傲慢な天才トレーナーと一番星のアタシ   作:渡邊ユンカース

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それと今回も分割で後日投稿です。どうして初めに一万文字以上も書いたんだろう……。


一番のアタシは感謝祭を楽しむ

 ひらりひらりと桜が舞い散る。長くて過酷な冬を耐えきってようやく咲いたのにすぐ散ってしまうだなんてもったいない。

 だけどその儚く散っていく様子はとても綺麗で見惚れてしまう。そこら辺の兼ね合いがあるからこそ桜の美しさは映えるのでしょうね。

 そしてトレセン学園には春の恒例行事があって、今日がその日だった。

 

「かき氷はいりませんかー!」

「フランクフルト売ってまーす!」

「いらっしゃーいいらっしゃーい!ゴルシ焼きそばいらねぇかー!」

「ちょっとゴールドシップさん!変なもの入れないでくださいまし!」

「別にいいじゃんかよ。今日は無礼講だぁ!」

 

 普段騒がしいトレセン学園が一層騒がしくなる日、ファン感謝祭だ。

 その名の通り今までレースを応援してくれたファンに向けてのお祭りで、シニアを迎えて人気の高いウマ娘は出し物やレースで彼らにお礼をするというもの。全国からファンはもちろん、入学を考えるウマ娘も来る。アタシもこの時に見学したのを覚えている。

 

「うーん、まだあれに出る時間はあるわね……」

 

 私服姿で中央広場をぶらついて出店を眺めていた。ホントはスポーツ系のイベントに出演したかったけど、実行委員の友達に泣きつかれてミストレセンコンテストに出場することになっちゃった。

 別に問題はないのだけどウオッカらはスポーツ系のイベントに参加するから時間の関係上ひとりぼっちになってしまった。ひとりだとできることが限られるし暇ね。

 

「なんじゃあこん的はッ!?落ちんぞ!」

「そりゃあゴルシ星由来の射的だぜ?大の男はダーティーハリーや次元レベルの腕がなきゃ落とせないぞ」

「超人とわしを一緒にすんな!」

「ちぇっ、しょうがねぇなぁ。ほれ一発サービスしてやんよ」

「ちっ。まあ奇跡が起きりゃあ……無理じゃああああ!」

 

 聞きなれた声が聞こえて後ろを振り向く。そこではゴールドシップ先輩が出店した射的で騒ぎまくるうちのトレーナーが居た。ちょうどよかった、アイツとなら暇つぶしにはもってこいね。

 

「アンタ、何してんのよ」

「おうダスカ。こん射的はやんない方がえいぞ。落ちん」

「おいおい心外だぜ。ほれスカーレットもやってみな」

「えっ。いいんですか?」

「ふおっふおっふおっ、サービスじゃよ。その代わり焼きそば買っていけよな!」

「そのぐらいなら構いませんけど」

「ほらパチスロトレーナー、とっとと銃をスカーレットに寄越すぜよー」

「けっ」

 

 ずいっと渡された銃を受け取ってコルクの弾を装填した。一見して変わったところはないけど何をトレーナーは騒いでいたのかしら。ゴールドシップ先輩が携帯電話をいじっているけどとにかく撃ってみることにした。

 

「えいっ」

「おっ、落とせたじゃねぇか。報酬のお菓子をまず一個」

「……わしも狙ったが落とせんかったぞ」

「難易度に負けるな!頑張れ!」

 

 アタシが放った二発の弾丸は細長いチョコのお菓子に当たって落ちた。トレーナーが騒ぐほど難しくはなく、むしろ簡単だった。この流れにトレーナーはムッとした面持ちで腕を組んでいた。

 

「残りは一発、しっかりデケーの狙っていけよな!」

「大きいのってあのクマのぬいぐるみですよね。難しそう」

「かのダビデも小石で巨人をぶったおしたっていうぜ。さあ君の引き金に全宇宙の未来が賭かっている!」

「えっ、えっと……」

「ダスカ、身体貸せ」

「ちょっ!?」

 

 変にプレッシャーを掛けられて緊張していると、いきなりトレーナーが体に密着して一緒に銃を構えた。抱き着かれるような形で銃を構えているので違った緊張が鼓動を早くする。横に向けば愛嬌があってカッコいい顔があるので目の前にある的に照準を合わせるしかない。

 

「構えが悪うてデカブツは落とせん。じゃきわしが手伝っちゃる」

「へ、変なとこ触んないでよね」

「はっ、抜かせ」

「まあこういう展開も悪くねぇな。二人の手で未来を掴めやおらぁ!」

「―――いくぞ」

「うん」

 

 真剣みを帯びた声は決心させた。引き金を引くと陽気な音を立ててコルクは発射された。コルクはそのまま直進してクマの人形にぶつかった。重量があって難易度が高そうなクマの人形だったが、あろうことかズルズルと滑るように落ちた。

