卑しか女杯さわやかカップ(G2)   作:夏目八尋

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ここからは各ウマ娘たちと迎えるエピローグ。
すべてIFなので、自分がこれだと思ったエンディングが真エンド!の精神で。


IFルート1:ハルウララEND

 坂を上って、最後のほんの少しのまっすぐを駆け抜けたら、ゴール。

 

 ついこのあいだ走ったレースと一緒。

 

 みんなを追い抜いて、誰よりも早くゴールする。

 

 

 

 あの人が教えてくれた、とっても楽しいこと。

 

 みんなが一生懸命に目指す、一等賞。

 

 たった一人しか手に入れられない、特別で、すごくて、魅力的なもの。

 

 

 

 絶対に、勝ちたいレース。

 

 

 

「うーーーーららーーーーーーー!!」

 

 なのに。

 

(足が、持ちあがらない、よぉ……!)

 

 踏み込んだ坂道は、前来た時よりも重くて。

 

 誰よりも今、この道に詳しいはずなのに。

 

 

(なん、で……!?)

 

 息が上がって、苦しい。

 

 減速できないから、前よりももっと早く足を前に出す。

 

 条件はみんな同じはずなのに、わたしが一番苦しい思いをしている気がする。

 

「中山の坂に入ってハルウララ苦しそうだ! 上りきれるか、頑張れ! 負けるな!」

 

 そっか。実況の人から見ても、わたしが一番苦しそうにしてるんだ。

 

 理由は、少し考えればなんとなく分かった。

 

 

(みんなの中でわたしが一番、未完成だから……)

 

 チームアラウンドに一番最後に入ったウマ娘。

 

 ダートを駆け抜け、芝のグランプリでも勝った、奇跡のウマ娘。

 

 でも、その奇跡は5番目で、わたしの前には4人の伝説がいる。

 

 

 

「誰にも、誰にも渡さない! トレーナーちゃんは、マヤの、だぁぁぁぁぁ!!!」

 

 隣を走っていたマヤちゃんが、わたしの少し前に出た。

 

 坂道を誰よりも上手に上って、ゴールに一番近い場所に行っちゃった。

 

(負け、かぁ……)

 

 わたしはそれに、ついて行けなくて。

 

 少しずつ離されていくのを肌で感じて、踏み込んだ足から力が抜けていく。

 

 減速しそうになる。

 

 

 そうなったら勝てないって、何度も何度もレースをしてきたから、わたしは知ってる。

 

 

 

「頑張れ! ウララーーーー!!」

 

「!?」

 

 でも、わたしの名前を呼んだその声が。

 

 わたしに、もう一度だけ立ち上がる力をくれた。

 

 

「う……」

 

 止まりそうだった足に、もう一度力を入れる。

 

 ぐっと踏みつけた芝が、わたしにどうしたらいいか教えてくれた。

 

「うーーーーららーーーーーーー!!!」

 

 踏みしめて、跳ねればいいって!

 

 

 

「減速しかけたハルウララ、飛び跳ねるように坂を上って前に出たマヤノトップガンに食い下がるーーーー!!」

 

 マヤちゃんの背中が見えた。

 

 また隣に並んだ。

 

 

 勝負はまだ、終わってないよ!

 

 

「ウララちゃん!」

 

「マヤちゃん!」

 

 坂道はここでおしまい。

 最後のほんのちょっとのまっすぐな道。

 

「マヤは絶っっっっ対にぃ、負けないんだからぁぁーー!!」

 

 マヤちゃんが叫んだ。

 

(その気持ち、わたしもすっごく分かるよ。だって、ずっと一緒にいたいもんね)

 

 でもね、わたしには確かに聞こえたんだよ。

 

(トレーナーが、わたしを応援する声が!!)

 

 だから、わたしは絶対の絶対の絶対の絶対に、負けられない!!

 

「わたしが、勝ぁぁぁぁぁぁぁつ!!! うーらーらーーーーー!!!」

 

 芝を力いっぱい踏みしめて、前に跳ぶ。

 

 最初は苦手だった緑の絨毯は、もう、とっくのとうに、わたしの友達だから。

 

 

「!?」

 

 

 マヤちゃんの少し前に、蹴り出したわたしの体が飛び出して――

 

 

「……ハルウララ! ハルウララだ! 力強い踏み込みで芝を行く! 頭ひとつ、いや! 半バ身でマヤノトップガンを差し切って今、ゴーーーーーールッ!!!」

 

 

 ――わたしが、勝った。

 

 

「桜が咲いた! 桜が咲いた! もっとも新しい伝説が伝説たちの頂点に……――」

 

 実況さんの声が遠ざかっていく。

 

 喜んだり悲しんだりしている客席のみんなの声も、わたしには聞こえない。

 

「……頑張ったな、ウララ!」

 

「!!」

 

 たった一人。

 

 あの人の姿だけがハッキリ見えて、あの人の声だけがハッキリと聞こえた。

 

「うーーーーららーーーーーーーー!! やったよーーー! トレーナー!!!」

 

 だから、わたしは思いっきりジャンプして、あの人にアピールした。

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 春のある日のトレセン学園。

 

 

「うっららーーーー!!」

 

「くぅぅぅ、ムリーーーーーー!!」

 

「ウララ先輩、早すぎるぅぅぅーーー!!」

 

 レースを前にしての最終調整模擬レース。

 

 希望者の後輩ウマ娘たちをぶっちぎり、ハルウララが芝の1600mを走破した。

 

「タイムは……ん、悪くないな。いい感じだぞ、ウララー!」

 

「! うん!!」

 

