TSケモミミコミュ障が振りまわされる話。   作:ケモノ好き

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第6話

 

 

「ということで! ミナセちゃんに紹介しようと思って、ちぃちゃんを──痛ぁ!?」

 

 

 あれからすぐ。トーリさんが後ろから現れ、紹介したいなどと言い出した。まさか、ずっと仕込んでいたのだろうか。というかどこから入ったんだろう。

 

「ちぃちゃん、痛いっ!」

 

「痛いじゃないわ。あんたまた変なことやって、こんないかにも気弱そうな子にドッキリ染みた事しかけるもんじゃないわよ」

 

「き、気弱……」

 

 初対面の人にもそう言われるのか……

 

 当たってはいるものの、なんとなくショックだ。そんな俺を無視して、トーリさんと知らない人は会話を続ける。

 

「どうせ、あんたのことだから無理言って連れてきたんでしょうけど。もうちょっと、自重しなさいよ」

 

「あ、あの!」

 

「何かしら」

 

「えーっと、とりあえず、どちらさまで……」

 

「ああ、そうね」

 

 こほん、と息を一つ。彼女は尻尾をふるりと動かした。その姿はなんというか、不思議な魅力を持ってて、というか、圧力を持ってて……

 

「私はチシャ。まあ、見ての通り狐のアニマリア。それで、あんたは?」

 

「はい! 俺はミナセです! 見ての通り猫ですっ、よろしくお願いしますっ!」

 

 

 な、なんか思わず警戒したまま返事をしてしまった……! まずい、変に思われてないだろうか?

 

 恐る恐る顔を上げる。

 そこには、口元に手を当てて、こちらを見つめるチシャさんの姿があった。あれ……? 一体、どうしたんだろうか。

 

「…………なるほど。トーリがかわいい、かわいいって言ってた意味がわかるわ」

 

「でしょ〜?」

 

「へっ!?」

 

 いつのまにそんな会話が!? なんで人の情報を簡単に言うの、トーリさん!

 

 そんな俺を置いて、チシャさんは俺をじーっと見つめていたと思うと、いきなり俺のミミを揉み始めた。突然すぎて、尻尾がぶわりと膨らんだ気がする。

 

「な、ななな何を!?」

 

「あんた、本当に男の子だったの? なんか弱々しすぎて、そう思えないんだけど……あら?」

 

「なんで知ってるんですか!? とりあえず放しっ……トーリさん!」

 

 この人も距離感が近いっ。

 ミミを揉まれながら、俺はどうすることもできなかった。トーリさんを呼んでも微笑んでるし、心臓はバクバクしっぱなしで、落ち着く暇もない。

 

「……まあいいわ。それで、トーリ。私とこの子呼んで、何しようとしてるの? また動画?」

 

「あ、違うよ……よいしょっと」

 

 ようやく、ミミを放してくれたチシャさんの言葉に、トーリさんは紙袋を取り出した。それをどんっと勢いよく机に置くと、その中から箱のようなものを取り出して、満面の笑みで言った。

 

 

「カラオケ、やろう!」

 

 

 ──カラオケ。

 

 それは、仲のいい友だち同士で行ったり、恋人同士で行って、全力でふざけたり、ラブソングを歌ったりするもので──

 

 

「ごめんなさい、無理ですっ……」

 

「即答っ!? しかもそんな悲痛に!?」

 

 

 打ち上げの時、ずっと人の歌を聴きながら、ジュースを飲んでいた俺には無理だ……! そもそもなんでカラオケに……!

 

「ミナセ、落ち着いて。そもそもなんでカラオケなのよ。別に、お店に行けばいいじゃない」

 

「あはは、実はカラオケセットずっと持ってたんだけど、使い道がなくて。折角だからちょうどいいな〜って思ったんだ。ミナセちゃんとちぃちゃんを会わせたかったし」

 

「でも、なんでカラオケを……あれ」

 

 

 そこで、違和感に気づいた。

 

 なんで、カラオケセットを紙袋から出したんだろう、と。

 持っていたにしては、紙袋が綺麗すぎるし、それにホコリもかぶっていない。それも、未開封の証である箱の爪の部分もテープで閉じられていて、まったくの新品であると察せられた。

