万時常在のライオット(短編集)   作:Z-LAEGA

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孤島の風はカフェインを乗せて/或いはτサーバーの一日

6時

ライオットブラッドをキメて、ごついヘッドギアを被る。

壮大なる白昼夢の世界にダイブすれば、そこにはいつものように孤島がある。

個人的に開発したライオットブラッド服用法《オイルフィルター》によって向こう3時間は視覚以外の五感が受け取る情報がすべてライオットブラッド化しているため、孤島を包む潮風も私にとってはべたべたしたライオットブラッド蒸気でしかない。

私が仮想の灰いっぱいにライオットブラッド蒸気を吸い込んでいると、背後からやってきた火山ゴリラ(・・・・・)が私の首を引きちぎった。

あぁ、ライオットブラッドの香りだ。

 

7時

さて、今日は休みであるからして一日中ダイブできる。

折角なので他鯖の様子でも見にいこうか、とも考えたのだが、浜辺をぶらついていたら声をかけてきた一人のプレイヤーによってその予定は非採択に終わる。

 

「ライオットブラッドライオットブラッド」

すまないが今私は聴覚をライオットブラッド化しているのだ。筆談で頼む。

私がそう伝えると、男はおもむろに取り出した拳銃で砂浜を抉り始める。砂と銃で筆談する気だ。

『旦那旦那』

何だね。

『旦那ぁ、へへっ、昨日メリケンで発売された【ライオットブラッド・アンデッド】…買いました?』

買ったとも、それもお急ぎ便でね。

『さっすが旦那だぁ…』

ふん、すべてはライオットブラッドの副産物でしかない。

『またまた謙遜しちゃって…って、本題を忘れるところでしたよ旦那』

筆談なんだからもっと簡潔に頼むよ。

『すみませんね。

それでですね、実は最近ねぇ…栄養ドリンクの奴らが不穏な動きを見せてるんでさ』

ほほう?奴らはライオットブラッドに帰化するか別のサーバーに逃げるかしたのでは?

『いやそれがね、最後までこのサーバーに固執してた一部の奴らが一斉にやめやがったんですよ、2人3人じゃないですよ、なんと30人以上なんです』

それはまた…奴らの足取りはつかめたのかね?

『それがですね、どうやら普段は無人島なはずのβに集まって何やら会議をしているようなんですよ』

ほう…

 

私は思考入力でメニューを開く。ライオットブラッド…という音とともに展開したメニューを手早く操作すると、各サーバーの状態を表示するページがライオットブラッド…というロード音の後に表示される。

確かに、普段は同接0人を維持しているβ鯖の同接が40を超えている。

 

『どうしますよ、栄養ドリンク派にもオロカナリCやシモイトワンD、キューサイトーハαなど様々な派閥がありますが、そいつらが徒党を組んだうえに他の鯖からも応援を呼んだりしたら流石に…』

流石に、何だね。

『…勝てないかも、しれない』

 

地に跡を刻む拳銃の動きが、心なしか少し弱弱しく感じられた。

困ったな…どうしたものか。

 

8時

私とプレイヤーが首をひねっていると、海から出てきた電気ヒトデ(・・・・・)のダイレクトアタックがライオットブラッドライオットブラッドと飛んできて我々は仲良く死んだ。

素晴らしい、ライオットブラッドの痛みだ。

 

9時

《オイルフィルター》の効果が切れたが、効果が切れたこの状態もまたいいものだ。ともかく対策を考えねばなるまい。

 

まずどうしてこうなったか考えよう。

そもそもこのτ鯖は同接60人くらいのサーバーだった。運営が脳波を検出したのか、日頃から栄養ドリンクをキメまくっている者ばかりが集まったようである。

…が、その中に十人ほど混ざっていたライオットブラッド派が栄養ドリンク派を寝返らせたりβ民を広告塔に使って外部からライオットブラッドマニアを呼び寄せたりすることによってτ鯖を栄養ドリンク鯖からライオットブラッド鯖へと移行させたのだ。

