TSケモミミコミュ障が振りまわされる話。 作:ケモノ好き
俺は、何をしてるんだろう。
「こんにちはー! トーリだよ! 今日はゲストに来てもらってまーす!」
知らないうちに始まる、動画撮影。
トーリさんはもう慣れているようで、お決まりの口上と、企画の内容を明るく、そして楽しげに話し始めた。
「なんと、今日は日本最初のアニマリア、ミナセちゃんに来てもらってま〜す! いや〜、許可もらうの大変だったんだよ〜? えっと、最初会ったとき、すっごくかわいくてね〜」
やめて、やめて……プレッシャーかけないで……
動画撮影はまだ始まったばかりだというに、俺はもう瀕死だ。あのカメラの中に生気が吸われてるのではないだろうか。
心なしかげっそりした気分で、動画の成り行きを見守る。そして、その時が来る。
「じゃあ、ミナセちゃん、どうぞ!」
──来た。
覚悟を決めねばならない。今日だけで何度覚悟を決めたかわからないが、もうここまで来たらやるしかないのだ。
そして、力を抜いて画角に飛び入った──
──俺の尻尾
「はい! ゲストのミナセちゃんの
ああ、どうしてこうなったんだっけ。
画角には入らないところで頭を抱えた。そんな俺を無視してトーリさんは淡々と撮影を続けていく。
ふと、カメラを見た。そこには、だらりと力なく垂れる俺の尻尾が映っていて。
あまりにもシュールな光景に、俺は力なくうなだれた。
「ここが私の家なんだ〜」
結局、あれから逃げることもできず、トーリさんの家に来ることになってしまった。クレープに夢中にさえなっていなければ、まだ引き返せたかもしれないのに。
「いや、それにしても……」
大きいな、とひとりごちた。
見上げれば、立派な一軒家。俺の住んでいた家よりもはるかにでかい。そんな邸宅の鍵を開けて、俺を誘うトーリさん。こんな家なのに、まさか一人暮らしなのだろうか?
「ひ、一人暮らしなんですね。こんな立派なのに……」
「あ、ううん! お父さんが遠くで働いてるだけだよ! まあ、実際一人暮らしみたいなもんなんだけどね〜」
「だから自由に撮影できたりするんだけどね!」と楽しげに笑うトーリさん。それ、関係あるのかなと思うも、口には出さないでおく。
「お、お邪魔します……」
「はーい、いらっしゃ〜い!」
案内されるがままに、俺は屋敷に一歩踏み入れた。
「こっちこっち!」
誘われるがまま、家の奥へと進む。トーリさんの尻尾はぶんぶんと振られていて、嬉しくてたまらないという様子だ。なんというか、人の気も知らないで……という気分にさせられる。
「で、ここが私のスタジオだよ〜」
そう言って、トーリさんは一つの部屋を開けた。そこには、いかにも撮影部屋、という品々が置かれていた。
カメラにソファ、パソコンに机、といった必要最低限のものだけ置かれ、あとは見栄えを良くするためのアイテムが並べられていた。
「どう、ここ!」
「あ、い、いいんじゃないですか?」
俺に聞かないで。たしかに動画はよく見てたけど、正直、撮影のイロハなんてものは全く知らないのだ。そんなことを聞かれても困ってしまうわけで。十人並みの言葉しか返せないのだ。
「よーし、じゃ、準備始めよっか!」
「ちょ、ま、待ってください! 俺、別に動画に出るとは……」
「え〜!」
俺がそう言うとぶー垂れ出すトーリさん。ついでに縋り付いてきた。それを手で押しのけて、俺はなんとか距離をとる。ほんの数センチだけだけど。
「やろうよ〜! ね? ここまで来たんだし!」
「何でそこまで誘おうとするのかはわかりません、けど……」
確かにここまで来て、これまでしてもらって断るのも、よくはないのだろう。だけど、それでも。
「俺は……」
──聞こえてくるのは、喧騒ばかりで。
「俺はもう」
──五月蝿すぎて、眠れない夜も。
「嫌なんです」
──誰からも、認められないのも。
「……見せ物にされるのは、嫌なんです」
──もう、あんな思いはごめんだ。
そんな気持ちを込めて、トーリさんを押しのけた。頑固で、面倒くさくて、嫌な思いをさせたかもしれないが、俺だって、嫌なものは嫌なのだ。
「……そっか!」
トーリさんは、それだけ言って部屋を後にした。諦めたのだろうか。それ、だと……嬉しい、のだけど。
……嫌われたかもしれない。
