TSケモミミコミュ障が振りまわされる話。 作:ケモノ好き
「ミナちゃん、お昼ご飯の時間ですよー」
「……はぁい」
トーリさんと動画を撮ってから、一週間が経った。俺が出た(尻尾だけ)動画は、そこそこ見られたらしい。コメントは『尻尾だけは草』とか『生殺しやんけ』というコメントが大半だったらしい。
なぜ“らしい”なのかというと、トーリさんとハヅキさんからの情報しか聞いていないからだ。
だって、恥ずかしい。コメントを見ないにしても、尻尾しか出ていないとはいえ、自分がでている動画なんてどう見ればいいのだ。
というか、こんな情報を得られているのも、いつのまにか入れられていたSNSアプリのせいだ。帰ってきてゲームをしていると、いきなりトーリさんから連絡が来て飛び上がってしまった。
それからまあ、それなりに連絡はとっている。なぜか、スイーツの写真ばっかり送られてきて、羨まし──うっとおしいと思うけど。一体、いつ入れたんだろう……
「それにしても、よく動画に出たわね。ミナちゃん、あんなに嫌がってたのに。なにか心変わりでもしたの?」
「いや、なし崩し的に……」
「そうなの? それにしては楽しそうにしてたじゃない。紙の玉投げて。もしかして、ノリノリだった──痛い!?」
うっさい。余計なことを言うハヅキさんには、尻尾で叩いておく。
ノリノリだなんて、あるわけもない。
俺はいかにして動画に映らないかだけを考えて行動していたのだ。そんなことを考えている余裕なんてなかった。
あるとすれば……トーリさんに、乗せられただけだ。それしか、考え、られない……
『……ありがとう。動画に出てくれて。おがげでとっても楽しかった』
「……っ!」
昼ご飯のカレーをかき込んで、水を流し込んだ。
「ミナちゃん?」
「は、はい!? 何ですか!?」
「大丈夫? 尻尾がめちゃくちゃだよ?」
「大丈夫です!」
ああもう、変なことを考えてしまった。トーリさんが来てから、調子が狂うばかりだ。
別に変なことはじゃない。ただ、お礼を言われただけだ。それがただ、なぜか妙に恥ずかしかっただけだ。何故かわからないけど!
「……ごちそうさまでした。ハヅキさん、今日ってあと何かありましっけ」
「うん、ないよ? ……あ」
「へ、何かあるんですか? なら早くしないと……」
そう言った、時だった。
「ミナセちゃん! 来たよ〜っ!」
聞いたことのある声。他でもない、そんな言葉とともに現れたのは、他でもない、トーリさんだった。
「な、なんでトーリさんが!?」
「迎えに来たよ〜、じゃ、行こっか!」
「どこにですか!?」
いきなり現れてなんだこの人! ええい、説明もなしにどこかへ連れて行こうとしないで!
「そうそう、トーリちゃんが来るって伝えるの忘れてたのよ」
「今言いますか!?」
「じゃ、早速着替えてきましょうか。トーリちゃん、ちょっと待っててね!」
「はーい!」
「俺の意見無視ですか!?」
なんかデジャヴ!
結局、徹底的に囲いにかかる二人に敵うはずもなく……また俺は綺麗に磨かれてトーリさんに投げ渡されることになった。
アニマリアの研究はいいのだろうか。たしかに、暇だったけれども……!
「それで、なんで俺を連れ出したんですか」
俺とトーリさんは今、またあの道を歩いていた。今日は平日だからか、人の姿はまばらだ。その分、多少歩きやすくて助かった。
「また遊ぼうって言ったでしょ?」
「言ってましたけど……」
何か、社交辞令的なものだと……
まさか本当にまた遊ぶ……遊ぶ? ことになるとは思わなかった。なんだか、また振り回されることになる気がするけど。
「そういえば、私の動画見てくれた?」
「いえ、まったく……」
「えー、ミナセちゃんの動画とか評判良かったんだけどなー」
「そ、そうなんですか……」
そう答えたきり、無言で歩き続ける俺とトーリさん……
か、会話が続かないっ……!
二人で歩いているのに会話が続かないのはいただけないのでは? ど、どうすれば……
「そ、そういえばトーリさん」
「うん、どうしたの?」
「なんで、トーリさんは動画投稿を始めたんですか?」
とりあえず、何も不思議じゃない程度に会話をしてみようと、前から気になってたことを聞いてみる。
一体、何を思って動画なんて始めたのか。それだけは、ちょっとだけ、聞いてみたかった。
「うーん、そうだなぁ」
俺の問いを聞いたトーリさんは、考える素振りを見せて、「うん」と頷いた。
「やってみたかったからかな!」
「えっ……」
“やってみたかった。だからやった”といつ極めてシンプルな、予想してなかった答えに思わず声が漏れる。
「ほら、今流行ってるじゃない? そういうの。レビューとかバーチャルとか、だからいつかやってみたいなーって思ってて。アニマリアになったから、ちょうどいいって思ったんだ〜!」
「え、あの……それ以外の理由って」
「無いね!」
おう、ばっさり。
なんというか、すごいな。
そう楽しそうに語るトーリさんを見つめながら、思う。
怖くは、なかったんだろうか。
まだアニマリアが現れて、一年も経っていない。前例はあったとしても、まだアニマリアへの偏見は根強い。それなのに、何でただ“やりたい”だけで、こんなに行動できるんだろう。
「なんでそんな簡単に、やろうって思えるんですか?」
思えば、口から勝手に、そんな言葉が出ていた。
すると、トーリさんはきょとんとした顔を浮かべて、足を止める。
まずい、地雷に触れた……!?
