TSケモミミコミュ障が振りまわされる話。 作:ケモノ好き
「へー、今ってそんな事できるんだ〜」
「そうなんですよー! 私の行きつけのお店なんですけど、最近アニマリアにも対応してくれて、すっごく助かってるんです!」
「いいお店じゃない! そこ、どこにあるの?」
「えっとね〜……」
──なんだこれ。
目の前で行われるハヅキさんとトーリさんの会話を、俺はもぐもぐしながらぼーっと見つめていた。ちなみに、朝ごはんは洋食である。トーストは後のせバターたっぷりでとても美味しい。
ちなみに、今二人が話しているのはトーリさんの行きつけの美容院だ。1000円カットに通ってた俺には関係のない話だ。
そもそも、なんでハヅキさんは普通に会話しているのか。その人、侵入者じゃないの? というか仕事しろ。俺の検査とかしなくていいのだろうか。
「それでね──」
「そうなんですよ、だから──」
「ああ! やっぱり──」
「ええー! そんな──」
……なんか、居心地悪い。
むぐ、とパンを噛んでジト目をする。でも二人は気付きもしない。なんだこの空気。俺だけ置いてけぼりだ。別に会話に入りたくはないが、目の前で楽しそうに話されるとムズムズする。ぐぅ。
「それじゃあ今度行ってみるわね!」
「はい! ぜひぜひ!」
やっと終わったらしい。これで落ち着いてご飯が食べられる……
「そういえばミナセちゃん! シャンプーって何使ってるんですか?」
「ぅぐっ!? げほっ、げほっ!」
「わあ!? 大丈夫!?」
思わずむせてしまった……!
何故俺に会話を振るっ、ハヅキさんと会話しているだけでいいだろうに。というか、トーリさん距離近くない!?
水を飲みながら、息を整える。顔を上げれば、心配そうに顔を覗くトーリさん。これは、どうすれば……と、とりあえず。
「大丈夫、です。喉に詰まっただけですから」
「ホント? よかった〜」
ほっと胸を撫で下ろすトーリさん。いや、大元を辿ればあなたのせいなのですが。とは言わない。
「え、えっと、シ、シャンプー……でしたね。えっと。あの〜……その、家で使ってたものと同じのを……」
「どんなの?」
「どんなのっ……」
え、いや、そのと短い単語が出ては言葉にならず消えていく。どんなの、と言われたところでシャンプーなんて頓着してないからわかるはずもない。どうすればっ……
「確か○○○だったかしら。あれ良いわよね」
──! ハヅキさんっ!
思わず目を向ければ、ウインクするハヅキさんの姿が……!
「ああ、あれですか! なるほど、だからこんなにサラッサラなんですか〜」
そう言って俺の髪を触るトーリさん。どうやら、納得してくれたようだ。ハヅキさん、ありがとう……!
……うん?
そこで、思い出した。
……なんでトーリさん、こんなところにいるんだ?
「あ、あの〜……」
「うん、何?」
「え、えっと、その、なんていうか。なんでトーリさんがこんなところに?」
「ああ!」
「そうでした!」というトーリさん。え、まさかシャンプー談義で忘れてたとか? そんな俺の気持ちをよそに、トーリさんはその要件を口にする。
「ミナセちゃん! 私の動画に出てくれませんか!?」
────、
「お断りします」
「即答!?」
いや、だって無理でしょ。
「なんでぇ〜、楽しいよ〜?」
「説得する気あります!? 尻尾撫でながら言われても説得力ないんですが!?」
ええい、なんでこの人こんなに絡んでくるの!?
俺が断った瞬間、トーリさんは俺に抱きついて懇願してきた。しかもちょっと泣きが入ってる。
「あ、あの、俺人前に出るとか無理なので、全世界に晒されるとか本当にダメなので!」
「あ、自分のこと俺って言うんだね。珍しいね〜」
「そこですか!?」
どうしよう、この人。話が絶妙に噛み合わない。
一度受けて、ドタキャンする? いや、そんなの無理。面倒なことになるのが目に見えてる。メンタル的にも。じゃあ、すっぱり断る……?
