卑しか女杯さわやかカップ(G2)   作:夏目八尋

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決意の時

「さぁ伝説のウマ娘たち、それぞれの得意な位置で勝負所を迎えるぞ! 記念レースを勝利で飾るのは一体誰なのか!」

 

 興奮に色めき立つ実況を聞きながら、俺は手に汗握って彼女たちの勝負を見守っていた。

 

 ここまでの試合展開、そしてここからのスパート合戦。

 正直言って誰が勝ってもおかしくない、誰一人として勝ちを諦めていない状態で。

 

(あぁ、俺の育てたウマ娘たちは、本当に、本当に……!)

 

 今この瞬間にも、彼女たちは俺の愛バなんですと叫び出したい気持ちがあった。

 

 それほどまでに、5人のウマ娘一人一人の走りに俺は魅せられていた。

 

 

 全員の事が好きすぎて、誰一人として選ぶことなど出来はしない。

 

 でも決めなければいけない。だから俺は、このレースを一秒たりとも見逃さない。

 

 

 最後の最後、ゴール板を誰が一番に越えるかは、きっと俺の心で決まるから。

 

 

      ※      ※      ※

 

 

「さぁ、下りの直線を越えてコーナーに差し掛かる、最後の勝負が始まるぞ! ここまでの試合いかがですか、解説の――」

 

「フン。オマエ、アタシに熱を与えておいて、こんなところで負けるんじゃないぞ」

 

「グラスちゃん、エルちゃん、セイちゃん、せーのっ! けっぱれー! キングー!」

 

「頑張って下さい、バクシンオーさん!」

 

「おう! 負けるんじゃねーぞ! ウララー!!」

 

「必ず勝利を勝ち取ると信じています、ライスさん……!」

 

「ひ、ひぇぇぇ……!」

 

 突如として乱入してきた大勢のウマ娘たちによって解説席が一番の応援席になる中、5人のウマ娘たちはそれぞれの思いを胸にコーナーへと駆け込んでいく。

 

 

 

「バクシンバクシン! この道は、譲れません!!」

 

「マヤちん、テーイクッ、オーフ!! まだまだ元気いーっぱいだよ!」

 

「ついていくのは……ここまで!」

 

「うっららーーーー!!」

 

「……来たわ、絶好のタイミング!」

 

 最初に仕掛けを発動させたのは、キングヘイロー。

 左足を大きく外へと踏み込ませ、前方のライスシャワーを外から抜きにかかる。

 

「はぁぁぁぁぁっ!!」

 

 バチバチと、彼女の踏みしめた左足が稲妻を放ったかのように見えた。

 直後、速度を落とさず外へと回り、ライスの外に並び立つ。

 

「!?」

 

「ここからは、キングの時間よ!!」

 

 ここまで温存気味にしていた足を全開にして、キングは加速しコーナーへ。

 

 対してライスはというと、キングのことを一瞥したのち、視界から彼女のことを消去した。

 

「ライスは……」

 

 見たのは内側、インコース。

 

 最短でコーナーを曲がる、やや危険も伴うルート取り。

 

 

 だが。

 

 

「ライスは……負けない!!」

 

 彼女もまた、全開に足を踏み込んでコーナーへと駆け込んだ。

 

 その時である。

 

 

「こっこだーーー!!」

 

 

 外に広がったキングと、内に寄せたライス。

 二人のあいだに出来た隙間を力任せに突っ切る桜色のウマ娘、ハルウララがいた。

 

「ウララさん!?」

 

「ウララちゃん!?」

 

「うーっららーーーーーーー!!!」

 

 ウララの加速はカーブに入っても止まらない。

 ぐんぐんと伸びを見せたままコーナーへ突進し、強引に力で外にかかる力をねじ伏せる。

 

 

 

 後方の動きは、前を行く二人にもしっかりと届いた。

 

「ふぅん、やっぱりちゃんと追いついてくるんだ? だったら!」

 

 あれだけ動いていったいどこにその余力があるというのか、マヤノトップガンの高いスタミナに裏打ちされた健脚が、ここぞとばかりにトップのサクラバクシンオーを追い抜きにかかる。

 

「そろそろトップを譲ってよ! バクシンオーちゃん!」

 

