TSケモミミコミュ障が振りまわされる話。   作:ケモノ好き

11 / 12
 感想、誤字報告。本当にありがとうございますっ……!
 この場で感謝を……!
 


第11話

 

「ネタがなーいっ!」

 

 

 じんわりと暑くなってきた昼下がり。

 先日のケーキをもぐもぐしていた、3時のおやつの時間。前触れもなく唐突に、そんなトーリさんの叫びが響き渡った。

 当のトーリさんは机に突っ伏して、ぐるぐると唸りながら尻尾を振っていた。いつもは立っているミミも元気がなさそうだった。いや、本当にどうしたんだろう。

 

「……どうしたの、トーリ」

 

 見かねたらしいチシャさんが、お茶をすすりながら、ケーキに手を伸ばすついでに口を開く。

 研究棟(ここ)がアニマリアに開放されて少し。トーリさんとチシャさんは、何かとここに現れ、俺にちょっかいをかけてくるようになった。

 ちょっと前からは考えないくらい話すことが多くなったことは……まあ、嫌ではないのだけれど、ここで撮影を始めるのは遠慮してほしいのが正直なところ。いや、ある程度配慮はしてくれてるらしいみたいなのだが。

 それはそれとして、トーリさんはさっきからどうしたのだろうか。……いや、ネタ?

 

「ネタがないのっ! 動画用のネタが!」

 

 ……なるほど。

 

「…………ああ、なるほど」

 

 チシャさんも理解したらしく、紅茶を置いて呆れたような視線を向ける。

 

「アニマリアって注目されて、尻尾とかミミとか動かして人気とってたものね。そこからは面白くないと見られないもの」

 

「辛辣ッ!」

 

「えぇ……」

 

 あんまりと言えばあんまりな言葉に、トーリさんはまたもや机に撃沈した。まあ確かに、動画投稿者なんてものはネタが命なところもあるし……なかなか世知辛い部分もあるのかもしれない。詳しいことはわからないけど。

 

「だからお願い、ネタちょうだいっ……」

 

 そう手を合わせてお願いするトーリさんに、どうしようかという思いが芽生えた。

 正直、本当に困ってそうだから、手を貸してあげたいという思いはある。……そもそも本当に、猫の手も借りたい思いだろうし。

 だけど……自分は初心者だ。そもそも俺の案なんて頼りにされてないだろうし。というか、そこらのやつに人目を引くようなものをあげられるはずも……

 

「なら、あれやればいいんじゃない?」

 

「え、なになに!?」

 

 俺が迷っていると、チシャさんがフォークを挙手がわりに上げ、くるくると回して答える。トーリさんは、チシャさんの答えを心待ちに、顔をあげ──

 

「解剖」

 

「なんでですかっ!?」

 

 ──予想だにしない答えに、俺が突っ込んでしまった。

 

「そ、そうだよちぃちゃん! バイオレンスだよいきなり!」

 

「冗談よ、冗談」

 

 イタズラが成功したように笑い、ケーキを頬張るチシャさんに、トーリさんは「コンプラ的にダメだからね!」と突っこんでいた。突っこむところはそこじゃないと思う。

 

「じゃあ、持ってる服の紹介でもすればいいじゃない。そういうの、割と人気でしょ? ねえ、ミナセ」

 

「わぶっ!?」

 

 どうしてそこで俺に振るんですか、チシャさんっ!