ちらっと、トーリさんを見る。
その目はキラキラしていて、純真無垢な子どものよう。
ああ、ダメだ。断ったら断ったで粘着される。断ってもダメ、受けてもダメ。こんなもんどうすればいいんだ。
そも、俺は二度と人の前に立ちたくないのだ。これ以上、
「はい、そこまで。トーリちゃん、流石に詰め寄りすぎよ? 理由も話さなきゃ、了承できるもできないも無いと思うわよ?」
──! ハヅキさん!
「むぅ、はぁい……」
トーリさんはその言葉を聞くなり俺の上から退いた。
ああ、ありがとう。ハヅキさん……! 一度ならず二度までも、本当にありがとう……!
ハヅキさんに感謝を捧げる俺に、トーリさんはこほんと息を一つ。そして、その真意を口にする──
「えーっと、こほん。ミナセちゃんに動画に出てほしいって思ったのはね。仲良くなりたいなーって思ったからなの」
「……はい?」
──仲良く、なりたい?
「一緒のことやれば、仲良くなれるかなぁって」
「あの、それ別に動画に出ることじゃなくてもいいんじゃ……」
「かわいいから、動画に出たら映えるなぁーと思ったから」
そう言って、トーリさんは俺の瞳を真っ直ぐに見つめる。その瞳はあの動画で見たように、心からそう思っているようで……
──だけど、無理だ。
「──無理、ですよ。かわいいなんて言ってますけど、俺、男ですから」
こういう類なのは、早めに切った方がいい。そう判断して、そう言った。
これでいい、はずだ。そうすれば、勝手に人は離れていく。気持ち悪がられるのも、遠巻きにされるのももう慣れてる。今更、一人増えたくらいでどうってことはない。
彼女もそう思うはずだ。男のくせに女になったって、気持ち悪いって、そう……
「うん? 男の娘ってこと?」
──へ?
「え、でも胸は……あるよね?」
「……? ってどこ触ってるんですか!」
驚いている隙に、トーリさんは俺の胸に手を置いていた。反射的に手を払い除け、ベッドの上に飛び乗った。
ついでに、警戒を込めて睨む。だから「猫みた〜い」って言うんじゃない。猫だけど。
「えっと、どういうこと?」
「……性別が変わったんですよ。俺の性別は元々男です。発症と同時に女になったんです。日本で特殊症例が出たってニュースやってたでしょう? 多分」
「あー、そうなんだ〜。それで、なんでそれが
「何でって……気持ち悪いでしょう。いきなり男が女になったなんて」
「そんなことをないと思うよ?」
「え……」
さも当然、というように、彼女はきょとん、とした顔で続ける。
「別に、そんなこと思わないよ。初対面だし……何も知らないから。ミナセちゃんを知らないのに、そんなこと言えないよ」
それは、俺にとって初めて聞いた言葉で。
「それに、こんなかわいいのに、嫌うなんて無理だよ〜」
俺を否定しない、という言葉だった。
少なくとも、何も知らないから嫌わない。俺のことを知らないから嫌えない。そう、いうことだ。
変わってしまうかもしれないのに。俺を知られて、嫌いになってしまうかもしれないのに。
「……あり、がとう」
思わず、そんな言葉が口から滑り落ちた。初めてだった。そんなことを真正面から言われたのは。なぜか無性に嬉しくて。恥ずかしくて。思わず顔を俯いてしまう。
「じゃ、そろそろ準備しましょうか」
「──はい?」
「やったー! それじゃあ待ってるね!」
そんな感情は、ハヅキさんの言葉でかきけされた。その言葉を聞くなり爆速で出て行ったトーリさんを引き止める間も無く、俺はハヅキさんに肩を掴まれていた。その顔は、笑顔を浮かべてはいるものの、逃しはしないという圧力があって……
「え、あの、ちょ……」
「はーい。じゃ、ミナセちゃん。久しぶりの外出よ。ちゃんとお化粧しましょっか!」
「話聞いてます!? え、ちょ──」
必死の抵抗も虚しく、結局俺は爪から何まで綺麗にされて、出ることになってしまった。
──三ヶ月前から、出ていない外に。
感想をいただいて舞い上がってしまった……
感想をいただけると読んでいただけるという感覚がして単純にめちゃくちゃうれしいです。書いていただけると勝手にテンション上がってます。
多分、コミュ障が肯定されるとこうなるなぁ。
(あと、ケモミミ百合なら伊○○○先生と言う方がいらっしゃってぇ……)
次回更新は……うん、未定です。