 だったら、なんでわざわざ? なんで買ってきてまで、家でカラオケなんて……

 

 

「ほら、ミナセちゃん、外苦手だから。ちょうどいいなって」

 

 

 ──あ。

 

 たしかに、俺は外が苦手だ。それはトーリさんには今までの言動でバレているだろう。なら──

 

 ──もしかして、()()()()()()()()()()()()

 

 そんな疑問が芽生える。それなら、あれが新品であることも納得できる。……いや、まさか。そんなことがあるはずがない。

 まだ会ってそんなに経っていない。そんなほぼ初対面の人に、そんな気を回す必要もないはずだ。本当にただ、綺麗な状態で保存していただけだろう。自意識過剰にも程がある。そう、決めつけた。

 

 

「じゃ、繋いだから、早速歌っていこ〜!」

 

 

 

 


 

 

 

「────、」

 

 リビングに、美しい歌声が響き渡る。

 歌詞をなぞるだけではない、確かな。(ことば)の一つ一つに感情を込めて歌われるそれは、まさに歌手のようで。

 歌に感情を込めるその人は、ミミと尻尾を音色に乗せて、指揮者のように空をなぞっていた。

 

「────♪」

 

 そうして、彼女の歌は終わる。

 歌を見事に表現し切った彼女は、どこか満足げだった。

 

 ──そして。

 

「やった! 96点だって! 久しぶりのカラオケで!」

 

 賑やかな音とともに採点が終わり、歌手──トーリさんは、尻尾をブンブンと振り回しながら高得点がとれた喜びを全身で表していた。なんというか、台無しである。

 

 当然、俺はタンバリンである。

 無理です。歌うなんて。まともに歌ったことなんて、合唱コンクールくらい。しかも、まともに声を出したことなんてない。

 そんな俺は、次々歌う二人についていけず……なんというか、ものすごい疎外感に包まれていた。そもそも、タンバリンすらどのタイミングでやればいいのかわからないのに。本格的に俺がいる意味がわからなくなってきた……

 

「おめでとう、というかさっきからアニソンばかりじゃない。流行りの曲とか歌わないの?」

 

「カラオケって好きな曲を歌いたいからね〜。そう言うちぃちゃんも流行り曲ばっかりじゃん!」

 

 疎外感を感じる俺を置き去りに、トーリさんとチシャさんは会話をしている。なんだか、悲しくなってきた。こんな時、どうすれば……

 

「じゃ、はい!」

 

「へ?」

 

 そんな俺の手に、いきなり何かが渡される。視線を落とせば、スイッチが入った状態のマイク。

 

「次はミナセちゃんの番ね!」

 

「え、お、俺ですか!?」

 

 いきなりバトン(マイク)を渡され困惑する俺に、トーリさんは「大丈夫大丈夫!」とサムズアップ。何も大丈夫じゃない!

 

「いや、俺歌なんて上手くないですし、歌ったことなんてもう3年くらいしてないし、そもそも俺の歌なんて聞いても得しないですから、おミミを汚すだけですから!」

 

「私が聞きたいの!」

 

「そんなこと言われてもっ!」

 

 あまりにも押してくるトーリさん。本当にどうすれば……

 

 

「……歌いなさいよ。ミナセ」

 

 

 口を開いたのは、チシャさんだった。

 思わず顔を見れば、縦に割れたその瞳は俺をまっすぐ見つめていた。あまりにもまっすぐすぎるその瞳に、体が強張ってしまう。

 

「歌ったほうがいいわよ、ミナセ。トーリは決めたら梃子でも動かないから」

 

「ちぃちゃん!? 人を頑固ものみたいに!」

 

「事実でしょう」

 

 そこには同意する。

 まあ、トーリさんがいなければ、今ここにいないわけではあるけど。

 

 

「…………大丈夫、()()()()()()()

 

「え……」

 

 その言葉は、その瞳と同じようにまっすぐで。心の奥底まで見通すような目に、身体が跳ねた。だけど不思議と、そんなに気にさせられてしまう。……がんばって、みようか。

 

「──歌ってみます」

 

 選ぶのは、よく聞いたことのあるアーティストの曲。テンポは遅めで、比較的歌いやすかったはず。

 久しぶりの歌で、正直どう歌っていいかなんてわからない。だけど、誰も、笑わないなら……

 

