TSケモミミコミュ障が振りまわされる話。   作:ケモノ好き

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第9話

 

 

 

「……ふ、ぁ」

 

 晴れの日。緩く流れる雲を見ながら、気の抜けたあくびが漏れ出ていった。朝からの仕事も終わって、ちょうど暇な時間。ベッドの魔力に加えて、陽の強さもほどよく、不思議と眠くなってしまう。

 とどのつまり、俺はいわゆる……日向ぼっこをしていた。アニマリアになってから、なんとなく日向にいると落ち着くような感じがして、こうしていることが増えた気がする。

 

 ……このまま、寝てしまおうか。

 

 そんな想いがよぎって、身体の力を抜いて……

 

 

「なんでまだ、検査しないといけないのー!?」

 

 

 ……泣きついてきたトーリさんに、受け止められた。

 背をどつかれて、さっきまでの微妙な眠気はどこへやら。椅子に座ったまま器用に泣きつき、腕をくすぐる尻尾の感覚を覚えながら、とりあえず慰めておこうと口を開く。

 

「……トーリさん、仕方ないと思いますよ。どれだけ検査行ってなかったんですか」

 

「だってぇ……」

 

 そう弱々しく言うトーリさんに、もう見慣れたものか、と割り切って話す。

 トーリさんがまた来ている理由……というのも、ただ単純にサボりすぎただけである。本来なら最初に数日に分けて受ける検査を1日目ですっぽかしてそれから行ってなかったら……それはまあ、一気に終わらせるしかないだろう。幸い、最近はちゃんと来てくれるようになったらしいけれど。

 

「あとは視力とか測るだけなんですし、そこまで怯える必要もないでしょう?」

 

「…………がんばる」

 

 ……覚悟まで時間かかったな。ということは言わないでおくことにする。嫌なことは、慣れるまで時間がかかるもの。簡単に強制していいものでも……

 

「……? どうしたの、ミナセちゃん」

 

「──、」

 

 いるな、強制してくるヒト。

 

「……いえ、トーリさんだなぁって思って」

 

「どういう意味っ!? ……きゃっ!」

 

「……にゃっ!?」

 

 その瞬間、俺の視界が塞がれた。

 叫んだトーリさんが、いきなり身を起こした結果、トーリさんのミミが目を塞いだと気づいて、反射的にのけぞった。多少勢いよく動いたせいで、俺の身体が傾いてしまった。そうなれば、椅子に座ったまま俺に体重をかけていたトーリさんも、バランスを崩すわけで──

 

 

 ──俺にトーリさんが覆い被さる形で、倒れてしまった。

 

「〜〜っ!?」

 

「ご、ごめんっ!」

 

 トーリさんの言葉を聞いている余裕などなかった。薄い検査着のせいでほぼダイレクトに感じる柔らかさ。さっきまで本気で嫌がっていたのか、少しだけ潤んだ瞳に身体が硬直する。

 

「と、トーリさ……!」

 

「あ、足が椅子に絡まって……」

 

「どんな倒れ方したんですかっ」

 

 椅子をどうにかしようともぞもぞと動くせいで、より感触が伝わってくるせいで、さらに頭がぐちゃぐちゃになる。一体、どうすれば──

 

 

「──失礼します。こちらで……ん?」

 

 

「──え」

 

 そう響いたのは、誰の声だったのだろう。

 ガラリと扉を開け、不意に現れた人物。トーリさんの検査、というなら。休憩に入ったばかりだからそれはない、はず。

 入ってきた人物は、アニマリア専用の検査着を身につけ、稲穂のようなミミと尻尾を携えた──

 

 

「ち、チシャさん……」

 

 

 紛うことなき、チシャさんだった。

 チシャさんは、俺とトーリさんをじっと見つめたまま固まっていた。それから、何かを思いついたように頷いて……

 

 

「ごめん、間違えた」

 

 

 そう言って、扉を閉め──ちょっ!?

