煌々と輝く黒の瞳。満ち充ちるエネルギーが神々しく辺りへと朧気に光を放っていた。
それを目を細め見つめると、老人は深い礼をして少女の命を受け入れる。
「……はっ、承りました。それを達する一助に、このトウボクと、『クロ』の民を使い潰して頂ければ幸甚であります」
「いいわ!いいわよ!!少数民族、『クロの民』!!高い身体能力に相伝の技!!特殊な魔力用法は驚愕の一言だわ!
そしてその長、『第八位』トウボク!!その力、この私の為に余すことなく使いなさい!!」
そして、姿勢を保ったまま数秒。ゆっくりと頭をあげると、乾いた唇を開く。
「……して、主殿」
「察してるわね!いいわよ!許すわ!!言いなさい!!」
「……お言葉に甘えさせて頂きます。それでは、」
深く深呼吸をする。
そもそも頭の中で巡っていたのは、どのように世界を取るか、ではなかった。老人の小さな頭で分かるのは、恐らくこの国なら不可能ではない、程度。
しかし、己がこの場に一人で呼ばれたこと。そして、己以外にも最近主からお呼びがかかっている『幹部』とでも呼ぶべき者達が複数いたこと。
ここから老人はある一つの考えが出ていた。
「――一体、どの者達が裏切っているのでしょうか?」
それを聞いた少女は、笑う。快活に、楽しそうに、面白そうに。
一頻り笑った後、にっこりと顔を作る。そして、少女は口を開いた。
「――不正解よ!!トウボク!!」
◇◆
『あながち間違いはないけどね!!』と、トウボクの主は続けた。
裏切りではない。なら何故『統括者』全員にそれを伝えないのか。そう問うたトウボクに、主は楽しそうに答えた。
『――一人だけ、教えたくない
そう。そして、触りの理由と共にその一人を伝えられた老人は、驚愕に目を見開いて硬直した。これは、世界を取るという事も難しいかもしれないぞ、と心の中で呟いて。
その時はどこか見慣れない雰囲気をまとっていたように思われた主だったが、考えてゆくうちにその記憶は薄れていった。それよりも、一体どのようにしてその『一人』にこの情報を完全に隠しながら戦力を集め、進軍させるのか。なにより彼女の力なしで『世界を取る』なんて事が成せるのか。
それが目下の一番の問題であった。
勿論、己が主の力は疑っていないのだが……何故か主は自身を戦場に置きたがらない。それなりに生きているトウボクが、主が力を振るった場面を六十余年前に一度、『五種の激甚』が首都に現れたとき以外は思い出せない程だ。
豪奢な廊下で、頭を悩ませながら静謐な空間に足音を反響させていると。そこで。
もう一つの足音が迫っている事に気が付く。それは軽く小さな生き物のそれだった。
老人は心を焦らせながらもその足音の持ち主とが、もし想像通りだったとしても、いつも通りに接せれる様にと無理矢理体を動かす。そして、息を殺して角を曲がり、
――そして、彼は遭遇した。
主から決して己の状態を伝えてはならないと言われている、彼女が最も大切にしているであろう右腕。その一人こと――『第一位』。
「――トウボク、奇遇」
「……おやおや、ミストラス殿。お久しぶりですな……それで、いかようでここに?ここには用のあるもの以外は立ち入らないように、と言われているはずですが」
空よりも蒼い髪を垂らし、主の髪よりも深い金色の瞳を爛々と煌めかせ。いつも通りの淡々とした口調で、彼女はそこにいた。
「別に。ただ――リーダーと何を話したのか。それさえ教えて貰えれば、私は満足」