その中で当然本来自分が歩みたかったゲームライフをぶち壊された者は当然いるだろう。そういった者たちの恨みつらみが合わさって我らτ鯖に集まってくるんだからたまったもんじゃない。便乗大好きなβ民や何も考えずに傭兵としていいように使われるψ民、プレイヤースキルの関係で一瞬で集められるκ民なんかは確実に参加してくるだろう。

本当に、どうしたものか。

 

10時

ひとまず斥候をτ鯖が誇るライオットブラッド・シヴィライゼーションの産物である《消暴艇(ファイア・デパートメントブラッド)》に載せてβ鯖に向かわせた。我らの熱心な布教の末合法のすばらしさに気づいたχ鯖出身の斥候だ、見つかることはまずないと言っていいだろう。

 

11時

斥候が帰ってきた。さすがのスピードである。やはりライオットブラッドのテンション・パワーを注入した船は違う。それはともかく、斥候によればβ鯖を根城にする奴らは少しおかしいという。

なんでも、装備が整い過ぎている(・・・・・・・・・・)だそうだ。

 

β民はもともと一つのサーバーに留まらない傾向にあるが、にしたって同接0人というのはさすがに不自然である。仮に全員が旅立ったとしてもαやγやιによって資源の採集地として占拠されるはずだ。それなのに実際はβ鯖には常時閑古鳥が鳴いている。それはなぜか。

資源が著しく少ないのだ(・・・・・・・・・・・)

そんな島にいるはずの彼ら栄養ドリンク派が、まともな装備を入手できるとはとても思えない。だというのに実際には、彼らは拳銃・サバイバルナイフはもちろんプレイヤーによってはレア物のはずのマスケット銃すら保有しているらしい。しかも大砲も何門か存在するという。

これはおそらく、裏に何かがある。

 

…ひょっとして。

ある可能性(・・・・・)に気付いた私は、斥候にあるサーバーの偵察を命じた。

 

12時

昼ごはんだ。《オイルフィルター》したアンデッドでパスタを茹でる。うまい。

 

13時

リログすると斥候が帰ってきていた。

彼の報告を(筆談で)聞き、やはり私の勘は間違っていなかったのだと確信した。

そう。栄養ドリンク派は、彼の向かったサーバー…

――――――――ε鯖と手を組んでいる(・・・・・・・・・・)

 

斥候氏がε鯖に上陸すると、彼らはυ憎悪合唱を行っていた。民衆はおそらくその二時間前の姿と同じように、眼前の巨大なボードに貼り付けられたυ鯖の「(> υ ^)(ウィンク)」…カラマリンの想像に基づいた滑稽で愚かな絵に対して全力で罵倒を行っていた。

規定で2分半に定められた憎悪合唱が終わると、怒りを燃やすε民達は世間話で鬱憤を晴らそうとする。その世間話を斥候氏に聞かれたのが運の尽き、というわけだ。

 

『オイ聞いたか?τ鯖の奴らは鬼畜υと手を組んでるらしい』

『マジかよ…υカスと手を組むとかゴミ以下じゃん』

『まあでも大丈夫だ、我らが親愛なるビッグ・オクトロンは既に手を打った…なんでもτ鯖の反乱因子に武器を流したらしいぜ』

『なるほど、さすがはビッグ・オクトロンだぜ!』

 

この言葉を聞いた斥候氏は、すぐさま《消暴艇(ファイア・デパートメントブラッド)》に乗って海に駆け出したという。

 

どうやら我々は、虚偽通報によってずいぶんと強大な敵を作ってしまったようだ。決戦の時間は迫っているというのに、こちらの駒は全くそろっていない。どうしようもないのだ。

…しかしそれは、斥候氏に命じた任務が一つだけだった場合の話だ。

 

………

 

…………

 

……………

 

………………

 

……………

 

…………

 

………

 

19時

開戦である。

粗雑なつくりの筏に乗って、銃にナイフにショットガンにマスケットに、武器種の博物館とでもいうべき装備をした大量のタウリン信者が孤島に流れ込む。

対するこちらの武装は、銃器のレパートリーこそ少ないがナイフ等近接武器はハイクオリティなものを揃えている。ιの連中にはすまないことをしたと思っているが、そういうゲームなのだ、仕方があるまい。

 

