傲慢な天才トレーナーと一番星のアタシ   作:渡邊ユンカース

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注意、これはウマ娘プリティーダービーの二次創作です。
決してウマ娘は剣が交差する戦闘を行いません。


一番のアタシは応援する

 アタシが観客席に着いた時にはすでに盛り上がっていた。適当なところを探そうとうろついていると放送が流れる。

 

『次の演目はグラスワンダーによる演舞です!』

「うおー!あのグラスワンダーが演舞をするのか!」

「これは楽しみだ!」

「外国出身なのに演舞は渋いな」

「あぁ、大和撫子は海外にも居たってことだ」

 

 やっぱり演舞という演目上珍しいのね。基本的に出し物はレースとかダンスとかだもんね。だけど配布されたスケジュールには演舞って書かれているけど試合とは書いていない。つまり皆をびっくりさせるための仕掛けなのね。

 そうこうしているうちにグラスワンダー先輩がステージの裾から現れる。この出現により観客がさらに沸いた。グラスワンダー先輩は沸く観客に向かって一礼すると手にした薙刀を構える。

 

『さあ今からグラスワンダーの演舞が……おっとステージの照明が落ちたぞ』

「なんだなんだ?」

「どうしたんだろう」

「機材の故障か?」

 

 眩い光を放っていたスポットライトの照明が切れる。アクシデントだと観客一同騒めくも、グラスワンダー先輩だけは笑みを絶やさずに目を細めていた。アナウンサーの驚きぶりからしてトレーナーの存在を知る人は僅かなのだろう。

 

「せえっ!」

「ッ」

『おっと!?ステージの裾から怪しげな男が出てきて刀を振るう!』

「はああっ!!」

『グラスワンダーが繰り出される剣戟を薙刀で捌く!すごいぞ!しかしこの男は何者だ!?』

「わしは剣の天才、サムライクリムゾンじゃああああ!」

 

 トレーナーはサムライクリムゾンと名乗ると観客一同に見せびらかすよう大袈裟にアピールをする。まさかの乱入者の出現に観客はさらに興奮して歓声をあげる。まさかヒーローショーが見れるとは思わなかったのね。

 にしてもネーミングセンスはいまいちだけど掴みは完璧よ。なかなかやるじゃない!

 

『も、目的は何なんだいったい!?』

「今からこんウマ娘を叩き伏せちゃる!そうすりゃあ依頼完遂で金がたんまり手に入るきに!」

『すごい利己的な理由だ!依頼した組織の名前は何なんだ!?」

「お、おうちぃと待てや……そう、サカモトドラゴンぜよ!」

『さ、サカモトドラゴン……!いったいどういう組織なんだー!?』

 

 絶対今考えたわね。どうしてサカモトドラゴンっていうワードが出たのよ。……もしかしてサムライクリムゾンってかなり考えて作られた名前なの!?

 

「ま、まあえい!とにかくおまんと三本勝負じゃあ!」

『さあ三本勝負の試合を挑まれた!グラスワンダーの応えは……』

「その勝負受けます」

『受諾したー!これより演舞から三本勝負に移行します!前代未聞です!』

 

 刀でポンポンと肩を叩きながらトレーナーは構えるグラスワンダー先輩と対峙する。何故か審判が居るという用意周到具合には驚いたわ。

 一通り準備運動を済ませたトレーナーはようやく刀を構える。レースでする眼差しでグラスワンダー先輩はトレーナーを見つめ、トレーナーは切っ先を相手の首元に向ける。

 

「試合開始!」

「ッ」

「せいッ!」

 

 審判の号令とともにグラスワンダー先輩がトレーナーを攻める。物腰柔らかな風貌とは違い、ガンガン攻めていく様は圧巻だった。ガキンガキンと刃がぶつかり、薙刀のリーチを利用した攻撃を繰り出す。対してトレーナーは防戦を行って全ての攻撃を捌く。アタシなんて眼で追うだけでやっとなのにすごいわ!

