TSケモミミコミュ障が振りまわされる話。   作:ケモノ好き

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第10話

 

「よし、こんなもんかな」

 

 一日の仕事も終わり、時間を持て余していた頃。俺はモップを片手に息を吐いた。まあ、ただ掃除をしていただけなのだけれど。

 俺の使っている部屋は普段も掃除してるし、私物も少なかったからあまり汚れてはいない。だけど、最近トーリさんが来るようになったから、とりあえずやっておかなければどう思われるかわからない……ということで、改めて綺麗にしておくことにしたわけで。

 

「ミナちゃん、終わった?」

 

「ああ、ハヅキさん。はい、終わりましたよ。何か変なところとかあります?」

 

「ううん、ないよ〜」

 

 モップを片付けていると、ハヅキさんがやってきた。掃除をし始めたのも、ハヅキさんが言ったからである。それにしても……

 

「ハヅキさん、どこに行ってたんですか?」

 

 ハヅキさんは、俺に「掃除しよう!」と言ったきり、嵐のようにどこかへ行ってしまった。自分が使っている部屋だから俺がやるのは当然として、普段から掃除してるのに、わざわざ指示されたうえ、出かけてしまったのだろう。

 

「ああ、そうそう……じゃんっ!」

 

 そう言って、少しばかり勿体ぶって、両腕を上げる。その両腕には、大きく膨らんだレジ袋がぶら下がっていて……

 

 

「お菓子作り、しよっか!」

 

 

 

 


 

 

 

 

「なんでこうなったんですか……?」

 

 目の前に広がるのは、生クリーム、小麦粉、砂糖といったお菓子作りに欠かせない材料たちが広げられたキッチン。正直、これからお菓子を作るというイベントに、ちょっとだけ嬉しい感じはするものの、困惑が大きいというのが本音だ。

 

「せっかくキッチン付けてるもの、使わなきゃね。ちゃんと掃除もしておいたから、すぐに使えるわよ」

 

「一体いつのまに……」

 

「ミナちゃんが寝てる間に、ちょちょいと。ミナちゃんって、意外と起きるの遅いもの」

 

「うぐっ……」

 

 確かに、スマホゲームとかで夜更かしして寝るのは遅くて、眠いんだけどさぁ……

 

「そ、そうじゃなくて! なんでお菓子作りなんですかっ」

 

「ミナちゃん、お菓子好きでしょ?」

 

「──ぇ」

 

「たまーにケーキとか出してあげると、目に見えて瞳がキラキラしてるし、尻尾とミミも忙しないから」

 

「なっ……!? 〜〜っ!」

 

 そんなハヅキさんの言葉に、言葉にならない叫びをこぼしながら、顔が真っ赤になってしまう。まさか、気づかれて……っ!

 

「それに今も、材料見て尻尾──」

 

「わかりましたっ! わかりましたからっ、作ります! 作りますよっ!」

 

 真っ赤になった顔を隠すように、顔を伏せた。ああもう、普通に気づかれたならあんまり気にならないのに、尻尾とミミで気づかれたっていうのが、本当に恥ずかしい。

 

「それで! 何を作るんですか!?」

 

「誤魔化したわね……痛い!」

 

「いいから何を作るんですか!」

 

 余計なことをいうハヅキさんを尻尾で叩いて、調理台を叩く。ダンっという割と大きい音に、ハヅキさんは「ごめんごめん」と笑っていた。本当にわかっているのだろうか。

 

「えっとね、ケーキ作ろうかと思って」

 

「ケーキ……ですか?」

 

「そうそう、ちょっと簡単にしたやつね。ホットケーキを重ねるだけなんだけど」

 

「へ、へぇー……」

 

 おお……なんか、少しだけ楽しみになって……はっ!