 

「チシャさんっ! 一体何を間違えたんですかっ、ちょっと待って……!」

 

「ミナセちゃん! 足がまだ……」

 

「まだ絡まってるんですか!? あ、あぁっ!」

 

 

 

 

 

 


 

 

 

「あんた、ここに住んでたのね」

 

「は、はい……」

 

 あれから数分、やっと元の体勢に戻れてチシャさんを呼びに……止めに行けた。なんというか、とても疲れた気がする。

 

「というかチシャさんは、なんでここに?」

 

「私も検査よ。休憩ってなって、ミナセとトーリも居るって言われてここにきたら……まあ、まずいタイミングで入っちゃったなってこと」

 

「そ、そうですか。ちなみに、案内した人って……」

 

「えーっと、確か……ハヅキって書かれてたわね」

 

 ──ハヅキさんっ! せめて説明して!

 

 内心で絶叫してしまった。多分、顔は引き攣ってると思う。というか、なんでここに案内するんですか!

 

「それにしても、よく作ったわね。こんなところに全部完備の部屋なんて」

 

「ま、まあ。特別に用意してもらってますし──」

 

「ミナセちゃん! ちぃちゃん! ゲームやらない!?」

 

 突然、トーリさんの声が聞こえて、話は中断されてしまった。何事かと思って顔を向ければ、そこには紙袋を片手にキラキラした笑顔で、尻尾を振ったトーリさんが立っていて──

 

「立ち直りはや……」

 

 そんなボソッとつぶやいたチシャさんの声が聞こえて、こっそり同意した。

 トーリさんは、先ほど今日の検査を終えたばかり。それまでずっと尻尾もたらりとミミもしなびていた姿など見る影もなく、この前の元気さを取り戻したトーリさんは、全力で遊ぼうとしていた。

 

 ……なんというか、安心するなぁ。

 

「ゲームって、何するのよ」

 

「ゲーム機、持って来てるよ〜。テレビあるのは聞いてたからね」

 

「なんで、こんな時ばかり準備がいいのかしら……」

 

 ゲーム機を片手に笑うトーリさんに、呆れたような顔をするチシャさん。なんだか、二人の関係が見える気がする。

 

「ミナセちゃん、テレビ借りていい……って、どこにあるの?」

 

「あ、ああ。今出します」

 

 ……まあ、別に隠すものでもないし。それになんだか、楽しそうにしてるトーリさんの邪魔をするのも悪いし。ということで、俺はテレビのカバーを外……リモコン、どこにあるんだっけ。

 

「えっと、すいません。繋いだことないので、あとはお願いします」

 

「は〜い!」

 

 俺がそう言うと、トーリさんはてきぱきとゲーム機を接続しはじめた。ここのテレビは初めて使うから、勝手がわからないけど、トーリさんに任せておけば安心だろう。

 そう思ってベッドに座っていると、チシャさんが物珍しそうな目でトーリさんを見つめていた。

 

「……チシャさん、どうしたんですか?」

 

「いや、トーリがあんなにはしゃいでるのは、珍しいなと思って」

 

 

 ────、

 

 

「……いつも、あんな感じでは?」

 

「ふふっ、確かにね。私、トーリと付き合い短いけど、あんなはしゃいでるのは見たことないわよ?」

 

「そう……なんですか?」

 

「ええ。あんたほどじゃないけど、トーリもわかりやすいのよ。本当、──」

 

 最後の言葉は言葉になっていなくて、聞こえなかった。聞かせるつもりもなかったらしいチシャさんは、俺の横で尻尾を撫で始めていた。

 

 ──チシャさんの目には、どう見えたのだろう。

 

 ほんのちょっとだけ、気になったけど。でもそれが、悪い意味ではない。そう思えたから、気にしていないふりをした。

 

 

「ってなんで俺の尻尾を触ってるんですか!」

 

「ちょうど良かったから、つい。他人(ヒト)の尻尾ってなかなか触る機会ないのよねぇ」

 

 ま、マイペースな……

 

「二人とも、できたよ〜」

 

 そうしているうちに、接続が終わったらしい。とっくにゲームが起動されていて、レースゲームの画面が映し出されていた。

 

「早くやろ!」

 

 そう笑って、コントローラーを渡してくるトーリさん。それを受け取り、チシャさんに渡しておく。

 あのゲーム機についていたコントローラーは二人分だったはずだ。なら、俺なんかよりもチシャさんとやってもらった方がいいだろう。そう思った。俺は、二人のゲームを見せてもらうだけに──

 

 

「はい、ミナセちゃん!」

 

「──へ?」

 

 

 そんな声と共に渡されたのは、二つめのコントローラーだった。一瞬、渡されたことに気づかず、思考が停止してしまった。ちょ──!

