傲慢な天才トレーナーと一番星のアタシ   作:渡邊ユンカース

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お久しぶりです。
この三か月程度、滅茶苦茶にスランプになったり多忙になったりと大変でした。
そしてこのシリーズ最終回です。楽しんでください。


一番のアタシは願う

 URAが終わった。

 かつて激動を演じたウオッカやシニアで数々の功績を挙げた先輩たちと熾烈を極めたレースを超えて、アタシは夢の一番を獲ることができた。

 いつもよりもキラキラと輝いて多くの歓声に包まれたレース場、アタシはゴールをした後にすぐあの人を捜す。そしたら、やたらとギャーギャーと騒いでガッツポーズを組んでいるアタシのトレーナーがすぐに見つかった。

 アタシはトレーナーに駆け寄ってフフンと自慢してやった。トレーナーはよくやったと言わんばかりに頬を上げてゲラ笑いをしながら言ってくれた。

 

―――――流石わしのウマ娘じゃ!

 

 

 それから少しだけ時が流れた。

 URAを終えた先のトゥインクルシリーズの話題がちらほら出始めた頃、アタシとトレーナーはいつもトレーニングで使っている神社に行くことにした。ちょうど時期的にお祭りがやっていたから賑わっていた。

 

「うぅ、どうしていつも遅れてくるのよ……!」

 

 ママが特別にくれた着物を羽織って待ち合わせ場所で待つ。ざわざわと喧騒の中、多くのカップルやクラスメイトが通り過ぎているのを傍目にスマホを見る。三分前に送ったメールは一応既読になっているけど、すでに待ち合わせ時間から十分も遅れている。

 もー!トレーナーったらこういう時ぐらい遅刻しないでほしいわ!

 

「おん、すまんすまん。遅れてしもうたわ」

「アンタ!遅いのよ!」

「ちっくとばかし仕事を任されてのう。そう怒んなや」

「……まっ、今日は許してあげる」

 

 のうのうと寒そうに安物じゃないダウンとズボンを身に着けたトレーナーがやってきた。今トレーナーが着ている服はアタシが選んだもので、もし昨年着けていた服を着ていたら本気で怒っていたわ。よし、きちんとアタシが選んであげたマフラーも巻いているわね。

 

「……怒りよると思うたら機嫌が良くなりよって、気色悪いぜよ」

「何?なんか言ったかしら……?」

「おう睨むなや、ありのまま言うて何が悪いんじゃ」

「察しなさいよまったく。で、どうかしらこの着物」

「おん?まあえいんじゃないかのう」

「何よその淡白な返事は」

「今日は正月でも無いきに、気ぃ入れすぎじゃ」

「蹴るわよ、その生意気な顔面に」

「おうやってみろや。ほじゃけんど、その着物じゃ足が上がんなじゃろうがなァ!」

「……絶対後で覚えておきなさいよ」

「知らん知らん。ほれ、さっさと行くぜよ」

「きゃっ!?」

 

 誤魔化すようにアタシの手を繋いで前へ引っ張る。いつもより強引な手引きにちょこっとだけドキッとした。斜め後ろから見えるトレーナーの顔がいつもよりカッコよく見える。

 人混みを押しのけてアタシたちは神社のあの長い階段を上る。着物に下駄を履いていたから上るのに一苦労だったけど、トレーナーが素知らぬふりして補助してくれた。階段が急になると絶対に離さないというぐらい握ってくれて嬉しかった。

 最後の階段を上り終えてまず身を清めるために手水舎に向かった。

 

「つ、冷たいわね」

「真冬に外で手を洗うんじゃし当然じゃ」

「えーと、確か酌から口に水を入れるのよね」

「何しよるんじゃバカかおまんは」

「な、何よ!」

「酌に口を付けんなや。えいか、左手で水を受けて口をゆすぐぜよ」

「そ、そうよね。だってそんなことしたら……あっ」

 

 間接キス、そんな単語が頭に浮かんでカーっと頭が熱くなってきた。

 

「おん、どうした。タコのように真っ赤じゃぞ」

「べ、べ別にどうもしないわ!うん、大丈夫じゃよ!」

「なんじゃそのエセ土佐弁は。なめとるんか」

「そ。そそそういうことじゃないわ!さあ口をゆすがなきゃね!」

 