 

 ハヅキさんに気づかれる前に、慌てて手を後ろに回し、尻尾の根本を押さえておく。さすがに同じ轍は踏まないようにしなければ。……抑えられる気はしないけど。

 

「じゃあ、早速作りましょうか」

 

「は、はいっ……!」

 

 久しぶりに見る大量の甘いものたちに、ちょっとだけワクワクしながら、材料を手に取った。微笑ましそうな顔をするハヅキさんに隠すように、せめてこんな気持ちがバレませんように……なんて思った。

 

 

 

 

 

 

「うーん……」

 

 今やっているのは、生地作りだ。モトをフライパンに垂らして、つぶさないように形を整えておく。あまり見た目には頓着しない方だけど、できるなら綺麗にしておきたい。重ねるらしいし。うわっ、生地がフライ返しに……修正しないと。

 正直、焼いてる時点でいい匂いがしだしたホットケーキに、少しだけ気分が浮き立っていた。お菓子作りは簡単なものしか作ってこなかったから、手の込んだものを作るドキドキ感がある。生クリームはどうしようか、果物もたくさんあったし、配分も考えないと──

 

「──ナちゃん。ミナちゃん、どう? いい感じになってる〜?」

 

「──はいっ!?」

 

 うおう、びっくりした。

 

「ミナちゃん、聞こえてる?」

 

「は、はい! なんですか!?」

 

 どうやら、夢中になりすぎていたらしい。ハヅキさんの呼びかけが全然聞こえてなかった。

 

「お〜、いい感じに焼けてるね。あと二枚くらいやこっか」

 

「け、結構焼くんですね」

 

「まあね〜。なかなか作る機会もないだろうし、焼ききっちゃおうと思って」

 

 そう笑いながら、ハヅキさんはフルーツをカットしていた。手元を見ないでイチゴを切る姿は、本当に手慣れているようで……なんだか、負けた気がする。

 

「……手慣れてますね。やっぱり、兄弟が多いと作ったりする機会って多いんですか?」

 

「えっ、あ、うん。大変なのよ〜。量も作らないといけないしね」

 

 そう言いながら、ハヅキさんはイチゴの薄切りを完成させながら、バナナを手に取り出した。やはり家族が多いとそういうものなのだろう。あんまり苦労したことは……あ、と。俺もちゃんとやらなきゃ。

 

「そういえば」

 

「? はい」

 

「最近、どう?」

 

「……いつも──ほとんど自室(ここ)にいるのに、何故聞く必要が?」

 

「そういう意味じゃないわよ。トーリちゃんとどうって意味よ」

 

 そう呆れたように笑うハヅキさん。いや、そんな“どう?”と聞かれたって……一体、何と答えれば……

 ふむ、と。考えてみる。トーリさんとどうと言われても……別に、普通と答える他ないだろう。いや、連れ回されたり動画撮られたりはしてるけども。そうなると、“普通”では……ない、と思う。

 それに“かわいい”やら、すぐに抱きついてきたりして、わかりやすいだのなんだの……俺が元男ということは、忘れられていないだろうか? なんだかそういう経験が初めてで……緊張してしまう。いや、別に──

 

「なんだか、すごく困った顔してるわね」

 

「そ、そうですか……?」

 

 悩みすぎていたらしい。ハヅキさんに顔を覗き込まれ、反射的に顔を逸らした。いやだって、ここ一ヶ月でかなり濃いことしてるし……

 

「じゃあ、楽しかったんだね〜」

 

「何でそうなるんですかっ!」

 

「あら、違うの?」

 

 ──その言葉に、言葉が詰まった。

 

 楽しくなかったわけ……では、ない。むしろ、久しぶりにクレープを食べたり、遊んだりして、まあ、楽しかった。だけどなんだか、それをそのまま、素直に言うのもはばかられ……

 

「い、や。違……くは、ないん、ですけども……」

 

 そんな、ツギハギの言葉を並べた。

 ひどく歯切れの悪い俺の言葉に、ハヅキさんはただ、柔らかく笑っていた。その視線が、どうも落ち着かなくてホットケーキを焼くふりをして、気づいていないふりをした。

 そんな俺に何を思ったか、ハヅキさんはこんなことを言い出した。

 

 

「……そっか。いい()()()じゃない」

 

「──友だち、ですか」

 