 

 いきなり話題を振られ、飲んでたお茶を吹き出してしまった。

 

「……いや、ファッション動画なんてほとんど見たことないですよ、俺。それに…………アニマリアの服って、どう紹介するんですか?」

 

「あっ、じゃあ無理かぁ」

 

「……それもそうね」

 

 アニマリアの服は基本的には存在しない。現れてからまだ日が浅いし、数も少ないから、今までの服に切れ込みを入れたりしなければならない。

 研究棟(ここ)だと特注の検査着はあるものの、他だとそんなものはないし、オシャレなものとなると加工するのも憚られ──必然と、自分でどうにかするしかないわけで。

 

「そういえば、トーリの服って今壊滅的だったわ。物理的に」

 

「何で知ってるの!?」

 

「クローゼットの中、縫い目ガタガタの服ばかりじゃない。奇抜なファッションって思われるのでもいいなら、動画にしてみる?」

 

「恥ずかしいよっ!」

 

 ああ、なるほど。だからいつもシャツを出してるのかと、普段の服装を思い浮かべながら、自分は検査着を着まわしているという事実に、そっと目を逸らしておく。

 

「でも実際、トーリっていろいろやってるじゃない。それこそいつもと違うことやらないと。コラボとかそこそこする方だし……やってないことって、何かあるの?」

 

「うーん……わんちゃんと遊んでみたりはしたんだけどね〜。犬の言葉でもわかれば、もっと遊べるんだけどなぁ」

 

 そう構想を練る二人。その視線はなんだか入り難い雰囲気を感じさせて……うん、疎外感がすごい。

 まあどうせ、力になれるなんて思ってもいないわけだし。そのあたりはプロの二人なら、いい案が思い浮かぶだろう。

 

「──ねえ、ミナセちゃんはどう?」

 

「──ふぇ」

 

「何かいいの、なーい?」

 

 いきなり話しかけられて、思わず変な声を出してしまった。

 

「え、えーと……」

 

 ちょっと待って。何も考えてなかった。

 

 自分には縁のない世界だと思って(一回だけ出たけど)、ぼーっとしていたから何も考えていなかった。

 

 ど、どうしようか。

 

 何か、答え方がいいのだろう。それでも、何も思い浮かばないのは事実で。変なことを言ってしまわないだろうか、とか。そういう不安が脳裏をよぎった。いや──

 

 そこまで考えて、トーリさんの顔を見た。

 そこには、明らかに不安の表情を浮かべたトーリさんがいて。本当に切羽詰まってるんだろうなぁ、と察せられた。

 

 そんな表情を見て、思う。

 

 

 ──頼られてるし、頑張ろうかな。

 

 

 少なくとも、今はトーリさんに頼られている。いつもはトーリさんに頼ってばっかりだし……少しは、力になってあげよう。

 

 なんだか少しだけ、気分がいい。じゃあ、何を提案したらいいのだろうか。

 

 トーリさんのことだし、いろいろやってはいそうだ。ファッションは……さっき言ったし。それに、チシャさんが言ってたみたいにいつもと違うっていうのも考えないといけないし…………

 

 あれ、何をどう答えればいいんだ……?

 

 忘れていた。俺は動画のことなんて何も知らないしそもそも、トーリさんの動画は少ししか見ていないかった。だから、何をしてて何をしてないかもわかってない……!?

 そう思い至っても遅かった。混乱した頭ではまとまるものもまとまらず、言葉にすらなっていないものが口から溢れていく。

 

「だ、大丈夫? ミナセちゃん?」

 

「──っ! はいっ!」

 

 あまりにも返答に時間をかけすぎたのか、トーリさんに心配そうに顔を覗き込まれた。いつのまにか近くにあったその顔に身体が強張って、さらに思考がまとまらなくなっていく。

 

 アニマリア、走る、初心者、犬と話せる、自分でも言える、いつもと違う、トーリさんの意外な一面? 簡単に──!

 

 

「──け、健康診断っ……!」

 

 

「えぇっ!?」

 

「ぶふっ……!」

 

 混乱したまま放たれた一言は訳のわからないもの。自分でも何を言っているかわからないまま放ったその言葉に、トーリさんは恐怖と困惑を浮かべて、チシャさんは吹き出してしまった。

 

「それ、いいかもね。確かに人気出るかも。やってみなさいよ、トーリ……ふふっ」

 

「せめて笑わないで言ってよ! 嫌だからね! まだ一週間は余裕あるんだから!」

 

 尻尾を足の間に。ミミを横にするトーリさん。病院が本当に苦手なトーリさんにとっては、動画とはいえ健康診断をするのは嫌なのだろう。とはいえ、一週間猶予があるからといって検査を先延ばしにするのはやめた方がいいのでは……?

