卑しか女杯さわやかカップ(G2)   作:夏目八尋

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IFルート6:みんな一緒END

 俺は、無我夢中で声を張り上げた。

 

「頑張れ、ライス! 坂はお前の一番得意なところだろ!」

 

 あまりにも情熱的なレースに、内に沸き上がった衝動が抑えきれなかった。

 

「行け、サクラバクシンオー! お前のバクシンはまだまだこんなもんじゃない!!」

 

 彼女たちの走りのすべてが、俺の心を激しく揺さぶり、魅了した。

 

「そこだ、マヤ! まだスタミナは残ってるだろ、振り絞れ!!」

 

 だから喉が張り裂けようとも、口から血が出ようとも、俺は叫ぶ。

 

「ウララ! ここはお前のパワーの見せ所だ! ぶちかませ!!」

 

 大観衆の声にも負けないように、彼女たちに絶対にこの声を届けてやると、必死に。

 

「キング! お前の距離だ! 仕掛けろーーー!!」

 

 俺は、無我夢中で声を張り上げた。

 

「みんな! 輝けぇーーーーーーー!!!!」

 

 

 

 

「「「「「!?!?!?」」」」」

 

 

 

 

 5つの奇跡を成し遂げた5人の伝説のウマ娘たち。

 

 その輝きをどこまでもどこまでも磨き上げたい。それこそが俺の望みだった。

 

 

「うん、うん! ライス行くよ……っ! お兄さまっっ!!」

 

「バクシンッ! バクシンッ! バァァァァァクシーーーンッ!!!!!」

 

「届いたよ! 見ててね!! トレーナーちゃあああああん!!!」

 

「えへへ。うんっ! うーーーーーららぁあああーーーーーーー!!!!」

 

「そう、そうよ! ここからはこの、キングの距離よ!!」

 

 

 限界を越えて、彼女たちは中山の坂を駆け上がる。

 

「譲らない譲らない! 誰一人として前を譲らない!!! 坂に入っても横一列! それぞれの持ち味を活かしきり、5人のウマ娘が爆走だーーーー!!」

 

 歓声が上がる。

 誰もが期待していた展開に、心の底から声を張り上げ彼女たちの背に夢を乗せる。

 

 この場に立っていた観衆のすべてが望んでいた。

 ああ、願わくばこのレースが、どこまでも終わらずに続きますように、と。

 

 コースを走っていたウマ娘たち全員が思っていた。

 こんな最高のレースだからこそ、自分が一着になりたい、と。

 

「いっけぇぇぇぇぇぇ!!」

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 それは誰の叫びだったか。

 誰かが望み、誰かが応えた声がする。

 

「5人全員が坂を上りきり、最後のわずかな直線を行く!! 勝つのは一体どのウマ娘か! あの栄光のゴール板の前を駆け抜け、最強の伝説となるのは一体、誰なのか!!!」

 

 

 そして。

 

 

「ゴォォーーーーーーーーーール! ゴールゴールゴールゴールゴールだぁぁぁぁ!!」

 

 アナウンサーが吼える。

 あらん限りのマイク音声が中山競バ場に響いたが、ゴールの瞬間に誰が勝ったのか、その口からは語られなかった。

 

「わかりません! わかりません! 私にはわからない! 勝ったウマ娘がわからない!!」

 

 それはこの場にいた全員が同じ意見だった。

 

「おい、誰が勝ったんだ? バクシンオーか?」

 

「いや、ウララちゃんじゃないか?」

 

「キングだって、絶対!」

 

「ライスちゃんよ! 最後の勢い見てなかったの!?」

 

「マヤノちゃんしか勝たん」

 

 各々が推しウマ娘の勝利を信じていたが、それでもみんなの視線は掲示板を見つめる。

 

 

 

(誰だ。誰が勝ったんだ?)

