まさか今回のウマ娘のイベントで流鏑馬をするとは思いませんでした。
走りながら弓を射ると弓道警察が出動しますが、まあウマ娘だから問題はないと思います(適当)
「うぅ、体がだるいわ……」
「おいスカーレット大丈夫か?」
「なんとかね……」
ある日の朝、いつも通りに起きて身支度を整えようとしたら体が重かった。一緒に起きたウオッカが心配そうにこっちを見ていて、引き出しから体温計を渡してくれた。
「ほらよ、これで計ってみろよ」
「うん。……37.5度だから微熱ね」
「なら今日は休んで保健室で寝てろよ」
「ダメよ、優等生のアタシは微熱で欠席するわけいかないんだから」
「あのなぁ、そりゃ無茶だぜ。オレがノート貸してやっから」
「でも」
「ごちゃごちゃ言うじゃねーよ。病人は安静にすんのが一番なんだよ」
「……わかったわウオッカ。じゃあ後で貸してね」
「おう、当たり前だろ」
ウオッカに言われてアタシは朝から保健室に行くはめになった。確かにウオッカの言うことは正しくて、アタシがアイツの立場ならきっと同じことをするだろうし。
……はぁ、学校を休むのは憂鬱ね。なんだか罪悪感があって落ち着かないわ。
ため息を吐きながら歩いて保健室まで辿り着いた。ちょっと運動しただけなのに軽めのランニングをした感覚がある。ちょうど保険医さんが室内に居て、こっちに気づいた。
「あら、スカーレットさん。どうしたのかしら」
「保険医さん、実は体がだるくて……」
「熱は計ったの?」
「はい。37.5度でした」
「微熱ね。悪化するかもしれないから今日は休んで寝てようか」
「……わかりました」
保健室にあるベッドに横たわり暫くしていると、保険医さんがゼリーとスポーツ飲料を持ってきてくれた。飲みやすいようにゼリーは封が切られていて、スポーツ飲料にはストローが刺さっている。
そして保険医さんはアタシの額に冷却シールを貼ってくれた。
「まだご飯は食べてないわよね。これ食べてね」
「ありがとうございます。てかちょっと高いやつですよね、このゼリー」
「いいのよ。若くて元気な貴女たちを守るためなんだから」
「そうですか、じゃあいただきます」
スプーンでゼリーをすくって口にする。このゼリーはちょっと高価な分美味しいと評判なのに味や風味を感じれなかった。体調不良だから仕方が無いって割り切っているのに、堪能できないことにガッカリした。
一応、全部食べ切って少しボーっとしていると徐々に眠気が襲ってきた。まだ朝方なのと体調不良が原因なのかもしれないわ。することもないしそろそろ寝よう。
アタシは睡魔の誘惑に負けて、夢の世界に落ちることにした。
「……今、何時かしら」
どのくらい寝ていたのかしら。チラリと壁に掛けられた時計を見ると時刻は十一時を回っていた。保健室に来たのが七時ぐらいだから四時間は寝ていたことになるわね。
けど寝起きなのと体調不良が相まって体が尋常じゃないほどに重くて熱い。頭痛もガンガンしてきてきつくて悪寒も走ってきた。ウオッカの言うことを聞いていなかったらきっと大変なことになっていたわね。アイツには感謝しなきゃ。
「うぅ、つらい」
保険医さんが離席していて人気がない中、なんとか体を起こして顔でも洗おうと立ち上がった。けど足元がおぼつかなくて立つことすら難しい。フラフラしながら洗面台まで寄って鏡を見る。頬が真っ赤に染まっていて目がとろんと溶けていて、人前には見せられないわね。
