「……けほっ」
ミストラルはパラパラと舞い散る土片をぼんやりと見つめながら、地面に横たわっていた。自身に付与した条件により、ダメージは薄い。
だが、確かにリーダーの拳はその条件を貫いてダメージを与えてきた。
(昔……リーダーに言われたこと……『言葉の曖昧さ』をついてきた訳じゃない。そういう事が出来る条件の付け方をしていない──ということは)
ふふ、思わず笑みが漏れた。その心中に満ちるのは、歓喜とも言える感情だった。手をつく。
よろよろと立ち上がりながらミストラルはある一点を見つめる。
「リーダーは、強い」
そう呟いたと同時、舞っていた土埃がブワッと開けた。目に入るのはゆらゆらと揺れる金色だつた。
「──そうね!! 強いのよ! 貴女のリーダーは強いんだから!! だから、なにかあるなら気にせず話なさい?!」
そして、爛々と輝く瞳がミストラルを貫いた。それに一瞬動き止めながらも、ミストラルは確認のために、そして最後の悪あがきのために口を開く。
「……『崩壊』『破損』『破裂』『融解』』『消失』『分解』──」
「あら?! まだやるつもりかしら?!」
ズッ、と空間が砕けた。パキリとあってはならないところにひびが入った。何もかもが融けるほどの熱が世界を包む。
それを──リーダーは笑み一つで乗り越えた。まるで何もないかのように、変質した空間を歩む。カツカツと音をたてて少女はミストラルに近付いていた。
「──『石化』『凍結』『停止』」
気味の悪い音が鳴った。リーダーの周りの空間が、なにかとなにかのぶつかり合いのように歪む。歩みが少し、遅くなった。
だがその時間は数秒もなかった。バキリとなにかが壊れる音が鳴ると、そのまま鉄と鉄を擦るような音を響かせながら、リーダーは進む。
「世界にはね!! 『限界値』があるの! ある存在が設定した、世界が世界たり得るためにある限界値!!」
「……『壊れて』『遅くなって』『止まって』『動かないで』」
ギイイィィィ──と音が酷くなった。だが、起きた現象はそれだけだった。
「ミストラル!! 貴女はそれに沿ったあらゆる現象を引き起こせるわ──けどね! あんまりあっちからしたら嬉しくないでしょうけど、その限界値を超えてしまっている存在がいるのよ!!
例えばそう──私とかね!!」
バキン、と最後に音が鳴った。ミストラルの眼前に、既にリーダーは立っていた。
「さあ! 話を聞きましょう、ミストラル!!」
そして差し出された手を前に、ミストラルは一息ついた。
「……リーダーは、私を見捨てない?」
「勿論よ!! そんなことあり得ないわ!!」
そう言い切るリーダーを見上げる。そして、ミストラルはゆっくりと俯いた。
「……『世界が終わる』」
「──ミストラル?!!」
「……リーダーは嘘吐き。だから、私も抵抗する。
リーダーは世界に上限があるって言った。けど、その上限は多分『空間毎』にある。体積といっても良いかもしれない」
ズズズ、と黒い淀みがミストラルの周りを渦巻き始めた。そこにあるのは、『世界を終わらす』という目的を達成しようと、しかし、定められた上限によりそれを果たすことが出来ず胎動するのエネルギーの膨張。
「リーダーは、どうする?」
自殺に等しい行為だった。恐らくミストラルが出せる、本当の意味での限界の出力。瞬間で膨張し続ける爆発的な熱量。放置し続ければ、いずれ世界を覆い尽くすであろう現象。
それを前に、少女は欠片一つの動揺すら見せなかった。ゴウッ、と金色が溢れ始める。
「ミストラル!! 何度も言うけど、これ終わったらお仕置きよ?! そんなに軽く世界を滅ぼそうとしないで欲しいのだけど!!」
拳を握る。腰を落とす。そして──弾けた。
音はなかった。ただ、結果として黒い淀みが消え去って、そしてリーダーの拳がミストラルの目の前で停止していることだけが、純然たる事実として残っていた。
「……そう」
「気は済んだかしら?! ミストラル! じゃあ話を──」
沈んだ様子のミストラルに対し、声を張り上げようとする。だが、それを止めたのもミストラルだった。
「──
「……何を言ってるのかしら?! この後は、洗いざらい話して貰うわ! そして私と一緒に帰るのよ!!」
ミストラルは睨みつけるように少女を見遣る。そして、次の瞬間呟いた。
「『転移』」
「──っ?!!」
その言葉を吐く一瞬。少女は反応するが、しかし伸ばした手は何も無い空を貫いた。
そして、数秒停止すると笑うように歯を剥きだす。腰を落として前傾姿勢に。視界はある一点を見つめていた。
足がギリギリと脈動し、そして放たれる。音すら置き去りにし、爆音を後方に撒き散らしながら少女は叫ぶ。
「その程度で私から逃げられると──!!」
──そこでふと、少女は何かの気配を感じ、振り向いた。
そこにあったのは、懐かしい、見知った顔だった。端整な顔立ちに、銀髪を靡かせる1人の女。
「──逃げていただかないと、困るんですよ」
そして、その女は中指を親指で抑えると──弾いた。