 

 俺の目にも、誰が勝ったのかわからないほどの接戦だった。

 

 人の目に見定められないほどのわずかな差異なら、より正確な機械に頼るほかない。

 

「「「「「「…………」」」」」

 

 ウマ娘たちも寄り添い合いながら、何も語らず、答えが出るのを待っている。

 

「判定……出ました! 掲示板に映します!!」

 

 それら機械を操るスタッフたちが、大急ぎで動いた、その結果。

 

「……これが、答えか」

 

 俺の視線の先、電光掲示板に掲げられたレースの結末は――。

 

 

 

 

 

 

「…………同着! 同着です! 一位同着! 5人のウマ娘! 寸分たがわず同時にゴール板の前を通過していました!! 5人全員が一着です! 奇跡が、6度目の奇跡が起きましたーーーーー!!!」

 

 

 URAの歴史に、またひとつ、チームアラウンドが伝説を刻んだ。

 

 

「……ああ、もう!」

 

 俺はいてもたってもいられなくなり、コースの中へと、彼女たちの聖域へと飛び込む。

 

「「「「「トレーナー!?」」」」」

 

「お前たち、最高だ!! みんな俺の、最高の愛バだよ!!!」

 

 あらん限りの力をふるって、5人のウマ娘を全員まとめて抱きしめる。

 俺の心は、決まった。

 

 誰に何を言われようとも、俺は俺の願いを、貫き通す。

 

「ライスシャワー、サクラバクシンオー、マヤノトップガン、ハルウララ、キングヘイロー」

 

 

「あわわわ、え、な、なに? お兄さま?」

 

「ちょわわっ、なんですか? トレーナーさん!?」

 

「えへへぇ、なぁに? トレーナーちゃん」

 

「わぷぷっ、どうしたの、トレーナー?」

 

「ちょ、こら、こんな……なによ、トレーナー?」

 

 

「お前たちの新しい夢は、俺が絶対に叶える。だから――」

 

 5人をそれぞれに見つめて、俺は彼女たちにだけ聞こえる声で乞い願う。

 

「俺の新しい夢に、全員付き合ってくれ」

 

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

 あの日、チームアラウンド6回目の奇跡の日から、1年後。

 

 俺は、今もなお、彼女たち5人のウマ娘と共にいた。

 

「トレーナーちゃん、見てみて! マヤちん可愛いでしょ?」

 

「お、よく似合ってるぞ。着こなし方もバッチリだな」

 

「へっへーん。ま、キングちゃんも頑張ってくれたもんね」

 

 真新しい衣装を身に纏うマヤノトップガンが、俺にピッタリくっつきながら、同じ衣装を身に纏ったキングヘイローの方を見る。

 

「当然でしょ? このデザインの才能も一流なキングがデザインした新たな衣装なのよ?」

 

「うんうん! キングちゃんのおかげでわたしもマヤちゃんみたいにもーっとキラキラできてるよ! ありがとう!」

 

「なぅっ。あ、あなたはもうちょっとキラキラを抑えてもいいんだからね、ウララさん?」

 

「へへぇ、キングさん。照れてる……♪」

 

「分かります、分かりますとも! みなが同じ衣装を纏い共に立つ。制服とはかくあるべきです!」

 

「ちょっと、ライスさんにバクシンオーさんまで……って、これは制服じゃないわよ!」

 

 バクシンオーの言葉に、キングが訂正を入れる。

 

「これは――アイドルのライブ衣装なんだから!!」

 

 そう。

 

 あれから俺は、アイドル事務所を立ち上げて彼女たちのプロデュース業を始めたのだ。

 

 

 

「今日もみんなで、頑張ろうね?」

 

「もちろんですとも! 今日のライブを終えれば次はいよいよ全国ツアーですから!」

 

「高知にも行くんだよね? えへへっ、楽しみ~♪」

 

 レースで奇跡を起こしたチームアラウンドが次の舞台に選んだのは、ステージの上。

 ウマ娘たちのもうひとつの輝きの場だった、ウィニングライブを究める道だった。

 

 あの最高のレースを俺の愛バたちが駆け抜けた日の夜。

 俺はチームルームで彼女たちをこれでもかと口説きに口説き、引きずり込んだ。

 

 

 ライブの衣装はキングヘイローのデザインを全面的に取り入れること。

 

 ライブ中に物語的シチュエーションも採用し、それにはライスシャワーの力を借りること。

 

 全国でライブツアーをしたあとに、サクラバクシンオー主導で世界進出すること。

 

 ハルウララにはトゥインクルシリーズにもう少し在籍してもらい、宣伝も兼ねてまだまだ砂と芝の女王としてその猛威を振るってもらうことにして。

 