 

「と、トーリさん。俺は……」

 

「一緒にやろ! 余分に持ってきてたんだ〜!」

 

 トーリさんの手には、三つめのコントローラーがあって。笑顔で渡されたそれに、俺は返す言葉に困って……

 

「……じゃあ、やります」

 

 そう、無愛想に返すしかできなかった。もう少し言葉を選べた気がするけど、そう返すのが精一杯だった。

 

「操作わかるよね?」

 

「さ、さすがにわかりますって。俺のことなんだと思ってるんですか」

 

「これ、触るの初めてなのよね。今までのと同じでいいのよね?」

 

「チシャちゃん!?」

 

 そんな軽く話しながら、懐かしい音と共にゲームが始まる。久しぶりだけど……せっかくだから、楽しむことにしようか。

 

 

 

 

 

 

「──やった〜! また一位!」

 

 あれから30分ほど。何度かゲームをしたけれど、トーリさんがめちゃくちゃ強かった。さすが動画投稿者。意外とハイスペックなんだなぁ、と実感させられた。

 俺は二位か三位くらいは取れたものの、だいたいトーリさんに一位をかっさらわれてしまった。

 意外だったのはチシャさんだ。操作はできていたものの、なぜか落下に落下を重ねて……なんというか、最下位あたりをうろうろしていた。

 ……なんだか、個人的に悔しい感じがする。

 

「トーリさん、どれだけやり込んだんですか……ねえ、チシャさん」

 

「────、」

 

「……? チシャさん?」

 

 ちょっとだけ悔しい気分を晴らそうと、チシャさんに話しかける。だけど、言葉が返ってこなくて──そう思ったその時だった。

 

「チシャちゃ〜ん、検査再開するよ〜」

 

「ああ、ハヅキさん……」

 

「こんにちは、ミナちゃん。楽しかった?」

 

 どうやら、チシャさんの休憩が終わったらしい。ガラリと扉を開け、ハヅキさんが現れた。まあ、チシャさんのことだし、トーリさんのように時間はかからないだろう。

 

 

「──まだ」

 

「どうしたんですか、チシャさ──」

 

「まだやる」

 

「──へっ!?」

 

 チシャさんから出たまさかの一言に、変な声が出てしまった。というか、ハヅキさんが迎えに来てるんですけど!?

 

「次は勝つ。トーリ、早く次のレース」

 

「え、えぇ〜。ちぃちゃん、ハヅキさん来てるよ。行ってきた方が……」

 

「このまま終われない。もう一回」

 

「あ、あらぁ〜……」

 

 

 まさかの負けず嫌い!?

 

 予期していなかったチシャさんの一面に、少しばかり驚いてしまう。というかそんな子どもっぽいチシャさんを見れるとは……

 

「チシャちゃん、検査はすぐ終わるから、検査が終わってからでも……」

 

「そ、そうだよちぃちゃん。いつでもできるから……」

 

「やらせてほしい」

 

 むすっとしたまま続けようとするチシャさんに、二人で止めにかかって、それをすげなく断られる。なんというか、検査をしに来たはずなのに、ゲームが本命になってしまったチシャさんに、少しだけ微笑ましく思ってしまった。

 

 ……俺が加わっても、止められるだろうか。

 

 何故だか、いくらやっても止められなさそうなチシャさんの様子をみて。とりあえず、心の中で合掌しておいた。

 

 

 

 

 

 

 




 
☆裏話
トーリはハヅキさんからテレビのことを聞きました。なんだかノリノリで教えにきたらしい。

☆補足
ミナセの部屋はとある病院の研究棟……だけれど、バストイレキッチン付でテレビもついてます。基本的に料理もしなければテレビも見てませんでしたが。

☆補足2
チシャは割と負けず嫌い……だけど割とゲーム下手。レースゲームを例として出せば、ドリフトを使わず、wi*版だとリモコンと一緒に身体を傾けるタイプ。


 皆様、本当にありがとうございます! 拙い文ですが、お付き合いくださって感謝です……! 本当に鈍足ですが、頑張ります!


(猫娘症候○、8月いっぱいまでGANM○!様で最終話まで読めます……! 百合好き、ケモミミ好きなら是非今の機会に! 本当は前回の投稿で言いたかったけど!)

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