 

『熾烈な攻防戦が繰り広げられている!』

「薙刀と刀、よく剣道と薙刀はどちらが強いと言われたら多くの者が薙刀と答える。そのわけは長いリーチによる攻撃で懐に入れないからだ」

「どうした急に」

「さらに懐に入ろうとしても刃がついていない方の先端、石突で足払いなどの攻撃を受ける。それを捌きまくるなんてアイツ何者だ!?」

 

 眼鏡を掛けた人が解説してるけど、その興奮具合からよほどのことなのね。あんな実力があるなら不良なんてやめて剣道を続ければよかったのに。すごくもったいないわ。

 あんまり格闘技とか見ても盛り上がらないけど知り合いが戦っているとなれば別ね。普段よくしてもらっているグラスワンダー先輩も応援したいけどやっぱアタシはアイツを応援したい。

 

「なかなか、粘りますね……!」

「はっ、わしは粘りにゃあ自信があるからのう。もう少しだけ粘るか」

「ッ!そこです!」

「おっ」

 

 石突の部分で刀を弾くと、くるりと薙刀を回して刃の部分をトレーナーのお腹に当てた。寸止めだったらしく痛がる様子もなくて安心した。

 

「一本!」

『グラスワンダー、まずは一本!』

「ふう、流石の実力です」

「はっ、抜かせ。わしはまだ半分しか出しちょらん。それに――――」

「それに?」

「その動き、覚えたぞ」

「なっ!?」

『おーとッ!?試合間もなくしてまさかの見切りの宣言だ!』

「バカな!?たった一度の打ち合いで見切っただと!?」

「す、すげぇ。眼で追うだけでもいっぱいなのに……!」

 

 ……やっぱりアイツの分析能力おかしいわね。文献とか読んでる時は難しい顔でにらめっこしてるくせに、レース映像だとスラスラそのウマ娘の特徴を書いていくんだから。あれは完全に見て覚える感覚派ね。

 

「……これが天才なんですね」

「当然じゃ。とっとと掛かってきいや!」

「いきます」

「開始!」

「チェェェェェェストォ!!」

「いっ!?」

「うっ!?」

 

 審判の合図と共にとてつもない絶叫をあげて刀を振り下ろす。ただでさえも通る声なのにこうも叫ばれるとウマ娘以前に人的にもきつい。鼓膜が破れそうでつらい。

 そんななか、グラスワンダー先輩は苦痛で顔を歪めながらもトレーナーの全力の一撃をなんとか薙刀で防いだ。

 

「いけないッ!あれは示現流だから受け止めてはッ!」

「くぅ……!?」

「キェェェェェェイ!!」

『サムライクリムゾン!ここにきて怒涛の面打ちを始めたァ!!』

「ど、どうして示現流は受け止めちゃダメなんだ?」

「示現流とは攻めの剣術。つまりは一撃必殺で、かの近藤勇も示現流の初撃は避けろというまでだ」

「な、なるほど……」

 

 休む暇さえ与えずガンガン攻めていくのでウマ娘の腕力でも次第に厳しくなっていく。それに薙刀の柄でガードしているので負担も大きく真っ二つに折れる可能性もある。とかいって動きたくてもなかなか動けないのでグラスワンダー先輩は防ぎ続けるしかない。

 

「はぁはぁはぁ……」

「これで、しまいじゃああああ!!」

「あうっ!?」

『ここでサムライクリムゾン!グラスワンダーのお腹を蹴って怯ませたァ!』

「ほい、突きじゃ」

「一本!」

「うわっ!?アイツなんてことを!」

「卑怯だわ!」

 

