TSケモミミコミュ障が振りまわされる話。   作:ケモノ好き

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 申し訳ない……! 急いで書き上げたので、後から改稿するかもしれません。


第8話

 

 

「ミナちゃ〜ん、準備できてる〜?」

 

「はーい、もう少しでーす!」

 

 早朝。

 気の抜けたハヅキさんの言葉に返しながら、検査服に腕を通した。今日は検査の日だ。とは言っても、やることは普段と変わらないのだけれど。

 ほぼ毎日受けてはいるものの……いや、最近トーリさんに振り回されて……それは置いておくとして。なんというか、検査するときは微妙に緊張して、未だに慣れない感じがする、というのが本音だ。

 

「できました〜……あれ、ハヅキさん?」

 

 着替えるなり、洗面所を出る。しかし、そこにはハヅキさんはいなかった。

 多分、ドアを開ける音が聞こえてたから外に出ていたんだろう。……できたと聞いておきながら、なんでいないんだろう。まあ、いいか。

 別に先に検査室に行ってもよかったけれど、ハヅキさんと入れ違いになってもなーと、部屋で待つことにして、ベッドに倒れ込んだ。

 起きたばかりでまだ暖かいベッドは、着替えたばかりなのに、不思議と眠くなる感じがした。

 なんだか、こんなにのびのびするのは久しぶりな気がする。

 

 ……最近は特に。という思いは飲み込んで、寝転んだままぐぐっと身体を伸ばす。

 トーリさんに振り回されるようになって。ついでにチシャさんとも出会って、なんだかとても忙しかった気がする。

 

「……ん?」

 

 その時、扉の外から足音が聞こえてきた。どうやら、ハヅキさんが帰ってきたらしい。起き上がるのもなんだか億劫で。……ハヅキさんだったら、寝てるとこも見られてるから、いっか。

 そう思って、完全にだらけきったまま。ハヅキさんを待つ。そうしてその足音は部屋の前で止まって、扉が開かれる──

 

 

「おはよー! 来たよー!」

 

 

 ……現れたのは、ハヅキさんではなかった。

 

 扉を開いてニッコニコなその人は、明らかにトーリさんで。ミミをぴこぴこ。尻尾をパタパタ。朝から元気な姿を見せつけるトーリさんの視線は、俺に向いていて──

 

 

「……お邪魔だった?」

 

「──っ!?」

 

 

 驚愕、羞恥心。いろんな感情がごちゃ混ぜになって、声なき悲鳴をあげて勢いよく飛び上がった。

 

「な、なんでトーリさんがっ……!」

 

 なんとか取り繕えないだろうか。

 そう思ってベッドに座り直し、落ち着いて言葉を出そうとするも、口からは慌てた言葉が滑り出てしまう。当然、そんなんじゃ誤魔化せるはずもなく。

 

「……な、何も見てないよ?」

 

「そんな気を使って嘘つかないでくださいっ!」

 

 当然、しっかりと見られていたからバレているわけで。下手な嘘をつかれたせいで、より恥ずかしい想いをしただけだった。

 

「そ、それよりも、なんでトーリさんがここに?」

 

 恥ずかしさを紛らわすように、トーリさんに聞いてみる。どうせなら、考えてる間にいろいろ隠せないか、とも思って。

 たしかここは、ある程度許可がなければ来られなかったはずだ。……そんなほいほいと、俺に会いにくるわけもないし。

 

「……うん?」

 

 しかし、トーリさんはまるで理解できていないような、そんな声をあげた。

 

「え、えっと、どうしたんですか?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「…………へっ?」

 

 予想していなかったまさかの言葉に、間抜けな声をあげてしまう。まさか、俺が呼ぶなんてあるわけがない。俺にトーリさんを呼ぶ度胸なんてあるわけないし……

 

「どういうこと……」

 

 思わずそう呟いた時、部屋の扉が開く音がした。

 

 

「おはよう、トーリちゃん」

 

 

 現れたのは、ハヅキさんだった。

 

 だけど、なぜかその声は妙な威圧感を持っていて。謎の迫力に、さっきまで考えていたことがどうでもよくなっていく気がした。

 

「お、おはようございます?」

 

 それはトーリさんも感じ取っているようで、珍しくも萎縮したように返すトーリさん。

 

「ええ、おはよう。じゃあ、トーリちゃんも準備しよっか」

 

「え、な、なんの……」

 

「何って…………()()()()

 

 瞬間、トーリさんの動きは早かった。

 目の前から姿が消えたかと思うと、俺の背中に衝撃が。見れば、トーリさんは俺を盾に身体を小さくさせていた。

 

「ちょ、トーリさん!?」

 

「ミナセちゃん、私って健康だよね!?」

 

「いきなりどうしたんですか! 何、が……」

 

 そこで、気づく。トーリさんが、怯えている……?

 ミミは後ろに倒れ、尻尾は垂れ下がって、どこか体が震えていて……本当に、この人はトーリさんなのだろうか。さっきまでの元気さなどかけらもない。

 

「トーリちゃん、検査しなきゃ健康とかわからないでしょう?」

 

「私は健康ですっ、ミナセちゃんもお願いっ!」

 

「え、えぇと……」

 

 トーリさんにそうお願いされるものの、俺はそれどころではない。距離が近いせいで、柔らかいトーリさんの身体と触れ合って緊張しっぱなしだし、いつもと違う様子に変な気分になるし、何より……

 

 

「私は健康だからぁ……」

 

 

 トーリさんが涙目ですがってくるせいで、全然落ち着けないし……!

