違いかねぇ。まあいいか、そん時はそん時だ。んじゃあ次の相手はオレだ。味方だからって遠慮もしなくていいぞ。オレも遠慮なしで立夏と夏海を殺すからよ」

 

 

 

マシュは息をのみ、藤丸たちも顔を引き締めた。本気の度合いが伝わったからだ。それは通信越しでもオルガたちに伝わったようで、反論の声が上がる。

 

 

 

「なに言ってるのアナタ、正気!?この訓練に藤丸たちは関係ないでしょう!?」

「サーヴァントの問題はマスターの問題だ。運命共同体だって言わなかったか、オレ?おまえらもそうだろ、立夏に夏海?お嬢ちゃんが立てなくなった時が手前(テメエ)らの死だ。最悪の場合、ユキがいればアンタらもオレの方もどうにか出来るからな」

 

 

 

そこでオルガたちが押し黙ったのは事実だ。()()()()ならどうにかなる。けど、()()()()()()()()()()()彼女(マシュ)が居ることで世界は救われる、んだったと思う。くっそ。死にたくはない。死にたくはないけど、私も最悪の場合を考えないといけない。

 

 

 

「マスター・・下がって、ください・・!わたしは―先輩方の足手まといには、なりませんから・・!」

「そうこなくっちゃな。んじゃあまあ、マトモなサーヴァント戦といきますか!」

 

 

 

さすがは一級の英霊と言うべきか、彼の戦闘にスキはなく、藤丸二人は指示にいっぱいで周りのスケルトンには気を回してられないようで、こちらがそれに対処する。マジルーンの効果っていつ切れるんだよ!!

英霊たちからしたら大した相手ではないかもしれないが、人間様からしたらマジで危険なやつらだからな!クー・フーリンの馬鹿野郎が!!

 

 

私の傍に来たスケルトンの六体目が壊れた時に、後ろから強い魔力と熱を感じて振り返る。彼の宝具、灼き尽くす炎の檻(ウィッカーマン)だった。これが英霊の宝具。こんなのに勝てるわけがない!

魔力に釣られたのか、スケルトンはウィッカーマンの方へ行ってしまい、勝手に消えてくれた。ありがたい!今の内に藤丸姉弟のそばへ。教わったルーンではなく、簡易結界を張るが、それよりも先にマシュの盾が魔力によって大きくなり、私たち全員を守った。

 

た、助かった・・・?

 

 

「あ・・わたし・・宝具を、展開できた・・んですか・・・?」

「――ヒュウ。なんとか一命だけはとりとめると思ったが、まさかマスターともども無傷とはね。喜べ・・いや、違うか。褒めてやれよ立夏、夏海、ユキ。アンタらのサーヴァントになったお嬢ちゃんは間違いなく一線級の英霊だ」

「先輩方・・わたし、いま・・!」

 

 

 

眩しい笑顔を向けてくれたマシュに二人は同じような眩しい笑顔を返していた。

 

 

 

「ああ。おめでとう、マシュ」

「うん。すごかったよ、マシュ」

「フォウ、フォーーーウ!」

 

 

 

そこにフォウも加わり、私へと視線のアピールというか催促がすごい。遠慮する。こっち見んな。

 

 

 

「驚いたな、こんなに早く宝具を解放できるなんて。マシュのメンタルはここまで強くなかったのに・・」

「そりゃあアンタの捉え方が間違ってたんだよ。お嬢ちゃんはアレだ。守る側の人間だ。鳥に泳ぎ方を教えても仕方がねえだろ?鳥には高く飛ぶ方法を教えないとな。だがまあ・・それでも真名をものにするには至らなかったか」

「あ・・はい。宝具は使えるようになりましたが、まだ宝具の真名も、英霊の真名も分かりません・・」

 

 

 

私も誰だったかなんて覚えてない。けど、円卓の騎士に連なる英霊だったのは思い出した。

基本的に生きるのに必死で、今までこの先の事思い出そうとしてなかったからか、この特異点Fを見てから思い出すことは多い。そのせいだろうか。傍観者のような気分がすごい。

 

 

 

「・・そう。未熟でもいい・・、仮のサーヴァントでもいい・・、そう願って宝具を開いたのね、マシュ。あなたは真名を得て、自分が選ばれたものに――英霊そのものになる欲が微塵にもなかった。だから宝具もあなたに応えた。あーあ、とんだ美談ね。御伽噺もいいところだわ」

