思考する間も作らない。トウボクは長年酷使した頭とその培った経験を元に、流れ出る流水のように言葉を紡ぐ。
「はっはっは――ミストラス殿は心配性のようですな。
いつも通りの軍備の確認、税の徴収について、三日後に迫る『上位者』の会議について……それと、これは秘密なのですが、最近ラスタートの特産であった例の農耕品の安定的な生産の目処が立ちましてな――これであのラスタートにも一泡吹かせてやれますぞ」
「それは、凄い。……貴方は、優秀」
ミストラスは嘆息を付く。
「ミストラス殿程の方にそう言われると、少々こそばゆいですな……それでは、私は孫たちが待っているので――」
横をすり抜ける。まさか己より立場の上のこの少女に上手を取れるとは思わないが、トウボクは最善を尽くした。
そしてその結果は酷く拍子抜けするもの。
「そう……分かった……」
そして、一拍の間の後、
『……さようなら』
――不穏な一言。奇妙に反響し続けるそれに、一瞬体をこわばらせ後ろを見るがまるで幻想のように。
ミストラスは、すでに姿を消していた。息を付きたくなるほどの安堵に包まれるが、だが、
「……嫌な予感がしますぞ、主殿……本当にこれで、よろしいのでしょうな?」
思わず漏れた呟きは、紛うことなくトウボクの不安に濡れた心情を吐露していた。
◆◇
城のテラス。今現在解放されていない、広大なそこに少女――この国の主は健在していた。
獣より尚獰猛な光をその目に宿す彼女は、爛々と輝く瞳を月夜に向ける。
「私は死ぬわ!!
彼女は纏っていた服を脱ぎ捨てる。メイドがいれば猛然と殴りかかって来かねないその行為をした彼女は、だが快活に笑う。羽織るのは薄手のランジェリー。靡くそれが、時折彼女の柔肌を垣間見せ――そして、彼女の太腿にそれはあった。
対象の力をむしゃぶり呑み込み、そして時に自死にすら至らしめるそれは、今尚致死の牙を少女へ向けている。その呪いの強度は本来なら神話でしか語られないであろう程の物で、だが少女はそれすら越える強者で
「痛いわね!食い破られそうな痛みだわ!!歩くのも、喋るのも走るのも考えるのも何もかもが痛い!!でもね!でもね――!!」
手を広げる。城すべてを包み込まんとするその意思が明快に現れたそれは、どこか痛ましげでそして、どこまでも強い自信が見て取れた。
「――
大きく息を吸う。
「私の忘れ形見よ!
だから彼女は誓いの言葉を何度でも言う。他人にではなく、己自身に。
「――世界、取るわよ!!!」
ちなみに、これでもまだ力的には主人公は最強です。