 手を振り声を上げれば、向こうのウララがその倍以上の動きで手を振り返してくる。

 正直とても可愛い。

 

 

 

 チームアラウンドを解散してから、俺はハルウララの専属トレーナーになった。

 トゥインクルシリーズでまだまだ走りたいという彼女の願いに応えての続投だった。   

 

『開催っ! URAファイナルズ!!』

 

 秋川理事長の新レース開催宣言はウマ娘界に衝撃と共に受け入れられ、誰もがその最初の栄誉を手に入れようとこぞってトレーニングに力を入れ始めた。

 俺もここに残ったからには彼女と共に、最初のトロフィー受賞者となるべく頑張るつもりである。

 

 それを発表した際、一部ではウララのことをラスボスとか魔王などと呼ぶ向きがあったが、こんなに愛らしい頑張り屋に対してまったく異なことを言うものだ。

 

 こと、彼女が至った領域に関しては、きっとみんなに辿り着ける可能性があるのだから。

 

 

 

「うっららー♪ トレーナーッ!」

 

「えっ、うおっ!!」

 

 知らぬ間に急接近してきたウララに飛びつかれ、支えきれず芝の上に押し倒される。

 

 俺の上にまたがった格好になった彼女は、妙にしっくりした顔でむふーっとしている。

 

「こら、どくんだウララ」

 

「えっへへ。はーい!」

 

 素直にどいてくれたウララの手を借りて立ち上がる。

 終始楽しそうな彼女はいつものように体を左右に揺らしながら、ニコニコしていた。

 

 そのニコニコ笑顔の奥にある願望を見逃さず、俺は彼女の頭をよしよしと撫でる。

 

「えへへ……」

 

「あー、ウララ先輩がまたトレーナーさんに甘えてる!」

 

「いいなー、仲良しー」

 

 途端に照れ照れとしだしたウララを見て、後を追ってきた後輩ウマ娘たちも慣れた様子でからかいだした。

 

「噂になってますよー。ウララ先輩とトレーナーさん、恋人なんじゃないかって!」

 

「ホントのところはどうなんですかー?」

 

「えぇ…っと」

 

 こっちにまで絡んできたのをどうするかと対策を考えていたら。

 

 

「えっへっへー。わたしとトレーナーは、ずーっと一緒だって約束したんだよ!」

 

「ちょ」

 

 

 ウララの口からこともなげに真実が告げられてしまう。

 

「ウララ!」

 

「あっ」

 

 注意した頃にはもう遅い。二人の後輩ウマ娘の目はきらっきらに輝いて。

 

「や、や、やっぱりだーーーー!!」

 

「ヒヒンッ、ごちそうさまでしたーーー!! ものども、噂の真実が出たぞよー!」

 

 手に入れた言質を御旗に振って、ぴゅーっとどこぞへ駆け去ってしまう。

 

「えーっと、ごめんね、トレーナー……」

 

「いやぁ、遅かれ早かれバレることではあったからな。それが今だっただけさ」

 

 俺とウララはURAファイナルズへの出場をもってトゥインクルシリーズから退くことを決めていた。

 そしてその後は改めて、二人一緒に歩む道を進んでいくと、そう約束していた。

 

「あと3年、色々やってたらすぐだな」

 

「うんうん。そうだね!」

 

 この3年、ハルウララは通常よりもレースに出場する機会を多めにトレーニングメニューを組んでいる。

 それは芝も砂も問わない彼女が、存分にレースを楽しむために構成されたメニューで。

 

(事前にローテーションについては公表しているし、次代のヒロイン候補のウマ娘たちには元気よくチャレンジしてもらいたいものである)

 

 トレーナーこそが魔王であるという噂については否定する要素などない。

 

 

 

「さて、併走する子もいなくなったし、最後は砂を軽く流してくるか」

 

「はーい! 見ててね。トレーナー!」

 

 再びコースへ駆け出したウララを見送り、俺は彼女とのこれからを考える。

 

(次の課題は中距離だな。マイルと長距離での速度の出し方は心得ているが、中距離だとどうしても伸びきらなかったり走り過ぎたりする。そこをじっくり調整すれば、3代目全距離G1制覇ウマ娘も夢では……)

 

 と、ついつい深い思索にふけってしまったせいで。

 

「トレーナー!」

 

「うおあっ!!」

 

 再びすっ飛んできたウララに体当たりされ、俺は再び芝の上に押し倒されてしまった。

 

「えへへ! 走ってきたよ!!」

 

「は、早かったな。正直びっくりだ」

 

「うん! なんだか前より、砂のコースともずーっと仲良くなれた気がするんだ~♪」

 

「そいつは何より……で」

 

 今度のウララはどういうわけか、俺の上からどいてくれない。

 

 俺の上にまたがったままじっとこちらの顔を見下ろし、桜色の瞳で見つめてくる。

 

 

 

「ねぇ、トレーナー」

 

「なんだ?」

 

 いつもより少しだけ真剣味の増した声に、こちらも真面目に返す。

 

「ずーっと、一緒にいようね?」

 

 次いで彼女の口から零れたのは、なんてことのない、当たり前の問いかけだった。

 

「ああ、ずっとな」

 

「えへへっ」

 

 だから当然の答えを返すと、しかしいつも以上に嬉しそうにウララは照れてみせた。

 

「あのねっ、トレーナー」

 

「なんだ?」

 

 繰り返される前振りに、同じように答えたら。

 

 

 

「………………大好きっ!」

 

 

 

 予想外の言葉と共に、予想外のことをされ。

 

 今年もトレセン学園に咲く桜は、満開だったと知った。

 

 

                         -END-

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