傲慢な天才トレーナーと一番星のアタシ   作:渡邊ユンカース

1 / 18
本作を執筆する作者は土佐出身ではないので土佐弁警察は許してください。できれば修正してくれると嬉しいです。
あと不定期更新です。


一番のアタシは片付けと料理をする

 アタシのトレーナーは天才だ。

 恐ろしいほど秀でた観察眼と集中力でコースやウマ娘の足を瞬時に解析し、それをアタシに教える。そのおかげでアタシはレースでライバルであるウオッカを抑え、何度も一着を獲ったことがある。

 コーナーで体力を回復させるための技術、坂路での上り下り、先行で相手を抜かす技術、今があるのはすべてアイツのおかげだって豪語できる。

 

 けどトレーナーは重大な欠点を抱えていた。

 それは自身のトレーナーとしての才能にかまけすぎて、傲慢になりすぎたのだ。事あるごとに才能を誇示して吠えて慢心する。勝気な性格が災いして大事に発展しかけることもあった。アタシも気性難なところはあるけどアイツはそれ以上に面倒。

 

 最初に出会ったのは選抜レースでだった。そこでウオッカと競い合い、そして負けた。レース前、アタシに多くのトレーナーが期待していたけど、彼らはウオッカの走りに魅せられてしまった。ほとんどのトレーナーがウオッカをスカウトしようと躍起になって、アタシは悲しみと悔しさを胸に茫然と立ち尽くしていた。

 けど、そんなアタシに声をかけた人がいた。

 

「おまん、何じゃ今の走りゃ」

 

 季節外れの橙色の首巻を着けて、よれよれのシャツを着た男だった。ぼさぼさの髪を後ろで結わき、顔には無精ひげが生えている。そう、それがアタシのトレーナーだった。

 トレセン学園にいるトレーナーはどれもスーツといった清潔感のある服装だった。それなのにアイツはだらしのない格好だったから、不審者かと疑ってしまった。けどよれよれのシャツにはトレーナーバッチが付けられていた。

 

「なっちょらんな、走りが。特に最後の直線、ありゃあもうちょい粘ればどうにかなっちょったなぁ」

「…」

「道中で諦めよったか。情けないのう」

 

 アタシはグチグチと指摘されるのに苛立ちを覚え、適当な受け答えをした後その場を立ち去ったのを覚えている。だけどそれは痛いところをつかれていたからだって後から理解した。情けない話、アイツはアタシを見透かしていたのだ。

 次の日、アイツはアタシのところに来た。

 

「おまん、わしの担当になれ」

「……はあ?」

「わしの天才的実力ならおまんを伸ばしてやれる。ほれ、さっさと契約書にサインを―――――」

「お言葉ですが、受け取れません。では失礼します」

 

 態度が気にくわなかった。自分の才能を誇示する態度がやけに腹が立った。一番になるための努力をしてきたアタシと天才だからと鼻にかけたトレーナとの相性は抜群に悪かったんだと思う。

 とっととこの場を去ろうとしたら、アイツは去り際にとんでもない爆弾発言をぶつけてきた。

 

「おまんには悔しさがないんか。つまらん女子じゃ、一生負ければえい」

「……ッ!!」

 

 その言葉にカチンときた。すぐさま反転して怒気のこもった目でアイツを睨んだ。するとアイツはニタリとニヒルな笑みを浮かべて、口角を怪しく上げた。

 

「おん、その目じゃ。おうおう悔しいのう、ウオッカに負けんのは」

「アンタに何がわかんのよ……! アタシは一着にならないといけないの!」

「じゃが、今のおまんにウオッカに勝つ算段はあるんか?」

「そ、それは……」

「ならわしと契約せい。そうすりゃ、おまんはウオッカに勝てるぜよ」

「簡単に言ってくれるじゃない!アンタにそれだけの才能が、技術があるっていうの!!」

 

 普段の優等生というお面を剥してまでアタシは本心を暴露した。アイツはただ端的に答えてくれた。

 

「ある」

「……じゃあアタシをウオッカに勝たせてみせなさい。勝てたらアタシのトレーナーとして認めてあげる」

「えいじゃろう。まっ、結果はわかっちょるが」

 

 こうしてアイツとの付き合いが始まった。最初の目標は打倒ウオッカ、アイツは過去のレース記録や練習光景を分析して適正距離や脚質を求めた。そして差されぬようにどう立ち向かえばいいかを教えてくれた。

 