「あの、所長・・」

「ただの嫌味よ、気にしないで。宝具が使えるようになったのは喜ばしいわ。でも真名なしで宝具を使うのは不便でしょ。いい呪文(スペル)を考えてあげる。宝具の疑似展開なんだから・・そうね、ロード・カルデアスと名付けなさい。カルデアはあなたにも意味のある名前よ。霊基を起動させるには通りのいい呪文でしょう?」

 

 

 

 

オルガがデレた。マシュがめっちゃ嬉しそう。いいなー。またお守り作ってくれるかな。

 

 

 

「は、はい・・!ありがとうございます、所長!」

「ロード・カルデアス・・うん、それはいい。マシュにぴったりだ!そうなるとすぐに試したくなるのが人情だよね。キャスター、マシュの相手を頼めるかい?」

「ああ、もちろんだ。手加減していたとはいえ、さっきは完全に防がれたからな。先輩として宝具のイロハを叩きこんでやるよ。準備はいいか、夏海、お嬢ちゃん?」

「はい!お願いします!」

 

「お願いします、じゃねえの!まずは移動!敵が来たらどうすんだ!!ロマニは魔力を無駄に消費する真似を助長すんな!!」

 

 

 

あ、という声は聞こえなかったことにするから、とっとと行動してほしい。マシュの宝具が扱えるようになったことで、私たちは大聖杯のところへ行くこととした。やだ、行きたくない。

バーサーカーは放置の方向で、OK。

 

道中、サーヴァントについての説明が入った。まだちゃんと説明がなかったようだ。

 

 

 

過去の英霊を使い魔にしたものがサーヴァント。

 

これと契約し、使役するものがマスター。

 

そしてサーヴァントには七つのクラスがあって、英霊たちの逸話・能力によって変化する。英霊をまるごと霊体として再現するのは難しい。人間の魔術師ではリソース、メモリが足りないの。

 

だからその英霊が持つ一部の側面だけを固定化する。それが七つのクラス、剣騎(セイバー)槍兵(ランサー)弓兵(アーチャー)騎兵(ライダー)魔術師(キャスター)狂戦士(バーサーカー)暗殺(アサシン)。どんな英霊であれ、必ずいずれかのクラスになって顕現する。それはサーヴァントの正体・・・英霊としての名前、真名を隠すためのプロテクトでもある。

 

どうして真名隠すのかと言うと、英霊たちは強力であるが故に有名だから。

 

たとえばギリシャ神話のアキレウス。アキレウスは無敵の肉体を持っている英霊だけどその弱点はあまりにも有名だ。英霊の再現である以上、弱点も引き継いでしまう。だからサーヴァントはクラス名で名前を隠すものだ。正体さえ知られなければ、経歴や弱点を知られる可能性が激減する。

 

もちろん、それだけではない。真名を隠すのにはもう一つ理由がある。

 

サーヴァントの切り札にして真骨頂。その英霊が持つ奇跡、存在が結晶化したもの。

それが、先ほどマシュが使えるようになった宝具だ。戦闘においても、聖杯戦争においても英霊を象徴するそれは切り札のようなものとして扱う。それまで真名を隠していたとしても、宝具を見れば真名バレなんてこともある。

切り札の宝具がバレてしまえば、対策され、聖杯戦争に不利に働いてしまう。

 

だから魔術師の中で真名を隠すことは当然となっているのだ。

 

 

 

「だから、クー・フーリンのこともキャスターって呼びなよ?」

「バレたらあんなに凄い宝具も決定打にならないかもなんだね」

「でもキャスターって言いにくいよ」

「これだから一般人は!魔術師として当然だというのにマスターは契約したサーヴァントのパラメーターやスキル、情報(マトリクス)を解析できる。藤丸立夏と夏海・・二人が一人前であればマシュのサーヴァント情報も解析できたでしょう。まあ、アンタらなんかにそんな才能はないでしょうけど。マシュをうまく使えなかったのもその証拠よ。カルデアのレイシフト機能が回復すれば一流のマスターをシフトさせるわ。そうなればアンタはお払い箱よ。実戦経験もない素人はカルデアの隅で震えていなさい」

「震えてたのはマリー所長の方では?」

震えてない!ちっとも!アナタね、年上を敬いなさいよね!?」

「いや、宝具も使えるようになったじゃん」

「それはマシュの努力で彼らではないわ。Aチームも順に意識を回復させてる」

「でも大怪我なことに変わりないでしょう?」

「くっ!」

 