「ご、ごめんなさい。無遠慮な質問してすいません!」
思いもしなかったトーリさんの反応に、反射的に謝罪する。ああ、失敗した……!
「──後悔したくないから」
「……へ?」
「後悔したくないから、だよ」
そう言うトーリさんは、先ほどまでの顔をくるりと変えて、ニヤッとした笑顔を浮かべて、続けた。
「やりたいことをやらないなら、“後悔”しか残らないからね! だからやりたいことは我慢しないようにしてるの」
さも当然のように語るトーリさんは、すごく眩しくて。まるで純粋な子どものように笑うトーリさんを、直視できなかった。
「だから、ミナセちゃんを誘ったわけだしね!」
「え、そこからどうしてそこにつながるんですか」
「あ、着いた着いた! いらっしゃ〜い!」
「話聞いてます!? って……」
いつのまにか、トーリさんの家に着いていた。まさかとは思ったが、もう一度この家に来ることになるとは思っていなかった。
「ただいま〜!」
そう言って家に入っていくトーリさんをみて、思う。
「すごいなぁ……」
俺には、無理だ。
やりたいからやる。それは、きっと言葉にするより難しいことで。それをしようと思えるだけ、きっとすごいことなんだろうな、と思う。少しだけ、羨ましいかもしれない。
「ミナセちゃん、早く〜!」
「は、はい! お邪魔します!」
トーリさんに呼ばれたから、急いで家の門を潜る。それにしても、ここで一体何をするつもりなんだろう。動画撮影だったら逃げ……られる気がしない。
家に入った俺は、すぐさまリビングに通された。トーリさんは奥からお茶とコップを持って、俺に渡してくれた。
「いらっしゃい、ミナセちゃん」
「は、はい。どうも……それで、今日はなんで連れてきたんですか?」
「あれ、さっき遊ぼうって言ってなかったっけ?」
「……へ?」
「一緒に遊ぼうと思って、いろいろ用意したんだ〜」
「……あの、動画の撮影、とかではなく?」
「へ、撮りたいの?」
「ち、違います!」
まさか、本当に遊ぶだけとは。
内心でほっと一息。また動画に参加させられるかと思った。俺なんて参加しても、ろくなことにならなさそうだし、今日に至ってはただ遊びたいというのなら、まあよかった。
「じゃあ、ちょっと持ってくるね!」
「え、何をですか!?」
「秘密〜」
えへへ、と笑ってその場を後にするトーリさん。それも、なぜか尻尾を振って。とんっ、とんっと軽い足取りでどこかへ向かっていく。
なんだか、嫌な予感がする。
今まで見たこともないトーリさんに、俺のナニカがそう告げていた。だけど、何をするかも想像がつかない。冷や汗を流しつつ、トーリさんを待つしかなかった。
「……さすがに、遅くない?」
──あれから、十分経ってもトーリさんは戻ってこなかった。
一体、何があったのだろう。ミミをすましてみても、ゴソゴソという音がするくらいで、ほとんど物音がしない。それに、何か歩いている、という感じでもない。
……まさか、何があったのだろうか。
ちょっとだけ、心配になってきた。
下敷きになってもがいてるとかじゃないよね……?
探しに、行こうか。
人様の家を勝手に散策するのは気がひけるが、何か大ごとになるよりはマシかもしれない。でも、やっぱり人の家を勝手に……
「……ん?」
そう思っていた時、足音が聞こえてきた。どうやら、杞憂だったらしい。何事もなかったようでよかった。少しだけ安心した気持ちでお茶を口に含む。
トタ、トタっ、という音は、規則正しくリビングに向かっていた。そしてそれが、不意に止まって、リビングの扉が開かれた。なんの気無しに、トーリさんに目を向ける──が、止まる。
「……はい?」
そんな声が、自分の口から漏れた。いや、だって仕方がない。
だって、入ってきた人は
そんな彼女は、薄い黄色の尻尾を揺らし、同じ色のミミをピンっと立たせ、驚いたように震わせていて──
「…………誰?」
やっと口を開いた彼女は、ここにいて当然、というように話しかけてきた。
「……そっちこそ、誰ですか!?」
あまりにも不審者すぎる不審者に、俺も思わずそう叫んでいた。
新アニマリア登場! 実は名前だけ出してたりします。彼女は誰なのか……? と。
コミュ障は、二人で歩いていると話したくはなくとも、何か話さなければ失礼なのでは……? という観念に囚われたりする生き物です。
感想とお気に入りを多くいただいて、戦々恐々しながら投稿しております。TSケモミミ百合ってすごいなぁと。鈍足ですが、お読みいただきありがとうございます……!