TSケモミミコミュ障が振りまわされる話。   作:ケモノ好き

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第7話

 

 

「完全に寝てるわね……」

 

「えぇ〜……」

 

 ぐー、という寝息を立てながらトーリさんに、俺とチシャさんはなんだかなんとも言えない表情を浮かべていた。

 

「そういえば徹夜って言ってたわ。体力をこの瞬間に使い切ったのね、多分」

 

「えぇ、そんな子どもみたいな……」

 

「実際、寝てるもの」

 

 いや、そうなんだけど。

 微妙な気分で、寝ているトーリさんを見る。その顔は、本当にすやすやと眠っていて。なんというか、起こすのも憚られる。

 

「それで、どうする? 家主は寝ちゃったけど、これから」

 

「へっ?」

 

「帰るの? 予定があるんだったらそうすればいいと思うし、トーリが起きるまで私がここにいるわ」

 

 ああ、そういうことか。

 ……どうしようか。正直、一人で帰るのはまだ怖い。だからもうちょっと、ここにいさせてもらいたい、というのが本音だ。

 ……だけど、“帰るの?”というのがさっさと帰れって意味なのだろうか。だったら……さっさと、帰った方がいいのかもしれない。

 

「言っておくけど、とっとと帰れって意味じゃないからね」

 

「は、はい! すいません!」

 

 読まれてたっ……!

 

「……あんた、わかりやすすぎるのよ」

 

「そ、そんなにわかりやすいですかね?」

 

「ええ。ちらっと見ればわかるくらいに」

 

「す、すいません……」

 

「なんで謝るのよ」

 

 自分がそんなにわかりやすいとは思っておらず、チシャさんの指摘にものすごく申し訳ない気分にさせられる。

 そんな俺に、チシャさんは呆れたように笑っていた。なんだか、その視線がすごく生ぬるくて。思わず、顔を逸らしてしまった。なんで俺を見る人は、だいたい温かい目をするんだ。

 

「まったく、聞いてた通りね」

 

「へ、聞いてたって……ああ、トーリさんから……」

 

「そ。トーリから今日ここに呼ばれた時に、ミナセのことを聞いてたの。元男の子だけど、すっごくかわいい子って」

 

「へ、へー……」

 

 かわいい子って。元が着くが男であった俺にはなんだかすごく、複雑な気分だ。

 

「実際見てみたら、気弱そうだし恥ずかしがり屋って、たしかに、変な愛らしさはあるかもね」

 

 褒められて、いるのだろうか?

 チシャさんの言葉は妙にまっすぐくる分、言葉の裏がわかりにくい。元男としては、愛らしいとか言われても、どんな反応をすればいいか困ってしまうのだけれど。

 

「また困ったって感じね」

 

「うぐっ……」

 

「それで、どうする?」

 

「……せめて、起きるまで待ってます。寝ているうちに帰るのは失礼な気がして」

 

「ふふ、そう」

 

 チシャさんは口元に手をあてて笑うと、自分と俺のコップにお茶を注いで、渡してくれた。

 

「じゃあ、待ってましょうか」

 

「は、はい!」

 

 

 


 

 

 

 とは言ったものの……

 

 チシャさんは、さっきからスマホをのぞいている。さっきから操作はしていないから、多分動画でも見ているんだろう。

 対する俺は、真っ暗な画面を触っているふりをしながら、周囲を伺っていた。まあ、とどのつまり。

 

 空気が、重いっ……!