再びベッドで寝て天井を見る。普段だったら何の変哲もない天井のシミが人の顔に見てきた。不気味に笑う顔、目を釣りあげて怒っている顔、苦悶に満ちた顔、ひどく泣いている顔、どの顔も怖くて不安になってきたから毛布を被る。
「……あれはただのシミよ。何でもないんだから」
毛布を被って何も見えていないはずなのに、彼らが天井から見下ろしてくるのを感じる。もしも体調がよくならなかったらアタシはずっと彼らに覗かれてしまうって考えると怖くて不安になってきた。
それと保健室だから人もそうそう来ないから誰とも会えないんじゃないかって感じて孤独感がアタシを覆う。
「……ママ」
ママに会いたいっていう思いが次第に強くなってきた。無理なのはわかってるけど誰かと話したいし、誰かと居たい。けど今は授業中だから誰も来ない。少し時間が経てば保険医さんが帰ってくるはずなのに、一分がとても長く感じる。
「ママに会いたいよぉ……」
もう三年もトレセン学園で過ごしているからホームシックはないと思ってたのにそうはならなかったらしい。
寂しさのあまり涙が零れてきて、自分の幼さに呆れるしかないわね。本当にホント、情けない。
「おう、何じゃ縮こまりおって」
「ト、トレーナー……?」
ママに会いたいという思いが高ぶって毛布を被ってすすり泣いていると、その毛布が突然剥がれた。剥いだ毛布の先にいたのはアタシのトレーナーだった。
「ど、どうしてアンタが……」
「ウオッカから聞いたぜよ。体調不良で寝込んどるから見舞いに行ってやれやと」
「……そうだったんだ」
「なんじゃおまん目を赤く腫らしおって、泣いとったんか」
「うるさいわね。別に泣いてなんかないわよ」
「おうおう強がんなや、わしにゃあバレとるわ」
手近なパイプ椅子に座って、ニヤニヤと憎たらしく笑うトレーナー。普段だったら反抗したりするんだけどそんな元気もないから何もできない。それとアタシのトレーナーが来てくれたから独りじゃないって思えるようになったから、ほんの少しだけ余裕が生まれた。
ホントにうちのトレーナーはイラつくけどちょっとだけ元気になれるわね。
「ほれ、大人しゅうしとけよ。顔拭いちゃる」
「……冷たくて気持ちいわ」
「まあ今まで多忙じゃったからのう。えい休暇じゃ」
「休暇って言わないでよ。アタシだって休みたくて休んだんじゃないから」
長い付き合いでわかってるくせにアタシのトレーナーは意地悪なのよね。感性が小学生で止まってるわ。
「そろそろ飯時か」
「……まだ正午に回ってないじゃないのよ」
「わしはいつもこん時に食っとる」
「お腹空かないでしょ」
「朝飯と昼飯をまとめて食うから平気じゃ」
「……きちんと朝食食べなさい。てか早寝早起きしなさいよ」
「へっ、わしみたいな天才トレーナーが早う起きる義理はないきに。学生は朝から勉学に励んどって大変じゃなあ」
「なら朝練に無理やり参加させてあげるわ……!」
うん、決めた。絶対に朝練に付き合わせてやるんだから。どんなに二日酔いでグロッキーな状態でもたたき起こして朝ごはんも一緒に食べて朝練に付き合わせてやるわ!
「おまん朝飯はどういた」
「ここで食べたゼリーだけ」
「そこでおとなしく寝ちょれよ」
「ちょっと、どこ行くのよ」
「あぁ?冷蔵庫物色して食えるもん探すだけじゃ」
「勝手に冷蔵庫を漁っちゃダメじゃない……」
「非常時じゃき、許されるやろ」
そう言ってトレーナーは冷蔵庫まで進むとガサゴソと冷蔵庫を物色し始めた。傍から見れば強盗にしか見えない。これで警察呼ばれて騒ぎになったらトレーナーのせいなんだからね。
