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12月の中山競バ場に、実況の驚きの声が響き渡った。
「大外から来たのはまさかまさかのハルウララ! 並みいるウマ娘たちをかわして差して駆け上がる! 残り200! 冬の中山に桜の花が咲こうというのか!!」
ダートの女王と呼ばれたハルウララの大噴射に、誰もが声を張り上げる。
「どういうことだダートの女王! 砂のレースに飽き足らず芝のレースも制しようというのか! ありえないことがありえるのが有マ記念だとでもいうのかーー!?」
奇跡が成立するまであと100、80、50……そして――
「咲いた! 咲いた! 桜が咲いた!! 勝ったのはハルウララ! ダートの女王が芝のグランプリを制し、夢を叶えましたーーーー!!」
大歓声が勝者を祝福する。
ゴール板の前を誰よりも早く駆け抜けた少女は、万来の声に両手を振って応えていた。
「やりきった、な」
歓声の中、俺は大きな満足感と共に観客席を立つ。
すでにチームメンバーたちはハルウララをねぎらうべく駆けていった後だ。
人より何倍も素早い彼女たちだから、今頃はもう地下通路に辿り着いているかもしれない。
「奇跡は起きた。起こせた。満足だ」
自分にできることはすべてやりきった。そんな確信があった。
「心も決まったし、あとは理事長にお伝えするだけだな」
少し前に新しく就任した、小さくて愛らしい新理事長の顔が浮かぶ。
なんでもウマ娘たちの未来の為にでっかい企画を考えているんだとかなんとか。
とてもワクワクする話だとは思う。
だが、そこに自分がいる必要はないと思った。
「あー! トレーナー!!」
すでに集まっている仲間たちの中心で、今日のヒロインがぴょんぴょん跳ねている。
いつもより泥にまみれていない、けれどいつも以上に汗だくの顔は、誇らしげな笑顔を浮かべていた。
「うっらら~!! みんなでトレーナーさんを胴上げしちゃおう!」
「……oh」
ハルウララの一言に身の危険を感じたのもつかの間。
気づけば俺はチームメンバーのウマ娘たちにとっ捕まり、外へと運び出されていた。
「えへへ……諦めて胴上げされてね。お兄さま」
「大丈夫です! この学級委員長がしっかりとキャッチしますから!」
「ぴゅーんって空高くテイクオーフ! しようね! トレーナーちゃん♪」
「このキングが胴上げするのよ。あなたも一流のトレーナーなら受け入れなさいな」
「うっらら~! それじゃいっくよー! せーのっ!」
競バ場に新しい奇跡が刻まれたその日。
胴上げされて高く高く飛ばされた俺の姿は、密着取材中の記者にしっかりと撮影され記事になった。
栄光のチームアラウンド。
次に全員揃って撮影された写真は、チーム解散を公式に発表した時となる。