「はあっ!? 終始逃げってどういうことよ!」

「ウオッカの脚は鋭いきに、先行と差しの距離じゃあ詰められる」

「だからって逃げまくるのってすごい体力使うのよ!」

「なら体力を上げればえいじゃろ。明日からこんメニューこなせ」

「……スピードとかはどうすんのよ」

「スピードはそのままじゃ。優先事項は体力の底上げ、差される前に逃げきれれば問題は無いからのう」

「……もし勝てなかったら」

「はっ、わしの目に狂いはない。もっとも負けを見越すおまんじゃなかろうて」

「……わかったわよ。全力でウオッカに勝ちに行くわよ」

 

 それから特訓が始まった。水泳を重点に置いたトレーニングはきつかったけど、こなすたびに体力が増していることを知った。自然と自信もついてきて、ウオッカとのレースの時には絶好調の気分だった。

 レース当日、アイツはアタシにこう言ってきた。

 

「こん期間でやれることは全部やった。あとはおまん次第じゃ」

「アタシが負けるとでも」

「はっ、わしは思ちょらん」

「いってくるわね。必ず勝つわ」

「やってきいや」

 

 アタシはウオッカとのレースで勝ちとることができた。作戦は逃げ、終始ウオッカの先を行くことで差し切れないほどに距離をあけた。走っている時、ひどく足が痛んで息が苦しかったけどトレーニングのかいがあったと実感できた。

 このレース以降、アイツを専属トレーナーとして迎えることになった。

 

 アタシとアイツは勝気でいじっぱり同士だから何度もケンカや意見の食い違いが起きた。けど時が経つにつれてお互いに扱い方がわかってきたのか今ではある程度アイツの思考を読めるようになった。アイツは特に自分を馬鹿にされたり、上から物を言われたりするとすぐに反発するから注意が必要。

 子供っぽく祭りで騒いだり、卑屈だけど素朴な優しさを持つところはアイツに好感を持てるところだった。この間なんて迷子になった子をあやしながらその子の両親捜しに尽力していたとウオッカから聞いた。

 ホント、面倒ごとが嫌いなくせにこういうことは最後までやるんだから。アタシを呼んでくれたら手伝ったのに……。

 

 月日が経ち交流を深めていくにつれて、いつしかアタシはアイツに惹かれていくようになった。だらしのない態度やレースで優勝するたびに一喜一憂する姿が愛くるしく見えるほどに。トレーナーと担当ウマ娘の恋愛は珍しくない、現にミホノブルボン先輩の両親がそうであるように。

 

 アタシはこの悶々とする恋心を胸にしながら日々を過ごしていた。そしたら昨日、アタシが外出して学園に帰っている時に見慣れた後ろ姿が見えた。

 ぼさぼさの髪の毛とよれよれのシャツを着て首巻を巻いた男性、そうアタシのトレーナーだ。アイツの両手にはコンビニ袋があって、こっそり近づいて中を見るとお弁当やカップラーメン、そして酒類が入れられていた。

 完璧を目指すアタシに見合うようトレーナーも完璧でなければいけない。アイツがこんな食事ばかりしたらアタシは真に完璧と言えなくなってしまう。それだけは避けたいし、ただでさえも粗雑なアイツが不健康にでもなったらたまったもんじゃない。

 

 

 だから今日私は、食材と機材、そしてエプロンを持ってトレーナー寮へ出向いた。本来、ウマ娘の寮にトレーナーが入ってきてはいけないのだが、逆なら特に言及されていない。むしろ多くのウマ娘がトレーナー寮に足を運んでいるという。現にエアグルーヴ先輩やトウカイテイオーもその一人。

 私はアイツの部屋の前に立ち、備え付けのチャイムを鳴らした。軽快な音が家の中から響き、十秒後ガチャリと扉が開いた。

 相変わらずだらしのない姿のアイツが現れた。ただ目を丸くして珍しい来客に驚いていて、まるで子供のようで可愛かった。

 

「な、何じゃいきなり!」

「ふん、アンタのためにご飯作ってあげるわ」

「飯じゃと? どうしておまんが」

「決まってるじゃない。アタシのトレーナーなら完璧になってもらわないと私が困るんだから」

「ぬかせ、さっさと去ね。女子が男ん部屋入っちゃいかんぜよ」

「嫌よ。ご飯作るまで帰らないわ」

「はよう帰れ。寮長呼ぶぞ」

「許可は得てるから。ほら早く入れなさい。じゃないと痴漢されるって叫ぶわよ」

「わしを脅そうにゃあ百年早いぜよ! ほな!」

 