何を言っているのか。拒絶したのは、自分のくせに。嫌な気分がぐるぐるして、少しだけ泣きそうになった。
「……帰ろう」
そう呟いて、部屋の出口に向かう。せめて、最後にトーリさんに断りを入れておくべきだろう。
そう考えた、時だった。
扉が、勢いよく開かれた。
「なら! これなら出てくれるよね!」
扉をバンッと開けて現れたトーリさん。その手には、クッションと椅子が担がれていて。
「これなら身バレしないし、出られるよね!」
そう心底ワクワクした様子で語りかけてくるトーリさんに、とりあえず俺は言うことにする。
「……とりあえず、勢いよく開くのはやめてください」
「わぁ!? ご、ごめん!」
扉の勢いでひっくり返ったまま、そうこぼした。
そうして今に至るわけである。
“出たくない”を“身バレしたくない”と解釈したトーリさんとの折衷案。それが、尻尾だけ登場する、というものだった。わけがわからない。
なんというか、これ以上意地を張るのもアホらしくなって……というか、無理だと悟ってこれを呑んだわけだが、一体全体、何故こうなったのか……!
「それでは早速……『ミナセちゃん質問コーナー』! というわけで今から質問を募集します! ハッシュタグで……」
──って聞いてないよおい!?
ああ、やばい。どうやって止めればいい。何でよりにもよって質問コーナー。声をたくさんださなければならない企画をっ……というか初対面で何故、質問コーナーなんて距離感バグった企画をするんだ。そしてそれを楽しそうな笑顔で提案するな、否定しづらくなる。
下手に声を出せば動画に入ってしまう。動くなんてもってのほかだ。ど、どうすれば……
その時だった。
去年のカレンダーとシャープペンを見つけたのは。
こ、これなら……!
トーリさんはもうSNSで質問募集を始めてしまっている。これから止めるには遅いだろう。ならば。
「はーい、早速質問を……ってあれ?」
ぱすんっ、と軽い音を立てて、トーリさんの前に落ちたもの。それは、俺の折った紙ヒコーキだった。
「開けってこと?」
うん、その通り。
トーリさんは俺を見る。それに俺は首肯で答えた。すると、「おっけー!」という返事と共に、紙ヒコーキが開かれていく。すると、見えるわけだ。
俺の書いた、メッセージが……!
「【五つまでです】……はぁい」
質問に答えるのは五つまで、というメッセージだった。
ごめん、無理だ。あんな楽しそうにしてるトーリさんに企画変えろなんて言えるわけがない。そも、面白い企画なんて思いつくわけでもない。受け入れた時点で負けが決していた。
「おっ、早速来たね! えーと、【何のアニマリアですか】だって!」
答えを書いて、紙ヒコーキにして投げる。
「えっ、そういう返答方法にするの? えーと……【猫】。簡潔っ」
うっさい。俺にユーモアを求めないでくれ。エンターテイナーなら、なんとかうまく扱ってほしい。
「次は……【スリーサイズは】……ダメだって、尻尾が言ってるね!」
尻尾を背もたれに叩きつけて返答。恥ずかしくてろくに測ったこともないのに、誰が答えるか。
「【お互いの第一印象は?】かわいい! あのね〜、アニマリアって感情わかりやすくってさ〜、ここにくる時、クレープ見つけて……あいた!」
そんなこと言わんでいいっ。
そんな思いをこめて丸めてぽいしたカレンダーはトーリさんの頭にクリーンヒット。なんとかそれ以上喋ることは阻止。
「でも顔真っ赤にしてるから、結構恥ずかしかったり……次行こう!」
さすがに、尻尾の動きで不機嫌なのがバレたらしい。トーリさんはし切り直して次の質問を読み出した。
「は〜、お疲れ様〜!」
「お疲れ様、でした……」
結局、なんだかんだで質問を五個以上答えさせられてしまった。
変なことを言おうとするたびにカレンダーを丸めて投げて、紙ヒコーキでなんとか意地を伝えていた。最終的に紙が足りなくなって、千切った玉を撃ってばっかりだった。
「楽しかったよ、ありがとね!」
「は、はあ。それならよかったです」
「でも、何で紙ヒコーキだったの?」
「だって……撮影中だったじゃないですか。入らないようにするには、ああするしかないと思って……」
「別に編集するから、入ってきてもよかったのに〜」
「……あ゛っ」
そうだ。これ配信とかじゃないから、別に入り込んでも良かったんだ!