「……フッフーン!」

 

 だが、マヤの挑発に返ってきたのは、どこか余裕のあるバクシンオーの笑みだった。

 

「ちょっと、後ろを気にし過ぎてしまいましたね?」

 

「えっ」

 

 コーナーも終わり最終直線へと入ろうかというところ、それは起こった。

 

「バクシンッ! バクシンッ! バックシーン!!!」

 

 突然の急加速。マヤの追従を振り切り、バクシンオーが最終直線一番乗りを果たす。

 トップスピードを越えたトップスピード。

 

 否、バクシンスピードである。

 

 

「こっそり直線で足を溜めていました。この知的な戦略もまた、委員長のなせる技です!」

 

「えーっ!」

 

 サクラバクシンオーに知略がないなどとはマヤは微塵も思っていない。

 

 どんな時でも全力前進をモットーとする彼女が減速することを迷わず選ぶ。その選択にこそ彼女は驚かされていた。

 

(ホントのホントに本気なんだ。バクシンオーちゃん。分かってた、分かってたけど……!)

 

 自分と同じくらいにあの人を想う人がいる。

 それが嬉しくて、悔しくて、絶対に負けたくないと、彼女の心に新たな火が灯る。

 

「トレーナーちゃんは! マヤがぜーーーーったい! 一番大好きなんだからー!!」

 

 魂のままに叫びをあげたマヤが、最終直線でスタミナを一気に燃やして加速する。

 

 二人は互いに睨み合い、先頭を絶対に譲らないと横並びになった。

 

「いいえ、いいえ! あの人は私と一緒に、世界へバクシン、するん、です!!!」

 

「ヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダー!!! マヤのなのーーーー!!!」

 

 走りで思いをぶつけ合う。

 

 そしてその戦いに、残る三人が名乗りを上げないわけがなかった。

 

 

 

「どいてどいてどいてー! わたしが全部、跳ね除けちゃうよーーー!!」

 

「ライスは、負けない!!」

 

「最後に勝つのは、この、キングよ!!」

 

 内からライスが、外からウララが、そして大きく外からキングが来る。

 

「っあーーーーー! 並んだ! 並んだ! ここに来て並んだ! 中山の最終直線! 5人の伝説が横並びになったー!!」

 

 登り坂がある。

 

 左手には観客席がある。

 

 そこから、あの人が見ている。

 

 

 

(((((絶対に、勝つ……っ!!!)))))

 

 

 

 最高の仲間で、最高のライバルと、ここで雌雄を決する。

 

 実力は互角。互いの持ちうるすべての力を使ってここまで来た。

 

 後は坂を駆け上がる、気合と根性、心の勝負。

 

 全身全霊の末脚が、全員同時に発動する。

 

 

 青薔薇が、驀進の桜吹雪が、変幻自在の弾丸が、電光石火の稲妻が、満開の桜が、己の夢を掴むため、競い合う。

 

 

「ああああああああーーーーーーー!!!!」

 

 

 5つの叫びが、中山の登り坂に響き渡った。

 

 

      ※      ※      ※

 

 

「…………!!」

 

 心が震えた。

 

 心だけじゃない、歓声に、彼女たちの足音に、己のすべてが打ち震えた。

 

 万人を魅了する最高のレースがそこにあった。

 伝説と並び称された5人のウマ娘による本気のレース、本当の伝説はここにある。

 

 

(これが、これが彼女たちが俺へと向けた……)

 

 これが自分と未来を歩んで欲しいという、思いの、願いの、全力アピールだということを、俺だけが知っている。

 

 

「……頑張れ」

 

 知らず、声を出していた。

 

「頑張れ、頑張れ!」

 

 段々と声が大きくなっていた。

 

「頑張れ、―――!!」

 

 俺は俺の衝動のままに、彼女の名前を呼んでいた。

 




毎日投稿はいったんここまで。次の投稿は日曜予定。
土曜まではアンケート期間にするので、投票お願いします!!

最初に見たいエンディングは?

  • IF:ライスシャワーエンド
  • IF:サクラバクシンオーエンド
  • IF:マヤノトップガンエンド
  • IF:ハルウララエンド
  • IF:キングヘイローエンド
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