 ゴールドシップ先輩は携帯電話をいじるのをやめて手にしたベルをガラガラ鳴らす。

 

「大当たりー!」

「噓でしょ?やったわよトレーナー!」

「お、おう。じゃが人前で抱き着くなや、恥ずいじゃろ」

「うっひょー、お熱いぜ。ほれ景品の人形を受け取れドロボー!」

 

 うぅ、喜びのあまり人前で抱き着いてしまったわ……。そ、そうよねよくよく考えれば中等部の生徒が大人に抱き着いてるのって傍から見れば犯罪よね。けどこういう時だけ社会は許してくれるわよね。

 

「可愛い人形ですね。メーカーは何ですか?」

「そりゃあクマの人形ってなら某ドイツのメーカーしかねーだろ」

「ええっ!?」

「疎いから知らんが高いんか?」

「だって本場よ!?一種の工芸品だし、この大きさなら数万はするかも!」

「なんじゃと!?つまりそれを売れば金になるんがか!」

「おい、その発想はゴルシちゃん的にも人間的にもどうかと思うぞ」

 

 奇人変人と呼ばれていたゴールドシップ先輩もこの発言に呆れた様子。変にお金に目敏いんだから。

 

「そ、そんな高級品受け取れませんよ!」

「お、おい返さんでえいぞッ!」

「心配は要らねーよ。だってかのメジロ家のお下がりらしいしな」

「さ、流石メジロ家ね……」

「ゴルシ、おまんメジロ家と繋がりあったんか?」

「これは所謂知らない方が良いてやつだ。真相を知ったらお前は遠心分離機でチーズにしてバターとして売ってやんよ」

「……そんいやトレセン学園の生徒は名家出身が多いきに。婿入りすりゃあ人生を遊べるんか?」

「どうしてそんな愚策を企てるのよ!このおたんこにんじん!」

「じょ、冗談ぜよ」

 

 縁起でもないこと言わないでほしいわ。てかアンタが名家に付け入る隙間なんて存在しない……そういや桐生院家があったわね。トレーナー歴が短いのにG1ウマ娘を輩出した天才を婿入りさせたいはず。たづなさんが言う通り強力なライバルだわ……。

 

「それで次は何処に行こうかしら」

「ほうじゃのう。てか、どういて私服なんじゃ。制服はどういた?」

「ふふん、ミストレに出るのよ」

「……ファッションショーか」

「そういう事よ。友達に頼まれて出場することになっちゃったの」

「ふん、まあ期待はしといちゃる」

「バカね、こういう時に照れ隠しは要らないのよ」

「わしは照れとらんぞ」

「はいはい、そういうことにしといてあげる」

 

 二人で出店を楽しみながら待機時間を過ごした。フジキセキ先輩のマジックショーを見たり、執事喫茶に行ったり、のんびりカフェでコーヒーを嗜んだりして過ごした。少女漫画でよく見る校内デートそのものを体験して嬉しかった。

 にしてもマジックショーでフジキセキ先輩がトレーナーの一万円をビリビリにしたマジックをされた時、すごく狼狽えてたわね。慌てふためくトレーナーにフジキセキ先輩は苦笑いで返してくれたけど、ちょっと恥ずかしかったわ。大の大人なんだから余裕を持った振る舞いを……そういや鼻にかけた態度は取れてたわね。

 

『ミストレセンコンテスト開演三十分前となりました』

「あら、もうこんな時間なのね」

「せいぜい頑張れや」

「さっきも言ったでしょ。きちんと本音で」

「……応援しとる」

「ふふん、一番になっちゃうんだから!」

「あ、あと実はわし――――」

「ん?何よ」

「……秘密にしとくのもえいか。コンテスト見ちゃるきに、じゃから優勝しろよ」

 

 トレーナーからレース以外で本音の応援を貰えたのは初めてで高揚するわね。いつもはすかした態度で言うんだから。せっかくの応援を無下にするのは一番のアタシらしくないし、絶対に優勝してやるんだから!

 けど秘密ってなんだろう。あの様子から見て不穏なモノじゃないみたいだし、まあ大丈夫よね。

 

 アタシはその後ミストレセンコンテストに出場した。実行委員の友達が直々に募集をかけていたから参加人数は少なかったけど、どの子も煌びやかで美しい衣装を着ていた。その中にゴールドシチー先輩も居て、ちょっと不安だったけど無事優勝を収めることができた。

 そのきっかけとなったインタビューはちょっと意地悪な質問もあったけど、普段あの気性難なトレーナーと付き合っていたから難なく答えることができた。変なところで役に立ったわね、感謝だわ。

 

