傲慢な天才トレーナーと一番星のアタシ   作:渡邊ユンカース

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九月になった途端に雨が降って寒くなりましたので風邪をひかないよう気を付けてくださいね。
にしても樫本理事長代理がポンコツで可愛いですね。


一番のアタシはバスに乗る

 早朝、シニア及びクラシックを走るウマ娘が校庭で待機している。その中のメンツにはウオッカやメジロマックイーンさん、そしてサトノとキタサンがいる。

 

 どうして集まっているのかというと今日が夏合宿初日で海辺でトレーニングをする。基本的には団体や担当トレーナーの付き添いのもとトレーニングをするといった感じで平常と変わらないけど、休憩時間に海で遊べるのが大きかったりする。

 だから皆は楽しみにして浮足だっていた。正直、アタシもそのひとりなのよね。

 

「にしし!楽しみだねー!」

「そうですわね。けどこれはトレーニングの一環ということを忘れないでくださいまし」

「あぁん?そんなこと言ってマックちゃんのカバンにビーチボールがあるの知ってんだからな」

「勝手に中身を見ないでください!」

「なーんだマックイーンも楽しみなんじゃん」

「……まさかアレも見たんですの?」

「アレって可愛い水着のことか。見たぜ」

「もー!最悪ですわー!」

「担当トレーナーに見せたい気持ちすごくわかるよ!ボクも持ってきちゃたんだー!」

 

 そして担当トレーナーがいるウマ娘の多くが学校指定の水着ではない個人の水着を持ってきていた。理由はただひとつ、自分のトレーナーに見せつけて魅了するため。

 苦楽を共にしてきた担当トレーナーは良き理解者であるので恋愛感情を抱くことがある。実際にトレーナーとウマ娘が結ばれるケースも少なくはないとか。

 

「ったく、せっかくのトレーニングに専念できるのにダラシないぜ」

「結局は合宿でたくさんトレーニングするからいいじゃない」

「仕事と私情を分けてこそだろ。クールじゃねぇな」

「そう言うウオッカだって前日持っていこうか悩んでたじゃない」

「お、オレのこと見てたのか!?」

「アンタ的には平然を装っていたみたいだけど傍から見ればそうじゃないから」

「ウワー!なんてこったー!」

 

 まったく、あの水着似合ってたのにもったいないわね。普段のカッコいい感じとのギャップがよかったのに。

 

「スカーレットだってあのトレーナーに見せるつもりなんだろ!」

「ま、まあ夏だし……」

「かー!優等生なのに浮かれて情けねーぜ!」

「うるさいわね!いいじゃない遊んでも!」

 

 かくいうアタシもバブリーパークで買った時の水着を持ってきている。仕方ないじゃない、サイズが大きくなって着れなくなる前にたくさん着ておきたいんだから。この前も採寸が終わった一か月後に胸元がきつくなったし、成長期も考えものね。

 ……なんかそれをマックイーンさんに伝えたら末裔まで呪ってきそうな目で睨んできたけど。

 

「にしても遅いわね。出発時間の十分前よ」

「そうだな。もうバスも校門前に停まってるし。誰かが寝坊でもしてんじゃねーのか?」

「きっとそうね。こんな大人数を待たせるだなんて迷惑よ」

「今頃誰かが起こしに行っているか慌てて支度してるんじゃね?」

「ホントきちんとしてほしいわ。同室の子も気を利かせて起こしてあげなさいよ」

「スカーレットさん!」

「あ、あの!」

 

 ウオッカと話していると桐生院トレーナーがこっちに来た。二人はすごく慌てていて尋常じゃない様子だった。

 

「ど、どうしたんですか?」

「せ、先輩って此処に来てましたか?」

「アタシのトレーナーですよね。今日はまだ見てませんが」

「えぇ!?あの時に声掛けしてればよかった……!」

「トレーナーに何があったんですか!?」

「多分だけど先輩まだ寝てます!」

「……はあっ!?」

 

 きちんとすべきだったのはアタシとトレーナーだった。やってしまったと言わんばかりに頭を押さえる桐生院トレーナーの気持ちがすごくわかる。

 今から寮に行けば出発時刻ギリギリか少し遅れた程度で済むはず。急いで行かないと!

 

「アタシが起こしに行ってきます!」

「スカーレットさんこれを!」

「……合鍵を何故持っているんですか」

「たづなさんから世話をするよう渡されてたんです!どうせ鍵掛かってないと思うけど一応!」

「わかりました!」

 

 通りでアタシが子供になった時に桐生院トレーナーが入ってこれたのね。あの感じだとアイツとそういう(・・・・)仲じゃなさそうだし安心したわ。思わず身構えちゃった。

 

 アタシは急いでトレーナー寮に行き、アイツの部屋の前に立つ。そしてドアノブに手を掛けて回すと桐生院トレーナーの予想は二つの意味で的中した。

 鍵を使わないで中に入ると室内から人気がある。寝室に行くと布団の上でスヤスヤと心地よさそうに寝息を立てるトレーナーの姿があった。本当だったらその顔を堪能してから起こすつもりだったけど、そういう状況じゃない。

 

「起きなさい!バカ!」

「なんじゃああああ!?」

 

 布団をテーブルクロス引きみたいに引っ張ってトレーナーを起こす。安眠を妨害されてなおかつ地面に転がされるトレーナー、寝起きにこんなことされれば驚くけどあいにく同情している余地はないの。

 

「どういてわしの睡眠を妨害したァ?」

「今日は何の日だと思ってんのよ!」

「今日は日曜じゃ、休みじゃ休み」

「バカ!今日は合宿初日よ!」

「そんなことないきに。カレンダーを見いや」

「去年のを変えなさいよ!待ってるんだからね、皆!」

「……」

 

 寝起きの頭では状況の整理ができていないのか暫く静止するトレーナー、しかし事の重大さが理解できたのかサーと顔が青ざめていきダラダラと嫌な汗を流し始めた。

 

「マズいぜよダスカ!遅刻ぜよ!」

「さっさと荷物持っていくわよ」

「わし何も準備しとらんぞ!」

「はあっ!?まさかだけど今日しようとしてたの!?」

「当たり前じゃろ!」

「もー!今からさっさと支度するわよ!」

 

 押し入れからスーツケースを取り出してせっせと適当な衣服を詰め込む。詰め込む前にズボンとシャツをトレーナーに渡す。もはやパンツとかで赤面する状況じゃないんだから!