 いかにアイドルがキラキラしているのかをマヤノトップガンに語りつくした。

 

 

 その上で、本来の彼女たちの望みにも可能な限り沿ってみせると誓った俺に。

 

 5人のウマ娘たちは最終的に「仕方がない」と受け入れてくれた。

 

 

 

「グググイ……レースで結果を出せませんでしたからねぇ」

 

「マヤちんだけを応援してくれてたら、きっと勝ってたのに」

 

「今は、その意見で納得しておくわ」

 

「ライスは、みんなと一緒にいられるのも、嬉しい、よ?」

 

「わたしも嬉しいよ! だから、みんなの分もめいいっぱい走ってくるね!」

 

 みんなもそれぞれに思うところはあるようだが今はまた、同じ道を歩むことを楽しんでくれている。

 

 

 

「そろそろ出番でーす。待機お願いしまーす!」

 

「ハーイ! スタッフさん。マヤちんのこと、ちゃーんと見ててねっ?」

 

「は、はひぃっ!!」

 

「ちょっと! マヤノさん?!」

 

 そして今日も、数多の奇跡を起こしたウマ娘たちは、新たな伝説を刻みに行く。

 

 

「さぁ次はみなさんお待ちかね! 伝説のウマ娘たちの登場です! 新たな伝説が刻まれる瞬間を、私もみなさんと一緒に目の当たりにしましょう!」

 

 前振りが入り、全員がステージに跳び上がるギミックへと乗り込んだところで俺を見る。

 

「……行ってこい! みんな!!」

 

 そう言って力強く頷いてみせれば、彼女たちもまた頷きを返して。

 

 それだけで、俺は今日のライブも成功すると確信する。

 

 

 

 ファンファーレが鳴る。

 手拍子が、足踏みが、ステージに上がる彼女たちを出迎える。

 

「さぁ、今回は新曲を引っ提げての登場です! ウマ娘たちの新たな夢の舞台、URAファイナルズの出場者だけがウィニングライブで歌うことを許される課題曲の先行お披露目! この勢いと情熱に、あなたはついていくことが出来るのか?!」

 

 これは、今も友好関係を築けているトレセン学園、秋川理事長たちとの絆の歌。

 

「それではお聞きください! チームアラウンドで、うまぴょい伝説!」

 

 それを次代を担う新たな伝説たちへ向けて、5人の奇跡のウマ娘が謳い上げる。

 

「位置についてー? よーい……」

 

「「「「「ドン!」」」」」

 

 

 

 ……その日のライブを映した公式動画は、うまチューブを通して全世界に配信された。

 

 レースを駆け抜けたい。ウィニングライブで踊りたい。

 

 そんな新たな時代のウマ娘たちに、彼女たちを支えるトレーナーたちに、想いは放たれた。

 

 

 

「さぁ、トレーナーさん。彼女があなたが担当するウマ娘です」

 

「……いーい? アタシを支えるって言った言葉、忘れてないんだからね? 頼んだわよ、私の“一番”のトレーナー♪」

 

 

 チームアラウンドが残した伝説は、また新たな伝説を呼び覚ましていく――。

 

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

 

「へっへーん! 今日もマヤちんがいっちばんキラキラしてたでしょー?」

 

「いいえ、全国区の学級委員長たるこの私こそが、今日のライブの覇者でした!」

 

「ライスも、ライスもいっぱい頑張ったよ……!」

 

「あら、すべてはこのキングのデザインした衣装があったからこそだって、忘れてないかしら?」

 

「今日もとーっても楽しかったよね、トレーナー!」

 

 ライブ後、拠点にしているマンションの一室で、俺たちはライブ成功を祝した打ち上げパーティーをしていた。

 

「みんな、今日も輝いてたぞ。次のライブではもっと輝けるように、また磨きに磨いてやるからな」

 

 彼女たちのことをねぎらい、褒めながら、さらなる上を目指して俺はトレーニングのプランを練り上げていく。

 

 そんな俺の背後で、こそこそと5人の伝説がひそひそ話をしていた。

 

 

 

「ねぇーえー? 今日も決着つかなかったんだけど!?」

 

「おかしいですねぇ、私にメロメロになっているはずだったのですが」

 

「ここまで来ると、あの人の視線を一人だけに集めるのはかなり困難かもしれないわね」

 