「おかしいわね。舞台でアイツを見たのに居ないだなんて……」

「ダイワスカーレットさん!」

「あっ、同じクラスの。どうしたんですか?」

「ちょっと貴女を呼んでほしいと言われまして」

「誰ですか?」

「それは内緒だと。けど悪い人じゃないのでレースの待合室に来いと」

「ま、まあいいですけど」

「そうですか。ならこちらへ」

 

 クラスの子に誘われてアタシはレースの待合室に誘導された。レースとレースの待合室は一本の通路で繋がっていて外からの歓声がよく聞こえる。今の種目は借り物レースをやっていてエアグルーヴ先輩が出走していた。次の種目はグラスワンダー先輩の演舞だけど何かあるのかしら。

 

「ここです。ではごゆっくり」

「は、はあ……」

 

 すたこらとクラスの子は去っていった。ぽつんとひとり残されたアタシは目の前の扉を開いた。室内は特に変哲もない様子で、特に変わっていることといえば衣装ケースが置かれていることだろう。

 せっかくだしソファーにでも座ろうと扉を閉めて進む。すると首元に硬く冷たい物がピタリと当たり、小さな悲鳴を零してしまった。いくら怪力のウマ娘といえど刃物や銃器には弱い、下手に抵抗すれば命を落としてしまう。恐怖で後ろを振り向くことすらできずにいた。

 

「だ、誰ですか……」

「……」

「な、何が要件なんですか。け、警察に言いますよ」

「……こっちを見ぃ、ダスカ」

「えっ」

 

 くぐもった声に指摘されて振り向いた。そこには穴が空いた笠を被り、ボロボロの和服に灰と藍色の和服を着ていた。眼と手と長髪が真っ赤になっていて、顔の下半分がタイツのような布で隠されていた。

 一見して誰かわからなかったけど、どこか聞き覚えのある声と愛称に察することができた。

 

「もしかしてトレーナー!?」

「おう。気づくのが遅かったのう」

「~ッ!よくも、アタシを!怖がらせてくれたわね!」

「ゆ、許しとうせ。そんなつもりはなかったんじゃ」

「ふん!今度スイーツを奢ってくれないと許さないんだから」

「わ、わかった。今度な」

「……それでアンタがなんでそんな物騒なコスプレしてるのよ」

「実はわしもイベントちゅうもんに出ることになったぜよ」

「はあっ!?」

 

 衝撃の告白に驚嘆を隠し切れなかった。基本的にはウマ娘が主役となるイベントにトレーナーが関与することはなかった。スタッフとして裏方で仕事をするならまだしも、こうもコスプレをして表舞台に出るつもりだとは思ってもみなかった。

 驚いているアタシをよそに笠の隙間から目が歪んだのがわかった。意地悪なトレーナーは明らかにニヤニヤしている。

 

「まあわしは剣の才能もあるからのう!」

「ちょ、ちょっと待って。剣ってアンタもしかして!?」

「グラスワンダーの演舞に出演じゃあ!」

「えー!?」

「ははは!久しぶりの試合じゃあ!腕が鳴るぜよ!」

「えー!?」

 

 怒涛の告白に驚きっぽなしで喉が痛い。ウマ娘と人間がまさか試合をするだなんて思わないでしょ。てかどうしてこんな企画が生まれたのか全然掴めないわ!

 

「ど、どどどうしてアンタが出るのよ!」

「そんがな、一度グラスワンダーが日本の文化を知りとうと声をかけよってのう。試しに竹刀振り回してやったら薙刀持って手合わせを願われたんじゃ」

「う、嘘よ!あんな大和撫子がそんな武士みたいなこと言うわけないじゃない!」

「おまんと同じくありゃあ中身が武士じゃ。じゃけどレースも控えちょったし気が乗らんかった。そん時は断ったが、まさかこうなるとはのう」

「……そ、そろそろね」

「まっ、せっかくの晴れ舞台を用意されたんじゃ。わしも本気でやらせてもらおうかのう」

 

 刀の鯉口って言うところをキンと鳴らすと雰囲気が変わった。レースの分析で見せるあのカッコいい姿だ。気迫もだらけていたものから一転して闘志に燃えるものになった。カラオケで見せたものとは断然違う。

 

「そんじゃ、行ってくるわ」

「互いに気を付けてよね。どっちも怪我したらいけないんだから!」

「抜かせ、わしを誰じゃと思っちょる」

 

 扉から出る前にトレーナーはこちらに笠を上げて顔の上部を見せる。凛とした表情で自信満々に言い放った。

 

「わしは天才じゃ」

 

 不遜に大胆に余裕を持って笑ってみせた。普段から聞きなれている言葉がすごく信頼できてかっこよかった。

 ……なによ、余裕を持った態度できるじゃない。こういう時だけ見せないで、バカ。




ゴルシのキャラがアレすぎて書くのに苦労しますね。
それとトレーナーの出場時の姿はFGOの岡田以蔵の第二再臨だと思ってください。
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