 いち早く終わらせてトレーナーに酌を渡す。キョトンとしながらも手早く作法通りに終わらせてお賽銭へと向かう。お賽銭となると少しだけ集団ができていた。

 

「混んどるわ」

「まあ仕方ないわね。待ちましょうか」

「……よし」

「ちょっと待って、何を投げかしらとしているのかしら」

「あぁ?んなもん、銭じゃ銭」

「やめなさい!神様に失礼よ!」

「じゃけど神っちゅうもんはな銭を与えたら喜ぶもんじゃぞ」

「ふざけたこと言わないで!没収します!」

「あぁ!?わしの財布!」

 

 ったくそういうことしているから金運が著しく低いのよ。あーあー、こんなボロボロなお財布使っちゃって、てかやたら軽いわね。中身はどのくらいあるのかしら。

 

「……どうして千円と五十円しかないのかしらね!」

「そ、それはのう……」

「何よ、言ってみなさいよ」

「パチンコで負けたんじゃ」

「いくら負けたのかしら……!」

「さ、三千円じゃ」

「嘘つかないで。もっと使ってるわよね」

「……四万じゃ」

「よ、四万円ってアンタ……!?」

「勝てば取り返せると思うたんじゃ。ほんで最後の希望の競艇で負けて九百円消えよった」

 

 もういやこのトレーナー、貰った分のお金すぐ使うじゃない。このとりあえず千円あればどうにかなるだろうっていう精神持ってるのがなおさらタチが悪いわ。

 もー、小学生じゃないんだから!

 

「もう貯金とお財布はアタシが管理します。ほら、帰ったらさっさと出しなさいよ」

「は、はあっ!?と、トータルで見りゃ勝っとるわ!」

「そういうこと言う人はだいたい負けるのよ!このおたんこにんじん!」

「ぐぬぬぬぬ」

「ったく、勘弁してほしいわね。あっ、そろそろ順番よ」

「けっ」

 

 悪態をつきながら前に進み出る。一緒にチャリンと五円を入れて鈴を鳴らす。こういう時にしか鈴を鳴らせないからすごく新鮮ね。そして作法通りにお参りをこなす。

 アタシが願いはトゥインクルシリーズで一番になること。トゥインクルシリーズでは今まで以上に苛烈を極める展開が予想できる。それを乗り越えるためにまずは願掛けをしないと。

 

「ねぇ、アンタはどんな願いをしたの?」

「んあ?知りたいんか」

 

 一通り終わったアタシたちは速やかに列を抜けて、大きな神木の近くにあるベンチに座った。当然、話題になるのは願いのことだ。

 

「アタシはもちろんトゥインクルシリーズで一番になることよ!」

「はー、相変わらずじゃのう。飽きんか」

「飽きるわけないじゃない。一番はアタシの存在意義なんだから」

「ほーん」

「で、アンタの願いは?」

 

 グッと肩を掴んでトレーナーに牽制をかける。自分が不利になると逃げだそうとするからこうでもしないとね。トレーナーはため息をついた後に渋々自分の願いを言う。

 

「おまんが活躍できよるよう願っただけぜよ」

「ふふん、これでギャンブルのことだったら怒ってたんだからね」

「? 当然それも願ったんじゃが」

「ホント強欲ね!」

「抜かせ。どうせタダなんじゃから、神様なんぞ願ったもん勝ちじゃ」

「いつか罰当たるわよ……」

「ははは!ほんなら、やりゃあえいきのう!」

 

 高笑いをするトレーナーをよそにスマホを開く。SNSには見知った友達の投稿がされていて、その中にくじ引きで相性チェックをした結果があった。

 

「そうだわ!せっかくだからおみくじしましょうよ!」

「あぁ?元旦にしたからわしはせん」

「何よ。別に一年に一回しかしちゃいけないだなんて決められてないわよ」

「てか第一、金が素寒貧じゃ」

「百円あればできるでしょ。ほら」

「わしの財布から百円を取るな。ちっ、最後の小銭が消えてしもうた」

「自業自得よ。さっ、やりましょうか」

 

 舌打ちを打って不機嫌そうなトレーナーを無理やりおみくじの所まで連れていく。そして二人の分のお金を投入して一枚ずつ取り出した。

 もちろんアタシが狙うわ大吉!元旦の時は小吉だったけど今度は大吉なんだから!

