それとダスカトレーナーに基本名前は無いものだと思ってください。
「おい、葵。何かおもろいことないんか?」
「……ふえっ!?突然なんですか!」
「暇じゃ。面白うことするんは後輩の仕事じゃき、はよ先輩のわしを喜ばせい」
「えぇ……」
夕日が窓から零れだす頃、とあるレクリエーションルームにてダイワスカーレットのトレーナーとハッピーミークのトレーナーである桐生院葵が情報交換を行っていた。
といっても桐生院により半ば強制的に参加させられているのでやる気がない。一応は情報は渡してくれるものの、隙を見つけては競艇やパチスロの雑誌を読んでいた。きちんとノートにまとめている桐生院とは大違いだ。
「で、では渾身のギャグをやります!」
「おう、やれやれ」
「ふ、布団が吹っ飛んだ!」
「……」
「アルミ缶の上にあるみかん!」
「……」
「そのイカのバッグ、いかしてるね!」
「……期待しちょったわしがバカじゃったわ」
「ひどいです!」
なお某生徒会長レベルのギャグに失望している様子だった。桐生院はプンスカと頬を膨らませてこっちを睨むも、育ちの良さが出てしまってまったく怖さを感じない。それどころか愛嬌があった。
「先輩はいつも私に無茶ぶりばっかして!」
「えいじゃろう。なんせわしは天才で先輩じゃ」
「今度のレース絶対に勝ってみせますから!」
「おうやってみい。どうせわしのダスカが勝つに決まっちょる」
宣戦布告を交わして闘志を露わにする二人、案外この二人でチームを運営したら強いのかもしれない。
この様子で和気あいあいと過ごしていると彼に電話が掛かってきた。宛先を確認してみると担当のダイワスカーレットからであった。今日はアグネスタキオンとお茶会をするという理由で練習は休みのはずだった。
「何か用かダスカ?」
『これはこれはスカーレット君のトレーナー君』
「おまんはアグネスタキオンか。どういてダスカの携帯電話を使っちょる」
『ちょっとまずいことになってね。とにかく私の研究室に来てほしい』
「それはどういう……」
トレーナーが話を訊く前にプツリと電話が切られた。怪訝そうな様子で桐生院が問う。
「どうしたんですか先輩」
「アグネスタキオンがわしを呼んどった」
「……まさか被検体に!?いくら高額でも治験は危ないですよ!」
「体が発光するくすり作るやつじゃぞ!二度とせんわ!」
「そうですよね。……経験済みなんですか」
「どうじゃ、おまんも来るか」
「そうですね。万が一のことがあったら困りますし」
こうしてアグネスタキオンの研究室に二人は向かうことになった。
アグネスタキオンの研究室は使われていない空き教室を不当に占領して作られたものであり、基本的に人気が無い。日頃から研究室に籠って実験に勤しむ彼女のことを一般生徒はマッドサイエンティストとして怖がっている。まあ変なことばかりするから当然だろう。
でも何故かダイワスカーレットは彼女のことを尊敬していた。どうやら親しみやすいとのこと、不思議である。
「此処があの研究室ですか……。でも立ち退きとか言われないんですかね?」
「生徒会からの立ち退きを賭けたレースに毎度勝ちよるから、なんてタチが悪いウマ娘じゃ」
「なるほど実力で黙らされるんですね。まるで先輩みたい」
「……今回ばかしは何も言えん」
ガラガラと扉を開けると話題の人物アグネスタキオンが紅茶を飲んでいた。部屋は意外にも清潔感を保っているが、自主的にダイワスカーレットが掃除をしているからだ。
「やあやあスカーレットのトレーナー君、久しぶりだねぇ。おやっ、珍しい客も来たものだ。初めまして桐生院トレーナー」
「初めまして」
「で、どういてわしを呼んだ。もう治験はやらんぞ」
「そういうことじゃないよ。あれを見てほしい」
「あれ?」
二人はアグネスタキオンが指差す先に視線を向ける。すると物陰でゴソゴソとしている物体があった。疑問を抱きながら近くによるとそこには小さくなったダイワスカーレットの姿があった。
「ダスカァ!?」
「えっ!?」
「ど、どういてこんなちんちくりんに!」
「これは私の落ち度だ」
「何じゃと」
トレーナーは諸悪の根源だと自供するアグネスタキオンを射殺さんばかりに睨みつける。あれほど可愛がっていた愛バがこんな姿にされて怒らない者はいない。
緊迫した雰囲気の中でアグネスタキオンは耳と尾をシュンと垂らし、桐生院は手を出すんじゃないかと心配していた。
「……睨まれても仕方がないことをした。本当に申し訳ない」
「御託はえい。さっさと言え」
「あぁ、実は手違いでテーブルの上にあった薬入りのクッキーを食べてしまったんだ」
「危険物取扱試験受けた方がいいですよ」
「なんでそんなもんを置くんじゃ!」
「本当はこっちのクッキーをあげるつもりだったんだ。薬入りクッキーはカフェにでも食べさせようかなと」