トレーナーは何かお眼鏡にかなうものを見つけたのかこちらに持ってきた。
「ほれ、これなら食えるやろ」
「……リンゴ、剥けるの?」
「わしを舐めとるんか?こんなん楽勝じゃ楽勝」
トレーナーは意気揚々とリンゴに果物ナイフを当てる。粗雑で短気なトレーナーが間違えて指を切ってしまうのではないかと心配したけど、意外にも手先は器用でリンゴの皮をスルスルと剥いていく。下手したらアタシやママよりも上手に切れていた。
トレーナーは皮を剥いで食べやすいサイズに切ったリンゴを皿に載せ、最後につまようじを一本刺した。
「こんなことできるんだ」
「ふん、言うたやろが。こんサイズならおまんでも食いやすいやろ」
「っ!?」
ずいっと皿を出されたから受け取ろうとする。だけど体が思ったより上手く動かず、危うく落としかけた。
「あ、危なかった……」
「……ちっ、しゃあないのう」
トレーナーは仕方がなさそうにつまようじに刺したリンゴを私に向ける。俗にいうあーんだ。子供扱いされているみたいでちょっとだけイラっとした。だけど後から厚意でしてくれるのだとわかって嬉しかった。
「ちょ、ちょっと。アタシは子供じゃないわよ」
「おまんはバカか。そもそも学生やろうが。ん、とっとと食え」
「……仕方ないわね」
アタシは差し出されたリンゴに被りついた。シャキシャキしていて甘みがあって食べやすかった。口をモゴモゴ動かしていると間髪入れずにリンゴを差し出してくる。それも食べると再度リンゴを差し出してくる。
「わんこそばみたいに出さないでよ」
「あぁ、なんじゃ不満か」
「不満じゃないけど、なんかこう嫌なの」
「ほう、そうなんか」
「アンタってもしかして風邪になったことってないの?」
「あるわ。ただ独りで寝とったら治っとったわ」
「……」
アタシは思わずトレーナーの理由に黙ってしまった。孤児院でトレーナーはどんな生活を送っていたかは知らない。さっきのアタシみたいに心が弱っている時に独りはつらかったはず、だけどトレーナーは独りで耐えていた。それは肝心な時に支えてくれている人がいないことを意味していた。
「どういた。リンゴ、マズかったか」
「ううん、美味しいわ。……ねぇ、トレーナー」
「何じゃ」
「今度さ、アンタが風邪ひいたらアタシが看病してあげる」
「あぁ?んなもんいらんわ、それこそわしはガキじゃないきに」
「けど弱ってる時に独りはツラいでしょ」
「そりゃあそうじゃが」
「だからアタシが看病してあげる。お礼を兼ねてね」
だったらアタシがトレーナーを支えてあげればいい。すごく単純な答えね。トレーナーは問題ばかり起こすから看病ぐらいどうってことないんだから。
トレーナーは頭をガシガシ掻いて特に考えなしに言った。
「まあ、そういうことにしちょいちゃる」
「約束よ」
「もっともわしは風邪をひかんがな」
「バカは風邪をひかないのよ」
「誰がバカじゃ」
「少なくても博打狂いでだらしない人のことよ。お腹もいっぱいになったし、アタシは寝るわね」
「おう、寝とけ寝とけ。……いや、ちっくと待て」
「何よ?」
「汗、拭いちゃる」
「顔拭いてもらったじゃない」
「汗で体ベタついとると余計悪うなる。上半身拭いちゃる」
「うぇっ!?」
まさかの提案に驚いてしまった。いやだって異性の上半身を拭くってことは素肌を大きくさらすことになるのよ!驚かないはずないわよ!