 

 まさか、たった一人寝ただけでこれほど空気が重い感じになるとは思わなかった……! チシャさんは、時たまトーリさんを見るだけで、俺には目を合わせようとはしていない。それは気を使われているのか、それとも面倒くさいだけか……なんだか、今日は悩んでばかりな気がする。お茶を飲んで、ため息を吐いた。

 

「……あのさ」

 

「っ!? は、はいっ!」

 

「ミナセ、わかりやすすぎ。さっきからミミと尻尾が動きっぱなしよ?」

 

「す、すいませっ」

 

「謝らないの、別に叱ろうってわけじゃないんだから」

 

 そう言うなりチシャさんは、スマホを置いて、俺の顔をいきなりつかんで覗き込まれる。

 チシャさんの縦割れした瞳に、どこか居心地が悪くて目を逸らしてしまう。そんな俺に構わず、チシャさんは続ける。

 

「本当にバレバレよ。あんた」

 

「そ、それでなんで俺の顔をつかむんですか……?」

 

「ああ、気にしないで。かわいくてつい」

 

「かわいいって言えばいいと思ってたりします!?」

 

 なんだか、前にも同じことを叫んだ気がする。と、そこでチシャさんに、ある疑問が浮かんだ。

 

「あ、あのー」

 

「何かしら」

 

「えっと……チシャさんって、動画に出てたんですよね」

 

 視線を外しながら、そう聞いてみる。

 そう、たしかそうだったはずだ。俺が見た動画……たった一本だけだけど、“ちぃちゃん”と呼ばれていた人がいた。トーリさんがチシャさんをちぃちゃんと呼んでいたから、多分、そうなんだろうとは思うけど」

 

「うん、出たわよ。何回か」

 

「だったら……どうやって、トーリさんに出会ったんですか?」

 

 それが、気になっていた。

 トーリさんはどこからか情報を見つけて、俺の居場所を見つけてきた。俺は研究棟に入った、ということはニュースで見られただろう。

 でも、チシャさんは普通に暮らしているはずだ。研究棟の中でも見たことがないし。まあ、俺が外に出なかったことが原因だろうけど。

 

「ああ、そうね……私、アニマリアになったのって、二ヶ月くらい前なの」

 

「二ヶ月前……」

 

 ということは、俺が研究棟に入ってから、一ヶ月後くらい、か。

 

「まあ、アニマリアになっても生活が変わるわけでもないし……検査とかいろいろ受けた後で、また学校に通ってたの」

 

「は、はぁ」

 

「でね、学校の帰り道に、トーリがいきなり現れて、『私、トーリって言います! 会いにきましたっ!』って言われたの。本当、やりたいことに関する嗅覚はすごいわ、トーリは」

 

「は、は…………はぁ?」

 

 えっ、何それ。俺とほとんど同じだ。

 というかトーリさん、会ってすぐそれは不審者すぎるのでは……

 そもそもどうやってチシャさんを突き止めたんだ。あの人の嗅覚、どうなってるんだろう。

 

「それで動画に誘われて、最初は断ったんだけど……まあ、いろいろあって動画に出ることになったのよ」

 

「……ちなみに、いろいろって何ですか?」

 

「“いろいろ”よ。私にだって、葛藤はあるもの」

 

 そう言って、自分の尻尾を撫でるチシャさん。その顔はなんていうか、少し恥じらっているようだった。

 なんというか、意外だ。チシャさんは見た感じだと、悩みとかほとんど無さそうだったのに。

 

「今、悩みとか無さそうって思ったでしょ」

 

「えっ!? は、はい……すいません……」

 

「……ふふっ」

 

 バレて慌てる俺を、愉快そうに笑うチシャさん。なんというか、バカにされてる気がする。

 そんな俺の心を察せられたようで、「ごめんごめん」と謝るチシャさん。

 

「とにかく、私もトーリに誘われた口よ。結局、楽しんじゃってるしね」

 

 そう言うと、おもむろにトーリさんの額に指を添え、パチンっという音を鳴らした。

 何してんの!? と思ったものの、うめき声を漏らしただけで全然起きる気配もない。

 

「ところで、ミナセはなんで動画でたの? 出たがる性格でもないでしょうに」

 

「え、あ、それは……トーリさんに、半ば無理やり」

 

「へ〜……半ば、ね」

 

 なんだろう、墓穴掘った気がする。

 なぜか瞳をキラリと、雰囲気の変わったチシャさんに悪寒を感じて身体が強張った。

 

