私はゼロです。(まあゲームではたくさん貰いましたが)
強気になってないもん。
今日のトレセン学園は以上に浮ついている。
皆が頬を赤らめてソワソワしていたり、恋愛の話を発展させたりしている。
そう、今日は世間一般に言われているバレンタインデーなのだ。専属トレーナーが付いているウマ娘はトレーナーに渡す用のチョコを用意している。一応、友チョコを用意している子もいるけどトレーナーに渡す子はドキドキした様子でプレゼントを持っていた。女の子がバレンタインデーにお熱なのは当然よね。
「にしし、このドッキリチョコで驚く顔が気になるなー!」
「トレーナーが喜ぶ様子が目に浮かぶわね」
「楽しみだ」
……まあチョコを用意しているのはアタシもなんだけど。渡す相手はうちのトレーナー、ああいうタイプの男性はチョコなんて貰えないから仕方がなくだけどあげることにしている。
それと実は今日はバレンタインデーだけじゃなくてアイツの誕生日なのよね。本当ならプレゼントでも贈ってあげたいのだけど何が欲しいのかいまいちわからないのよね。未成年者の私がお酒をプレゼントしたら一大事だし。
要するにこのチョコは義理チョコと誕生日プレゼントを兼ねているかわざわざ何度もリテイクをして作ってあげた。絶対にマズいだなんて言わせないんだから。
放課後にアタシはアイツが大抵居座っている場所に足を運んだ。すると運よく一発目で見つけることができた。トレーナー室に置かれた椅子を使って即席のソファーを作り、そこで寝ていた。
アタシは就寝している姿を見て引き返そうとしたら、気配で気づいたのかむくりと起き上がった。
「おう何じゃダスカ。今日は休息日じゃろ」
「アンタ、今日は何の日かわかっているの?」
「あぁ……?そうじゃのう、今日はふんどしの日じゃったか」
「もー!どうしてそういう答えが出てくるのよ!今日はバレンタインデーとアンタの誕生日でしょ!」
「お、おうわしの誕生日なんぞよう知っちょったのう」
トレーナーはその存在を忘れていた様子で眠たげに頭を掻いていた。テレビとかに宣伝がいっぱい載っているはずなのにどうして存在を忘れているのかわからないわね。てか、どうしてふんどしの日は知っているのよ。
「ほん、ちゅうことはおまんがわしに何かをくれるんか」
「まあそういうことになるわね。はいこれ」
アタシは赤い包装紙に包まれたプレゼントを渡した。トレーナーは物珍しそうにプレゼントを見ている。もしかしたら本当にチョコを貰った経験がないのかもしれない。
「バレンタインと誕生日おめでとう。私からのプレゼントよ」
「あ、ありがとうぜよ」
「何よ。そんなにチョコが物珍しいってわけ?」
「あぁ、わしはこういう日に貰った経験が
つまりアタシがアイツの初めてを貰ったってわけね。ふふん、気分がいいわね。丹精込めて作った甲斐があったわね。
「ぬははは!おいダスカ、ちっくと今夜付き合えや」
「ど、どうしたのよ急に」
「そんいやおまんに飯を奢っちゃるって言うたしのう。今夜はわしの家で豪華な飯を食らうぜよ!」
「えっ!?けど外出許可証の申請してないし……」
「前にも言うたやろ。わしが言えば一発で通るんじゃ」
「わ、わかったわよ。けど準備だけはさせてほしいわ」
も、もしかしたら
「別にしなくてもえいじゃろう。どうせわしの部屋じゃし」
「それでもしないといけないの!アタシだってまだなんだから!」
「何がまだなんじゃ。この前家に来たじゃろう」
「それでもなの!」
「まあえい。ほんなら六時半にわしの家まで来いや」
「わかったわ!」
アタシはその後、急いで部屋を立ち去った。すぐさまお風呂に入って体を清潔にして、身なりを整える。まだ学生だから大人びた服装は持っていないけど、映画館に行った時の服装で行くことにした。そして髪のセットをしているうちに約束の時刻は近づいていた。
さあ行こうというところで突然ベッドでバイクのカタログを眺めていたウオッカが話しかけてきた。
「おいおい、何処に行くつもりなんだよ」
「うちのトレーナーのところよ、ウオッカ」
「この前も行かなかったか?」
「えぇ、行ったわよ。別にいいじゃない」
「いや行くのは勝手だけどよ、何してんだ?ゲームでもしてんのか?」
「バカねウオッカ、アタシがそんなことするわけないじゃない」
「じゃあ何してんだよ」
「そうね料理と掃除かしら」
「そ、それってまだ早すぎないか!?」
「別に早くないわよ。アンタもそろそろ行動しないとアンタが別の子にトレーナー盗られちゃうわよ」