 そう言ってアイツは扉を閉めようとする。アタシは手首に食材の入った袋を掛けたままドアノブを抑える。

 

「抑えたわよ。さっさと観念しなさい」

「はっ、わしは地元じゃケンカ番長じゃ。いくらウマ娘だが女子のおまんに負けるはずが―――――」

「あら簡単に開くわね」

「なんじゃああああああッ!?」

 

 バカね、ウマ娘に勝てるわけないじゃない。

 最後までドアノブを握っていたせいで、アイツはずるずると外に引きずられた。その隙にアタシは室内に入室した。靴を脱いで部屋にあがると、粗雑さが顕在したようにゴミが大量に置かれていた。弁当の空き箱や空き缶、机やベッドの上には書類や衣服が散乱している。キッチンを覗くと、やけに綺麗で暫く料理をしていなかったのがわかる。ちなみに周辺には冷蔵庫と電子レンジが最低限揃えられていた。

 ……やっぱりそうだと思ってゴミ袋を用意したかいがあったわね。料理を作る前に掃除をしないと。

 

「あんま部屋を見ゆうなや」

「汚いわね。アタシじゃなかったらドン引きよ」

「けっ」

「今から掃除するからアンタはゴミ出しにいきなさい。明日は燃えるゴミの日よ」

「わしはこれから予定があるんじゃが」

「無いってアンタの後輩である桐生院トレーナから聞いたわよ。嘘をつかないで」

「ちいっ!手伝えばええんじゃろ!」

 

 渋々といった感じでアイツは私が詰めたゴミ袋を運んでいく。一応、必要か不必要かを確認しているから間違えて捨ててしまったということはないはず。

 アイツがゴミ捨てに行っている間、アタシはこっそりベッドの下を覗いた。そこには数枚のDVDと雑誌があり、それらを取り出した。

 

「……へー、こういうのが好きなんだ」

 

 ペラペラと雑誌を捲り、雑誌の内容を確認する。本には裸の女性と男性が熱烈に体を絡ませている写真や漫画が載せられている。俗にいう成人雑誌、ちなみにDVDの方も同じだ。

 どの女性も魅力的な体と顔立ちで、中にはウマ娘のものも存在している。どれも共通して豊満な胸を持つ女性が載っていた。それだけでアイツの嗜好がわかった。

 アタシはそっと自分の胸と比べ、勝ち誇ったように笑みを浮かべる。

 

「アタシの方が大きいんだから」

 

 満足気に笑っているとドアノブを回す音が聞こえた。アタシは急いで雑誌などを元の位置に戻して、燃えないゴミを部屋の隅に置くフリをする。

 アイツは違和感には気づいていないようで安心した。バレたらアイツの男としての面目が保てないし、何よりもキレ散らかすことが目に見えている。

 

「終えたがか?」

「えぇ、本当はもっと綺麗にしたかったけどこの辺にしてあげる。さっ、ご飯作っちゃうから待ってなさい」

「おん。わしが食うたら去ねよ」

「わかってるわよ」

 

 アタシはエプロンを巻いてキッチンに立つ。袋から食材と調理器具を取り出して、テキパキと調理をこなす。小さいころから母親に負担をかけないよう料理を手伝っていたかいがあったものね。

 調理実習ではトウカイテイオーが暴走して苦労したけど、なんとかウオッカとアタシでカバーした。意外とウオッカも料理がうまいのよね、兄弟がいるからかしら。

 ちらりとリビングに居るアイツを見ると、書類を片手にPCへ何かを打ち込んでいた。おそらくアタシの練習メニューについてだって想像がつく。ホント、真剣になっている時の顔は凛々しいんだから。ズルい人。そういうところが惹かれちゃたんだと思う。

 

 一時間程度で料理ができた。メニューは味噌汁、豚肉の生姜焼き、サラダ、ご飯でありきたりなものを作ってみた。一応、二日前の調理実習で作ったのと同じものだから上手くできたと思う。まっ、本当は新鮮な野菜や炊き立てのお米を使いたかったけど、ゴミ出しや炊飯器の有無を考慮した。必ずレースで優勝したボーナスで炊飯器を買わせてあげるんだから。

 美味しそうな匂いを嗅ぎつけてアイツがこっちを覗いてきた。

 