 “友だち”。そんな()()()()()()()()に、俺の手が止まる。

 ……友だち、なのだろうか。そもそも、友だちなんてどうやったら、とか。いつから友だち、とか。()()()()()()()()なんて、そんなこともわからないのに、無責任に言えるものじゃない。

 冷えた気持ちが溜まっていって、不思議と手が動き出した。自分の心とは無関係に、まるで何かを誤魔化すように。

 

 ──それに、あれはきっと。

 

「そう見えるなら、そうなんですかね……?」

 

 ──きっと、()()()()()()()

 

 そう返した俺に、ハヅキさんは「そうよ〜」と返したきり、何も言ってこなかった。そんなドライな反応が、今の俺には嬉しかった。

 

 

 

 


 

 

 

 

「たくさん焼けたね〜!」

 

「は、はいっ……!」

 

 楽しそうなハヅキさん。かくいう俺も、なかなかにテンションが上がっていた。

 というか、大量に焼かれたホットケーキの前に、テンションが上がらないなんて無理だった。今までに見たことのないホットケーキの山に、少なからず俺も気持ちが昂っていた。これからこれをトッピングする、ということに、期待に胸が膨らんでいたのもあるのだけれど。

 

「じゃあ、早速──」

 

「こんにちは〜! ミナセちゃん!」

 

「ぎゃあ!?」

 

 早速デコレーションしようとしたその瞬間、部屋に響いた大声と共に、背中に何かがあたる。予測していなかった柔らかい衝撃に、思わず変な叫び声を上げてしまう。

 いきなり抱きついてきた張本人に、俺は驚きながらも、誰かを理解していた。

 

「な、なんで()()()()()がっ!?」

 

「あはは、来ちゃった!」

 

 いきなり現れたトーリさんに、状況が理解できず、抱きつかれたまま固まってしまう。

 

「あら〜、こんにちは。今日来たんだ〜」

 

「は〜い! こんにちは、ハヅキさん!」

 

「え、ちょっと!? 何して……っていうか何でいるんですか!?」

 

 いきなり談笑するトーリさんとハヅキさん。俺を間に挟んだまま会話する二人に、なんとも言えない感情が渦巻いた。

 何も聞いてないんですけど!? というセリフは、次のハヅキさんの言葉で封殺される。

 

「あ、ミナちゃん。今日から()()()()()の子なら予約せずに来れるようにしたの。言ってなかったっけ」

 

 このっ、確信犯!

 

 そんな恨めしい言葉は、トーリさんの感触のせいで固まった口からはでなかった。どうしようか、そう思っていると、不意にトーリさんが離された感覚がした。

 

「トーリ、いきなり抱きつかない」

 

「ち、ちぃちゃん。いきなり首掴まないでよ!」

 

「私置いて走っていって何言ってるの」

 

「チ、チシャさん!?」

 

「あら、こんにちは」

 

 振り向けば、そこにはトーリさんの首根っこを掴んでひらひらと手を振るチシャさんが立っていた。

 

「な、なんで……」

 

「トーリに連れてこられた」

 

「……なるほど」

 

「なんで納得するの!?」

 

 何故だろう、“トーリさん”。その言葉が出てくるだけで、謎の納得感が……

 

「トーリちゃん、チシャちゃん。ちょうどよかった。今からケーキのトッピングするんだけど……」

 

「本当ですか!? やります!」

 

「せっかくだし、参加させてもらおうかしら。トーリ、そのまま食べたらダメよ」

 

「なんで名指し!?」

 

 ……なんだかいきなり、騒がしくなったなぁ。

 

 わいわいと生クリームやフルーツを手に、ホットケーキをデコレーションしだすさまを見ながら、不思議と笑みが漏れた。

 

 一緒にいて楽しいなんて思えるのは、ヒトじゃないってことを忘れられるからなのかな。なんて。

 

 

 




 この後、大量のケーキに途方に暮れながら、嬉しそうに尻尾を揺らす猫がいたそうな。
 お菓子作り回でした。大量のケーキでミナセのテンションは高かったみたいです。

 一ヶ月経っていないからセーフ……? 大丈夫ではない気がする。申し訳ない……!

 本当に感想、お気に入りなどなど、ありがとうございます……!
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