傲慢な天才トレーナーと一番星のアタシ   作:渡邊ユンカース

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嘘をついてもすぐばれるのがこのトレーナーです。
それと面倒くさいのがこのトレーナーです。まあ原作の岡田以蔵も面倒くさい性分だし……。
あとこのトレーナーは真剣になると「おまん」「ダスカ」とか言わないで「スカーレット」とか言いそう。


一番のアタシはハグをする

 アタシたちはグイっと引っ張って元の部屋へと戻ると、トレーナーをソファーに投げ飛ばした。背中をソファーの背もたれの部分にぶつけて悶絶するトレーナー、その隙に扉の隙間からあの男性らを見る。二人は特に気づいた様子もなく話をしていた。

 

「よかった。バレて――――ッ!?」

「ダスカァ!何しゆうがか!!」

「あうっ!?」

 

 安心したのもつかの間、トレーナーが首元を掴んで壁に打ち付ける。気道が抑えられていて苦しい、そして何よりも激情したトレーナーの顔が間近にあって怖かった。興奮して怒鳴り散らすので何を言っているかわからない。徐々に息ができなくなって意識が朦朧としてきた頃、パッとその手を放した。

 

「ゲホッ、ゲホゲホ!」

「わしは、わしはぁ……!」

 

 嗚咽しながらなんとか空気を吸って意識を取り戻していると、トレーナーは力が抜けたようにソファーにへたり込んだ。そして自分がしてしまった事の重大さに気づき、ボサボサの頭をがむしゃらに掻いてから俯いてしまった。もしもこの状態が続けばトレーナーを辞退することになってしまう、根源を解決しなければ事態は進展しないよね。

 先程と正反対の態度に狼狽するも、どうして激情したのか聞き出すことにした。 

 

「ね、ねぇ。どうしてあんなに怒ったのよ?アンタをバカにしていたわけじゃないのよ」

「……」

「ゆっくりでいいから教えて。誰にも言わないから」

「わしは…わしはとんでもないことを……おんしに」

「ほら大丈夫よ。制服にしわが寄っちゃっただけで元気だから」

「すまん、すまんのうスカーレット……」

 

 意気消沈したトレーナーは俯いたまま何も語らない。どのくらい待っても、ぶつぶつと謝罪するだけで何も進展はない。気分を落ち着かせようと飲み物を注いであげたり、優しく声をかけてあげた。それでもトレーナーは何も言わない。

 このままでは埒が明かないなのでこっちから打って出ることにした。あの二人の会話から出たワードに反応したからヒントはその中にあるはず。単語をひとつずつ出して訊いてみる。

 

「幻のウマ娘」

「……」

「トキノミノル」

「……」

「トキノミノルのトレーナー」

「……ッ」

 

 トキノミノルのトレーナーにぴくりと反応した。トキノミノルのトレーナーとうちのトレーナーにはどんな関係があったのか見当もつかない。だけどあの怒りようなら普通の関係でもないことは明白だった。

 

「教えて。トキノミノルのトレーナーとアンタはどういう関係なの?」

「……」

「黙っていてもわからないわ。アタシはアンタの力になりたいの」

「……」

「だから、教えて」

「……わしは先生の弟子じゃ」

 

 誕生日やそれ以降で言っていた先生っていうのがトキノミノルのトレーナーのことだろう。弱々しい口調でトレーナーは自分の経歴を話し始めた。

 

「わしは幼い時に事故で両親を亡くしてのう。そっから転々と世話をたらい回しにされちょった。みーんなわしをのけ者じゃの邪魔者にしてつまらんかった」

「それは、悲しいわね」

「けんどガキの頃、土佐のウマ娘のトレセン学園に忍び込んで先生に出逢った。先生はわしの才能を見抜き、トレーナーになるための手伝いをしてくれよった。先生がおらんかったらわしはトレーナーにもなれんでチンピラになっとった」

「いい先生じゃない」

「……でもわしがトレーナー育成校に入学した時にゃあ先生は死んでしもうた。自室で首を吊りおった」

「そ、そんな……」

「なんで死んでしもうたんじゃ。なんでわしを置いて逝きよったんじゃ」

 

 トレーナーは今にも泣きそうな顔で不満と疑問を零す。その理由を問うも誰も答えてはくれない、死人に口なしとはまさにこのことでいたたまれない気持ちになる。

 