とは言え我々は普通に人数で押されている。向こうの武装はεのせいで超が付く潤沢ぶり、その上25のサーバーから集まった傭兵だの自由解放軍だのが混在している。これでは我々にはとても勝ちようのない勝負に見えた。が。

 

「「「「「「ε鯖の連中に人権はねええええええええええええええ!!!!!!!」」」」」」

 

それは斥候氏の交渉によってご来島したυ鯖の連中のことを考えなければの話だ。

そう、私は最初から栄養ドリンク信者どもの見方をするとしたらεだろうと予測を立てていた。あのぼろっちい筏でυまで行くのにはとんでもなく時間が掛かる(・・・・・・・・・・・・)からだ。

だから斥候氏にはεの敵対が判明した時点でその足でυとの交渉に向かえ、と伝えておいた。それもεのような武器だけではなく、人員の貸し出しも引き出すように、と。

そうすることによってようやく、まともな勝負が可能になる。

 

最早ここτ鯖はお祭り騒ぎだ。単純に激しい戦闘が起きているのもあるが、どさくさに紛れてほかのサーバーからも鯖癌プレイヤーが出張してきている。

例えば今空気砲を胴体に備わった6対の穴から発射しているティラノサウルス(・・・・・・・・)はおそらく「ζのパパラッチ」が仕掛けているし、さっきから銃声が鳴りやまないのはγの連中が試し撃ちの標的を探しに来たからだろう。ぐふっ。

 

…透明な甲羅をしているデカい亀の口から吐いたビーム(・・・)に消し飛ばされた。リスポーンを待ちつつ話を続ける。

暴徒たちやυの連中には私が開発して以来秘蔵してきた服用法《アクセル》を伝授した。これはスポーツドリンクをライオットブラッドに混ぜることで瞬間的に尋常じゃなくキマる、というものである。おそらくこれでもう《アクセル》はインターネットで拡散され、私だけのものではなくなってしまうだろうが、まぁそれはいい。とにかく、おかげでこちら側のプレイヤースキルは相手と比べると多少強化されていると見ていいだろう。リスポーン。

 

「「「「「「「合法うううううううううううううううううううううう!!!!!!!!」」」」」」

 

皆がライオットブラッドのすばらしさを理解してくれているのはいいが、このままではジリ貧だ。何か対抗策が必要である。

実際攻めてくるプレイヤーは留まる事を知らないし、我らはリスポーンという莫大なアドバンテージを持っているとは言え限度がある。それにυの連中は死んだら戻れないのだ。

しかし、意外な事象によってこの戦いは終結することになる。

 

20時

―――――――――いつのまにか、静寂が場を支配していた。

静寂には逆らえない。なぜなら私を含めた付近のほとんどのプレイヤーが声を発することができないからだ。

原因は何か?暗殺だ(・・・)

しかし、その静寂を破るものが一つある。

リスポーンを待って、幽体離脱的なアバター状態になった私が見たそれは、そう。

笑顔を浮かべる幼女(・・・・・・・・・)…?

お前は、μ、skYっ………!

彼女はその笑みを保ったまま、次の標的へと向かった。

私は、リスキルの気配を察知して一度ログアウトした。

 

………

 

…………

 

……………

 

………………

 

……………

 

…………

 

………

 

1日後

ほとんどのプレイヤーはμ-skYにキルされた。敵も味方も、である。

 

τ鯖にリスポーンポイントを設定していない奴は元のサーバーに帰ったし、タウリン信者どもはもう暴徒たちに攻撃を仕掛けてくることはない。…全員がμ鯖へ行ってしまったからである。

どうも殺されるのに嵌ってしまったようだ。

一方τ鯖の暴徒は減るどころか増える一方だ。幼女に殺された程度でμ鯖に行くような浮気性の暴徒は我がτ鯖にはいないし、υ鯖の連中が一斉に合法に目覚めたため結果的に暴徒は増えたというわけだ。

 

私はライオットブラッド味の海水を思う存分堪能しながら、何とかこのτ鯖をタウリン信者から守れたことに安堵し、ピラニアの群れに喰われた。

ライオットブラッドの刺激だぁ…!!

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