「……やっぱりマッドサイエンティストなんですね」
「効果は何じゃ」
「効果は幼児化だよ。といっても半日しか持たないがね」
アグネスタキオンは一見冷静に話しているが、その話の傍らで白衣を引っ張って遊んでいるダイワスカーレット。眼を凝らしてみると白衣がヨレヨレになっていて、髪の毛もボサボサになっていた。相当引っ張られたのだろう。
「本来なら最後まで面倒を見るつもりなのだが、生徒会から今までの説教を受けないといけなくてね。やはりここはトレーナーである君に一任しようかと」
「このわしが子守りを!?」
「先輩にできると思いますか?心配なので私がやりますよ」
そう言って桐生院がダイワスカーレットを抱えようとしたら、ゴツンと脛を蹴られる。子供といえどもウマ娘、脛を抑えて悶絶していた。
「……そんいや気性難じゃった」
「私はどうにかなるんだが。試しに君が持ってくれたまえよ」
「あの情けのう葵を見ろや!あの二の舞にはなりとうない!」
「ト、トレーナー?」
「な、なんじゃダスカ。どういて近くに来るんじゃ」
「大好き!」
「なっ!?」
「えっ!?」
「ほう!」
暴れるのではないかと慄いていたトレーナーであったが、予想に反してギュッと抱き着かれた。好意的に反応するダイワスカーレットにアグネスタキオンは興味深いと言わんばかりに観察を始める。
「タキオン!何じゃこれは!?」
「ふぅン、どうやら記憶は持ち越したままだけど自制などが子供になったんだね」
「つまりどういうことじゃ」
「要するに今まで抱えていた想いと感情の抑えが無くなる」
「すごく心配です。先輩が子供の世話をするだなんて」
「じゃかしいぞ!……けんどこうなったら仕方ないきに、わしが半日世話をするぜよ。どうせ朝には戻るじゃろ」
「非常に助かるよ」
「……タキオン、じゃけど条件がある」
「なんだい?」
「今後、スカーレットに何かやってみろや。絶対に許さんからな」
「わかった。肝に銘じる」
今回やってしまったことに罪悪感を覚えていたアグネスタキオンは快諾した。人を平気で実験に使う彼女だが外道ではなかった。
トレーナーはグイっと持ち上げてダイワスカーレットを肩車する。
「まだ六時じゃが飯に行くぜよ」
「ご飯!?」
「何が食いたい」
「ハンバーグ!」
「ほうか、ならファミレスに行くか」
「ホント!?やったー!」
「葵はこんことをフジキセキに言っとけ。ダスカはわしの家に泊める」
「わ、わかりました」
「ほんじゃ、明日」
キャッキャッと騒ぐダイワスカーレットを乗せてトレーナーはその場を立ち去った。校内にはまだ生徒がおり、スーパークリークとタマモクロスから飴やお菓子を貰ってご満悦で食べるダイワスカーレット、そして珍しく頭に降りかかる食べかすにトレーナーは怒らないでいた。
それどころか夕飯が食えなくなるからほどほどにしとけと言う始末で、多くの者から親子や兄妹みたいだと思われていた。
「トレーナー!」
「なんじゃ」
「アンタのスカーフ、肌触りが良いわね!」
「木綿じゃからのう。これはやれんぞ」
「アタシも欲しいわ!赤とか!」
「……考えちゃる」
そんなこんなでファミレスにやってきた二人、時間帯的に混み始めたばかりなので待ち時間なしにテーブルに着くことができた。オーダー用に用意されたタブレットを押して注文していく。
「このハンバーグでえいか?」
「けどお子様セットもいいわ……」
「どっちかひとつにしとけや。残したら怒るぜよ」
「ならお子様セットがいい!」
「ドリンクバーも付けか。それでえいか?」
「うん!」
「流石に酒はやめとくか。わしはハンバーグとドリンクバーでえいか」
「決定ボタン押してもいい?」
「えいぞ」
嬉々としてボタンが押し、ダイワスカーレットはドリンクバーを取りに行った。携帯電話でレースの予定を確認しているとガチャンとコップが置かれた。机の上には二個のコップがあり、オレンジジュースがたっぷり注がれていた。
「どう偉いでしょ!アンタの分も持ってきたのよ!」
「わしの分までやるとは偉いのう」
「ふふん、当然でしょ!」
「そうじゃのう」
「……」
「どういてこっちを見る?」
「アタシは良い子?」
「お、おう」
「だったらナデナデしてよ」
「あ、あぁ」
こんなにも積極的になるとは思っておらず困惑するトレーナーだったが、言われるがまま頭を撫でてあげた。撫でられると耳が嬉しそうにピンと立ち、あからさまに機嫌がよくなった。
注文が届くまでの間、二人は会話を交わす。といってもダイワスカーレットが話し続け、それに相槌を打っていただけなのだが。
「お待たせしました。ご注文のお子様セットとハンバーグです」
「うわぁ!美味しそう!」
「美味そうじゃ。食うか」
「うん。いただきます!」