「……そっからわしは先生の教えと己の才能でトレーナー試験を突破したぜよ。のうのうとトレーナー業を学ぶ奴らを嘲笑ってわしはトレーナーになった。友や先生以外の先生も要らんかった」

「でも友達として慕ってくれた桐生院トレーナーが居るじゃない」

「あの女子(おなご)は嫌われ者のわしに付き纏ってきよった。どういてなのかは知らんが、アイツを一度も友として見とらん。ボンボンの家の子じゃ、物珍しさじゃろう」

「卑屈に捉えすぎよ。きっとアンタの良いところに気づいたから――――」

「わしの良いところ、じゃと?んなもんあるわけないきに。おまんが一番知っちゃるじゃろ」

「何をよ」

「傲慢でわがままで不潔でだらしがのうブ男、それがわしじゃ。いっつも強がっておるのも劣等感を隠すためぜよ」

 

 トレーナーは自分で思っているほどバカじゃなかった。きちんと自分を客観的に見て分析できるほど賢かった。だからこそ重荷を背負い続けてしまったのだろう。

 

「もうわかったじゃろう。わしはトレーナーにゃあ向いてなかったんじゃ。一番を望むおまんが眩しすぎた」

「でもアタシには!」

「そういうのはえい。一流のトレーナーがおまんの指導をしてくれるきに安心せい」

 

 すべてを諦めきった笑みをこちらに向けてきた。

 やめてよ、そんな顔見たくもない。どうしてそんな顔ができるのよ。アタシはそんな笑顔じゃなくて不遜に笑うアンタが好きなの。

 

「もうえいがか?さっきの行いで去る大義名分も付いた」

「やめて」

「理事長や寮長にでも言えばえい。もう出来損ないのわしに会わんで済む」

「違う」

「一番、頑張れや」

「違う!」

 

 パシンとトレーナーの頬をビンタした。手がヒリヒリして痛いけど、何よりも相手に暴力を振るってしまったことで胸が痛んだ。一方でトレーナーはポカンと腑抜けた様子で頬を擦る。何をされたのか気づいていない様子だった。

 アタシは一気に詰め寄ってソファーに押し倒した。何かしらの抵抗をすることはなかった。押し倒してからアタシは募らせていた想いを全部全部ぶちまけた。

 

「アタシは!アタシはアンタと一番になりたいのよ!経歴が長くて成果を挙げたトレーナーより怒りっぽくて傲慢だけど、実は優しくて義理堅いアンタが良いの!」

「……でもわしは」

「何が出来損ないよ!何がブ男よ!アンタはそれ以上に良い才能と人格を持ち合わせてるじゃない!これ以上アタシが好きな人を侮辱しないでッ!」

「……」

「アタシは、アタシはアンタじゃなきゃダメなのよぉ。このおたんこにんじん……!」

「スカーレット……」

 

 言いたいことをすべて告げるとせき止めていた感情のダムが決壊して涙をボロボロと零してしまった。抑えようにも抑えきれない感情に流されて、アタシはみっともなくトレーナーの胸元で泣いてしまった。タバコとお酒の匂いと体臭がもう嗅げなくなってしまうかもしれないと思うとより悲しくなって涙が溢れ出してきた。

 

「スカーレット、わしはトレーナーを続けてもえいがか?」

「何言っているのよぉ!そんなの当然じゃない!」

「だらしがのうて劣等感しかない男じゃがそれでもえいのか?」

「それがアンタなの!悪いところ全部受け止めてあげるから!」

「わしゃあ、おまんと一番を目指してえいのか」

「一番はアンタとじゃなきゃダメなんだからね!」

「そうか、そうか……ッ!」

 

 トレーナーの声が震えていた。アタシ以外に鼻をすする音がした。

 アタシの背中に手を回してギュッと抱きしめられる。きつくもなく緩くもないちょうどいい塩梅、ドクンドクンと鼓動が聞こえる。アタシもトレーナーに抱き着いた。

 お互いに抱きしめた状態でフリータイムが経過した。受話器のコール音が夢から現実へと引き戻す。もう少しだけ温もりを感じたかったなと思っているとトレーナーもそうだったらしく物欲しそうな様子でこちらを見る。

 子犬のような視線にそそられて腕を広げてあげた。

 

「部屋を出る前に、最後しちゃいましょ」

「……おん」

 

