TSケモミミコミュ障が振りまわされる話。   作:ケモノ好き

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 ※5月を6月に修正しました。
 


第3話

 かんかん照りの空。

 

 心地よく肌を撫でる風。

 

 ほどよく日を遮る雲。

 

 6月の空をほどよく彩る街々。

 

 

 ──そして……

 

 

「うんっ、良い天気だね!」

 

「そ、そうですねー……」

 

 

 ──突き刺さる視線ッ……!

 

 周りの人間は、犬のミミと尻尾が生えた人間──トーリさんに視線を向けている。どこからか、「アニマリアだー」とか「トーリさんだー」とかそういう声が聞こえて来る。そうなると当然、隣にいる俺にも視線が来るわけでっ……!

 何で、こうなったのだろう。俺は必死に思考を巡らせ、この状況をどうにかしようと打開策を考える……ダメだ、何も思いつかないっ。

 

「でしょ! ミナセちゃん!」

 

「え、あ、はい。そう、ですね……」

 

 空気に気付いて、視線に気付いてっ……! 切実に視線で訴えるも、トーリさんは気にした様子もない。だけど俺にとっては死活問題だ。

 周囲を見渡せば、やはりその視線は俺たちに向いていて……うん、すごい落ち着かない。

 

「そういえばミナセちゃん、男だって言ってたのに自分から()()()()()()()()()!」

 

「あ、それはそのっ……」

 

 言及されて思わず、俺はスカートを押さえた。そう、俺は今、スカートを履かされている。いや、自分で履いたは履いたんだけど……

 

「尻尾隠すには、スカートしかなかったんです……すごく落ち着かないし」

 

「えー! かわいいのに!」

 

「かわいいって言えば何でもいいと思ってません!?」

 

 だから「残念」じゃない。俺は見られるのが嫌なのだ。そも、外に出るのも久しぶりすぎてドキドキしてるのに、アニマリアってバレてジロジロされるのも嫌なのだ。

 というか、なぜ研究棟にサイズぴったりの服があんなにあるんだ。帽子があったのはありがたかったけど。

 初めて履いたスカートにドギマギしながら、俺はトーリさんの後を追う。帽子を落とさないように、必死に押さえながら。帽子をかぶると音が聞こえづらいが、耳がいいからあまり問題はなさそうでよかった。と、内心安堵する。

 

「……ん?」

 

 ふわりと、何かいい匂いがする。果物や砂糖が混ざったような、甘い香り。思わず、匂いの元を探し──それは、そこにあった。

 

 それは、クレープ屋だった。

 幸い、まだ行列にはなっていないようで、人はちらほらといる程度だった。

 

 ……食べたいなぁ。

 

 俺は甘党だった。アニマリアになる前は、スイーツをよく買って食べていたけど……研究棟の中は、正直なところそんな甘いものなんて用意されてなかった。許可を貰えば外に出てはよかったが、外に出たくなかった俺は、誰かに頼むしかなく。だけどお願いするにも恥ずかしくて、当分スイーツなんて食べてなかった。

 

「いい匂いするね!」

 

「っ、はい、そうですね……」

 

 クレープの匂いにぼーっとしていると、突然トーリさんに話しかけられて、特に考えずに返してしまう。

 

「あのクレープかなー?」

 

「そう、みたいですね……」

 

 そう言いながら、足を進めていくトーリさん。そうなれば、当然クレープ屋は通り過ぎることになるわけで。

 ……名残惜しいが、今この状況で買いに行く余裕はない。今回は素通りさせてもらおう。後ろ髪を引かれる思いだけど……

 

「食べたいの?」

 

「……へっ!? な、何をですか!?」

 

「クレープ」

 

「そ、そんなことは、無い、ですけど!?」

 

「さっきからちらちら見てるし、それにほら……」

 

 そう言って、トーリさんは俺を指さした。いや、これは俺の後ろ……? その指に従うまま、俺は視線をやると……

 

 

 スカートが、静かに動いていた。

 

 まるで、何か生き物がいるように、規則的に横に揺れるそれは──

 

 

 

「さっきからスカートの中で()()が暴れてるから、気になってるのかなーって」

 

「こ、これは──!」

 

 尻尾の動きを見られたこと。クレープを食べたがっているのがバレたこと。それを察せられたことが恥ずかしくて、顔に熱が集まる。

 

「ち、違くて、その、これは! 視線が集まって落ち着かなくて」

 

「うん、そうなの?」

 

「そうです!」

 

「でもクレープちらちら見てたよ?」

 

「うっ、ぐぅっ……」

 

 ダメだ、言い逃れできないっ。

 顔に血液が集まっていくのを感じる。もう、自分の顔は見てわかるほどに真っ赤だろう。穴があったら入りたいくらいだ。

 顔を真っ赤にして俯きだした俺を見て、トーリさんはいきなり、俺の手を掴んだ。

 

「仕方ないなぁ〜」

 

「え? ちょっ」

 

 そう言って、トーリさんは俺の手を引き始めた。いきなり引かれた手に、体勢が傾く。思わず帽子が落ちそうになって、空いた手で慌てて押さえた。

 

「お姉さん! クレープくださいな〜!」

 

「はーい! ……ってえ!?」

 

 いきなり突っ込んでいったトーリさんに、クレープ屋の店員さんは驚いた声を上げた。だがトーリさんの上から下まで見た後、すぐさま笑顔に戻る。プロだ。

 

「ミナセちゃん、何がいい?」

 

「いや、あの……」

 

「ここまで来て尻込みしないの! お金はあるから」

 

「それぐらい持ってます!」

 