 

「ミナセ、あんたトーリのこと好きなの?」

 

「──は」

 

 

 ────、

 

「はぁ!? な、なんっ!?」

 

「はいはい、落ち着いて。こぼれるから」

 

 握り込んでいたコップを落としかけ、慌てて持ち直す。

 こぼれるからって、驚かしたのはあなたでしょうに。そんな思いを込めて視線を送れば、チシャさんは「ごめんごめん」と反省していないかのように笑っていた。

 

「だって、“半ば”なんでしょう?」

 

「そ、それは言葉の綾で! これ以上断っても無駄だなって思っただけです!」

 

「別に元男の子なら、それでも不思議じゃないと思うけど」

 

「なんでそんな前提なんですか! そもそも、会ってまだ一週間ですよ!? そんなすぐに……ああもう、ともかく違いますよ!」

 

 “そう思うわけない”という言葉は飲み込んだ。なんだか、そう言ったとしても一目惚れと片付けられる気がして。

 

「ふーん、そう? でも、嫌いじゃないんでしょう?」

 

「それは──」

 

 ──どう、なんだろうか。

 

 嫌い……では、ないんだと思う。でもまた別かと言われると正直、微妙だ。

 友だち、ではないと思う。まだ会って短いし、トーリさんのことを全く知らない。そう思い込めば傷つくのは自分だ。だから違う……そう、思う。

 というか、トーリさんと会ってから調子を狂わされてばかりだ。もう出たくないと思っていたのに、こんなすぐ連れ出されて。やりたくないって思ってもさせられて。振り回されてばかりいる。

 

 でも、どこかそれが少しだけ。本当に、ちょっとだけ。

 

 

「──楽しかった、とは……思ってます」

 

 

 頭がぐるぐるして、恥ずかしい思いをして、調子が狂わされてばかり。だけど、どこか楽しい……と、そう、思っているのは事実だ。本当にちょっとだけだけど!

 

 

「……そう」

 

 

 俺の言葉に、チシャさんはふわりと笑った。それはどこか、安心したような……なんというか、穏やかな笑顔だった。

 そんな目を向けられる理由がわからず、困惑してしまう。こんな時、どうすればいいのかわからなくて、水を飲んで誤魔化した……その時だった。

 

「じゃ、そろそろね」

 

「へっ?」

 

 そんな一言ともに、チシャさんは容赦なく、トーリさんの額に手刀を決めた。そんな一撃を決められたトーリさんは、「きゃうんっ!?」という悲鳴をあげて飛び起きた。

 

「おはよう、トーリ」

 

「おはようちぃちゃん……じゃないよ! けほっ、なんでそんな乱暴に起こすの〜!」

 

「30分くらい寝たんだもの、そろそろ起きなきゃ健康に悪いわ」

 

「真っ当な理由つけてチョップを正当化しないでっ」

 

 

 寝ぼけ眼で抗議するトーリさん。それをさらっといなすチシャさん。なんだか、トーリさんが起きただけで、こんなにも空気が変わるとは思っていなくて。

 

「……ははっ」

 

 そんな変わり果てた空気に、思わず笑ってしまった。抗議し続けるトーリさんがうるさくて、笑い声は聞こえなかったと思う。それが、俺を無視されているみたいで。だからちょっと腹いせに。

 

 

 ──今日も、ちょっとだけ楽しかった。

 

 

 そんな気持ちは、言わないことにした。

 

 

 




 
 感想でもある程度返信しましたが、アニマリアになると瞳、耳とか変わるプラスたまに習性とかも出たりします。私が忘れてなければ……

 更新途絶えてて申し訳ない……! 忙しかったのと、期待が……ってなってました。あとケモノギ○の作者様が療養に入られて連載終了してダウンしてました。なぜ、なぜ終了なの……?
 私の百合のバイブルが猫娘症候○なので、ところどころ似てしまう展開があると思います。鈍足ですが、なにとぞ……!

 
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