 シメとして最後にハグを交わした。寝っ転がっていた時とは違って立ちながらのハグは違った感覚で心地が良かった。また味わいたい欲求に駆られた。いろんなことがあったけど最終的には最高の一日になって幸せな日だった。

 

 

 後日、アタシとトレーナーは一緒になって理事長のもとへと向かった。

 要件はトレーナーが先日出した辞職届とアタシの転属届を取り消すためだ。高級感のある扉を開けて中へ入ると、小柄な風貌で帽子の上に子猫を乗せた秋川やよい理事長と緑の事務服を纏った駿川たづなさんが待ち構えていた。

 

「し、失礼します」

「理事長、実は先日出した書類らを取り消しとうて此処に来たのですが」

「あ、あのお願いします!どうか取り消してくれませんか!」

「あー、あれですね」

「把握!この二つの書類のことだな」

 

 紙化された辞職届と転属届を取り出してこちらに提示してきた。どうしてデータを紙化したのかわからない。

 

「最初見た時、私と理事長は驚いたんですよ。忘年会と新年会でダイワスカーレットさんを一番にするって豪語していたのに辞めると知って」

「飲み会でそんなこと言ってたの!?」

「お、覚えとらんぞ!?」

「事実!録画しているから見るといい!」

「な、なんで録画しちょるんじゃ!」

「だって願掛けは録画でやった方が良いって決まったじゃないですか。そうですよね理事長」

「うむ。映像で残った方がなんかいいからな」

「は、恥ずいのう……」

 

 ポリポリと頬を掻いているトレーナー、でも一番恥ずかしいのはアタシなのよ。だって学園中のトレーナーにアタシの目標がバレちゃってるんだからね!

 

「それでこの書類、どうしましょうか」

「決まっている!こうしてしまうのだ!」

「あぁ!?」

「なんて豪快な!」

 

 目の前でビリビリと二枚の紙を破いて見せた。いとも簡単にそれらの書類を破棄するなんてアタシら思っていなかったわ……。でもこれで問題は解決したしオッケーよね!

 

「解決!二人の要件はこれで済んだな!はっはっは!」

「ま、まあそりゃあそうですけんど」

「不満が無いならそれでいい」

「……そうじゃのう」

「ではアタシらはこれで失礼します」

「あっ、ちょっと待ってくださいダイワスカーレットさん」

「はい?」

 

 アタシだけ呼び止められてたづなさんの方へ振り向いた。たづなさんはニコニコと笑みを絶やさずにとあることを伝えてきた。

 

「外出許可証を出さずに外出しましたよね?」

「あー、それはその……」

「日頃ダイワスカーレットさんは優秀な成績を修めて素行も良いものですから特に問題はありません」

「ほっ、よかった」

「ただしフジキセキさんからプール掃除を手伝うようにと」

「そ、そんなぁ!」

 

 ま、まあ無断で外出しちゃったのがマズかったわね。もうしないようにしないと。

 

「それともう一つ伝えたいことが」

「はい?」

 

 そう言ってたづなさんはこちらに近寄ってきて、こちらの耳元で囁いてきた。

 

「彼、案外可愛いでしょ」

「ッ!?」

 

 ドキリとなってたづなさんの方を見ると艶めかしい表情を浮かべていた。まだアタシにはできない大人な笑みを浮かべているのでちょっとした危機感を覚えた。当の本人であるトレーナーは不思議そうに首を傾げている。聞こえていない様子だ。

 

「早めに捕まえないと盗られちゃいますよ」

「と、盗られるって誰に!?」

「ふふっ、もしかしたら桐生院トレーナーかもしれません。それか――――」

 

 

「私かもしれませんよ」

「ふぇ!?」

 

 あんな人(トレーナー)を狙っているのはアタシだけかと思ったら以外にも二人の女性から狙われていたことを知り驚いてしまった。た、確かに顔は童顔で整っている方だから内面の良さに気づけば人気になるわね。てか、今まで好意を向けられていたのになんで気づいていないのよアイツは!

 ……ま、まあ気づいていなかったから助かったけどね。

 

 こうして契約が継続することになったトレーナーとアタシ。この日からは新たな恋敵に危機感を募らせながらも、どのように恋のレースをリードすればいいか考えることになった。

 絶対にトレーナーの一番は譲らないんだから!




たづなさんとこのトレーナーはお互いに先生(トレーナー)が共通していることを知りません。そうなるとだづなさんは何歳(ry
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