「うん……お兄さま、みんなのことが大好きだから……」

 

「わたしは、このままずーっとみんな一緒もいいなって思うよ?」

 

 何を話しているのかはわからないが、5人が仲良しなのはとてもいいことだと思う。

 

「みんな一緒…やはりここはもう、その路線しかないのかもしれませんね」

 

「誰か一人じゃなく、みんなであの人のちょうあ…ちょ……こほんっ」

 

「……えへへ」

 

「えー! やだやだ! マヤちんを選んでくれなきゃやだー!」

 

「えー? そうは言ってるけど、マヤちゃんが“今の”トレーナーのこと大好きだーって、わたし、知ってるよ?」

 

「ふぐぅっ! ウララちゃんに言われると何も言い返せない」

 

「やはり……どこか海外に本拠を移籍し、本格的な計画をですね」

 

「あ、海外なら、ライスね、行きたいところが……」

 

「そんなお気軽に本籍変えてどうするつもりなのよ!?」

 

「だってだってキングちゃん。トレーナーとみんなと、ずっと一緒にいられるんだよ? キングちゃんもその方がいいでしょ? ね?」

 

「はぐぅっ! ウララさん、最近なんでもパワーでゴリ押しすればいいと思ってません?」

 

 色々と聞こえてきているし、多分聞かせようとしているんだろうと思うが、今は聞こえないふりをしておく。

 

 というか、そもそもの話として。

 

 いざとなったら、俺は全員を養う気でいるのだ。

 そのための蓄えも稼ぎのアテも、十分以上に準備している。

 

 海外に拠点を移すのだって、彼女たちが一番に幸せになれるなら迷いなんてない。

 彼女たちが望む形に合わせながら、その上で俺は、彼女たちを俺の望む道に連れていく。

 

 

 

(……悪いがもう5人とも、手放すつもりも、逃がすつもりもないぞ)

 

 あの日。あの最高のレースに魅せられた俺は、どこまでも強欲になった。

 

 彼女たちと共に歩み、新たな伝説を作り続ける。奇跡を起こし続ける。

 俺の残りの人生すべてを賭けて、それを成し遂げる。

 

 

 俺は、俺の愛バたちと、この先もずっと一緒に生きると決めた。

 

 

 これが俺の答え。どれだけ常識外れだろうと、俺の選んだ道だ。

 だが、この道を進むことに何の憂いもない。

 

 なぜならば――。

 

 

 

「チームアラウンドはこれまで何度となく、不可能と言われたことを可能にしてきたからだ……なんてな」

 

「なぁに、どうしたの。トレーナー?」

 

「どうせまた、よからぬことをでも考えているのでしょう?」

 

「いよいよ世界へ羽ばたく算段が出来ましたか!? トレーナーさん!」

 

「ライス、お兄さまと一緒ならどこにでも行くよ……!」

 

「お出かけ上等だよ! どんな場所でも、どんな時でも、マヤちんが何度だってトレーナーちゃんをメロメロにするんだから!」

 

「おーおー、頼もしいな。俺の大好きな愛バたちは」

 

「「「「「!?」」」」」

 

 素直な言葉に顔を真っ赤にする愛しいウマ娘たち。

 

 彼女たちと一緒なら、俺はどこまでだって行けると確信していた。

 




ここまで読んでくださり圧倒的感謝!!
これにて本物語は完結となります。

(G1)グレードについてはそりゃもう沢山の先駆者様がいらっしゃるのでそちらにお任せして、自分の好きを詰め込んで今回のお話を書かせてもらいました。
一人の男を複数のウマ娘が己のすべてを賭して奪い合う、まさしく卑しか女杯。
勝手知らずで色々手探りしつつ編み上げましたが、楽しんでもらえたなら幸いです。


【謝辞】
感想、評価、ここすき、ありがとうございます!
なにやらちょっとだけ週間ランキングにものっていたとかで、やはりマジかよ……と戦慄しました。
この物語の更新は終わりますが、これからもいろんな人に読んでもらえたら嬉しいんで、さらなる応援、感想、気軽に高評価など叩きつけてもらえると幸せです。
私は誰々ルートの世界線の住人、とか。この話のここが好きとか言及して貰ったら大喜びします。

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