「とっとと着とる服脱げ」
「デ、デリカシーがないわよ!変態!」
「誰が変態じゃ!おまんのことを気にかけてただけじゃ!」
「それでもよ!エッチ!」
「あー、勝手にせい!濡れタオルと洗面器は用意しちゃる。見んから拭いとけ」
トレーナーはムスッとした様子で濡れタオルと水の入った洗面器とシャツを用意して机の上に置いた。そしてベッドを囲むように掛けられていたカーテンをピシャリと閉めた。
ったく、確かに抱き合ったり
やれやれと上半身の服を脱いで汗を拭く。トレーナーが言うように汗でびちゃびちゃでこのままだったら悪化していたかもしれないわね。流石、観察眼は優れているだけはあるわ。
「……どうしよう」
順調に体を拭いているとあることに気づいてしまった。
「届かないわ……」
そう、背中に手を回せないせいで背中側を拭けない。どんなに頑張って伸ばそうにもできない。別にこのまま寝てもいいんだけど不快感は残ってしまうのを考えると拭いた方が良い。
「うぅ、こうなったらしょうがないわね」
暫くの間、頑張ってチャレンジしたけど拭けなかった。だからアタシは苦肉の策を用いることにした。
「トレーナー、そこに居る?」
「わしはペン回しで忙しいんじゃ」
「その、お願いがあるの」
「願い?」
「うん、アンタにしか頼めないの」
「……ちっ、何じゃ」
照明でカーテンにトレーナーの影が映っている。この薄布が無くなってしまえばアタシは初めて異性に裸をさらすことになるから、胸がドキドキした。
アタシはなんとか勇気を振り絞って用件を言う。
「背中、拭いてちょうだい」
「……言わんこっちゃない。開けるぞ」
「ちょ、ちょっと待って!アタシが合図するまで開けないで!」
「早うしろよ」
うぅ、ホントにデリカシーの欠片がない人ね。こっちは乙女なのよ。
文句をぶつぶつ言いながら服を脱いで背中をカーテンに向ける。
「……いいわよ」
「おう、入るぞ」
「……変なことしようとしたら怒るから」
「あぁ?教え子に手を出したら先生に怒られるわ。拭くぞ」
「えっ、うん……ひゃっ!?」
ピタリと背中に冷たい感覚を感じ、つい変な声を漏らしてしまった。火照った体に濡れたタオルが気持ちいい。しかも体が綺麗になっていく感じがあってとても良い。
「はっ、所詮は生娘じゃな」
「生娘って、そりゃあ不純な行為なんてしたことないんだから当然でしょ」
「それもほうか」
「だいたいアンタだってその、童貞なんでしょ」
「わしがか?なわけあるか、とうの昔に卒業しとるわ」
「……ふーん、そう」
……そうよね。トレーナーは大人なんだから恋人とかの親しい人としちゃってるわよね。ホント、何聞いてんだろアタシ。聞いても自分が傷つくだけなのに。
「どういて落ち込んでる?」
「別に、気にしないで」
「……ほにほに読めたわ。一応言うとくが風俗じゃ。わしは恋人やらと交えたことがないきに、素人童貞ちゅうわけじゃ」
「……何言ってんのよ変態」
変なところで察しがいいのはイラつくわね。でも、なんか安心しちゃった。じゃあ私とトレーナーは初めて同士ってことになるのかしら。ふふっ、初めては夜景が綺麗なホテルの一室で……。
「ほれ、終わったぜよ」
「……へっ!?そ、そうなんだ。ありがとうね、トレーナー」
「何の考えごとじゃ?」
「べ、別に考えてなんかないわよ!うん、そうよ!」
「……なんぞ違和感があったがまあえい。ほれ、さっさと服でも着とけ。今、出てやるから――――」
「ん?どうしたのよ黙っちゃって―――」
時計が止まったかのように後ろでトレーナーの声が途切れる。突拍子もなく止まったからどうしたのかと思って後ろを振り返った。
「わ、わわわ……!?」
ベッドを覗き込むようにウオッカが居た。顔を真っ赤に染めて耳と尻尾をぶんぶん振り回していて、一目で気が動転しているのがわかる。多分だけどお見舞いに来てくれたんだろう。
そして一瞬の間を置いた後に、自分とトレーナーがウオッカから見てどういう状況に見ええていたかを悟ってしまった。急いで弁解をする。
「ち、違うのよウオッカ!?これには訳があるの!」
「ト、トレーナーとスカーレットが裸で……!」
「いや待てや。わしは脱いどらん」
「ならスカーレットが自分から脱いで……ッ!」
「そうじゃ、それで合っとる」
「ちょっとトレーナー!話をややこしくしないでよ!」
「うわー!スカーレットのスケベ娘-ッ!」
「ウオッカ!?ちょっとどこに行くのよー!」
「驚異の末脚じゃのう」
「何もしてないから秘密にしてよねー!」
思わぬハプニングに見舞われながらも、夕方には元気になって普段よりも少なめの夕飯を食べることができた。トレーナーは体調を案じて三日も休日をくれた。休日の期間を使ってウオッカと一緒にお出掛けしたけど、やけによそよそしくて気まずかった。
会長の子供をあやすときのウサギポーズ好き。私もぴょんぴょんしたいッ!