「オレとトレーナーはそんなことしないしッ!」
「アンタも自分のトレーナーに渡す用のチョコ、こっそり作ってたじゃない」
「ウワー!?どうしてバレたんだー!?」
「ま、まあアタシはだらしないから世話をしているだけなんだからね。勘違いしないでよね」
「けどオレに失敗作くれたじゃん!」
「うっさいわね!じゃあ行ってくるから!」
アタシは鼻血を出さぬよう鼻を抑えるウオッカを置いて部屋を出た。
ちょうどトレーナーの家についた頃には約束の時刻を迎えていた。チャイムを鳴らして暫く待機すると、ガチャリと扉が開いた。
「おう、来よったか」
「時間を遅れずに来るのは優等生として当然よ。入ってもいい?」
「はよう入れ。わしは腹減ってるんじゃ」
促されるままに中へと入る。この前掃除に来たから溜まってきている多少綺麗になっているけど、やっぱり汚れるものは汚れるし微妙にゴミも溜まってきている。小言を言われないようにか部屋の隅に衣服と書類を隠している。
あんなに掃除をしときなさいよって言ったのにしてくれないだなんて、アタシがまたやらないとダメね。ホント、アタシが居ないと一気にだらしがなくなるんだから。
ちゃぶ台の上には色々な店からデリバリーをしてきたと思われる料理でいっぱいだった。ピザ、フライドチキン、寿司が並べられている。しかも寿司に至ってはやや高めの値段のものらしく、ネタが豪華だった。
「ほれ、飯じゃ」
「アンタ、結構な出費だったでしょ。どれも美味しそうだけど」
「前に言うたじゃろ。いつか美味い寿司を食わせちゃるって」
「冗談だと思っていたわ。やるじゃない」
「ふん、わしはやる時はやる男じゃ」
トレーナーは鼻を鳴らしてどや顔を披露している。アタシのためにここまで用意してくれたと考えると悪い気はしない、むしろとても嬉しい。しかもウマ娘の食べる量は人間と違って多いから、それを考慮してくれている。気遣いが下手なのか上手いのかわからない人ね。
「さっ、食べちゃいましょ。一応、九時が門限だからね」
「ほんなら食うとするかのう。おいにんじんジュースでえいがか?」
「構わないわ」
アタシらが席に着くと、アイツはコップににんじんジュースを注いで手渡してくれた。その手元には缶ビールが置かれている。
「乾杯するぜよ」
「そうね。かんぱーい」
「乾杯」
こつんと互いに持った容器がぶつかり、同タイミングで口をつける。一度に結構な量を飲んだアイツは幸せそうな唸り声をあげた。
「美味い!やっぱりキンキンに冷えちょるビールぜよ!」
「豪快な飲みっぷりね。流石は土佐出身者ね」
「土佐の人間は酒ば好いとるからのう。今日はビール以外に土佐の酒もあるぜよ」
「飲み過ぎて体壊さないでよね」
「ははは!わしはそう簡単にゃあくたばらん」
そう言ってグビグビとビールを飲み、あっという間に一缶空いてしまった。予備の缶ビールを足元から取り出してプルタブを開ける。
「にしてもこのお寿司美味しいわね」
「特注じゃ特注。おまんがために用意したんじゃ」
「和洋が揃ってるって豪勢な食事ね。寿司だけでもよかったんじゃない?」
「宴はバーとやらんと面白うないきに。祭りも博打も一緒じゃ一緒」
「博打はどうかと思うけどね。ほら小皿にのせてあげるからどれが欲しいか教えなさい」
「おっ、こりゃあえい。ならカツオとチキンじゃのう」
「わかったわ」
前回の食事同様アタシたちは特にどうでもいい雑談を交わしていった。レースの話題はもちろん、最近流行りものについてや友達のこと。アイツは時々茶々を入れたり噛みついてきたりするのを適当に返していく。
ホントに記憶にも残らなそうな会話だったけど楽しくて、時間はすぐに経過していく。
「おい、ダスカ。わしの杯に酒を注げい」
「はいはい。それアルハラになるんだからアタシ以外にしないでよね」
「ははは、知らんぜよ!」
「もう」
一言で言うなら完全にトレーナーは出来上がっていた。顔と耳を真っ赤に染めて、とろんと眼の焦点が合っていない。時折しゃっくりを鳴らしアルコールのにおいを散らす。
……まさか教え子の前なら泥酔しないと考えていたけどそんなことなかったわね。傍から見ればアルハラを受ける可哀想な子よ。まあいいんだけどね。
お酒を注いであげるとアイツは一口飲んだ。そして勝手に自身の武勇伝を語り始めてくれた。
「わしがあっちに居た頃な、道中でおやじ狩りに会ってるおっさんがおってのう。わしゃあ気分がえいかったから助けてやったんじゃ」
「偉いじゃない」