 

「────♪」

 

 

 歌い始めは、ゆっくりに。声量はできるだけ抑えて、伸ばすように歌いあげる。サビの部分は少しだけテンポは上がるから、息継ぎはしっかりとして。

 

「────!」

 

 最後のサビは力強くして、勢いよく歌い上ていく。

 

 不思議だ。さっきまで緊張してたのに、歌えば歌うほど、緊張が緩んでくる。ああ、歌うって、こんな感じだったなぁ。

 

 

「────っ!」

 

 

 ──最後まで、歌い切った。

 

 久しぶりすぎて、声がひどかった印象しかない。一体、どう──

 

「すごかったよ、ミナセちゃんっ!」

 

「わわっ!?」

 

 そんな余韻に浸る暇もなく、トーリさんに抱きつかれた。抱きついた時のいい匂いに、自然と顔が暑くなっていく。

 

「と、トーリさん……」

 

「歌上手だったんだ! びっくりした〜。見てよ、得点!」

 

 得点?

 

 そう思って、画面を横目に見る。そこには、『97点』と表示された採点画面が映っていた。

 

 ……あれ、自分で出したのだろうか?

 

 自分の思っていた現実と違いすぎて、思わず呆けてしまった。

 

「ねっ、ちぃちゃん!」

 

「……ええ、そうね。少なからず、トーリよりは」

 

「ちぃちゃん!?」

 

「ち、チシャさ……」

 

「上手だったわ。ちょっとだけびっくりした」

 

 ……褒められて、いるのだろうか?

 

 チシャさんの言葉は、どこかそっけない。だけど、どこか自分が誉められてるようで……なんだか、すごくムズムズする。身体中を羽で撫でられてるみたいだ。

 歌を褒められるとか、初めてすぎて。俺の感情を、どう表せばいいのかわからない。う、うん。むず痒い。というか、すっごく恥ずかしい。

 

 

「え、えと……ありが、とう」

 

 

 辛うじてそう言って、身体を引き剥がすように、マイクをトーリさんに押し付けた。押し付けられたトーリさんは、不思議な笑顔を浮かべていた。その視線がまたむず痒くて、思わず顔を背けてしまう。

 俺の顔は今、どうなっているのだろう。せめて、真っ赤になっていなければいいのに。

 

 そう願う俺に、トーリさんは「よし!」と掛け声を一つして、マイクを構えていた。

 

 

「じゃあ、どんどん歌っていこうか──」

 

 

 そう言って、曲が流れ始めた時だった。

 

 

 ──トーリさんが、倒れたのは。

 

 

「トーリさん!?」

 

「トーリっ!」

 

 声を荒げて、トーリさんに駆け寄った。いきなりすぎて何が起こったかわからないが、頭を打っては一大事だ。

 俺より近かったチシャさんは、早速トーリさんの容態を確認していた。こういうのは手慣れているのだろうか。そして、トーリさんを一通り確認すると口を開く。

 一体、何があったのか。緊張する俺に、チシャさんは言った。

 

「……ミナセ」

 

「は、はい」

 

「あの、信じられないかもしれないけど…………()()()()

 

「はい! …………はい?」

 

「寝てるわ」

 

 

 ────、

 

 

 えっ!? 今!?

 

 

 くー、と寝息を立てるトーリさんを置き去りに、俺はそう思った。不思議なことに、チシャさんと思っていることは同じ……な気がした。

 

 

 




 というわけで、新アニマリア『チシャ』です! 狐の割と落ち着いたキャラです。
 あと、トーリとミナセの好きなものは書いたので、情報を置いておきます。
・チシャ
好きな食べ物:お肉、果物
苦手な食べ物:こってりしたもの
カラオケ:とりあえず流行り曲歌うタイプ。

トーリ:本当に好きな曲を歌うタイプ
ミナセ:基本歌わないけど、ノリノリに囲まれて申し訳なくなって知ってる曲歌うタイプ。

☆裏話「チシャが入ってこれた理由」
狐「まったく、こんな日に呼び出して、トーリったら……あら、窓が開いてる……?」
犬「やっほー、ちぃちゃ〜ん。こっちこっち」(ウィスパー)
狐「何やってるのあんた」

 ということがありました。

 
 

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