 

 

彼女の言い分はあくまでも彼らを認めない方向らしい。一緒に戦ってないから?最後の方にはデレがあった気がするんだけどな。

もしかして、まだカルデアの知識がそんなにないとかなのかな?オルガはカルデアを誇りに思っているが、そのカルデアそのものをちゃんと理解していない人に対してはかなりきつく当たる。これは実体験だ。

 

ちょっと微妙な空気になってしまったので、カルデアの話をした。まず二人はカルデアがどんな組織なのか?を知っているか聞くと、そこは大丈夫だった。じゃあ、後はなんだろう?もうお手上げである。

フォローはロマニに任せて私はオルガの機嫌を取ろう。

 

 

 

 

 

 

Side 藤丸夏海

 

 

 

「さて、ユキちゃんが所長の機嫌取りをしてくれている間にちょっと説明させてくれ」

 

 

 

元々落ち着いていると、とても頼りになる人なんだそうだ。今は、余裕がまったくない状態で、気を使う事もままならない。

まあ、こんな事件が起きたら当然か。実感ないけど。それに関しては同情もするし、自分たちに出来る事は全力で取り組ませてもらう所存だ。

 

 

所長・・・オルガマリーも複雑な立場で、もともとマリー所長は私たち同様、マスター候補のひとりだったそうだ。

 

だが、三年前に前所長・・彼女のお父さんが亡くなって、まだ学生だったのにカルデアを引き継ぐ事になった。そこからは毎日が緊張の連続だったんだろう。アニムスフィア家を背負う事になったんだから。マリー所長はカルデアの維持だけで精一杯だった。

 

そんな時、カルデアスに異常が発見された。今まで保証されていた百年先の未来が視えなくなった。教会やスポンサーから非難の声は山のように届いた。『一刻も早い事態の収束を』それが彼女に課せられたオーダーになったんだ。

加えて、ついてない事に彼女にはマスター適性がない事も判明した。名門中の名門、十二のロードに一家、魔術協会の天体学科を司るアニムスフィア家。その当主がマスターになれないなんてスキャンダルもいいところらしい。魔術師ではないからそれの価値がどんなものかは分からない。

 

―でも、さっきのクー・フーリンのような英霊たちと一緒に戦う事ができるというのはとても心強い。

 

 

 

他のロードや魔術師たちにどれだけ陰口を囁かれたことか想像に難くない。

その声はマリー所長本人の耳にも聞こえていたはずだ。そんな状況でも彼女は所長として最善を尽くしている。この半年間、ギリギリで踏みとどまっている。

 

実際、キャパオーバーしているんでメンタルケアに来てほしいんだけど、中々都合がつかなくてね。一応、心理学に興味があるっていうユキちゃんにちょっと教えてみて彼女がたまにカウンセリング的なことをしてくれてはいるけど、彼女たちも少し複雑な立場でうまくなんていかない。

そんな訳で彼女は心身共に張り詰めている。キミらに辛く当たったのは、何もキミらが嫌いな訳じゃないさ。

 

 

 

そうドクターは語ってくれた。

もちろん、分かっている。彼女はきっと悪人ではない。ちょっと今はいっぱいいっぱいになってしまっているだけなんだ。

そういう時って人を気遣うって行為自体が難しく、人が変わったようになってしまうものだと聞いたことがある。

 

 

 

「いや、つい面白くて。揶揄いがいがあります」

「いい雰囲気をぶち壊しにくるね、立夏」

「ホントだよ!ひどいな、キミは!あ、いや、でもわかる。その気持ち、ちょっとわかる。所長は箱入りお嬢様だったからね、いちいち反応が素直というか、スレてないというか・・。でも本人の前でそれを言っちゃダメだぞ。ますます目をつけられるからね」

 

 

 

まあ、我が弟のことだ。口ではそう言っても、なんとか良い空気にしようとしての冗談も言うし、彼女の空気を少しでも弛緩できればって考えもあったはずだ。たぶん。

 

努めて明るくしている弟にならって、私も明るく行くことにする。

ユキのことはまだよくわかってないけど、洞窟を目の前、関係のないことを聞いている空気ではなくなってしまった。ちゃんと生きて帰ったら彼女とマシュともっと仲良くなろう。せっかくの同年代の友達だ。

 

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