 

「仕方ないわね。じゃあ、こうするわ」

 

「へっ……?」

 

 困惑して固まっている俺を置いて、ハヅキさんは扉を開けて誰かに合図する。すると、担架をもってどこからか現れる白衣の人たち。

 まるでいじめられたこいぬのように震えるトーリさんをなんのこともなく担架に乗せてしまった。ご丁寧に、逃げられないよう囲って。

 

「た、たすけてぇ……」

 

 伸ばされた手は空を切って、そのまま運ばれていくトーリさん。あげられたままの手が哀愁を誘う。

 

 そうして、部屋には静寂が残された。

 

「じゃあ、ミナセちゃんも行こっか」

 

「は、はい……」

 

 なんというか、別に。検査は嫌ではない、のだけれど……

 

 怯えきったこいぬのような鳴き声をあげていたトーリさんを思い出して、なんとなく。

 

 今日、大丈夫かな……?

 

 そう、思わずにはいられなかった。

 

 

 


 

 

 

「くすん、くすん……」

 

「あのー、トーリさん。大丈夫ですか?」

 

 

 あれからもうお昼。一通り検査を終えて、休憩の時間。俺は何事もなく終わったけれど、トーリさんはもうひどいことになっていた。

 検査着に着替えたはいいものの、ミミは倒れっぱなし、尻尾はへたれっぱなし。検査中もずっとうめき声みたいなものが聞こえてきて、今はすすり泣いてしまっている。朝の元気さなんて見る影もない。

 

「それにしてもトーリさん、病院苦手だったんですね」

 

「うっ……」

 

 図星だったようだ。ミミをピンっと立てたあと、すぐにへんにょりしてしまった。なんというか、本当に意外だ。

 

「病院は嫌なの〜」

 

 そう言ってふてくされてるトーリさんは、いつも俺を連れ回す人と同一人物とはとても思えない。

 そもそも、なんで病院が嫌いなのだろう。検査なんてそうそう苦手になるものなんて……

 と、そこで思う。いや、まさか……

 

「……もしかして、注射が嫌だったりします?」

 

「っ!? そ、それはっ!」

 

 俺の言葉に、トーリさんがガバッと起き上がった。だけど続きの言葉は出てこず、口をパクパクと、どう言えばいいかわからないように固まっていて。その顔は、今まで見たことないくらい真っ赤で……

 

「ほ、本当に注射嫌いなんですか?」

 

「う、くぅ……」

 

 それはまた、なんともまぁ。

 そんな病院嫌いな子どもみたいなことをトーリさんが言うとは。

 

「注射のどこが怖いんですか。別にずっと刺してるわけじゃないでしょう?」

 

「針でしょ!? そんなの身体に刺すっておかしいよっ」

 

 ……筋金入りだなぁ。

 

 散々検査されて心が折れているらしい。これはもう、落ち着くまで待った方がいいかな。

 そんな時、扉が開く音がして、お茶やお菓子を台車に乗せたハヅキさんが入ってきた。

 

「は〜い、お疲れさま! お菓子持ってきたよ〜」

 

 朗らかなハヅキさんの言葉と同時に、トーリさんの身体が強張った。警戒しすぎではないだろうか。

 

「トーリちゃん、別にそこまでカチカチにならなくても……」

 

「だ、だってぇ……」

 

「注射はもうないから、力抜こうね〜」

 

 はいはい、と肩をぽんぽんとされるトーリさん。なんか、思いっきり子ども扱いされてない?

 

「はい、ミナちゃん」

 

「ありがとうございます……」

 

「トーリちゃんも」

 

「これ、薬とかじゃ……」

 

「普通のお茶よ、お菓子と一緒に薬出すわけないでしょう」

 

 ……本当に、トーリさん?

 

 なんだか、さっきからミミも尻尾も元気ないし……調子が狂ってしまう。でも、怖いといっているから、仕方がないのかもしれない。むむ……

 

「ほら、トーリちゃんがそんなんだから、ミナちゃん困惑してるじゃない」

 

「そんなこと言ったってぇ……」

 

「ほら、まだ午後の検査があるんだから、今のうちに食べちゃいなさい」

 

「まだあるのっ!?」

 

「んぐっ!?」

 

 トーリさんの反応に、思わずむせてしまった。あのトーリさんが、検査一つでここまでぼろぼろになるとは思わず……

 

「けほっ、えほっ……ご、ごめんなさっ」

 

 お茶が変なところに入ってしまった。さすがに、変に思われて……

 

 そう考えて、顔を上げると……なぜか、ハヅキさんが微笑ましいものを見るように笑っていた。

 

「な、なんですかハヅキさん……」

 

「いや〜、何も〜?」

 

 聞いても、ハヅキさんは煙に巻くようにはぐらかされてしまった。そんなハヅキさんにどこか、身体がむず痒い感覚がして……ええい、なんでそんな顔をするんだ。

 

「あの、本当に……」

 

「じゃ、トーリちゃん。先に終わらせちゃおっか」

 

「え」

 

「ハヅキさん!? ま、待ってぇぇーっ!」

 

 俺の疑問に答えることなく、ハヅキさんはトーリさんを引っ掴んでその場から消えてしまった。一人残された俺は、ただその後ろ姿を眺めるしかできず……

 

 ことの顛末を語れば、帰ってきたトーリさんはずっと涙目だったと言っておく。

 

 それにしても……なんで、あんな顔をされたんだろうか?

 

 

 

 

 




 
 『速報』トーリ、実は病院嫌い。

☆裏話
トーリが検診受けてない理由はただの病院嫌いでした。昔遊びに行くよーと親に言われて楽しみにしてたら病院に連れてかれてブスリされたトラウマがあったりするらしい。

 ちょっち息抜きの検査回?を。

 7月にせめて二話投稿しようと思ってたのに……
 
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