 ええい、腹を括ろう。

 そう決めて、無難なものを注文する。トーリさんは「じゃあバナナチョコイチゴカスタードチョコチップメロンプリンで!」という謎の注文をしていた。

 

「お待たせしました〜!」

 

「ありがと!」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

 そう言って渡されるクレープ。俺のはチョコバナナだ。久しぶりのクレープすぎて、結局こんなものしか選べなかった。

 

「……っ!」

 

 ごくりと喉が鳴る。本当にスイーツなんて久しぶりすぎて、よだれが溢れた。さて食べようか、としたその時だった。

 

「って、わっ!」

 

 帽子がズレたのだ。慌てて帽子を押さえ、帽子をあげないように調整する。だけどミミが動くせいでぐらぐらする。

 

「ミナセちゃんミナセちゃん」

 

「は、はい。何ですか?」

 

「帽子、外したら? せっかく出来立てなのに。それに……」

 

「それに?」

 

「尻尾動いてて、今更だから」

 

 そう言って、トーリさんは笑う。その瞳はなんというか、生ぬるくて。感じたことのない視線に、俺はなんだかこそばゆさを感じて帽子を深くかぶって視線から逃げた。

 逃げた先にはクレープがあって。たしかに、帽子を押さえたままだと食べにくい。この身体になってだいぶ経つけど、こういうところはなかなかうまく制御できないのが玉に瑕だ。

 

 視線を落とせば、出来立てクレープ。

 時間が経てば、生クリームも溶けて生地も冷めてしまうだろう。

 目立つのは嫌だ。だけど、久しぶりのクレープ。隠れる場所はない。ここで決めねばならない。

 

 ……仕方がない。

 

 覚悟を決めて、帽子を掴んで持ち上げた。いきなり耳の詰まりが取れた感じがして、押さえつけられていた感触がなくなった。

 少し解放された感覚で、クレープにかぶりついた。途端に広がる、数ヶ月感じなかった甘み。

 チョコもバナナも、中で食べたことはあった。だけど、一緒に食べるなんて久しぶりだ。

 チョコは普通のソースと違ってほろ苦く、バナナは反するように甘い。生クリームは甘さ控えめで、なるほど、バナナを甘いものを選んでるなら、これくらい甘い方が俺は好きだ。皮ももちもちしてて食べ応えがあって、とても美味しい。久しぶりのクレープに、思わず夢中になって咀嚼してしまう。

 そのまま最後まで食べ切ろうとした、その時だった。

 

「ママ〜、あれ、なにー?」

 

「……っ!」

 

 続きを食べようとしたところに響いた子どもの声に、手が止まった。

 背に氷を入れられたような感覚がして、顔を上げる。そこには、大勢の人間が俺を見つめていて。

 

 ──やらかした。

 

 久しぶりのクレープに、浮かれすぎていた。周りは俺を凝視して、その歩を止めていて、そこから動こうとはしなかった。

 そんな光景に、後悔の念が湧き上がる。周りがどう思うかはわかりきっていた。クレープなんて食べたいと思わなければ。こんな気分にならなくて済んだのに。

 身体を縮めて、聞こえるであろう言葉に耳を塞ぐように、この場から立ち去ろうと頭を下げた。

 

「す、すいませ──」

 

「お姉さん、私もクレープもらっていいかしら?」

 

「は、は〜い!」

 

 ……あれ?

 

 覚悟していた言葉が、聞こえなかった。それどころか、周りの人たちの視線は今やクレープ屋に向いていて……

 

「美味しかったんだね、ミナセちゃん!」

 

「わっ、トーリさん!?」

 

 理解が追いつかない事態に呆然としていると、トーリさんにいきなり声をかけられた。クレープは完食していて、何故か尻尾が忙しなく動いていた。

 

「あの、どういう状況……」

 

「え、う〜ん……」

 

 俺の言葉にトーリさんは、少し迷うような素振りを見せた。少しだけ、ソワソワとしていて……突然、「あっ」と、何か閃いたような顔をした。そして、いい笑顔と共に親指を立てる。

 

「かわいいって、いいよね!」

 

「どういう意味ですか!?」

 

 いや、本当にどういう意味。帽子を被り直しながらトーリさんに聞くも、何故かはぐらかされて答えてくれない。本当に、いったい何が起こったのだろうか。……怖いんだけど。

 結局、何も教えてもらえず、モヤモヤしたままになってしまった。……まあ、クレープは美味しかったから、よしとしよう、かな。

 

「それじゃあ、行こっか!」

 

「え、どこにですか?」

 

「何って……動画撮影!」

 

 

 ────、

 

 

 忘れてたァーーっ!

 




 
 ミナセ、女装する? テンプレを挟んでみました。
 尻尾を縛ったりしないのは、まともに動けなくなるからです。三半規管が微妙に狂ったりするみたいです。
 目立ちたくない<甘いものにするクレープってすごいね……

☆裏話
 アニマリアがタマネギ、チョコとかを食べて問題ないことは実は証明されてたりします。けれど、大事が起こってはダメだからいろいろと規則、みたいなものは決められてたりします。
 もちろん、ミナセが食べたいと言えば可能な限り買ってもらえたけれど……ハヅキさんがいじります。コミュ障なミナセはすごすご引き下がります。あわれ。

 これだけだと少ないので、二人の好きな食べ物置いてきます。

・ミナセ
好きな食べ物:甘いもの、■■
苦手な食べ物:熱いもの、酸っぱいもの
・トーリ
好きな食べ物:珍しいもの、ご飯に合うもの
苦手な食べ物:臭うもの



 次回は……
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