 

「うぅ、中吉……」

「えいやろが。わしなんぞ三年連続で大凶だったぞ」

「それはある意味幸運じゃないかしら」

「けっ、末吉じゃ。元旦よりも悪うなっとる」

「ちなみに元旦は何よ?」

「大吉じゃ」

「あー、だからギャンブルでお金を……」

「ふん、これだから神様っちゅうもんは」

「自分の情けなさを神様のせいにしないの」

 

 ぴらりと折りたたまれた紙を伸ばして内容を確認する。学業は努力をすればなんとかなるか、まあ問題は無いわね。それで待ち人はずっと近くにいないと成就しないんだ。……これも手放す気はないから問題はないわね。

 

「おい、何勝ち誇ったような顔しとるんじゃ」

「えっ?別に何でもないわよ。それよりアンタのやつ見せなさいよ」

「結ぶの面倒じゃからやるわ」

「もうだらしないんだから」

 

 どれどれ、待ち人は来ず……はあ!?待ち人が来ないってどういうことよ!トレーナーにとっての待ち人ってアタシじゃないの!?信じらんない!

 

「……どういてわしを睨む。意味が分からん」

「ねぇ、アンタって好きな人いないの?」

「知らん。そういう感情は一切抱いたこたぁないきに」

「アンタにとってアタシは何よ」

「信頼できよる担当ウマ娘じゃが」

「あんなことをしてそんな評価なの!?安く見られたものねアタシも!」

「お、おいキレんなや!」

 

 ……はっ!そ、そうよね。所詮は占いなんだから絶対そうなるとは限らないわよね。アタシとしたことが思わず取り乱しちゃったわ。

 

「ったく、しゃんとしろやアホ」

「うるさいわね。はい、二つ結んであげたわよ」

「おん、ほんなら帰るか」

「せっかくなんだし、出店まわりましょうよ」

「あぁ?わしの財布知っとるやろ」

「今日は特別にアタシが奢ってあげる。まあ高い物やお酒はダメだけどね」

「ふん、存分に喰らってやるかのう。イカ飯にタコ焼きに甘酒に……」

「けどこの借りはいつか返してよね」

「おう。いつか返してやるわ」

「約束なんだから。はい、指出して」

 

 アタシは指切りのために小指を差し出す。指切りだなんて子供っぽいかもしれないけど、案外トレーナーには利く。目に見えない繋がりよりも見える繋がりは相手に意識させるから。

 トレーナーはずいッと考えなしに小指を結ぶ。絶対に約束を果たしてもらうんだから、当然利子付きでね。

 

「指切りげんまん嘘ついたら針千本飲ーます」

 

 

 

――――指切った!

 

 

 

 

 

 とある夕暮れ時の河川敷に二人がキャッチボールをしていた。ひとりは小学生ぐらいの少年、もうひとりは五十は過ぎている男だ。男は髪をひとつに束ねて無精ひげを生やしているが顔つきは精悍で若々しさを保っていた。

 パシンパシンと互いにボールを投げては獲っていると少年から男に話しかけた。

 

「ねぇ父さん。どうして毎日忙しいのにキャッチボールに付き合ってくれるの?」

「あぁ?んなもん長年の夢だったからに決まっとる」

「夢?」

「おまんは待望の息子じゃ。昔から息子とキャッチボールをするちゅうのは定石やろ」

「うーん、そうなのかなぁ」

「そうじゃ。わしも父親代わりの先生とたまにやったわ」

「そっか。父さんにとって特別なんだね」

「おうよ」

「そういやさ、俺決めたんだ」

「将来の夢か」

「うん。将来は父さんと同じトレーナーになろうと思うんだ」

「ッ!トレーナーか!」

「姉ちゃん全員がウマ娘だからもあるんだけどさ、やっぱり一番の影響は父さんの姿かな」

「……わしの姿か」

「だって父さんカッコいいんだもん」

「わしが、カッコえいのか」

「うん。教え子のためなら何でもやる姿はとってもカッコいいよ」

「ふん、そう褒められたんわアイツ以来いなかったわ」

「母さんのこと?」

「おん。まあおまんの夢なら叶えてみいや。ただトレーナーになったらわしの敵ちゅうことになるが」

「そうなったらお互い死力を尽くそうね、父さん」

「あぁ。じゃがな、ひとつウマ娘を指導する上で重要なことがあるぜよ」

「何それ?」

「えいか。アイツらはえろう勢いで外堀を埋めてくるきに」

「……なんか父さんの時もそうらしいね」

「おん。それに人間と違うてアイツらは色々欲が倍じゃから気ぃつけろよ」

「強欲なんだね」

「あぁ。特に―――」

 