 

「んんっ! でもミナセ、確かにトーリの意外な一面は見せられるかもしれないけど、ハヅキさんにも許可取らないといけないし……本人、こんなよ? 面白いけど」

 

「そ、そうですよね……」

 

 まだ少し笑ったままのチシャさんに相反するように、申し訳ない気持ちが湧きあがってくる。

 

 やっぱり、無理があった。自分は初心者で、頑張ってるトーリさんの頼りになれるような存在ではないのだ。ただ一度聞かれただけで勘違いしてただけで、役立たずには変わりなかった。俺はやっぱり、何も関わらない方が──

 

「ありがとうね! ミナセちゃん!」

 

「──へ」

 

 想像していたこととは違う言葉に、意識が現実に引き戻された。

 “ありがとう”。その言葉の意味が分からず、変な声が漏れ出ていた。

 

「ミナセちゃん、動画に出てくれないから寂しかったんだけど……せめて、ネタ出しに付き合ってくれてよかった〜。一緒に動画作ってるって感じがして、嬉しいな〜って!」

 

 輝く笑顔を振りまきながら話すトーリさんに、そんなことを言われるとは思っておらず、何も言えなかった。

 トーリさんのことだから、本心……なのだろう。何の役にも立っていないのに、そんな顔をされれば、何も言えなくなるのは当たり前で。ああ、もう!

 

「そ、そんなことはいいですから! 動画のネタどうするんですか!」

 

 何故か暖かく早鐘を打つ胸に無理やり気付かないふりをして、急かすように誤魔化した。ああもう、なんでこんな気分になるんだろう。

 

「うーん……どうしよっかなぁ〜」

 

 そう呟いて、お茶を一口。

 

「──ゲームしよっか!」

 

「思いっきり逃げてるじゃないですか!」

 

「切り替えはっや……」

 

 「何も思いつかないからね!」とトーリさんはゲーム機を片手にテレビのリモコンを手に取った。切り替えが早すぎではないだろうか。

 そう思っていると、もうこんな時間だからか、夕方のニュース番組が流れていた。

 

『──海岸では、毎年多くの海水浴客が訪れ、人気を博しております。今年も、多くの子どもたちが……』

 

「あ、もうそんな時期なんだ……」

 流れてきたのは、何の変哲もない海水浴のニュースだった。ここのところずっと部屋にいたから暑さなんて気になっていなかったけれど、もうそんな時期になっていたんだ、なんてふと思っていた時だった。

 

「──そっか、海!」

 

「な、何よトーリ。いきなり大声出して」

 

 いきなりの大声に、チシャさんが困惑した声を上げてトーリさんを見やった。そんなことは知ってか知らずか、トーリさんは瞳をキラキラさせて振り向いた。

 

 

「海、行こうっ!」

 

 

「──は」

 

 あまりにも唐突な、いきなりすぎる提案。しかしとても楽しそうな、嬉しそうなトーリさんを見て、俺は。

 

 ──今までの話し合いの意味は……!?

 

 とは……流石に、言えなかった。

 

 

 

 




☆補足
アニマリアの服は現在ほぼありません。
そのため、自分で作る必要があったりします。流石に研究棟だとハヅキさんが手配した尻尾を出せるものが用意されてたりしますが。
ちなみに、ミナセ的にズボンを履くと腰パン気味になるのが悩みらしい。


獣人の服を見て思うのが絶対穴から尻尾出せないよね、です。穴大きいと背中見えるし、小さいと逆立って服の中でぼわってなると思っちゃいます。prettyを見てるとジッパーで、なるほどと思ったりします。
個人的に、ポケット式が一番しっくりきます。

感想、誤字報告等、本当にありがとうございます……! がんばります!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。