 防御に注意しすぎたグラスワンダー先輩はトレーナーにお腹を蹴られてバランスを崩して尻もちをついた。その隙にトレーナーは相手の首元に切っ先を寸止めして一本入った。

 あまりに強引に一本取ったのでトレーナーが非難される。罵声やブーイングが観客席に溢れ出して、純粋な気持ちで応援していたアタシは複雑な気持ちになった。だってあんな形で一本取ろうものなら誰しも不満が溜まっちゃうし、あくまでこの演目はグラスワンダーが主役じゃないといけない。非難されても当然とも言える。

 

「やめちまえ!」

「とっとと失せろ卑怯者ー!」

「卑怯?はっ、おまんらは何もわかっとらんのう」

『おーとっ!?ここにきてサムライクリムゾンが観客を挑発する!』

「こん試合は道場剣法の綺麗なものと誰が決めたかのう。ルールの規定は特になかったやき、足と手使うて跳ねてもえいじゃろ」

「後付けはやめろー!」

「そうだそうだ!」

「抜かせ!こんもレースと一緒じゃ一緒。規定内で策を巡らして持ちうる力全部使うて勝つ、なんも悪うなかろう」

「うぐっ……!」

「く、悔しいけどそうだ……」

 

 トレーナーは騒ぐ観客たちに向けて忘れられていたレースの本質を思い出させた。ただ足が速いだけじゃレースで一着を獲るのは難しい。だって他のウマ娘も実力を補うために負けじと作戦を立てて戦うから。

 トレーナーは座り込んだグラスワンダー先輩に視線を向ける。

 

「どういた?再戦じゃ再戦。それともなんじゃ、今の試合で日和おったか?」

「……いえ、生半可な覚悟であったと気づかせてくださり感謝します」

「御託はえい。やるんかやらないんか」

「やります」

『ここで再戦を受け取ったぞ、グラスワンダー!まだ闘志は潰えてない!』

「本気で来いや。ウマ娘じゃからって加減は要らん」

「では全身全霊、不退転の心で挑ませてもらいます」

「開始!」

 

 武器を構えた両者は開始の合図がされても動かない。けど確実に相手の隙を探していて、これが俗にいう間合いの取り合いなのね。二人の気迫がこちらにも届く。

 

「す、すげぇ。俺だったら下手に動いて二撃、いや三撃喰らう……!」

「こ、これは追い込みと差しでいう様子見か」

「長丁場になりそうだ」

 

 永遠とも体感できるほど二人は見合う。見てるこっちも緊張して汗が垂れる。不意に一枚の枯れ葉がステージに侵入して二人の間に入り込んだ。それが開始の合図の如く、激しい打ち合いが展開された。

 グラスワンダー先輩のウマ娘の腕力とリーチによる熾烈な攻撃を技と経験で受け流しカウンターを決める機会を窺うトレーナー。

 

『おおっ!?薙刀の軌道を鍔でずらしたァ!そして前転してグラスワンダーの懐に入る!』

「はあっ!」

「ふっ!」

『だが石突の部分を振って距離を取らせたァ!』

「ではこれを!」

「ぬるいわッ!」

『ここで薙刀による足払いをサムライクリムゾンが跳んで躱す!』

「まずい!空中で防御は難しいぞ!」

「これは決まったか!」

「こんなん余裕じゃ!」

『なんていうことでしょう!空中での防御に成功して、その勢いで後退する!改めてハイレベルな戦いだぁ!』

 

 お互いの全力を尽くした戦いはすごいという言葉しか出なかった。汗が飛び散り、火花が散る試合にアタシは魅了された。レースのように燃えてライブのように美しい、見惚れてしまうのも無理はなかった。

 皆がグラスワンダーを応援する。今この場でサムライクリムゾンであるトレーナーを応援する者はいない。一年前の世間体を気にしていたアタシだったら何も言わなかった。けど今は違う。好きな人を応援するのにそんなもの捨てて全力で応援しないと!