 男が告げようとした瞬間、二人を呼ぶ声が聞こえた。振り向いてみるとそこには緋色の長髪を持ったウマ娘がいた。

 

「アンタら、そろそろご飯にするわよ」

「母さん。で、ウマ娘の何がすごいのさ」

「……ここで言うたら殺されるきに。まっ、付き合ってみりゃあわかるぜよ」

「何話してんのよ。今日はにんじんハンバーグよ。早く帰りましょ」

「わかった! じゃあ先に帰ってるね!」

 

 少年は目をきらめかして自宅まで走っていく。ウマ娘ではないとはいえかなりの俊足で二人を引き離す。

 

「ご飯の前に宿題終わらせなさいね! ったく、食い意地だけは一人前なんだから」

「誰に似たんじゃろうなぁ」

「誰でしょうね」

「……おまんじゃろ」

「いやいやアンタでしょ」

「……アイツが将来トレーナーになりたいんじゃと」

「あら、よかったじゃない。二世トレーナーの誕生ね」

「抜かせ。わしが二世ぜよ」

「そうだったわね。楽しみね、あの子が大成するの」

「いつか姉たちの子供を指導することになりゃあ面白うことになるのう」

「十人の姉がいるからね。チーム組めるわよ」

「はははっ!血縁者だらけのチームなんぞ全体未聞じゃな!」

「チームをもっと一番にしたいからメンバー、増やしちゃう?今はあの子しかいないし」

「ふざけんなや。もうわしにそんな精根残っとらんわ」

「ふふっ、冗談よ冗談。もう十分よ」

「十一人もいりゃあ十二分すぎるやろが……」

 

 白髪混ざりの頭を掻きながらため息を吐く男、しかし不思議なことに嬉しそうであった。

 

「じゃあアタシたちも帰りましょうか」

「そうじゃな。腹ば減ったわ」

「じゃあここから競走しましょうか。約千メートルのコースよ」

「あぁ!?力が落ちとるとはいえオヤジのわしが勝てると思うか!」

「やってみなきゃわからないでしょ。ほら位置についてよーい」

「あぁクッソ!どうにでもなれ!」

 

 

――――ドンッ!

 

 妻の号令でレースが始まった。二人は華麗にスタートを切り、家路を走る。

 夕日が走る二人を照らし、影が伸びる。そしてその影が交差してひとつになった。合体した影はもう離れないと言わんばかりに再度離れることはなかった。

 




 くぅ~、疲れましたこれにて終了です!
 半年間の応援ありがとうございました!
 最後にこのトレーナーがダイワスカーレットに逢っていなかったらについて記します。

 気性難で粗野なトレーナーは一応は担当を持つことができますが意見の不一致でケンカ別れを繰り返して、やがて校外で事件を起こしてトレセン学園を去ります。
ノウハウを記した本を出版しようにも天才気質だったが故に書けず、ギャンブルで遊ぶ日々を過ごします。
 そして金欠になったトレーナーは友人から金を借りていき、交友関係が崩壊してしまいます。あまりの惨状に心を痛めたたづなさんがトレーナーを引き取り、トレーナーはヒモになっていきます。ここでトレーナーの恩師がたづなさんが現役時代のトレーナーと知り、親交を深めていきやがて結婚します。
 しかし一向にヒモをのままで金を無作為に浪費するトレーナーを諭すことができず、たづなさんは体を壊してしまい、これを問題視した理事長によって離婚してしまう運命でした。

 一方でダイワスカーレットと逢えたトレーナーは学園を卒業した後に結婚して、郊外に大きな豪邸を作りそこで十一人の子供と暮らしています。また、後任の育成やゲーム内でモブ娘と称される何人ものウマ娘に重賞を勝たすという快挙も成し遂げています。
 これほどまでにダイワスカーレットという存在がトレーナーの人生を変える分岐点になります。

 以上で本作品を終わりにしたいと思います。ありがとうございました。
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