 

「わ、わしは何をすればえい!」

「こっちはやっとくからアンタはそれに着替えて洗面用具とか持ってきなさい!」

「わ、わかった!」

「それと暇があったら髭を整えなさい!仮にも人前に出るんだからね!」

「お、おう!」

 

 ドタバタと足音を立てて用意を始めるトレーナー、よしこれなら時間に間に合うかも……!

 

「わしの水着どこ置いたかのう」

「もう水着は入れたわ!」

「携帯シャンプーが見つからん」

「だったら諦めて他から貰って!」

「お、おう」

 

 足りないところは現地で購入するとして最低限の荷物を支度し終えたわ。去年持ってきていた服とかも入れたから十分よね。

 

「とっとと行くわよ!」

「うし、万全じゃ!」

「アタシのおかげなんだからね!ダイワスカーレット、出るわ!」

「おんし全力で走るなや!」

「きちんと鍵掛けなさいよ!」

「わかっとるわ!」

 

 先に荷物を持ってダッシュする。ウマ娘のパワーと速さならいち早く着けるし、トレーナーはただ後ろから追いかけるだけで済む。

 

「ふぅ、間に合った」

「あっ、スカーレット」

「先輩はどんな感じでしたか?」

「案の定寝てましたが起こしました」

「あー、よかった。本当にありがとうございます。ちなみに準備とかは間に合ってましたか?」

「全ッッッ然やってませんだした」

「昔から先輩はドジやらかしますからね」

 

 過去の経験を振り返り、桐生院トレーナーは呆れ気味になっている。元気ハツラツな桐生院トレーナーにしては珍しい様子だった。

 少ししてからトレーナーが息を切らした状態でやって来た。全速力で走ってきたこともあって全身汗だくで血眼になっている。もし朝食食べてたら吐いてそうね。

 

「はぁはぁ、遅れました……」

「あっ、トレーナー」

「先輩はきちんとしてくださいね!」

「カレンダー替えてね!」

「す、すまん……」

「安心ッ!これで合宿に行けるな」

「あっ、理事長」

 

 奥の方から扇子を扇ぎながら理事長がわざわざ来てくれた。隣には秘書のたづなさんがいて、彼女も皆がそろったことに安心している。

 

「見送りに行こうと思ったらこれとはな」

「まったく、次は遅れちゃダメですよ」

「曜日を間違えちょったわ」

「こんなに汗だくになって。合宿はまだ始まってないのに」

「おん」

 

 そう言ってたづなさんはハンカチを取り出してトレーナーな汗を拭ってあげていた。トレーナーは抵抗せずにそのまま受け入れている。

 ……流石たづなさん、大人びたの行動で一歩リードされた感覚になるわね。てか何なのよトレーナーは!もー、当たり前のように受け入れちゃって!

 

「注目ッ!全員が揃ったのでバスに乗るように!」

「時間ギリギリだけどこれで行けるわね」

「そうじゃのう。バスで疲れをとるか」

「どうせ昨日はお酒飲んでダラダラしてたのに疲れなんてないでしょ」

「久しぶりの全力疾走はキツイぜよ」

 

 バスに乗ったアタシたちはトレーナーの隣に座る。トレーナーは後ろに人がいないのを確認して全開でリクライニングを使って仰向けになっている。

 

「早速リクライニング全開で寝るって、車外の景色を楽しみなさいよ」

「えいじゃろう、別に。誰にも迷惑なんぞかけてらんし、山の景色はすぐ飽きるきに」

「そういうのを楽しむのよ。風情ってわかる?」

「知っとるわ」

「なんか面白そうなもの見れるかも知れないから起きてましょうよ。話のネタならたくさんあるんだから」

「……ダスカ、ひとつ言ってもえいか?」

「? 別に構わないけど」

「そこはトレーナー専用席じゃ」

「へっ?」

 

 辺りを見渡してみると各ウマ娘のトレーナーが座っていて、桐生院がこっちを申し訳なさそうに見ていた。一瞬、頭が真っ白になったけど状況がわかって顔が熱くなった。

 

「し、失礼しましたー!」

 

 すぐにウマ娘が座るところまで撤退した。ウオッカがアタシのために席を空けてくれていたらしく、そこに座ることにした。座ってすぐに顔を押さえてさっきの行為を恥じた。

 

「うぅ、すっごく恥ずかしいわ……」

「気にすんなよスカーレット。ほら、あれを見ろよ」

「アタシ以外にそんなことしてないわよ……」

「そんなことねーって」

 

 ウオッカの視線の先にはアタシ同様に突っ伏したマックイーンさんやテイオーがいる。他にもチラホラと同じ格好になっているウマ娘もいる。

 どうやらアタシと同じことをしたらしくて多少気が楽になった。やっぱり皆、思っているところは同じなのね。

 

 こうして各ウマ娘にとって最悪の出始めを迎えた。

 




ウマ娘のアオハルをやって気づいたのはかなりココンとグラッセが強いってことですね。ガチで強くて初見は負けました。

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