トレーナーは豪華に盛られたお子様セットをパクパクと食べていくダイワスカーレットの姿をパシャリと撮る。元々これをネタにからかってやろうと企てていたトレーナーであったが、あまりの愛くるしさに無意識に撮ってしまった。
「美味いか」
「うん!」
「ほうか、ならこれも食え」
「けどこれアンタのハンバーグでしょ」
「えいから。これ食ってとっとと一番になれや」
「しょうがないわね!なら食べるわ!」
ダイワスカーレットはトレーナーから譲りうけたハンバーグを半分貰って食べ続ける。トレーナーは幸せそうに頬張る彼女を頬杖をついて眺めているうちに、自然と頬が緩んだ。
「結構食ったな。帰るか」
「……ねぇ、パフェも食べたいわ」
「まだ食えるんか」
「う、うん。ダメかな」
「好きにしろ」
「やったー!」
「おまん、このイチゴのやつ好きじゃろ」
「わかってるじゃない!アタシに相応しい色してるから大好き!」
「そうか」
「もちろんアンタも大好きよ!」
「お、おう。なんじゃ、照れるのう」
ダイレクトに好意をぶつけられてポリポリと頬を掻くトレーナーだった。
その後、注文したパフェが届いたがボタンを押し間違えて特大サイズが来てしまった。意気揚々とひとりで食べるダイワスカーレットだったが、流石に無理だった。残してしまったため怒られると怯えていた彼女だったが、トレーナーは黙って残りを食べてあげた。
「ご、ごめんなさい。残しちゃって」
「何を謝る。事故でデカいのを頼んだんじゃろ」
「うん…‥」
「それにわしもちょうど甘いもんが食いたかった。わしもわしで好きにしただけじゃ」
「ホント?」
「じゃき泣くなよ」
「うん!やっぱり大好き!」
会計後に謝る彼女だったがトレーナーは言って気に留めていなかった。
ファミレスで夕飯を食べた後はトレーナーの部屋に行って、風呂に入れた。当初はひとりで入れと言ったのだが「怖くて入れない」と言うので仕方なしに一緒に入浴した。入浴後は髪の毛や尾をブラッシングをしたり乾かしてあげたりしていた。
十時までテレビを見て過ごし、二人は一緒に就寝した。
だがここで事件が起きた。
朝方には元の体に戻るということは今着ている服が合わないということだ。まだタマモクロスやメジロマックイーンのような貧相な体付きならよかったものの、ダイワスカーレットは色々と大きい。そのため服が弾けた。
「な、何よこれ!?」
「どういたんじゃダスカぁ。まだ朝じゃ……あっ」
「こっちを見ないでちょうだい!ケダモノ!」
「なんじゃああああ!?」
つい条件反射で振り向いてあられもない姿を見てしまったトレーナーは当然の如く蹴られた。そしてそのままテレビにめり込んでピクピクと痙攣していた。
「あ、あの時から記憶がないのはどうして!?」
「おんし覚えちょらんか?」
「何をよ!……あっ!!」
徐々に思い出していくその後の記憶にダイワスカーレットは悶絶した。楽しそうに肩車された記憶、ファミレスで一緒に食べていた記憶、テレビで笑い合っていた記憶。そして何より彼女を辱めたのは入浴の記憶だった。
「アンタ、アタシの裸を見たわね!」
「なるべく見んようにはしたわ!アホ!」
「なるべくって何よ!結局見てるじゃない!」
「仕方がないじゃろ!おまんがわしと入りたいって言うからじゃ!」
「あー、もう最悪!まだこういう展開は早いのに!」
「おまんもわしの裸見たじゃろうが」
「ご丁寧に腰に布巻いてたわね!不公平だから今見せなさい!」
「掛かるなや!」
二人がギャーギャー騒いでいるとガチャリと玄関の鍵が開いた。ダイワスカーレットが振り向いて確認してみるとそこには寝間着姿の桐生院が居た。おそらく騒音についてクレームを言いに来たのだろう。
「せ、先輩とダイワスカーレットさん?」
「き、桐生院トレーナー!?そのこれにはわけが……」
「あ、あの……」
テレビに頭を突っ込んだままのトレーナーと全裸でトレーナーのズボンを下ろそうとするダイワスカーレット。絵面が絶望的にマズかった。
「ご、ごごごゆっくり!」
「待ってください!」
「葵ィ!わしを助けろォ!」
その後、二人は必死に事情を説明してなんとか桐生院に把握してもらえた。いつまでも全裸のままではいかないということでフジキセキに連絡してトレーナーがダイワスカーレットの衣服を取りに行った。その間、彼女は彼女で布団やシャツなどのにおいをこっそり嗅いでいた。
ちなみにトレーナーが肩車していた話は多くの生徒に知られて、学級新聞には「驚愕、まさかの子連れ狼!?」という見出しで貼られていた。
これにより変な誤解をしたたづなや理事長がトレーナーを追及したのは別の話。
なんだろう、ひぐらしの鉄平を書いている気分になる。
まあ史実における岡田以蔵も長男なので子供の扱いには慣れていると考え、この設定でいきました。けどいつからダスカはあんな恵まれた体格になったんだろう。