 

「頑張って!サムライクリムゾン!」

「ッ!?」

「……そ、そうだ!サムライクリムゾン頑張れ!」

「お前の剣法見せやがれー!」

「グラスワンダーも頑張れ!サムライクリムゾンも頑張れ!」

「人間の実力でウマ娘を凌駕できることを教えてくれー!」

「「「「クリムゾン!クリムゾン!」」」」

 

 アタシの声援を皮切りに他の観客たちも次々に声援を送りだした。きっと心のどこかでアタシ同様に魅了されていたのだろう。まさか悪役に徹している自分が多くの人から声援をもらうことになるとは想定していなかったのかトレーナーの動きが一瞬だけ鈍くなる。

 その隙にグラスワンダー先輩が剣を上に弾いた。

 

「今です!」

「へあっ!!」

「くっ!」

『サムライクリムゾン、弾かれた刀を背中に回して突きを繰り出した!』

「あ、あれは背車刀だ!」

「知っているのか!みなみ!」

「あぁ、刀を背中で持ち替えて相手の意表をつく刺突をする技だ。とても難易度の高い技だ」

「マジでサムライクリムゾン何者なんだ!」

 

 その人うちのトレーナーなんですよってすごく言いたい。

 

『両者とも大立ち回りを演じまくる!剣を上半身だけで躱したり、刀の切っ先を相手の切っ先に合わせたりと映画さながらだ!』

「なかなかやるのう。ウマ娘とは幾度もやったがおんしみたいなやつはおらんかった」

「あらあら。それは恐縮です~」

「……涼しい顔して鋭い突きじゃ。せっかくじゃし二刀流でも見せちゃる」

『ここでサムライクリムゾンが二刀流になる!』

「ここにきて二刀流、攻防を分けて手数で攻める気か」

「あくまで一度だけ有効打を決めれば一本だからな」

 

 片手に持った脇差で攻撃を受け流して、刀を振るう。手数で押されるのは流石に厳しいらしく、グラスワンダー先輩は徐々に押されていく。完全に間合いに入られてしまっている。

 

「これでしまいじゃああああ!!」

「くうっ!」

 

 しかし思わぬアクシデントが起きた。ウマ娘の腕力による剣戟を喰らいすぎたためかトレーナーの刀が根元からパキリと折れる。これにはトレーナーも動じてしまう。

 

「ここで決めます!」

「く、くそが……ッ!!」

「一本!」

 

 薙刀の刃がトレーナーのお腹に当てられた。勝ちを確信していたからこそ思わぬアクシデントで敗北してしまったので相当悔しがっている様子が伺えた。グラスワンダー先輩が二本取ったため勝負が決まり、歓声が沸き上がった。

 

『グラスワンダーがサムライクリムゾンに勝利しました!』

「流石だグラス―!」

「これからも応援するからなー!」

「流石俺の推しだぜ!」

 

 トレーナーはあんな負け方をしてやりきれないと思うのにきちんと礼をしてステージから静かに出ようとした。相手と試合に敬意を払う様子は立派だった。だったら、こっちも敬意を払わないとね。

 

「サムライクリムゾンありがとうー!」

「ッ!?」

「あと少しだったなー!」

「今度も出てくれよな!」

「お前がいなかったらここまでならなかったんだぜー!」

 

 温かい感謝の声がトレーナーを包む。大勢の人から声援と期待をもらえたことに当初は困惑していたものの改めて応援される気持ちを味わえたトレーナーはこちらを一瞥すると、サービスなのか脇差を抜いて空中に放り投げる。そして着地点に予測して鞘を構える。抜き身となった脇差はそのまま落ちてカチャンと納まった。

 このパフォーマンスに再度観客は沸いた。

 

「やれやれ調子乗っちゃって」

 

 ――――けどよかったわね、アンタも大勢の人から応援されて。

 サムライクリムゾンは大勢の拍手と歓声を背中に浴びて堂々と退場していった。その拍手と歓声は校外から聞くことができたらしい。

 




なんだろう、ギャグマンガが何故か変なシリアスになってバトルものになる気分を味わったぞ。(世紀末リーダー伝たけし!とか銀魂がその例)
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