「もしかして、気づいてなかったの?」
「うっ……」
テンパりすぎて気づかなかった、とは言えず。とりあえず目を逸らしておく。なんだか、申し訳ない気持ちになってきた。
「あの、ごめんなさい。紙投げつけたりして。こんな素人が動画に関わっても、面白くなんてないですよね……」
「そんなことないよ!」
「え……」
「紙ヒコーキで会話するのも楽しかったし、尻尾で感情表現してくれるから、動画的にもよかったと思う! それに……」
そう言ってトーリさんは、朗らかに笑っていた。そして、一層笑みを深めて続ける。
「──ミナセちゃんと、仲良くなれたみたいでよかった!」
──え。
「だってミナセちゃん、途中で紙の玉投げつけてきてくれたし、あんなわかりやすい尻尾も見せてくれたし、ああ、仲良くなれたんだな〜って」
「そんな、一日も経ってないのに」
「仲良くなるのに時間は関係ない、でしょ?」
ま、眩しすぎる……!
思わず目を細めて、一歩下がってしまう。仲良くなるのに時間は関係ないってリアルで初めて聞いた……
困惑する俺に、トーリさんはいきなり抱きついてきた。
「わっ、トーリさん!?」
いきなりすぎる出来事に、思わず身体が硬直する。そんな俺を置き去りに、トーリさんは優しい声音で言った。
「……ありがとう。動画に出てくれて。おがげでとっても楽しかった」
「──ぁ」
その言葉は、とても優しかった。
抱きしめられた体温と、身体をくすぐる尻尾に、顔が熱くなっていく。
──言わなきゃ、ならない。
自然と、そう思っていた。
誘ってくれたこと。クレープに付き合ってくれたこと。言うことを聞いてもらったこと。それと……
想いが湧いては溜まっていく。噴き出た想いが多すぎて、爆発してしまいそうだ。だから、言わなきゃ。
「──えっと、こちらこそ、ありがとう……ございます。その、あのぉ……楽しかった、です」
顔が熱い。本当に火が出そうだ。
こうして正面から誰かにお礼を言うのは、久しぶりかもしれない。
どれだけ拙い言葉が出たのだろう。トーリさんは抱きしめたまま動かない。少しばかり不安が過ぎる。
だが、そんな想いも、俺を抱きしめる腕に力がこもることで中断される。
「ミナセちゃん、また一緒に遊ぼうね!」
その問いに答えるのは、気恥ずかしくかった。なんだか、顔が上げられない。本当に、恥ずかしい。
でも、今日は本当に──
「じゃあ、また一緒に動画撮ろう!」
────、
「動画は嫌です」
「即答!?」
これさえ、なければなぁ。
素直に、言えるのに。
コミュ障は多少強引にしないと心を開かない生き物です。
このお話は、ちょっと強引な犬ミミ美少女に釣られて、一歩歩むまでのお話、みたいなものです。だ、大丈夫かな……?
求めていたのと違ったらごめんね。ちょっと強引だったかも。あとストーリーとちょっとのシリアスがいるものなので……
質問コーナーは某社長の動画を参考にさせていただきました。
というか、コミュ障を一日足らずで落とすトーリすごいなー……
感想:たくさん
お気に入り:たくさん
評価:色付き
……Σ(; 0×0)
まさか、寝て起きたら倍以上に感想もお気に入りも増えているとは思わなかった……感想返しが大変という初めての体験をしました……! 夢かと思って小説情報を見るたびにお気に入りが10件ずつ増えてるって……
TS猫ミミ娘がクレープに夢中になってるだけでこんなにかわいい言ってもらえるとは……
本当に感謝、感激です……!