「へっ、アイツら雑魚だったからのう。そいたらそんおっさんが『君は人を殴るのを楽しんじゃいけない。今後は改めたほうがいい』とか抜かしよるきに」
「そりゃあそうよね。暴力はいけないことだわ」
「けんどわしは言ってやったがじゃ『ほじゃけんど、今わしが殴らなんだらおまんは痛い目を見ていたぜよ』ちゅうたらこれには目を丸うしてな。そん時の顔は傑作じゃったぜよ」
アイツはニコニコと自分が言い負かしたことを自慢する。人を守るために暴力を振るったんだから、相手もなるほどと思っちゃったのかしら。反論できる箇所はいくつかあるけどその場にトレーナーが居なかったら病院送りだし。
まっ、アタシがトレーナーに守られることはないわね。だってウマ娘は人間よりも力が強いんだから。……でも男の人に身をていして守られたいわね。お姫様を守るのはいつだって王子様だし。
「な、何考えているのかしらアタシ」
「あぁん?なんじゃ、おまんも酒を飲んだか?顔が赤いのう」
「ち、違うわ!気にしなくていいから!」
「ほんならえい。教え子に飲酒させたらクビがなくなるきに」
「アタシも優等生のメンツが保てなくなるから注意が必要ね!うん!」
あんなだらしがなくて粗雑なアイツが王子様?全然違う、全世界の女子はそういう王子様を望んではいないんだから!あ、アタシ的にはありだとは思うけどさ……。もー!何考えているんだろアタシ。
「……おいおまん、杯が止まちょうぞ」
「も、もちろん用意してくれたんだから飲むわ!」
「飲め飲め!今日は天下のバレンタインぜよ!」
トレーナーはアタシがあげたチョコレートをつまみに日本酒を飲む。本人曰く、辛いものと甘いものを合わせるのは美味しいらしい。パクパクと丹精込めて作ったチョコレートがアイツの喜びになる、気分が悪くなるわけないじゃない。とても誇らしいわ。いつでも見てられる。
「……なんじゃあ?それともわしの杯が飲めんゆうがか?」
「そんなことないんだから!一気に飲み干しちゃうんだから!」
「うっはははは!ほんにいい気分じゃ!バレンタイン様様ぜよ!」
執拗な絡み酒をされるも楽しかった。アイツが突然芸を見せると言って故郷のよさこい踊りを踊ってくれた。祭り好きなアイツだから泥酔したままでもキレのある動きを披露し、ちょっと感心しちゃった。
そうこうしているうちに八時半を過ぎた。土佐人は酒に強いと豪語していたアイツも何本も缶ビールと瓶を開けてしまえばどうもこうもない。酔いつぶれたアイツは空きコップ片手に寝っ転がっていた。
「……飲め、どんどん飲め」
「もういっぱい飲んだんだからいいでしょ。こんなところで寝たら風邪ひくからベッドまで運んであげる」
ウマ娘の力なら大の大人ぐらい軽々と運ぶことができる。この前、ウオッカも溝にハマった軽トラを持ち上げたぐらいにウマ娘はパワーがある。アルコール臭を口から零すトレーナーをベッドに寝かしつけた。寝ている最中に嘔吐されると最悪窒息死するとテレビで知ったので、横向けに寝かす。ほどなくしてアイツはすやすや寝息を立てて寝始めた。
ホント、騒ぐだけ騒いだらすぐ寝ちゃうんだから。子供みたいね。
アタシはせっかくだから綺麗にしてしまおうと食器の片づけを始めた。片付けの最中、アイツがぽつりと寝言を呟いた。ウマ娘の耳は些細な音をも拾ってしまうほど敏感だった。
「……なんでじゃ、先生」
普段の横暴な態度とは打って変わった悲壮感。つい食器を洗う手を止めて、トレーナーの傍に寄り添った。顔を見ると二つの涙が零れ、鼻をぐすんぐすんと鳴らす。
こんな姿、見たことなかった。
「……なんでわしを置いて逝きよったがじゃ」
心が痛い。トレーナーはあんなに自分を強く見せようと威張っていたのに、その心の底では悲しみに満ちている。ある意味アタシと同じだけど度合いが違う。親元から突き放された子供のようにすすり泣くアイツを見ていると胸がギュッと締め付けられる。
手を伸ばしてくせっけのある頭を撫でようとしたけど、そんなことしても意味はないと察してしまった。寝ている人間に何をしても現実では何も変わらないのだ。ただ自分のエゴが満たされるだけ。
何もできない無力感に顔を顰める。何もできない自分が悔しいし苛立たしい。
「なんで……、なんでじゃ……」
悲痛に問うアイツに毛布を掛けてあげてアタシは部屋を出た。毛布を掛けることしかできない今の自分を恨んだ。悔し涙が目尻にたまり、流れる。
多少ここでFGOの岡田以蔵と本作のトレーナーとの差異が出ます。
よかったね、嘔吐するシーンを担当に見られなくて!