「ほにほに、生姜焼きか」

「そうよ。不健康なものばかり食べてきたんだからきちんと食べなさい」

「えいじゃろう、わしが何を食おうが勝手じゃ」

「それでもだめなの! ……アンタに倒れられるとアタシが困るんだから」

「ははーん、まあわしは天才トレーナーじゃき。そう思われちょっても仕方がなか!」

「そういうことじゃないわよ!バカ!」

 

 アタシは二人分の料理を運び、机に並べた。うん、我ながら美味しそうね、流石アタシ。アイツはてくてくと歩き、冷蔵庫から缶ビールを持ってきた。プシュッと爽快な音が漏れる。

 

「担当ウマ娘の前でお酒だなんて、遠慮がないのね」

「別にえいじゃろ。わしの家じゃ」

「そうね、さっさと食べましょ。ちょっと早い夕飯ね」

「そうじゃのう。食うか」

 

 アタシとアイツでいただきますを言って食事を始めた。ガツガツと豪快に食べる様子はアタシの心を満腹にしてくれた。それほどアタシのご飯が美味しいってことになるから。時折、ビールを口にしながらアタシたちは会話を交わす。どのレースで不安なポイントはどこか、どんなトレーニングを希望か、今の靴はあっているのかとどれもレースに関することばかりだった。それだけレースに真摯なのは良いんだけど、ちょっとだけ距離があいているようでむず痒かった。だからレース以外のことを切り出した。

 

「アンタ、いつも学園に居るわよね。マヤノとライスシャワー先輩が深夜徘徊するアンタを見たって聞いたわ」

「わしは基本学園におる。ほんで、過去のレース記録やウマ娘の情報を漁っちょる」

「家はいつ帰るのよ」

「基本、寝るんと飯食う時だけじゃ」

「だからあんなに部屋が汚かったのね。休日はどうしてんのよ」

「他のレース場見学か、パチンコと競艇ぜよ。いつもんいまひとつ勝てんが、こん前は競艇で勝ってこじゃんと貰ったじゃき。今度高級寿司を奢っちゃる」

「……人の趣味に口出しするわけじゃないけど、まさか収入を全てつぎ込んでるとかはないわよね」

「何を言うかが。遊びは派手にやらんと面白うないきに!」

 

 典型的なダメ人間ぷりね。お金があったら貯金しないタイプでいつか破滅しそう。だらしがないったらありゃしない、アタシがストッパーになる必要があるわね。それに完璧を目指すアタシにとってお金の管理の練習にもなるし。まずは理事長に分割払いをしてもらう必要があるわね、手元にあったらすぐ使うんだから。

 

「おまん、何か企んどるな」

「別に何でもないわよ。ほら食べちゃいましょ」

「……まあえい。まずは飯じゃ」

 

 そうこうしているうちにアタシたちはご飯を食べ終えた。食器を洗いながら時刻を確認すると七時を回っている。そろそろ帰らないと優等生のレッテルが剝がれてしまう。手早く食器洗いを済ませ、袋に調理器具をしまいながら声をかける。

 

「そろそろアタシ帰らないといけないから。冷蔵庫の中に生姜焼きの作り置きがあるから食べてよね」

「まあもったいないから食ってやるかのう」

「はいはい、美味しかったのね。あと、たまにアンタの家に訪問するからある程度綺麗にしておくこと。いいわね?」

「ほんなら気い向いたらやっちょくきのう」

「それと仕事もいいけどちゃんと帰宅して家で休養しなさい」

「おん」

「あとあとお金をすぐに使わないで貯めなさいね、万が一を見越した貯蓄が重要なのよ」

「おまんはわしの母親か!」

 

 アタシはドアノブを握って扉を開ける。外は暗く、街灯が点々と灯っている。靴を履いて、外に出たアタシは扉を閉めようとした。すると小さな声が奥から聞こえ、耳がピンとなった。

 

「……また来いや。飯、美味かったやき」

 

 扉を閉めて、思わず扉を背にもたれ掛かった。意地っ張りで傲慢で卑屈だけど、どこか素直で優しいアタシのトレーナー。今のセリフも恥ずかしながら言ってくれたと思うと外見に似合わず可愛らしくて愛らしい。まさにツンデレな野良犬ね。

 

「ホント、素直じゃない人」

 

 けどそれはアタシもなんだけど。

 アタシは薄暗い道を辿って学園に帰ることにした。その足取りは自然と軽やかだった。




この作品はFGOの岡田以蔵のようであって岡田以蔵ではない。外見と内面は完璧に同じですが、過去がやや違いますので悪しからず。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。